やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 滝川 一 帝京大学医学部内科主任教授,
 久保惠嗣 長野県立病院機構理事長
 本特集「内科領域の薬剤性障害―肝・肺を中心に」は,近年,多方面で問題となっている薬物による有害反応(adversed drug reaction:ADR)のうち,肝障害と肺障害を取り上げ,後者については2007年の第104回日本内科学会講演会のシンポジウム「薬物による臓器障害の早期発見とその対策」で司会をご一緒した久保惠嗣先生に構成をお願いした.
 薬物性肝障害(drug-induced liver injury)の多くは予測不可能であり,肝細胞障害型では劇症化して死に至る場合もあるが,その発生機序もあまり解明されていない.起因薬も時代とともに変化しており,近年,健康食品による肝障害が増加している.薬物性肝障害の診断は薬物投与と肝障害の時間的関連と除外診断によるが,鑑別が困難な場合もあり,とくに自己免疫性肝炎との鑑別には難儀することがある.現在,世界的に薬物性肝障害の遺伝的素因の検討が行われており,すこしずつデータが出だしたところで,将来的に薬物性肝障害の危険因子の予測につながることを期待したい.(滝川)

 薬剤性肺障害(drug-induced lung injury)にはいくつかの特徴がある.本障害の病態に特徴はなく既存の肺疾患に対応している.もっとも頻度の多い病態は間質性肺疾患であり,ついで咳,痰,喘鳴などの気道病変,肺水腫,胸膜病変,肺胞出血など多彩である.
 ゲフィチニブ(イレッサ?)のように細胞障害性の機序により発症する場合,発症頻度がわが国で多くみられる薬剤のあることが明らかにされた.薬剤性肺障害でも病理学的にびまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage:DAD)を呈する際は予後不良であることが知られているが,胸部高分解能CT(HRCT)でDADパターンの推測が可能である.本障害の治療は,重症例では副腎皮質ステロイドを使用するが,早期に発見し被疑薬の速やかな中止がもっとも重要である.つねに本症を念頭において診療に努めていただきたい.最後に,薬剤性肺障害は,今後も生物学的製剤,分子標的治療薬などの開発・上市に伴い増加することは確実である.
 本特集が皆様方の日常診療にすこしでもお役にたてば幸甚である.(久保)
 はじめに(滝川 一・久保惠嗣)

