やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 清野 裕
 関西電力病院総長
 栄養は生命の根源であり,健康の維持ばかりでなく,さまざまな疾患の予防や治療の根幹にあるといっても過言ではない.病態栄養学は,種々の疾患の発生機序を栄養学的な側面から究明し,その治療ならびに予防を目的とするきわめて特色ある学問である.
 わが国は高齢社会を迎え,糖尿病や腎臓病など複数の基礎疾患を多く抱える高齢者が激増している一方,フレイルやサルコペニアなど生活の質や寿命に関係する全身的栄養状態の管理もまた重要な課題となっている.疾患の病態解明や治療・予防医療,介護の分野において,栄養学の重要性がいっそう認識されるようになった.“栄養”そのものも重要であるが,“栄養管理”も学問的な裏づけのもとになされるべきであることから,その理論的根拠の確立が急務と考えられる.病態栄養学に精通した臨床医や管理栄養士が,看護師や薬剤師など多職種と連携し,さまざまな疾患の病態に適した栄養療法について科学的見地から議論し,科学的根拠に基づいてテーラーメイドで実践することが求められている.
 このような背景から,2015年に栄養療法協議会が発足し,現在95学会と栄養士会が加盟している.従来の疾患ごとに策定された栄養療法のガイドラインに基づいた治療法だけでなく,患者が抱える複数の疾患の病態を統合的に考慮して最適な栄養療法を実践するための議論がはじめられた.今後,さまざまな疾患の予防や治療において,関連学会との連携した活動が展開されることになる.その一環として日本病態栄養学会では,従来の病態栄養専門医・指導医制度,病態栄養専門管理栄養士制度に加え,より高度な栄養療法の実践が可能ながん,腎臓病,糖尿病専門管理栄養士の育成事業を日本栄養士会や関連学会参画のもとに開始した.
 今回の特集では“病態栄養学UPDATE”と銘打ち,さまざまな疾患の病態に適した栄養療法の最新の情報について,科学的根拠に基づいて整理するとともに,基礎研究から明らかになりつつある最新のトピックスについて,bench to bedsideで各分野の専門の先生方にわかりやすく解説いただいた.病態栄養学に関心のある医師,管理栄養士にとどまらず,医療スタッフ,介護スタッフの方々にとっても,科学的根拠に基づいた栄養療法の知識の整理や最新の知見を学べる,日常の臨床や介護の現場で活用いただくためのバイブルのような本になることを祈っている.
 はじめに(清野 裕)
総論
 1.栄養プロフェッショナリズム―病態栄養専門医と病態栄養専門管理栄養士の役割(稲垣暢也)
  ・狭義の“医師のプロフェッショナリズム”
  ・病態栄養学と日本病態栄養学会
  ・栄養プロフェッショナリズムと病態栄養専門医
  ・“広義のプロフェッショナリズム”と病態栄養専門管理栄養士
疾患別診療
 2.糖尿病診療における食事療法―適正な栄養制限とは(浜本芳之)
  ・総摂取エネルギー
  ・栄養素摂取比率
 3.脂質異常症の食事療法(久米典昭)
  ・動脈硬化性疾患予防のための食習慣としての伝統的な日本食
  ・適正体重の維持と栄養素のバランス
  ・脂質(飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸,コレステロール)
  ・炭水化物
  ・大豆,大豆製品,野菜,果物
  ・食塩とアルコール
  ・高LDL-C血症の食事療法
  ・高トリグリセリド(TG)血症と食事
 4.慢性腎臓病における栄養療法―低影響を回避しつついかに腎保護をはかるか(花房規男)
  ・慢性腎臓病(CKD)の概念
  ・栄養療法の原則
  ・栄養療法の問題点
  ・CKDに対する栄養療法のガイドライン
  ・低栄養についての対策
  ・今後の方向性
 5.COPDにおける栄養管理(浅井一久・平田一人)
  ・気腫型COPDと“るいそう”
  ・COPDにおける栄養評価
  ・COPDにおける栄養管理
 6.肝硬変・慢性肝障害患者に対する栄養療法(三宅映己・日浅陽一)
  ・肝硬変患者の栄養状態
  ・栄養療法
  ・肥満合併患者の栄養療法
  ・サルコペニア合併肝硬変患者の栄養療法
 7.心疾患の栄養療法(中屋 豊)
  ・栄養に関連した病態生理
  ・薬物療法と栄養との関連
