やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 整形外科領域における超音波検査の歴史は1957年にさかのぼる.しかしながら,普及し日の目を見たのは1980年代である.筆者が超音波検査に出会ったのは1984年のことである.同時期に多くの整形外科医が超音波検査に目を向け,1989年には“第1回日本整形外科超音波研究会”が開催された.その後本研究会の教育委員を中心に整形外科領域の超音波セミナーが開催されるようになり,2007年9月末までに乳児股関節超音波セミナーは43回,整形外科超音波セミナーは27回,肩関節超音波セミナーは3回開催されている.当初認められていなかった整形外科領域における超音波検査の保険点数もその間に認められるようになり,診療においてさらに超音波検査は利用しやすい状況となってきた.一方,日本超音波医学会のなかでも整形外科領域は一つの専門領域として認められ,整形外科領域の超音波検査専門の試験も実施されている.
 それにもかかわらず,検査を施行する肝心の医師が少ない.超音波検査の簡便さとリアルタイム性が利点であるにもかかわらず,すぐに被検者である患者さんに説明ができるまでに技術を修得した医師が少ないのである.整形外科が扱うのは主に運動器で,超音波検査はその運動器(筋・腱)を動かしながら局在を明瞭にすることができ,また圧痛点の確認をしながらその部位を直接検査できる点で,他の検査に勝っている.しかし,超音波では骨はその表面しか描出されないことが,一般整形外科医にとり超音波検査に目を向けにくくする原因となっていると思われる.ただし,骨の表面形状から周辺の軟部組織との位置関係を明確にすることができ,これら超音波の特性と解剖学的な位置関係を把握して検査に臨めば,その有用性は明白である.
 筆者が本書で記載した乳児超音波検査では,特に骨の描出状態から画像断面が診断に値する画像となっているか否かが判断できる.超音波検査技師の皆様には解剖がわかりにくいことかと思われるが,各部位の解剖をしっかりと頭に入れていただけたら,後は比較的診断に難渋しなくなる.検査部位にもよるが,ほぼ50症例の経験で,それぞれの領域に慣れ,検査により正確な診断が可能になると思われる.
 本来,本書は検査技師の皆様に向けて作成したものであるが,各分野におけるエキスパートが執筆した書であり,これから超音波検査を始める医師にとっても非常にわかりやすい書となっている.検査技師の皆様には,本書を参考として今後整形外科領域の検査にどんどんご協力いただければ,このうえない喜びである.

 2007年9月
 編集代表 扇谷浩文
1  整形外科超音波検査の基礎 瀬本喜啓
 1  はじめに
 2  超音波の基礎知識
 3  判読のポイント
 4  走査のポイント
 5  脊髄術中超音波診断法
 6  疾患の概略と検査の目的
 7  超音波診断法の長所と短所
 8  おわりに
2  上肢
 2-1 肩関節 黒川正夫
  1  はじめに
  2  肩腱板の基礎知識
  3  対象になる肩関節疾患と検査の目的
  4  肩腱板超音波検査法と観察のポイント
  5  観察すべき所見と読影のポイント
  6  異常所見の出現頻度について
  7  まとめ
 2-2 肘関節 杉本勝正
  1  はじめに
  2  超音波診断が可能な肘関節の部位
  3  我々の行っている肘関節に対する超音波診断手順
  4  肘内側側副靱帯損傷の超音波診断
  5  超音波診断の応用
  6  症例
  7  考察
  8  おわりに
3  股関節
 3-1 先天性股関節脱臼 扇谷浩文
  1  はじめに
  2  解剖
  3  先天性股関節脱臼の概要
  4  検査の目的
  5  走査のポイント
  6  判読のポイント
  7  分類のポイント
  8  検査と治療
 3-2 小児の股関節炎 服部  義
  1  基礎知識ならびに疾患の概略
  2  小児股関節疾患に対する超音波診断の目的
  3  走査のポイント
  4  判読のポイント
  5  考察
4  軟部腫瘍および神経原性腫瘍 阿江啓介,松本誠一,磯辺 靖
 1  骨・軟部腫瘍の診断分類
 2  骨・軟部腫瘍の画像診断
 3  超音波断層検査(エコー)で得られる情報とその有用性
 4  外来診療における診察手技としてのエコーの有用性
5  症例
 5  外傷性疾患(スポーツ傷害を含む) 皆川洋至
 1  はじめに
 2  骨・軟骨損傷
 3  筋損傷
 4  腱損傷
 5  靱帯損傷
 6  おわりに