やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

別冊刊行にあたり
 福原俊一
 京都大学大学院医学研究科医療疫学
 臨床研究ときいたとき,何を思いうかべるだろう?
 ひとつは,“臨床検査研究”のイメージではないだろうか?検査値や画像所見と疾患の有無・疾患の重症度との関連性をみる研究は古くから多く行われてきた.新しいところでは,遺伝多型や新しいバイオマーカーとの関連性をみる研究となろう.
 もうひとつは薬剤の治験や臨床試験であろう.2〜3年前より厚生労働省,文部科学省,経済産業省などの政府機関が,治験の基盤整備や人材育成に数十億の資源配分をするようになった.さらに,これに関連してトランスレーショナル研究・創薬というキーワードのもと,主要な研究機関や高度先端医療施設で精力的な活動が行われている.これは臨床研究の産業化という視点ともいえよう.
 上記の2種の研究はともに重要であり,国をあげて推進する必要があるのはいうまでもない.しかし,「それだけでいいのであろうか?」という問いかけが,この書籍の刊行の大きな動機ともいえる.医学・医療のミッションを「最新の医学の成果を患者の手元に,早く,安全に,必要な場合のみに,安価に届ける」ことであるとすれば,このミッションを達成するには上記2種の臨床研究だけでは不十分なのは明らかである.そこで必要となるのが,より診療に直結した臨床研究ということになる(この点は第一項に著者自身が解説した).この研究領域は現在も正確に理解されておらず,重要性もほとんど認知されていない.
 本書では,治験やトランスレーショナル研究・創薬にもふれつつ,より多くの紙面をあえてこのタイプの臨床研究に配分した.診療現場からこのような臨床研究が発信される日がくることを期待したい.
 別冊刊行にあたり(福原俊一)
 1.臨床研究を担う車の両輪―本書の企画・編集にあたり(福原俊一)
  ・いま,なぜ臨床研究か?
  ・臨床研究とはなにか?―臨床研究を担う車の両輪
  ・臨床研究をめぐるわが国の動向と,推進のための戦略
  ・本書の方針
第1章 臨床研究推進のための公的研究枠組みづくり
 2.先端医薬の開発に必要な基盤整備と人材養成(川上浩司)
  ・先端医薬の研究開発の実情
  ・日本における医薬品・臨床試験の審査行政の実情
  ・アメリカにおける医薬品・臨床試験の審査行政
  ・先端医薬の開発にかかわる臨床研究推進のためのインフラ整備
  ・先端医薬の開発にかかわる人材養成と教育スキーム
 3.厚生労働省“戦略的アウトカム研究”について―日本初の国家が行う大規模臨床研究プロジェクトの研究インフラと人材(黒川 清・吉田裕明)
  ・戦略研究創設の社会的背景
  ・戦略研究の特徴
  ・戦略研究の研究インフラと人材
  ・研究インフラおよび人材に関する問題点
 4.厚生労働省の臨床研究基盤整備事業(佐藤大作・新木一弘)
  ・臨床研究の課題
  ・臨床研究を支える厚生労働省の事業
  ・臨床研究基盤整備推進研究事業
  ・新たな治験活性化5カ年計画
  ・そのほかの臨床研究推進支援
  ・今後の課題
第2章 エビデンスを生み出す臨床研究
 ・アウトカム研究
  5.日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査UCAS Japanの研究手法と意義―未破裂脳動脈瘤診療のためのエビデンスを生み出すために(森田明夫)
   ・研究背景
   ・研究目的
   ・研究対象・セッティング
   ・研究デザイン
   ・介入
   ・主要なアウトカム指標
   ・結果集約
   ・本研究の臨床的・社会的意義
   ・研究のインフラやマネジメントで苦労した点,工夫した点
   ・研究財源,研究組織など
  6.血液透析に関する国際アウトカム研究DOPPS─大規模観察疫学研究から学ぶこと(長谷川 毅・秋澤忠男)
   ・DOPPSとは
   ・DOPPSの研究成果
   ・DOPPSの臨床的・社会的意義とその限界
  7.Japan Diabetes Complications Study(JDCS)─日本人2型糖尿病患者の特徴と現状(曽根博仁・他)
   ・研究背景
   ・研究目的
   ・対象者・セッティング
   ・研究デザイン
   ・介入内容
   ・主要なアウトカム指標
   ・結果要約
   ・本研究の臨床的・社会的意義
   ・研究のインフラやマネジメントで苦労・工夫した点
  8.小病巣・高分化前立腺癌の治療方針に関する研究─すぐに切らなくてもよい前立腺癌を選別できるか?(筧 善行)
   ・研究の背景
   ・研究の目的
   ・研究対象,セッティング
   ・研究デザイン
   ・エンドポイント
   ・結果
   ・本研究の臨床的・社会的意義
