やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 豊嶋崇徳
 北海道大学大学院医学研究院血液内科学
 キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)-T細胞療法は2017年にはじめて米国で認可され,2019年には,いよいよわが国においても最初のチサゲンレクロイセルが認可され,臨床応用が開始された.最近ではアキシカブタゲンシロロイセル,リソカブタゲンマラルユーセルも認可され,本格的なCAR-T細胞時代が到来した.
 歴史的にみると,がんに対する免疫療法は放射線療法やがん薬物療法がなかった1890年代にまで遡る.ニューヨーク Memorial Hospita(l現・Memorial Sloan Kettering Cancer Center)の外科医William Coreyは,がんの術後に皮膚感染症,丹毒を合併した患者が7年後にもがんの再発なく元気であったことに着目し,35歳の末期頸部がん患者に丹毒菌を注入したところ寛解が得られ,8年生存したとされる(https://www.mskcc.org/news/immunotherapy-revolutionizing-cancer-treatment-1891).このColey toxin療法のアイデアはその後の膀胱がんに対するBCG療法へと発展した.その後,わが国では1960年代に丸山ワクチン療法がはじまり,1990年代からのリンパ球療法,樹状細胞療法と続いた.
 そしてCAR-T細胞療法の出現によりがん免疫細胞療法は画期的な進化を遂げた.本療法は史上はじめて認可された“遺伝子治療”でもある.チェックポイント阻害薬の臨床応用とあわせ,人類の夢であった,自己の免疫力でがんに立ち向かえる時代が一気に到来した.
 CAR-T細胞療法は作用機序が薬物療法と異なるため幅広く効果が期待され,効果が認められた場合には長期寛解が期待される.一方で,誰でもこの治療が受けられるわけではなく,それなりの重い副作用も起きうる.CAR-T細胞療法は誕生後まもなく,日々進化を遂げており,常に情報収集しておかないといい医療を提供できない.CAR-T細胞療法が適切な患者に,安全に,有効に行えるようにとの思いを込めて本誌を編集したつもりである.医療現場にあって役にたてば幸いである.
 はじめに(豊嶋崇徳)
総論
 1.CAR-T細胞療法開発の歴史(垣見和宏・他)
  KeyWord 養子免疫細胞療法(ACT),ドナーリンパ球輸注療法(DLI),腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法,遺伝子改変T細胞
 2.CAR-T細胞の構築(保仙直毅)
  KeyWord CAR-T細胞,共刺激分子,がん特異的抗原
 3.CAR-T細胞治療のための施設要件と品質管理システムの構築(加畑 馨)
  KeyWord 品質管理システム,FACT,細胞調製施設,リスクマネジメント
 4.造血細胞移植レジストリを基盤としたCAR-T細胞治療レジストリの構築(熱田由子)
  KeyWord 造血細胞移植レジストリ,細胞治療レジストリ
 5.CAR-T細胞療法までの流れ(大西 康)
  KeyWord CAR-T細胞療法,最適使用推進ガイドライン,チサゲンレクルユーセル,CD19,リンパ球除去化学療法
 6.CAR-T細胞療法に対する治療抵抗性メカニズム(西尾信博・高橋義行)
  KeyWord キメラ抗原受容体(CAR),T細胞の疲弊,抗原エスケープ,腫瘍微小環境(TME)
 7.CAR-T細胞の将来展望─適応症と利便性の拡大,そしてoff-the-shelf化へ(藤原 弘)
  KeyWord off-the-shelf,on-target/off-tumor有害事象,固形がん,ゲノム編集
治療成績
 8.小児/若年ALLに対するCAR-T細胞療法(平松英文)
  KeyWord CAR-T細胞療法,急性リンパ性白血病(ALL),CD19
 9.成人急性リンパ芽球性白血病の治療成績(大嶺 謙)
  KeyWord 急性リンパ芽球性白血病(ALL),キメラ抗原受容体(CAR),CD19,CD22,ユニバーサルCAR-T細胞
 10.悪性リンパ腫─びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(伊豆津宏二)
  KeyWord CD19,キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞,リンパ腫
 11.濾胞性リンパ腫(福原規子)
  KeyWord CAR-T細胞,濾胞性リンパ腫(FL),組織学的形質転換,早期再発
 12.多発性骨髄腫に対するCAR-T細胞療法─現状と将来展望(石田禎夫)
  KeyWord 多発性骨髄腫(MM),CAR-T細胞,BCMA
 13.急性骨髄性白血病に対するCAR-T細胞療法の現状と課題(中沢洋三)
  KeyWord キメラ抗原受容体(CAR),急性骨髄性白血病(AML),GM-CSF受容体(GMR)CAR-T細胞
 14.固形がんに対するCAR-T細胞療法の開発動向(籠谷勇紀)
  KeyWord 養子免疫療法,メモリー分化,T細胞疲弊,エピジェネティクス
合併症マネジメント
 15.サイトカイン放出症候群(後藤秀樹)
  KeyWord キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞),遺伝子改変T細胞,サイトカイン放出症候群(CRS)
 16.ICANSに対するマネジメント(加藤光次)
  KeyWord ICANS,サイトカイン放出症候群(CRS),ICEスコア
 17.遷延性血球減少症(藤井伸治)
  KeyWord CAR-T細胞療法,遷延性血球減少,好中球減少,血小板減少
 18.CAR-T細胞治療後の低ガンマグロブリン血症(吉原 哲)
  KeyWord 低ガンマグロブリン血症,免疫グロブリン補充療法,感染症

 サイドメモ
  GMP
  安全キャビネットとクリーンベンチ
  Off-the-shelf化
  TIL療法の可能性
  CRSグレードとサイトカイン分泌の関係
  CAR-T細胞治療と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)