はじめに―SSCGの背景
織田成人
千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学
この20年で敗血症(sepsis)の概念や治療法は大きく変化した.従来日本では,敗血症は細菌や真菌などの病原微生物やその毒素(エンドトキシンなど)が血液中に存在する状態と考えられてきた.しかし近年,敗血症は感染によって発熱,頻脈,頻呼吸,白血球増多あるいは減少などの全身反応を呈した状態,すなわち感染によって引き起こされた全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)と定義されている.近年,敗血症の病態における免疫-炎症反応や凝固障害,自然免疫の関与が明らかにされるとともに,この統一された診断基準のもとで敗血症の診断・治療に関するいくつかのエビデンスが報告されるようになった.
2002年10月に,アメリカ集中治療医学会(SCCM)とヨーロッパ集中治療医学会(ESICM),およびISF(International Sepsis Forum)に所属する集中治療や感染症の専門家がスペインのバルセロナに集まり,重症敗血症の死亡率を向こう5年間で25%低下させることを目的に,国際的なプログラムを立ち上げることで合意した.これがSurviving Sepsis Campaign(SSC)のはじまりである.そして,このキャンペーンの一環として作成されたのがSurviving Sepsis Campaign guidelines(SSCG)である.本ガイドラインは2004年10月に,はじめてのエビデンスに基づいた重症敗血症の診断・治療のガイドラインとして発表され,2008年1月にはその改訂版が公表された.
本別冊では,SSCGのおもな項目についてその内容を各専門家に解説していただくとともに,2004年の初版との違い,わが国の一般的な治療法との違いや問題点についても言及していただいた.本別冊が読者の日常臨床の一助となれば幸いである.
織田成人
千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学
この20年で敗血症(sepsis)の概念や治療法は大きく変化した.従来日本では,敗血症は細菌や真菌などの病原微生物やその毒素(エンドトキシンなど)が血液中に存在する状態と考えられてきた.しかし近年,敗血症は感染によって発熱,頻脈,頻呼吸,白血球増多あるいは減少などの全身反応を呈した状態,すなわち感染によって引き起こされた全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)と定義されている.近年,敗血症の病態における免疫-炎症反応や凝固障害,自然免疫の関与が明らかにされるとともに,この統一された診断基準のもとで敗血症の診断・治療に関するいくつかのエビデンスが報告されるようになった.
2002年10月に,アメリカ集中治療医学会(SCCM)とヨーロッパ集中治療医学会(ESICM),およびISF(International Sepsis Forum)に所属する集中治療や感染症の専門家がスペインのバルセロナに集まり,重症敗血症の死亡率を向こう5年間で25%低下させることを目的に,国際的なプログラムを立ち上げることで合意した.これがSurviving Sepsis Campaign(SSC)のはじまりである.そして,このキャンペーンの一環として作成されたのがSurviving Sepsis Campaign guidelines(SSCG)である.本ガイドラインは2004年10月に,はじめてのエビデンスに基づいた重症敗血症の診断・治療のガイドラインとして発表され,2008年1月にはその改訂版が公表された.
本別冊では,SSCGのおもな項目についてその内容を各専門家に解説していただくとともに,2004年の初版との違い,わが国の一般的な治療法との違いや問題点についても言及していただいた.本別冊が読者の日常臨床の一助となれば幸いである.