薬物性肝障害
【総論】
 1.薬物性肝障害の発症機序(村脇義和)
  ・中毒性機序
  ・アレルギー性機序
  ・遺伝的薬物代謝異常による非アレルギー性機序
  ・薬物性肝障害発症の危険因子
 2.薬物性肝障害の遺伝的素因―ゲノムバイオマーカーを用いた発症予測の可能性(前川京子・斎藤嘉朗)
  ・ヒト白血球抗原(HLA)のタイプとDILI発症との関連
  ・薬物動態関連分子の遺伝子多型とDILI発症との関連
 3.薬物性肝障害の起因薬の変遷(相磯光彦・滝川 一)
【診断・治療】
 4.薬物性肝障害の診断(阿部雅則・恩地森一)
  ・発症機序による分類
  ・薬物性肝障害(DILI)の診断
  ・DDW-J2004ワークショップ薬物性肝障害診断基準の有用性
  ・DDW-J2004ワークショップ薬物性肝障害診断基準の問題点と注意点
  ・DILIの重症度診断
 5.薬物性肝障害の病理―薬物性肝障害は肝生検で診断可能か(野本 実)
  ・薬物性肝障害の病理学的特徴像
  ・急性肝障害
  ・慢性肝障害
  ・特殊型
  ・鑑別診断
 6.薬物性肝障害の最近の治療(松ア靖司)
  ・治療方針の基本
  ・薬物療法の具体例
  ・劇症化の場合はどうするか
  ・薬物性肝障害の予測法からの予防策
  ・なかなか診断のつかないときはまずどうする?
  ・おわりに―肝臓専門医との連携強化を
【知っておきたい薬物性肝障害】
 7.健康食品による薬物性肝障害と薬物起因性自己免疫性肝炎(有永照子・佐田通夫)
  ・健康食品による薬物性肝障害
  ・薬物起因性自己免疫性肝炎(DIAIH)
 8.薬物による劇症肝炎(持田 智)
  ・急性肝不全,劇症肝炎の概念と,薬物性症例の位置づけ
  ・劇症肝炎およびLOHFにおける薬物性症例の実態(1998〜2009年の発症例)
  ・急性肝不全およびLOHFにおける薬物性症例の実態(2010〜2011年の発症例)
  ・自己免疫性症例および成因不明例との関係
 9.一般病院での薬物性肝障害診療の現況(辻 恵二)
  ・薬物性肝障害診断までの経緯と入院加療の有無
  ・大学病院との特徴の比較
  ・薬物性肝障害の症状と発見までの実日数
  ・起因薬物の種類
  ・RUCAM診断基準による判定別起因薬物の種類
  ・起因薬物のデータベースの作成
  ・年次別DLST陽性患者率と1例当りの測定件数
薬剤性肺障害
【総論】
 10.薬剤性肺障害の基礎知識(金澤 實)
  ・薬剤性肺障害の定義と疾患概念
  ・発生機序とリスク因子
  ・臨床病型とその考え方
  ・疫学
 11.薬剤性肺障害の人種差と遺伝的素因(花岡正幸・谷 直樹)
  ・薬剤性肺障害の人種差
  ・薬剤性肺障害の分子遺伝学的検討
【診断・治療】
 12.薬剤性肺障害の診断と治療のフローチャート(橋本 修・他)
  ・薬剤性肺障害の診断
  ・治療と予後
 13.薬剤性肺障害の診断に必要な検査(1)―血液検査,気管支鏡検査,薬剤リンパ球刺激試験(DLST)の意義を中心に(服部 登
  ・薬剤性肺障害診断のフローチャート
  ・薬剤性肺障害の診断に用いられる検査
 14.薬剤性肺障害の診断に必要な検査(2)―画像診断(酒井文和)
  ・薬剤性肺障害の臨床
  ・薬剤性肺障害の病理
  ・薬剤性肺障害の画像所見
  ・薬剤性肺障害診療における画像診断の役割
 15.薬剤性肺障害と鑑別が必要な呼吸器感染症の特徴(砂金秀章・徳田 均)
  ・呼吸器感染症を疑う症状・病歴
  ・呼吸器感染症の検査所見
  ・呼吸器感染症の画像所見
  ・呼吸器感染症の治療
  ・呼吸器感染症各論
【知っておきたい薬剤性肺障害】
 16.抗悪性腫瘍薬による薬剤性肺障害(西條康夫)
  ・発症機序と画像の特徴
  ・各種抗癌剤による肺障害の特徴
  ・放射線との併用による肺障害
 17.分子標的治療薬による薬剤性肺障害(齋藤好信・弦間昭彦)
  ・薬剤性肺障害の病型
  ・分子標的治療薬による薬剤性肺障害の実態
  ・管理上の注意点
  ・予防は可能か?
 18.生物学的製剤による薬剤性肺障害―fake or fact?(亀田秀人)
  ・薬剤性肺障害の疫学と発症機序
  ・診断と治療・予後
 19.その他の薬剤(漢方薬,抗菌薬,抗循環器病薬など)による肺障害(津島健司)
  ・漢方薬に起因する肺障害
  ・抗菌薬に起因する肺障害
  ・抗循環器病薬に起因する肺障害
  ・サプリメント(健康食品)に起因する肺障害
  ・一般的な治療

 サイドメモ
  医薬品による副作用
  ヒト白血球抗原(HLA)
  薬の添付文書
  健康食品関連情報の入手
  自己免疫性肝炎の診断基準
  De novo B型劇症肝炎
  RUCAM診断基準
  放射線照射による肺障害
  候補遺伝子調査と全遺伝情報調査
  気管支鏡検査の有用性
  生物学的製剤
  リンパ球刺激試験(DLST)