やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


いま,動脈硬化性疾患への関心が
 メタボリック症候群を取りあげるまでもなく,動脈硬化はヒトとしての生命やQOLを維持するために必須である「動脈」自体を侵すと同時に,それに伴って全身の重要臓器が侵されることが指摘されています.動脈疾患の病因には,最多である動脈硬化性のみならず,炎症性や機能性疾患も含まれ,病態も狭窄性のみならず拡張性疾患(瘤)も含まれます.
超音波は無侵襲かつリアルタイム
 超音波は,その到達する部位に制限(空気・骨などで減衰する)はありますが,画像と機能の両面を評価することができます.最近の超音波機器の進歩は目覚ましいものがあり,デジタル化された画像の精度は高く,実時間表示された血流や臓器の変化を経時的に評価することができます.
動脈疾患の超音波診断の意義
 このような超音波機器の進歩により,大動脈,腎動脈,末梢動脈を超音波で観察することが,きわめて容易となってきました.瘤はその存在のみならず,形態や血流動態まで評価が可能です.狭窄性疾患は,その病変部位や末梢への影響までも評価することができます.治療を必要とする有意狭窄の評価も,形態と血流動態の両面から評価が可能です.
 他の画像診断の進歩も目覚ましいものがあり,その有用性は言うまでもありませんが,その経済性,機能性,侵襲性などを考慮すると,超音波検査に若干の優位性があると確信しています.
超音波検査のテクニック
 しかし,そのように優れた超音波(エコー)検査でも,それを活かしきる「検査テクニック」がなければ臨床には役立ちません.そのテクニックだけは,自らで育んでいく以外には,他に手段がないのです.基本的に必要な機器,解剖や疾病の知識が必須なのは言うまでもありません.でも,それらの知識だけでは,臨床に活きた検査とはなりえないのがエコー検査なのです.自らが検査を行ってその画像を描出し,機能評価に供しうるデータの提示もできなければならないのです.
動脈エコー検査習得の座右書
 それら検査のコツが,本書の至る所に述べられています.繰り返しになりますが,動脈の解剖を知り,疾患の病態を知り,そしてエコー機器を活かしきることが前提であり,必須です.そして,どう撮るか?どう画像を描出するか?機能をどう評価するか?そしてそれをどう読むか? それらも,実際の臨床には必須なのです.
 今日から,皆さんの動脈疾患の臨床に,ぜひ本書を活用して,動脈疾患を患った方たちのためにエコー検査を活かして下さい.それこそが,本書の作成に携わった編者・筆者すべての願いです.

 2008年11月
 編集代表 松尾 汎
巻頭言 末梢動脈超音波検査の今日的意義 松尾 汎
 1 はじめに
 2 超音波検査の進歩と動脈疾患
 3 超音波検査の特徴
 4 US診断の基本とその習得
1 主な末梢動脈疾患と病態生理 宮田哲郎
 1 はじめに
 2 腹部大動脈疾患
 3 腎動脈疾患
 4 下肢動脈疾患
 5 おわりに
2 TASCおよびACC/AHAのPADガイドラインの概要と臨床への応用 吉牟田 剛・松尾 汎
 1 はじめに
 2 検査法の選択
 3 病変部位別の評価
 4 おわりに
3 今日の末梢動脈疾患におけるIVRと超音波の活用 井上正義・丸上永晃・平井都始子・伊藤博文・東浦 渉 ・阪口昇二・吉川公彦
 1 はじめに
 2 骨盤下肢動脈領域
 3 腹部内臓動脈領域:腎動脈狭窄
 4 腹部内臓動脈領域:内臓動脈瘤
 5 おわりに
4 今日の末梢血管外科の動向 東 信良
 1 はじめに
 2 下肢閉塞性動脈疾患(PAD)
 3 腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤
 4 その他の末梢動脈疾患
 5 まとめ
5 超音波検査に必要な末梢動脈の解剖 三井信介
 1 腹部大動脈から下肢動脈の全体像
 2 腹部大動脈とその第1分枝
 3 腸骨動脈とその分枝
 4 腹部骨盤内動脈と静脈の関係
 5 鼠径靭帯周囲の動脈
 6 大腿動脈
 7 膝窩動脈
 8 下腿動脈
 9 腎動脈
6 末梢血管超音波装置の設定とアーチファクトなど 小谷敦志
 1 末梢血管エコー検査の特徴
 2 超音波断層法を理解する
 3 超音波ドプラ法を理解する
 4 探触子の選択
 5 下肢血管エコーのための装置設定
 6 末梢血管エコーのアーチファクト
 7 まとめ
7 末梢動脈超音波検査の実際
 7-1 腹部大動脈 山本哲也・松村 誠
  1 意 義
  2 検査の進め方
  3 観察のポイント
  4 ピットフォール
  5 各疾患と評価
  6 治療法と評価
 7-2 腎動脈 米田智也・佐藤 洋
  1 はじめに
  2 解剖と生理
  3 検査前に知っておくべき項目
  4 検査の実際
  5 結果の判定
  6 症 例
  7 まとめ
 7-3 下肢大動脈 竹本和司
  1 超音波検査の意義
  2 下肢動脈の解剖
  3 検査の進め方
  4 観察のポイント
  5 評 価
  6 血管の状態
  7 ピットフォール
8 超音波以外の末梢血管画像診断 田中良一・吉岡邦浩
 1 はじめに
 2 超音波検査装置とその他の診断機器の違い
 3 X線を使用する検査装置
 4 MRI
 5 部位別・疾患別の適応と診断のアプローチ
9 血管超音波検査のレポート
 9-1 国立循環器病センター 久保田義則
 9-2 埼玉医科大学国際医療センター 山本哲也
 9-3 京都大学医学部附属病院 佐藤 洋
 9-4 和歌山県立医科大学附属病院 竹本和司
 9-5 東北大学病院 三木未佳