はじめに―SSCGの背景(織田成人)
Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)2008
1.Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)の概要(織田成人)
・SSCG発表の経緯
・SSCG2008のおもな変更点と内容
・SSCGの問題点
2.Initial resuscitation(仲村将高・他)
・Initial resuscitationのおもな内容
・これまでの循環管理法との違い
・Initial resucsitation達成で得られる副次的効果
・Initial resuscitationの問題点
3.診断と感染巣コントロール(尾原秀明・北川雄光)
・ガイドライン要旨
・ガイドラインの解説
4.抗菌薬治療:De-escalation(竹末芳生)
・De-escalationとは
・ステップ1
・IATにおける抗菌薬選択―併用に関する考え方
・ステップ2
・De-escalationの実施状況
5.SSCGにおける輸液療法(山下典雄・坂本照夫)
・SSCGで推奨する輸液療法
・文献の紹介
6.重症敗血症・敗血症性ショックにおける血管収縮薬・強心薬療法(垣花泰之)
・「平均動脈圧を≧65mmHgに維持することを推奨する(グレード1C).血管収縮薬を必要とするすべての患者はできるだけ早期に動脈ラインを確保することを推奨する(グレード1D)」
・「敗血症性ショック時の低血圧に対してノルエピネフリン,あるいはドパミンのいずれかを第一選択の昇圧薬として推奨する(グレード1C).腎保護を目的として低用量ドパミンを用いないことを推奨する(グレード1A)」
・「敗血症性ショック時の第一選択の昇圧薬としてはエピネフリン,フェニレフリン,バゾプレシンは適さない(グレード2C).ノルエピネフリンで十分な昇圧効果が得られない場合,バゾプレシン0.03 units/minを追加投与してもよい.敗血症性ショック時に,ノルエピネフリンあるいはドパミンの昇圧効果が十分でない場合,第一選択代替薬としてエピネフリンを提言する(グレード2B)」
・「心室充満圧の上昇と低心拍出量によって心機能不全が示唆される場合,ドブタミン持続注入を推奨する(グレード1C).心係数を正常値以上に上昇させる治療戦略を選択しないよう推奨する(グレード1B)」
7.改訂版SSCGにおけるステロイドの使用(射場敏明)
・ショック合併例に対するステロイド治療
・ARDSに対するステロイド治療
8.リコンビナント活性化プロテインC(遠藤重厚・鈴木 泰)
・活性化プロテインCとは
・Surviving Sepsis Campaign Guidelines2004におけるAPCの位置づけ
・Surviving Sepsis Campaign Guidelines2008におけるAPCの位置づけはどう変わったか
9.SSCGにおける血液製剤の投与(菅野正寛・丸藤 哲)
・早期目標指向蘇生後の赤血球輸血
・エリスロポエチンを使用しない
・凍結新鮮血漿を使用しない
・高用量アンチトロンビンを投与しない
・血小板輸血を行う
10.人工呼吸器管理の合併症とその対策―Sepsis患者のさらなる予後改善を目指す方策としての人工呼吸器管理(相馬一亥)
・人工呼吸の目的と適応
・気道内圧上昇による損傷
・胸腔内圧上昇による障害
・人工呼吸器関連肺損傷(VALI)・人工呼吸器誘起性肺損傷(VILI)
・人工呼吸器関連肺炎(VAP)
・酸素中毒
・人工呼吸器関連インシデント
11.SSCGにおける鎮痛,鎮静,筋弛緩薬(丸山一男・丸山淳子)
・プロトコールを用いた鎮静―推奨1「人工呼吸中の sepsis患者では鎮静が必要な場合,鎮静目標を設定したプロトコールを用いる」
・鎮静薬の投与―推奨2「人工呼吸中の患者では目的とする鎮静レベルを得るため,間欠的ボーラス投与,または持続静脈内投与による鎮静を行う.ただし,持続投与を行う場合,1日1回,鎮静薬投与を中断するか減量し,覚醒させ,その後も鎮静が必要なら反応をみながら投与量を再調整する」
・持続静脈内投与で,毎日1回投与を中断する方法
・小児でのプロポフォール使用
・筋弛緩薬の投与―推奨3「Septic患者では筋弛緩薬の使用をできるだけ避ける.これは筋弛緩薬投与中止後の神経筋遮断の持続を避けるためである.筋弛緩薬を使用しなければならない場合,必要時に間欠的ボーラス投与するか,筋弛緩の程度をtrain of fourでモニターしたうえで持続静脈内投与を行う」
12.SSCGにおける血糖コントロール―推奨の根拠と問題点(真弓俊彦)
・インスリン強化療法の理論的背景
・問題点と今後の展望
13.その他の支持療法(針井則一・松田兼一)
・腎代替療法
・重炭酸塩療法
・深部静脈血栓症(DVT)の予防
・ストレス性潰瘍(stress ulcer prophylaxis:SUP)の予防
・選択的消化管感染除去(SDD)