  ・心不全における栄養状態の評価
  ・心不全の栄養管理
  ・心不全患者における経腸栄養,輸液
 8.Crohn病における栄養療法 Up to Date(佐々木雅也・岡あずさ)
  ・Crohn病の病態と臨床症状
  ・栄養療法の意義
  ・栄養療法の実際
 9.肥満症治療のための食事療法エビデンスと栄養指導の実際(長井直子・他)
  ・肥満症の定義と診療意義
  ・肥満症の治療目的と減量目標
  ・肥満症の治療
  ・肥満症の食事療法
  ・栄養指導の実際―当院栄養管理室での取組み
 10.周術期の栄養管理の現状と問題点(井上善文)
  ・周術期管理の進歩
  ・術前栄養管理の要点
  ・術後栄養管理の要点
  ・栄養管理に対する認識の変化
 11.化学療法中の栄養支持療法,逆転の発想―短期絶食は抗がん剤の副作用を軽減する(寺島秀夫)
  ・理論的背景
  ・臨床における実際の効果
 12.食物アレルギーの発症・診断・管理の最新知識(中村俊紀・今井孝成)
  ・即時型食物アレルギーの疫学
  ・食物アレルギー発症の解明
  ・食物アレルギーの診断の進歩
  ・食物アレルギーの栄養管理の進歩
 13.小児の栄養(位田 忍)
  ・栄養と子どもの成長・発達―“こども”と“おとな”の違い
  ・小児の発育の概略
  ・小児の栄養法
  ・栄養障害の次世代への影響
  ・最近注目されている栄養障害と保険診療
 14.根拠に基づいた褥瘡の栄養療法(真壁 昇)
  ・褥瘡発生の危険因子となる栄養指標
  ・栄養補給量
  ・栄養専門チームの介入の効果
  ・併存疾患を鑑みる時代へ
最新のトピックス
 15.筋肉と栄養素(笹子敬洋・植木浩二郎)
  ・骨格筋の構造と筋線維の種類
  ・骨格筋におけるインスリンシグナル
  ・骨格筋におけるIGF-Iシグナル
  ・遺伝子改変マウスの表現型
  ・サルコペニアの病態とその治療
 16.時間栄養学―基礎研究から応用研究への可能性(高橋将記・柴田重信)
  ・体内時計と時計遺伝子
  ・時間栄養学
  ・体内時計作用栄養学
  ・体内時計を制御する機能性食品成分の探索
  ・食事・栄養成分の摂取タイミングと抗肥満・抗糖尿病効果
  ・今後の展望―時間栄養学的視点に基づく応用研究・臨床研究の重要性
 17.臓器間神経ネットワークを介した栄養素の代謝調節機構(宇野健司・片桐秀樹)
  ・臓器間神経ネットワーク
  ・肝からの臓器間神経ネットワーク
  ・栄養素代謝と臓器間神経ネットワーク
 18.食欲調節にかかわる末梢と中枢シグナル(佐藤達也・箕越靖彦)
  ・味覚シグナルによる摂食調節
  ・味覚と栄養素による報酬系の調節
  ・摂食行動の恒常的調節にかかわる視床下部神経回路
  ・視床下部AMPKによる摂食行動の調節
  ・食物嗜好性の調節機構
 19.腸内細菌叢と栄養(金澤昭雄)
  ・エンテロタイプと長期的な食事との関連
  ・短鎖脂肪酸と腸内細菌叢
  ・高脂肪食と腸管バリア機能
  ・L-カルニチンと腸内細菌叢による動脈硬化
  ・人工甘味料と腸内細菌叢による血糖上昇
 20.多疾患罹患高齢者の栄養管理の注意点(中山真紀)
  ・高齢者の特徴 ・アセスメントの方法
  ・栄養不足の特徴 ・必要栄養量の算出
  ・フレイル・サルコペニアとの関連 ・栄養摂取上の注意点
  ・食べられない原因 ・必要栄養量確保のために

 サイドメモ
  炭水化物制限と脂質制限のいずれが体重減少により有効?
  Second-meal effect(2度目の食事効果)とは?
  和食のススメ
  トランス不飽和脂肪酸の摂取量
  ケト酸
  肝性脳症
  Obesity paradox
  Crohn病と脂肪投与
  メタボリックシンドローム
  ERAS?(enhanced recovery after surgery)
  EPaNIC Studyの概要
  STFによる抗がん剤副作用軽減メカニズムに関する用語解説
  離乳食をいつから開始すべきか
  授乳に際して母親の食事制限の必要性
  早寝早起き朝ごはんキャンペーン
  成長曲線
  食育と食育基本法
  L-カルノシンとは?
  摂食にかかわる恒常的調節と快楽的調節機構
  Tight junction protein
  除脂肪体重(lean body mass:LBM)