やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 歯科における小手術のなかで,最も多いのが抜歯です.
 抜歯に対するイメージは社会的にも二分されています.すなわち,抜歯はたいしたことではないとする考えと,抜歯は大変なことだとする考えです.確かに,いまにも脱落しそうな歯の抜歯の場合,鉗子で把持して適当に力を加えると抜けてくることもあります.一方どうしても抜けないような歯の場合,周囲の骨を含めて削りとばすこともできます.
 それでは,どんな方法を使っても抜歯さえできればよいのでしょうか.それは間違っています.生体の一部である歯を無理に除去するわけですから,抜歯は該当歯の周囲組織のみならず,患者の全身に対しても愛護的に行われなければいけません.また抜歯時にできた創傷をできるだけ早く,そしてきれいに治癒させることが重要です.
 顎骨内や粘膜下に隠れている埋伏歯抜歯では,同じ抜歯でも全く違います.たとえば顎骨以外の骨を考えてください.その中に埋入している物を除去する場合,皮膚を切開し,骨を除去し取り出すわけです.埋伏歯抜歯でもそれと同じことを口腔内で行います.粘膜切開や骨の除去方法,そして抜歯にはルールがあり,そのルールを守れば,安全に,確実にそして早く抜歯ができます.
 経験を積んだ臨床家のなかには,抜歯を軽視している人もいるかもしれません.それはたまたま難症例に遭遇しなかったか,口腔組織の治癒力の強さに助けられたか,手術部が人目にさらされる部位でないことが幸いしたか,患者の医学的知識の不足で問題にならなかったか,さらに長時間の抜歯に耐えた患者の忍耐力に助けられただけかもしれません.
 今回,本別冊の企画に際して,若手の歯科医師からベテランまで各レベルの臨床家から,抜歯の際に疑問に思ったことを一つひとつ具体的にあげてもらいました.それらのなかから日常臨床でよく遭遇しそうなことを110項目選択し,私たちの臨床経験と現在の標準的な考えを参考に回答を作りました.回答は読者の皆さんが混乱しないように,かなり言い切った形になっていますが,当然症例は一例ごとに違いますので,現場では若干の変法は必要でしょう.
 抜歯でお困りになったときに,また,抜歯をもう一度見直される場合に参考にしていただければ幸いです.
 1999年11月 山根源之 外木守雄


SECTION 1 抜歯の前に

Q1 抜歯の適応症と禁忌症は?
Q2 術者の姿勢は立位・座位のどちらがよいですか?
Q3 智歯は完全に埋伏していても抜歯が必要ですか?

SECTION 2 抜歯に際して

麻酔
Q4 伝達麻酔が奏効しない場合はどうすればよいのですか?
Q5 伝達麻酔と浸潤麻酔の使い分けは?
Q6 伝達麻酔は危険ですか?
Q7 伝達麻酔針の刺入の深さはどのくらいですか?
Q8 正しい部位に刺入したはずの伝達麻酔が効きませんが,注射後の工夫はありますか?
Q9 処置中に麻酔が切れてきたらどうすればよいのですか?
Q10 追加麻酔はよく効きませんがどうすればよいのですか?
Q11 なぜ2%のキシロカイン○Rを使用するのですか?
Q12 キシロカイン○R(エピネフリン添加)とシタネスト―オクタプレシン○R(フェリプレシン添加)の使い分けは?
Q13 歯根膜注射はよい方法でしょうか?
Q14 局所麻酔時に脳貧血様発作など不快症状が出たら,回復後に処置を再開してもよいですか?
Q15 伝達麻酔の際に針先を血管内に入れてしまった場合は,どうすればよいのですか?
Q16 前の患者に使用して残ったカートリッジは,別の患者に使用できますか?