14.小児の“sepsis continuum”の定義(清水直樹)
・小児の年齢域の定義
・SIRS,infection,sepsis,severe sepsis,septic shockの小児特有の定義
・臓器障害の小児特有の定義についてと,臓器不全スコアの小児における妥当性
15.小児severe sepsis/septic shockへの治療介入(志馬伸朗)
・ガイドラインの内容
16.敗血症治療ガイドラインの今後の展望―わが国における現状を踏まえて(松田直之)
・Early goal-directed therapyの実状
・カテコールアミン投与にエビデンスは必要なのか
・抗菌薬の適正使用
・敗血症の血糖値コントロールの留意点
・早期経腸栄養の役割
・敗血症ガイドラインのわが国における展望
17.SSCGを理解するための最新基礎知識20(貞広智仁・他)
・SIRS(systemic inflammatory response syndrome)/Sepsis
・Severe sepsis/Septic shock
・Early goal-directed therapy
・ScvO2
・Fluid resuscitation
・De-escalation
・Renal dose dopamine
・Vasopressin
・Relative adrenal insufficiency
・Physiologic corticosteroid replacement
・Septic DIC
・Restrictive transfusion strategy
・ALI/ARDS
・VILI(ventilator induced lung injury)
・Lung protective ventilation strategy
・IIT(intensive insulin therapy)
・CRRT(continuous renal replacement therapy)
・Deep vein thrombosis
・SDD(selective digestive decon tamination)
・サイドメモ目次
バンコマイシンにおけるMIC2μg/mlであるMRSAの臨床的意義
Meta-analysis(メタアナリシス)
オッズ比,リスク比(相対危険度),信頼区間
ACTH負荷試験
ベッドサイドでの血糖測定の注意点
High volume CHF
小児のseptic shock
骨髄路
デングショック症候群
dicrotic wave
Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)2008
1.Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)の概要(織田成人)
・SSCG発表の経緯
・SSCG2008のおもな変更点と内容
・SSCGの問題点
2.Initial resuscitation(仲村将高・他)
・Initial resuscitationのおもな内容
・これまでの循環管理法との違い
・Initial resucsitation達成で得られる副次的効果
・Initial resuscitationの問題点
3.診断と感染巣コントロール(尾原秀明・北川雄光)
・ガイドライン要旨
・ガイドラインの解説
4.抗菌薬治療:De-escalation(竹末芳生)
・De-escalationとは
・ステップ1
・IATにおける抗菌薬選択―併用に関する考え方
・ステップ2
・De-escalationの実施状況
5.SSCGにおける輸液療法(山下典雄・坂本照夫)
・SSCGで推奨する輸液療法
・文献の紹介
6.重症敗血症・敗血症性ショックにおける血管収縮薬・強心薬療法(垣花泰之)
・「平均動脈圧を≧65mmHgに維持することを推奨する(グレード1C).血管収縮薬を必要とするすべての患者はできるだけ早期に動脈ラインを確保することを推奨する(グレード1D)」
・「敗血症性ショック時の低血圧に対してノルエピネフリン,あるいはドパミンのいずれかを第一選択の昇圧薬として推奨する(グレード1C).腎保護を目的として低用量ドパミンを用いないことを推奨する(グレード1A)」
・「敗血症性ショック時の第一選択の昇圧薬としてはエピネフリン,フェニレフリン,バゾプレシンは適さない(グレード2C).ノルエピネフリンで十分な昇圧効果が得られない場合,バゾプレシン0.03 units/minを追加投与してもよい.敗血症性ショック時に,ノルエピネフリンあるいはドパミンの昇圧効果が十分でない場合,第一選択代替薬としてエピネフリンを提言する(グレード2B)」
・「心室充満圧の上昇と低心拍出量によって心機能不全が示唆される場合,ドブタミン持続注入を推奨する(グレード1C).心係数を正常値以上に上昇させる治療戦略を選択しないよう推奨する(グレード1B)」
7.改訂版SSCGにおけるステロイドの使用(射場敏明)
・ショック合併例に対するステロイド治療
