やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 山下静也
 りんくう総合医療センター病院長,大阪大学大学院医学系研究科総合地域医療学寄附講座特任教授
 冠動脈疾患や虚血性脳卒中などの疾患の基盤となる粥状動脈硬化の発症のメカニズムとして,RossらによってResponse to injury仮説が1976年に提唱され,その後2度にわたって修正が加えられた.粥状動脈硬化の分子機構は,その後発見された新たな分子によって,細胞生物学的・分子生物学的レベルでも詳細が明らかになってきた.一方,動脈硬化病変に浸潤するマクロファージのタイプ,炎症,脂肪酸代謝に関わる酵素群,脂肪酸結合蛋白などと,動脈硬化との関係も明らかになっている.また,microRNA,アンジオポエチン様因子,腸内細菌,アディポサイトカイン,肥満症・生活習慣病制御におけるエピゲノム研究なども注目を集めている.
 本特集ではこのような基礎的なトピックスに加え,動脈硬化評価のための新しい画像診断,検査法についても紹介した.さらに,臨床的観点からは,糖尿病合併リポ蛋白代謝異常,高HDL血症の臨床的意義に関する最近の疫学研究,CETP欠損症,HDLの機能評価,動脈硬化治療における性差,早発性冠動脈疾患を高頻度に合併する家族性高コレステロール血症の原因遺伝子としてのPCSK9の発見と,抗体医薬の開発による治療についても,各専門領域の最前線で活躍しておられる研究者・臨床家に解説していただいた.
 さらに,本特集では動脈硬化の予防・治療の観点から,新たな選択的PPARαモジュレーター,開発中の抗PCSK9アンチセンス薬,HDLをターゲットとした薬物療法,脂肪組織由来間葉系前駆細胞移植による血管再生療法,動脈硬化性疾患予防ガイドラインやスタチン不耐の診療ガイドなどについても最新の情報を紹介した.
 本書を熟読していただくことにより,動脈硬化の最新の研究と診断・治療の最前線を広く,また深く理解できる絶好の機会となろう.本書を多くの方々にご活用していただき,研究や診療の一助となれば,編者にとってこの上ない喜びである.
 はじめに(山下静也)
基礎
 1.PCSK9の多面的役割と動脈硬化への関与(野原 淳)
  Keyword PCSK9,家族性高コレステロール血症(FH),LDL受容体,多面的作用,動脈硬化症
 2.脂肪酸代謝と動脈硬化―動脈硬化を標的とした脂肪酸の量的・質的制御(唐澤直義・島野 仁)
  Keyword 脂肪酸,SREBP,Elovl6,マクロファージ,インフラマソーム
 3.動脈硬化の残余リスクとしての炎症(石井秀人・吉田雅幸)
  Keyword 残余リスク,急性冠症候群,血管内皮細胞,IL-1β,カナキヌマブ
 4.動脈硬化病変形成におけるマクロファージの役割(宮崎 章)
  Keyword マクロファージ,泡沫細胞,ピノサイトーシス,エフェロサイトーシス,カルパイン
 5.microRNAと動脈硬化(尾野 亘)
  Keyword microRNA,SREBP,ABCA1,HDLコレステロール(HDL-C),不安定プラーク
 6.アンジオポエチン様因子と心血管疾患(尾池雄一)
  Keyword ANGPTL2,メタボリックシンドローム,血管炎症,ANGPTL3,高LDLコレステロール血症
 7.腸内細菌と動脈硬化性疾患―現在までのエビデンスと今後の展望(吉田尚史・他)
  Keyword 腸内細菌叢,冠動脈疾患,TMAO,Bacteroides
 8.動脈硬化の新たな治療ターゲットとしての脂肪酸結合蛋白(古橋眞人)
  Keyword 脂肪酸結合蛋白(FABP),アディポカイン,肥満,インスリン抵抗性,動脈硬化
 9.新規アディポサイトカインと心血管病(大内乗有・大橋浩二)
  Keyword 心血管病,アディポサイトカイン,オメンチン,CTRP9,アディポリン
 10.肥満・生活習慣病におけるエピゲノム研究(酒井寿郎)
  Keyword エピゲノム,環境,ヒストン,ヒストン脱メチル化酵素,生活習慣病,ベージュ脂肪細胞,褐色脂肪細胞
 11.動脈硬化の実験動物モデルの現状および今後の課題(範 江林)
  Keyword 動脈硬化,動物モデル,ウサギ,マウス,高脂血症
 12.NAFLD/NASHと動脈硬化をつなぐ分子メカニズム(小関正博)
  Keyword NAFLD,NASH,動脈硬化,低HDL-C血症,高TG血症,デスモステロール,コレステロール,LXR
