やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 飯利太朗
 東京大学大学院医学系研究科腎臓・内分泌内科
 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(Renin-Angiotensin-Aldosterone system:RAAS)は古典的なホルモン系として,血圧・電解質調節とその異常としての病態において重要である.また,アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の臨床的意義の確立とともに,臓器障害性の病態におけるRAAS,とくに組織RAASの重要性がクローズアップされてきた.最近,両面でのトピックスを契機にその最終ランナーであるアルドステロンに注目が集まっている.
 第1はRALES試験をはじめとするアルドステロン拮抗薬の併用が心不全患者の予後を改善させる報告である.アルドステロンブレイクスルーを背景とする一方,組織RAASの関与を示唆することも想定されている.類似の事象は,腎疾患,血管障害,メタボリックシンドロームなどでも示唆されつつある.第2は古典的内分泌疾患である原発性アルドステロン症が,高血圧患者の数%を占めるほどcommonであるという報告である.その予後が過去の報告のように良好ではないこともアルドステロンの臓器障害作用を支持すると考えられている.第3に特異性が高く副作用の少ないと期待される新しい抗アルドステロン薬の開発である.
 こうした進展の一方で,最近の研究の集積はアルドステロンに関する多くの課題が未整理であることを明示することとなった.シグナルの解析の結果は複雑化し,アルドステロンは単なる最終ランナーでなく,アンジオテンシン変換酵素の発現,Rhoキナーゼの活性化など,上流のアンジオテンシンIIシグナルともクロストークすることが示唆された.また,アルドステロン作用を議論する際,とくに非上皮細胞ではMR作用とアルドステロン作用がかならずしも一致しない可能性があり,またゲノム作用と非ゲノム作用,一次的作用と二次的作用が意識される必要がある.
 本別冊では古くて新しいアルドステロン研究の新しい課題とその問題点に焦点をあてて概説していただいた.Common diseaseと内分泌とがmergeする領域の発展が病態の解析・制御へと進むことを期待したい.
 はじめに(飯利太朗)
第1章 総論:アルドステロン作用と制御の新しい視点
 1.ミネラロコルチコイド受容体の機能と病態(岩ア泰正・橋本浩三)
  ・ミネラロコルチコイド受容体の発見と進化的位置づけ
  ・MR遺伝子・蛋白の構造と機能
  ・中枢神経系における MRの役割
  ・腎における MRの役割
  ・脈管組織における MRの役割
  ・非上皮細胞においてアルドステロン特異的な作用は存在するか
  ・おわりに
 2.アルドステロンと臓器障害シグナル(西山 成・人見浩史・河野雅和)
  ・アルドステロンによる臓器障害と酸化ストレス
  ・アルドステロンによる臓器障害とMAPキナーゼ
  ・アルドステロンによる臓器障害とその他の細胞内情報伝達系
  ・おわりに
 3.ミネラルコルチコイド受容体によるアルドステロン作用調節―コアクチベータ・コリプレッサーの重要性(柴田洋孝)
  ・アルドステロン作用の分子機構
  ・アルドステロン作用の組織特異的作用を規定するMRの転写共役因子
  ・MRのコアクチベータ
  ・MRのコリプレッサー
  ・各種病態におけるMR転写活性化機構
 4.アルドステロンカスケードと遺伝子多型(宗 友厚)
  ・アルドステロン合成酵素 CYP11B2
  ・プレMCレセプター機構:11β水酸化ステロイド脱水素酵素(11βHSD)タイプ2
  ・MCレセプター
  ・ポストMCレセプター機構
  ・おわりに
 5.アルドステロンの非ゲノム作用(一色政志)
  ・アルドステロンのゲノム作用と非ゲノム作用
  ・血管平滑筋収縮作用
  ・内皮依存性血管拡張作用
  ・アルドステロンの非ゲノム作用とredox状態
  ・スピロノラクトン代謝
  ・他のステロイドホルモンの非ゲノム作用
  ・アルドステロン作用とマイクロドメイン
  ・アルドステロンの非ゲノム作用の生理的意義
  ・おわりに