埋伏歯抜歯
・粘膜切開とフラップ形成
Q17 粘膜骨膜弁(フラップ)形成はどのようにしたらよいですか?
Q18 下顎埋伏智歯の場合,縦切開は必要ですか?
Q19 縦切開の位置は智歯の埋伏状態で変わりますか? また,そのときの注意点は?
Q20 縦切開を入れる際は歯冠側から入れるのか,歯肉頬移行部から入れるのかどちらがよいですか?
Q21 粘膜骨膜弁(フラップ)を起こす際の注意点は?
Q22 縦切開部の歯冠側をきれいに治癒させるにはどうすればよいのですか?
Q23 遠心切開はどこに入れたらよいですか?
Q24 下顎枝を触知しにくい場合,遠心切開設計の目安は?
Q25 遠心切開の方向を頬側寄りに入れるのはなぜですか?
Q26 遠心切開を行うときは近心からですか遠心からですか?
Q27 追加切開を入れる際の注意点は?
Q28 下顎智歯の歯冠が舌側にある場合は,切開線の位置と歯牙分割の位置は変わりますか?
・骨の除去と歯牙分割
Q29 骨を大きく除去するのと,歯牙を細かく分割するのとではどちらがよいですか?
Q30 骨は何を使って除去しますか?
Q31 骨除去の範囲の決め方は?
Q32 歯牙分割はどのような場合に必要ですか?
Q33 歯牙分割の部位,順番,方向の決め方は?
Q34 歯牙分割に適した器具は何ですか?
Q35 骨癒着した歯は抜けますか?
Q36 歯質が脆弱な残根抜歯のコツは?
・抜歯
Q37 抜歯の絶対的禁忌はありますか?
Q38 環状靭帯は切離する必要がありますか?
Q39 鉗子とヘーベルはどう使い分けますか?
Q40 上顎智歯の湾曲根を破折せず抜歯できますか?
Q41 抜歯中に根が破折して残った場合はどうしたらよいですか?
Q42 上顎埋伏歯抜歯の場合のフラップの設計は?
Q43 上顎埋伏歯抜歯では骨ノミ(マイセル)の使用が有用なのでしょうか?
Q44 抜歯中断を決める目安は何ですか?
Q45 抜歯中断後の患者対応は?
Q46 抜歯中に出血が続く場合は?
Q47 血管を損傷した場合はどうしますか?
Q48 抜歯後しばらくしての異常出血や止血困難はどうしますか?
Q49 気分不快や脳貧血様発作を起こした際の原因はわかりますか?
Q50 下顎埋伏智歯抜歯後に神経障害が予想される場合の患者への説明は?
Q51 下歯槽神経傷害で知覚異常や麻痺が出た場合はどうしますか?
Q52 オルソパントモX線写真で説明できる抜歯後偶発症は?
Q53 一度に何歯まで抜歯可能ですか?
Q54 同側なら同時に上下埋伏智歯を抜歯してよいですか?
Q55 左右同時に埋伏智歯を抜歯してよいですか?
Q56 抜歯前にはどの程度の臨床検査が必要ですか?
Q57 急性炎症期の抜歯はいけないのですか?
Q58 上顎洞内に歯根端部が近接している場合はどうしますか?
Q59 基礎疾患がある患者に対して,関係各科へどのような照会を行うのですか?
・縫合
Q60 抜歯後は必ず縫合が必要ですか?
Q61 縫合の際に粘膜が断裂していたり,縫合糸で粘膜が裂けてしまった場合はどうすればよいのでしょうか?
Q62 縦切開部の縫合をうまく行うコツは?
Q63 縫合の順番はありますか?
Q64 粘膜骨膜弁(フラップ)が寄りにくい場合は,どのようにして縫合したらよいでしょうか?
Q65 遠心切開部は縫合しなくても大丈夫ですか?
Q66 遠心切開部のトラブルを避ける方法はありますか?
Q67 上顎智歯部の縫合の注意点は?
Q68 埋伏歯抜歯後の縫合は,完全閉鎖がよいのでしょうか?
Q69 縫合は何mm間隔で行いますか? また,縫合糸の結び目はどのくらい残して切ればよいのですか?
Q70 器械結びは手指結びより清潔ですか?
Q71 抜歯窩が大きい場合はどのようにして閉鎖しますか?
Q72 縫合時に余ったフラップの先端はどうしたらよいのでしょうか?
Q73 数本ずつ滅菌パックになっている縫合糸は,余った場合に再滅菌できますか?
Q74 抜糸は術後何日で行いますか?
Q75 切開部の縫合,止血のための縫合,定位縫合はそれぞれ違うのでしょうか?

SECTION 3 抜歯と患者の全身状態

Q76 血小板数が少ない場合,抜歯を行う際の目安は何ですか?
Q77 肝機能障害患者の抜歯で注意することは?
Q78 抜歯後に出血性素因がわかった場合はどうすればよいのですか?
Q79 血圧変動が激しい患者の抜歯は?
Q80 高血圧症患者の抜歯の際,血圧が急に変動したらどうしますか?
Q81 低血圧症患者の場合の注意点は?
Q82 口腔乾燥が強い患者に対する抜歯時の注意点は?
Q83 感染症(B型およびC型肝炎,エイズ,性病,結核など)をもつ患者の抜歯に際して注意することは何ですか?
Q84 癌治療中の患者の抜歯は行えますか? また,口腔癌のなかにある歯は抜歯できますか?
Q85 歯牙動揺の原因が,歯周病なのか悪性疾患なのかを見分けるポイントは何ですか?
Q86 免疫抑制剤使用中の患者は抜歯ができますか?
Q87 糖尿病患者の抜歯は,どのような点に気を付ければよいのでしょうか?
Q88 心疾患患者の抜歯の際,どのような注意が必要ですか?
Q89 喘息患者の抜歯時の注意点は?
Q90 腎透析患者の抜歯はいつ行えばよいのですか?
Q91 腎透析患者の抜歯後の投薬の量はどれくらいがよいのですか?
Q92 簡単な抜歯でも抗菌剤や鎮痛剤は必要ですか?
Q93 薬物アレルギー患者の処方で注意する点はどんなことですか?
Q94 鎮痛剤の使い方で注意する点は何ですか?
Q95 抗菌剤と胃腸薬は併用するべきでしょうか?
Q96 基礎疾患をもつ場合は,保存可能な歯でも将来を考え早期に抜歯するべきですか?
Q97 カンジダ症の抜歯に際して注意することはどんなことですか?
Q98 妊娠している患者の抜歯はいつ行うのがよいのでしょうか?
Q99 抜歯は,出産後どのくらいの時期で行うのが適当ですか? また,授乳期の抜歯は可能ですか?
Q100 抜歯前の口腔内消毒は絶対必要でしょうか? また,その具体的な方法は?

SECTION 4 抜歯の後に

Q101 ドライソケットを起こさないためにはどうしたらよいですか?
Q102 抜歯後,隣在歯の疼痛がでることがありますが,予防と対策はありますか?
Q103 抜歯後のうがいは必要ですか?
Q104 抜歯後治癒が悪い場合の判定基準は?
Q105 基礎疾患や全身状態の問題により,抜歯窩の治癒が遅れている場合はどうしますか?
Q106 抜歯後の腫脹(浮腫)は避けられませんか?
Q107 抜歯後の開口障害はなぜ起きるのですか?
Q108 抜歯後1週間ぐらい経過して,腫脹や疼痛および開口障害が発現した場合はどうすればよいですか?
Q109 抜歯後感染症は抗菌剤だけで治りますか?
Q110 抜歯後,抜歯窩内挿入剤を用いたほうがよいのでしょうか?

著者略歴
関連器材取り扱い先一覧
薬剤の基本的な使用方法
編集後記