やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 超音波検査は侵襲のない検査として広く普及しており,甲状腺領域においても日本甲状腺学会の亜急性甲状腺炎や慢性甲状腺炎の診断ガイドラインに超音波検査が検査項目や付記所見に記載されています.甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013では,超音波検査の有用性が報告されており,甲状腺疾患の診療に欠かせない検査法となっています.また,2011年3月11日の東日本大震災後に発生した福島第1原発事故による放射能汚染により超音波検査による甲状腺検診が行われ,甲状腺の超音波検査が一般の方にも注目を浴びることとなりました.
 このように,甲状腺の超音波検査は超音波検査に携わる者にとっては特別な領域ではなく,日常検査にて常に対応できる知識と技術が要求される検査となっています.
 また,頸部エコーでは副甲状腺腫の確認や頸部リンパ節の評価が行われ,耳下腺や顎下腺などの唾液腺疾患についても超音波が第一選択の検査として利用されるようになりました.さらに先天性頸嚢胞や軟部腫瘤もみられ,甲状腺検査時に偶然発見されてその超音波診断に悩んだことがある人も少なくないと思います.
 今回の超音波エキスパートシリーズでは,甲状腺だけではなく,耳下腺や顎下腺などの唾液腺,頸部リンパ節,その他の頸部に発生する表在性腫瘤を取り上げ,頸部領域全般にわたって広く網羅できるテキストを企画しました.また,企画にあたっては,甲状腺についてはその働きから機能異常の病態生理,検査所見の診かたについて検査技師にわかりやすく解説していただけるようにお願いしました.甲状腺や唾液腺,リンパ節については,正常像と走査法から良性悪性の鑑別ポイント,疾患概念と超音波像について画像を多く取り入れてわかりやすい解説をお願いしました.
 執筆にあたっては,「技術的ポイント」「走査法の工夫やコツ」「走査の際の注意点」「鑑別のポイント」などをワンポイントアドバイスとして記載し,初心者にはわかりやすく,実際に検査を行っている方にもステップアップできる豊富な内容となっています.また,その他の頸部疾患については多くの疾患を取り上げていただき,読者の方が未経験な症例ではアトラスにもなりうる一冊となっています.
 本書が頸部エコーに携わる皆様のお役に立ち,超音波診断の向上に少しでも貢献できるよう願っています.
 最後に,ご多忙の中,本書の執筆に快くご協力くださり,多大なるご尽力をいただいたご執筆者の先生方に,深く感謝の意を表します.
 2015年5月
 編集代表 梨 昇
 序(梨 昇)
I 甲状腺
 1 甲状腺の基礎(三橋知明)
  甲状腺の基礎と病態生理
   1)甲状腺の解剖と働き
   2)甲状腺機能異常の病態生理
   3)甲状腺の検査所見の診かた
   4)甲状腺ホルモン異常を生じる代表的疾患の病態生理,症状,検査所見
 2 甲状腺の超音波像と走査方法(藤井亜希子)
  1.装置・プローブ選択と設定方法
   1)装置の設定
   2)プローブの選択
   3)甲状腺の表示方法
  2.甲状腺の超音波像
   1)甲状腺(側葉,峡部,錐体葉)
   2)甲状腺の血管
   3)甲状腺周囲組織
  3.甲状腺の走査方法
   1)体位
   2)基本走査
  4.ドプラ法
  5.甲状腺検査時のチェックポイント
   1)甲状腺の計測方法
   2)びまん性疾患のチェックポイント
   3)結節性疾患のチェックポイント
 3 びまん性甲状腺疾患の超音波像(中西久幸)
  代表的なびまん性甲状腺疾患の超音波像
   1)単純性びまん性甲状腺腫
   2)バセドウ病
   3)橋本病(慢性甲状腺炎)
   4)亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎
 4 結節性甲状腺腫の超音波像(佐々木栄司・長谷川明美・古田真理子)
  1.良性・悪性腫瘍の鑑別ポイント
  2.甲状腺腺腫と腺腫様甲状腺腫
   1)腺腫
   2)腺腫様結節,腺腫様甲状腺腫
   3)腺腫様甲状腺腫と鑑別が必要な疾患
   4)超音波検査で誤陰性とした乳頭癌症例
  3.乳頭癌
   1)通常型乳頭癌
   2)びまん性硬化型乳頭癌
   3)嚢胞形成乳頭癌
   4)乳頭癌の予後
   5)乳頭癌と鑑別が必要な疾患
  4.濾胞癌
   1)Bモードで確認すること
   2)カラードプラ法による評価
   3)エラストグラフィーの応用
  5.その他の悪性腫瘍
   1)髄様癌
   2)未分化癌
   3)悪性リンパ腫
II 副甲状腺(上皮小体)
 (来住野 修)
  1.副甲状腺の解剖と働き
   1)副甲状腺の解剖
   2)副甲状腺ホルモンの働き
   3)副甲状腺の疾患
   4)副甲状腺の観察方法
   5)副甲状腺の超音波像
  2.原発性副甲状腺機能亢進症
   1)検査
   2)治療
  3.二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症
   1)検査と治療方法
  4.副甲状腺嚢胞
III 唾液腺
 1 唾液腺の解剖と働き(尾ヶ瀬葉子)
  1.唾液腺組織の働きと基本構造
   1)唾液
   2)唾液腺組織の基本構築
   3)耳下腺
   4)顎下腺
   5)舌下腺
 2 唾液腺の超音波像と走査方法(尾ヶ瀬葉子)
  1.耳下腺の超音波像と走査方法
   1)耳下腺の超音波像
   2)耳下腺の走査方法
  2.顎下腺の超音波像と走査方法
   1)顎下腺の超音波像
   2)顎下腺の走査方法
  3.舌下腺の超音波像と走査方法
   1)舌下腺の超音波像
   2)舌下腺の走査方法
  4.唾液腺検査時のチェックポイント
   1)大きさと形状および左右差
   2)実質の均一性およびエコーレベル
   3)腫瘤性病変の有無
   4)唾液腺管拡張の有無
   5)その他
 3 唾液腺腫瘍の良性悪性鑑別(南里和秀)
  1.唾液腺腫瘍
   1)唾液腺の超音波検査
   2)唾液腺腫瘍の穿刺吸引細胞診
   3)唾液腺腫瘍の腫瘍性状
  2.唾液腺の良性腫瘍
   1)多形腺腫
   2)ワルチン腫瘍
   3)基底細胞腺腫
  3.唾液腺の悪性腫瘍
   1)腺様嚢胞癌
   2)腺房細胞癌
   3)唾液腺導管癌
   4)粘表皮癌
   5)悪性リンパ腫
 4 その他の唾液腺疾患(尾ヶ瀬葉子)
  1.唾石
   1)唾石とは
   2)唾石症とは
   3)超音波検査の役割
   4)超音波検査所見
  2.唾液腺嚢胞
   1)唾液腺嚢胞とは
   2)ガマ腫について
   3)超音波検査の役割
   4)超音波検査所見
  3.唾液腺炎
   1)流行性耳下腺炎(ムンプス)
   2)急性化膿性耳下腺炎
   3)反復性(再発性)耳下腺炎
   4)シェーグレン症候群
   5)IgG4関連疾患
IV リンパ節
 (浅井さとみ・宮地勇人)
  1.解剖と正常像
   1)頸部リンパ節の解剖
   2)リンパ節の正常像
   3)頸部リンパ節の描出法
  2.良性と悪性の鑑別
   1)良性のリンパ節腫脹
   2)悪性のリンパ節腫脹
V その他の疾患
 (河本敦夫)
  1.先天性頸嚢胞
   1)甲状舌管嚢胞(正中頸嚢胞)
   2)鰓裂嚢胞
   3)皮様嚢腫
   4)リンパ管奇形
  2.その他の頸部腫瘤
   1)頸部膿瘍
   2)頭頸部癌
   3)脂肪腫
   4)血管腫瘍・血管奇形
   5)神経鞘腫
   6)傍神経節腫
   7)粉瘤
   8)石灰化上皮腫
   9)Zenker憩室
   10)筋性斜頸
   11)内頸静脈血栓症