診断
 13.血管内視鏡からみた大動脈プラーク破綻とコレステロール結晶(小松 誠・児玉和久)
  Keyword 血管内視鏡,大動脈,プラーク,コレステロール結晶
 14.次世代の血管内視鏡―動脈硬化血管における最新のイメージング技術(岡山慶太)
  Keyword 血管内視鏡,カテーテル,イメージング,“見える化”,血管内治療
 15.家族性高コレステロール血症診断のためのアキレス腱肥厚測定(善積 透)
  Keyword 家族性高コレステロール血症(FH),黄色腫,アキレス腱肥厚測定,X線撮影,アキレスキャン
検査
 16.腸管の脂質吸収と血管内皮機能障害(的場哲哉・筒井裕之)
  Keyword 冠動脈ステント,酸化ステロール,スタチン,エゼチミブ,血管内皮機能
 17.食後高脂血症,カイロミクロンレムナント代謝の評価のためのアポ蛋白B-48測定(増田大作)
  Keyword アポ(リポ)蛋白B-48,カイロミクロンレムナント,食後高脂血症,動脈硬化,残余リスク
 18.高中性脂肪血症の遺伝子-環境連関―apo A-V欠損症からの新知見(岡ア啓明)
  Keyword カイロミクロン(CM),超低比重リポ蛋白(VLDL),動脈硬化,遺伝子-環境連関,治療法開発
臨床
 19.糖尿病におけるリポ蛋白代謝異常とその治療(稲垣恭子)
  Keyword 糖尿病,リポ蛋白代謝異常,レムナント,small dense LDL,インスリン抵抗性,リポ蛋白リパーゼ
 20.高HDL血症と心血管イベントに関する疫学研究からの知見―日常診療で高HDL血症をみつけたらどうするか(岡村智教)
  Keyword HDLコレステロール(HDL-C),疫学研究,CETP欠損症,コホート研究,プライマリケア
 21.CETP欠損症からみたコレステロール逆転送と動脈硬化(岡田健志・山下静也)
  Keyword コレステリルエステル転送蛋白(CETP),高比重リポ蛋白(HDL),コレステロール逆転送系・動脈硬化
 22.HDLコレステロール引き抜き能とその臨床応用(杜 隆嗣)
  Keyword 高比重リポ蛋白(HDL),HDLコレステロール(HDL-C),コレステロール引き抜き能,コレステロール取り込み能
 23.高齢者における脳心血管病のリスクと治療における性差(秋下雅弘)
  Keyword 冠動脈疾患,脳卒中,性差,性ホルモン,ホルモン補充療法(HRT)
治療
 24.抗PCSK9核酸医薬の登場が意味するもの(小倉正恒・斯波真理子)
  Keyword PCSK9,核酸医薬,siRNA,アンチセンスオリゴヌクレオチド,モノクローナル抗体医薬
 25.選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα)(荒井秀典)
  Keyword トリグリセリド(TG),HDLコレステロール(HDL-C),残余リスク
 26.HDLをターゲットとした薬物療法(大M 透)
  Keyword HDL,CETP阻害薬,ナイアシン,アポA-I模倣ペプチド,HDL infusion薬
 27.スタチン不耐――新たな残余リスクとしての意義と対策(梶波康二・佐伯泰彦)
  Keyword スタチン不耐,スタチン関連筋症状(SAMS),横紋筋融解,ノセボ効果
 28.『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017』の総括と次期改訂へ向けた提言(横手幸太郎)
  Keyword 動脈硬化性疾患予防ガイドライン,原発性脂質異常症,包括的リスク管理
 29.脂肪組織由来間葉系前駆細胞移植による血管再生療法(清水優樹・室原豊明)
  Keyword 血管再生療法,脂肪組織由来間葉系前駆細胞,血管新生,血管内皮前駆細胞,パラクライン効果

 サイドメモ
  パターン認識受容体
  NLRP3インフラマソームと動脈硬化
  カナキヌマブ
  Lipopolysaccharide(LPS)
  アディポサイトカイン
  エピゲノム
  ヒストン修飾
  血管内視鏡に関する研究会
  内視鏡の起源
  心臓カテーテル
  “Project OVALIS”
  酸化ステロール
  レムナント代謝
  EPOCH-JAPAN研究
  機能不全HDL
  PCSK9欠損ゼブラフィッシュは胎生致死
  スタチン不耐対応例