・ARDSに対するステロイド治療
8.リコンビナント活性化プロテインC(遠藤重厚・鈴木 泰)
・活性化プロテインCとは
・Surviving Sepsis Campaign Guidelines2004におけるAPCの位置づけ
・Surviving Sepsis Campaign Guidelines2008におけるAPCの位置づけはどう変わったか
9.SSCGにおける血液製剤の投与(菅野正寛・丸藤 哲)
・早期目標指向蘇生後の赤血球輸血
・エリスロポエチンを使用しない
・凍結新鮮血漿を使用しない
・高用量アンチトロンビンを投与しない
・血小板輸血を行う
10.人工呼吸器管理の合併症とその対策―Sepsis患者のさらなる予後改善を目指す方策としての人工呼吸器管理(相馬一亥)
・人工呼吸の目的と適応
・気道内圧上昇による損傷
・胸腔内圧上昇による障害
・人工呼吸器関連肺損傷(VALI)・人工呼吸器誘起性肺損傷(VILI)
・人工呼吸器関連肺炎(VAP)
・酸素中毒
・人工呼吸器関連インシデント
11.SSCGにおける鎮痛,鎮静,筋弛緩薬(丸山一男・丸山淳子)
・プロトコールを用いた鎮静―推奨1「人工呼吸中の sepsis患者では鎮静が必要な場合,鎮静目標を設定したプロトコールを用いる」
・鎮静薬の投与―推奨2「人工呼吸中の患者では目的とする鎮静レベルを得るため,間欠的ボーラス投与,または持続静脈内投与による鎮静を行う.ただし,持続投与を行う場合,1日1回,鎮静薬投与を中断するか減量し,覚醒させ,その後も鎮静が必要なら反応をみながら投与量を再調整する」
・持続静脈内投与で,毎日1回投与を中断する方法
・小児でのプロポフォール使用
・筋弛緩薬の投与―推奨3「Septic患者では筋弛緩薬の使用をできるだけ避ける.これは筋弛緩薬投与中止後の神経筋遮断の持続を避けるためである.筋弛緩薬を使用しなければならない場合,必要時に間欠的ボーラス投与するか,筋弛緩の程度をtrain of fourでモニターしたうえで持続静脈内投与を行う」
12.SSCGにおける血糖コントロール―推奨の根拠と問題点(真弓俊彦)
・インスリン強化療法の理論的背景
・問題点と今後の展望
13.その他の支持療法(針井則一・松田兼一)
・腎代替療法
・重炭酸塩療法
・深部静脈血栓症(DVT)の予防
・ストレス性潰瘍(stress ulcer prophylaxis:SUP)の予防
・選択的消化管感染除去(SDD)
14.小児の“sepsis continuum”の定義(清水直樹)
・小児の年齢域の定義
・SIRS,infection,sepsis,severe sepsis,septic shockの小児特有の定義
・臓器障害の小児特有の定義についてと,臓器不全スコアの小児における妥当性
15.小児severe sepsis/septic shockへの治療介入(志馬伸朗)
・ガイドラインの内容
16.敗血症治療ガイドラインの今後の展望―わが国における現状を踏まえて(松田直之)
・Early goal-directed therapyの実状
・カテコールアミン投与にエビデンスは必要なのか
・抗菌薬の適正使用
・敗血症の血糖値コントロールの留意点
・早期経腸栄養の役割
・敗血症ガイドラインのわが国における展望
17.SSCGを理解するための最新基礎知識20(貞広智仁・他)
・SIRS(systemic inflammatory response syndrome)/Sepsis
・Severe sepsis/Septic shock
・Early goal-directed therapy
・ScvO2
・Fluid resuscitation
・De-escalation
・Renal dose dopamine
・Vasopressin
・Relative adrenal insufficiency
・Physiologic corticosteroid replacement
・Septic DIC
・Restrictive transfusion strategy
・ALI/ARDS
・VILI(ventilator induced lung injury)
・Lung protective ventilation strategy
・IIT(intensive insulin therapy)
・CRRT(continuous renal replacement therapy)
・Deep vein thrombosis
・SDD(selective digestive decon tamination)
・サイドメモ目次
バンコマイシンにおけるMIC2μg/mlであるMRSAの臨床的意義
Meta-analysis(メタアナリシス)
オッズ比,リスク比(相対危険度),信頼区間
ACTH負荷試験
ベッドサイドでの血糖測定の注意点
High volume CHF
小児のseptic shock
骨髄路
デングショック症候群
dicrotic wave