やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 畠 清彦
 癌研有明病院化学療法科・血液腫瘍科,外来治療センター
 まず進歩を実感して,適切な検診や正しい化学療法を浸透させましょう!
 大腸癌は70%以上が手術だけで治癒し,手術方法も腹腔鏡手術や内視鏡の進歩により,種々の方法がオプションとして存在する.そのこともあり,日本においては,外科手術では良好な成績が得られている.しかし,残念ながら化学療法は遅れていた.
 2007年,ようやくbevacizumab(商品名アバスチン(R))が世界で90番目に承認された.アジアではもっとも遅い承認であった.今年,cetuximab(商品名未定.アメリカではErbitux(R))はまだ遅れており,この特集が出るころにはと思われていたが,間に合わなかった.まだ“ドラッグラグ”といわれている時間のロスは大きい.欧米に比較して5年間,アジアでもインドに3年間くらい遅れ,また承認に要している時間は3倍の平均4年以上かかっている.一方,切望された薬剤が一向に標準治療のなかに浸透しないのもおかしいことである.
 一方,検診が重要であり,これを支援する“brave circle”という運動も熱心にされている.検便,内視鏡検査,手術,化学療法がすべて揃ってこそ,この疾患の対策ができることになる.この疾患の治療がうまくいくかどうかはその施設の実力,チーム力も示す指標でもある.
 本特集では現在,大腸癌の領域で重要と考えられるキーパースンに執筆をお願いした.「なぜ畠が企画者なんだ?」という方もおられると思う.期待を裏切っているかどうか関心をもってみていただきたい.乳癌と大腸癌の診療は,癌拠点病院がうまくやっていけるかどうかの指標でもある.もっとも患者数,化学療法数が多くなるからである.緩和ケアや救急体制の整備,ほかの分野,たとえば循環器内科,血管外科医,止血凝固の専門医,出血や血栓なども研修していく必要がある.このように新規薬剤を使用するにあたっても施設全体の力量が試される.ようやく化学療法で効果が明確に出る標準治療を行うことができるようになってきたいま,若い先生方にぜひ興味をもっていただきたい.
 はじめに(畠 清彦)
総論
 1.大腸癌研究会の活動と今後の方向(武藤徹一郎)
 2.大腸癌取扱い規約―意義と第7版改訂(安野正道・杉原健一)
  ・改訂の歴史
  ・第7版改訂
  ・今後の課題
最新治療コンセンサス
 3.大腸癌の術後補助化学療法(渡邉聡明)
  ・大腸癌治療ガイドラインによる術後補助化学療法
  ・結腸癌に対する術後補助化学療法
  ・直腸癌に対する術後補助化学療法
 4.転移性大腸癌の化学療法―現状と戦略(原 浩樹・吉野孝之)
  ・ベバシズマブ(BEV)
  ・Cetuximab
 5.改訂 NCCNガイドラインの解説(山崎健太郎・朴 成和)
  ・切除不能・再発大腸癌に対する化学療法
  ・術後補助化学療法
有害事象と対策
 6.癌と血栓症(大森 司・坂田洋一)
  ・疫学
  ・血栓症発症の機序
  ・疾患別各論
 7.ベバシズマブと血栓塞栓症への対応(窓岩清治)
  ・ベバシズマブの作用と臨床試験
  ・ベバシズマブと血栓塞栓症
  ・血栓塞栓症の診断
  ・血栓塞栓症の治療
 8.EGFR系阻害剤の皮膚病変(山崎直也)
  ・従来の抗がん剤治療から分子標的治療薬の時代へ
  ・EGFR系阻害剤によって起こる皮膚障害に対する考え方
  ・EGFRの発現と皮膚
  ・皮膚障害の種類
  ・代表的な皮膚障害と症状マネジメント
  ・なにより原疾患であるがんの治療を成功させるために
 9.イリノテカンによる有害事象対策― FOLFIRI療法の有害事象を中心に(宇良 敬)
  ・FOLFIRIのおもな毒性
  ・おもな毒性に対する対処法
 10.オキサリプラチンによる有害事象とその対策(河本和幸・伊藤 雅)
  ・末梢神経毒性
  ・血液毒性
  ・過敏症
  ・倉敷中央病院外科のFOLFOX療法の現状
サポート・医療環境
 11.チーム・アバスチンと癌短期化学療法研修(末永光邦)
  ・アバスチン(R)の承認
  ・アバスチン(R)の副作用
  ・チーム・アバスチンの形成
  ・チームにおける各職種の役割
  ・薬剤承認後の活動
  ・癌短期化学療法研修
 12.改訂 Team erbitax―抗EGFRモノクローナル抗体の導入準備(篠崎英司)
  ・cetuximabとは
  ・cetuximabの適応
  ・cetuximabの副作用
  ・cetuximabのバイオマーカー
  ・当院でのcetuximabの導入準備
 13.大腸癌化学療法の院内情報共有―アバスチン(R)導入にかかわる諸問題(土井俊彦)
  ・ベバシズマブ(bevacizmab:アバスチン)の開発
  ・アバスチンにおけるあらたな問題
  ・血栓症に伴うあらたな体制づくり
 14.大腸癌化学療法における緊急対応と手術―有害事象と外科的処置(植竹宏之・杉原健一)
  ・腫瘍関連出血
  ・消化管閉塞(イレウス)
  ・消化管穿孔
  ・血栓,塞栓症
  ・創傷治癒遅延
 15.大腸癌の外来化学療法(平井 聡・中島貴子)
  ・外来化学療法における設備・体制
  ・大腸癌における外来化学療法
 16.大腸癌の化学療法の実際と地域ネットワーク―癌化学療法短期研修の経験を通して(大迫政彦・田畑峯雄)
  ・当院の概要
  ・化学療法委員会の設立
  ・癌研有明病院での短期研修
  ・研修後の変化
  ・研修後指導
  ・地域ネットワーク
患者指導に役立つ最新情報
 17.アバスチン(R)の薬剤管理指導(川上和宜・濱 敏弘)
  ・アバスチンを含む大腸癌化学療法のレジメン監査と注意点
  ・アバスチンの取扱い
  ・アバスチンの服薬指導
  ・アバスチンによる治療でみられる重篤な副作用
 18.進行大腸癌におけるモノクローナル抗体―薬剤師が患者指導のために理解すべきこと(組橋由記)
  ・上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)
  ・大腸癌治療におけるEGF/EGFR
  ・Cetuximabの治療成績
 19.大腸癌治療の医療費と高額療養費制度,その手続き(三阪高春)
  ・国民医療費,がん医療費の現状
  ・高額療養費制度
  ・大腸癌化学療法の医療費
  ・患者への医療費説明の実際
 20.カペシタビンとその服薬指導の要点(白尾一定)
  ・有効性
  ・副作用
  ・服薬指導のポイント
新しい治療の展望
 21.大腸癌に対する新規分子標的治療薬―アバスチン(R),アービタックス(R)の使い方(水沼信之・青山 剛)
  ・アメリカでの標準治療
  ・Bevacizumab(Avastin(R))の併用療法
  ・Cetuximab(Erbitux(R))

 ・サイドメモ目次
  大腸癌予後因子
  一次線溶と二次線溶
  FDPとD-dimer
  ADCC,CDC
  イレウス管挿入