   ・研究のインフラやマネジメントで苦労した点,工夫した点
   ・研究財源,研究組織
   ・介入研究(臨床試験)
  9.QOLをアウトカムにした癌領域の臨床試験(下妻晃二郎)
   ・臨床試験におけるQOL評価がEBMに貢献するための課題
   ・QOLをアウトカムとした乳癌領域の臨床試験の試み
  10.コーチング技術を応用した神経難病患者に対する心理社会的介入(出江紳一・鈴鴨よしみ)
   ・非薬物的介入としてのコーチング
   ・脊髄小脳変性症患者へのコーチング介入効果―ランダム化比較試験
  11.循環器研究の新しい潮流:CASE-J研究(上嶋健治・他)
   ・研究背景
   ・研究目的
   ・研究対象
   ・研究デザイン
   ・主要なアウトカム指標
   ・結果要約
   ・本研究の臨床的・社会的意義
   ・研究のインフラやマネジメントで苦労した点・工夫した点
   ・研究財源・研究組織
  12.内外のmegastudyの功罪(桑島 巌)
   ・EBMの功績
   ・EBM,その負の側面―商業主義による蹂躙
第3章 診療直結研究
 ・医療の質研究
  13.厚生労働省戦略的アウトカム研究J-DOIT2研究―かかりつけ医の糖尿病受診中断率の抑制に向けて(小林 正)
   ・日本における糖尿病対策と戦略研究
   ・J-DOIT2とは
   ・パイロットスタディ
   ・本研究の臨床的・社会的意義
   ・研究のインフラやマネジメントで苦労した点,工夫した点
  14.QIとは――エビデンス―診療ギャップをはかる研究(東 尚弘)
   ・構造・過程・結果
   ・診療の質指標(quality indicator)とは
   ・QIの作成研究
   ・QIとしての適切性とは
  15.エビデンス―診療ギャップを埋める研究―医療サービス研究:現場からの改善と社会施策の評価研究(東 尚弘)
   ・現場からの医療の質改善研究
   ・社会政策的な医療の質改善施策
   ・診断方法の評価研究
  16.日本脊椎脊髄病学会研究事業――“腰部脊柱管狭窄”診断サポートルール開発に関する研究(紺野慎一・他)
   ・研究背景
   ・研究目的
   ・研究対象,セッティング
   ・研究デザイン
   ・介入
   ・主要なアウトカム指標
   ・結果要約
   ・本研究の臨床的・社会的意義
   ・研究の工夫
   ・研究組織
第4章 決断分析研究
 17.診療に生かす決断分析研究(野口善令)
  ・決断分析とはなにか
  ・ケースシナリオ
  ・決断分析研究の診療への応用
  ・決断分析の弱点
第5章 インフラ整備および臨床研究者の人材育成事業
 ・インフラ整備
  18.厚生労働省の臨床研究基盤整備事業(事例)(伊藤澄信・矢崎義雄)
   ・EBM推進臨床研究を素材とした研究プロトコールブラッシュアップ研修
   ・医師主導治験によるデータマネジメント研修と機構職員を対象とした研究会
   ・臨床研究者の人材育成事業
  19.クリニカルバイオメディカル情報科学マスターコース(MCBS)―臨床研究を統括・指揮できる臨床医・研究支援人材養成プログラム(小林広幸)
   ・クリニカルバイオメディカル情報科学マスターコースの概要
   ・新しい人材が活躍できる,社会的な環境の変化
   ・クリニカルバイオメディカル情報科学マスターコースカリキュラムの特徴
   ・おもな科目
   ・おもな海外講師の紹介
   ・クリニカルバイオメディカル情報科学マスターコース設置における今後の課題と抱負
  20.臨床研究人材育成の目標と戦略―京都大学大学院医学研究科のMCRコースを事例として(福原俊一)
   ・臨床研究人材育成の目標
   ・必要とされる人材とは?
   ・目標達成のための方略―臨床系大学院の活用(“ポスト後期臨床研修プログラム”としての位置づけ)
   ・京都大学の新しい試み:臨床研究者養成コース(MCR)
   ・プログラム評価
  21.MCR修了者を対象としたアンケート調査をもとにした考察(松澤重行)
   ・対象および方法
   ・結果
   ・考察
 ・サイドメモ目次
  アウトカム研究,アウトカムとは?
  未破裂脳動脈瘤とは?
  どのような動脈瘤が破裂しやすいか?
  未破裂脳動脈瘤とQOL,および未破裂脳動脈瘤をもつことによるうつ症状
  DCCT(Diabetes Control and Complications Trial)
  UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)
  Kumamoto Study
  PROBE法(Prospective,Randomized,Open,Blinded-Endopoint design)
  間欠跛行