第2章 各論:アルドステロンと病態形成
 1.心疾患とアルドステロン―Overviewと問題点(武田憲彦・永井良三)
  ・アルドステロンの心血管系への直接作用
  ・アルドステロンブレイクスルー現象と抗アルドステロン薬の心疾患への効果
  ・今後の問題点
  ・おわりに
 2.心筋細胞とアルドステロン―心肥大の機序を追うアルドステロン研究の展開(吉村道博)
  ・副腎および副腎外アルドステロン合成
  ・各組織におけるアルドステロン合成制御の違いの可能性
  ・アルドステロンの病態生理学的作用
  ・アルドステロンの心臓への作用―心保護から心肥大へ,ナトリウムの多大なる関与
  ・アルドステロン以外のステロイドの心臓での合成
  ・おわりに
 3.心筋イオンチャネルとアルドステロン(安井健二)
  ・L型Ca2+チャネルへの作用
  ・T型Ca2+チャネルへの作用
  ・K+チャネルへの作用
  ・Na+チャネルへの作用
  ・Na+/K+ATPase(Na+/K+ポンプ)・Na+/K+Cl-共輸送体・Na+/H+交換機構・Cl-/HCO3-交換機構などに対する作用
  ・ミネラロコルチコイド受容体と不整脈
  ・おわりに
 4.血管内皮障害とアルドステロン(吉本貴宣・平田結喜緒)
  ・内皮機能と血管障害との関連
  ・アルドステロンによる内皮障害
  ・アルドステロンによる内皮機能障害の細胞内機序
  ・おわりに
 5.血管平滑筋障害とアルドステロン(武田仁勇)
  ・血管のリモデリング
  ・血管障害
  ・動脈硬化
  ・アルドステロンの血管内皮への作用
  ・Non-genomic作用
  ・血管性アルドステロン
 6.メタボリックシンドロームとアルドステロン(柴田洋孝・伊藤 裕)
  ・メタボリックシンドローム
  ・肥満に伴う高血圧のメカニズム
  ・メタボリックシンドロームにおけるアルドステロンの関与
  ・メタボリックシンドロームにおける脂肪細胞の役割
 7.脂肪細胞とアルドステロン(佐藤敦久)
  ・必然的に注目されてきたアルドステロンと脂肪細胞との関連
  ・肥満した脂肪細胞と慢性炎症―アルドステロンは関与するのか?
  ・脂肪細胞のミネラルコルチコイド受容体(MR)を介してアルドステロンは何をしているのか?
  ・アディポサイトカインとアルドステロンとの関連
  ・おわりに
 8.腎障害とアルドステロン―Overviewと問題点(北村健一郎・冨田公夫)
  ・腎における古典的作用
  ・腎における非古典的作用
  ・腎血管リモデリングにおける作用
  ・動物モデルにおけるアルドステロンと腎障害
  ・ヒトにおけるアルドステロンと腎障害
  ・おわりに
 9.アルドステロンと足細胞障害(長瀬美樹・藤田敏郎)
  ・蛋白尿と足細胞障害
  ・アルドステロンと蛋白尿
  ・外因性アルドステロン投与モデルにおける蛋白尿と足細胞障害
  ・アルドステロンによる足細胞障害機序―酸化ストレスの関与
  ・アルドステロンの足細胞に対する直接作用
  ・メタボリックシンドロームに伴う蛋白尿,足細胞障害とアルドステロン
  ・SHR肥満ラットにおけるアルドステロン亢進の機序
  ・低アルドステロン血症モデルにおける抗アルドステロン薬の足細胞保護効果
  ・食塩負荷SHR肥満ラットにおけるアルドステロン非依存性の MR活性化と足細胞障害の増悪
  ・おわりに
 10.原発性アルドステロン症に関する最近のoverview―見逃さないためのスクリーニング法と確定診断法(西川哲男)
  ・頻度および病態
  ・原発性アルドステロン症のスクリーニング法
  ・日本内分泌学会企画部会“アルドステロン症検討委員会”からの提言
  ・確定診断法
  ・ACTH負荷副腎静脈採血法(ACTH-loaded AVS)による局在診断
  ・おわりに
 11.副腎静脈サンプリング(佐藤文俊・伊藤貞嘉)
  ・APAとIHAの頻度
  ・画像診断とAVSによるPAの局在診断能の差
  ・AVSの実際
  ・おわりに
 12.原発性アルドステロン症の病理(笹野公伸)
  ・非腫瘍性原発性アルドステロン症
  ・腫瘍性原発性アルドステロン症
 13.高血圧治療と抗アルドステロン薬(東 幸仁)
  ・ヒトにおける血中アルドステロン動態
  ・アルドステロンと血管構造変化
  ・アルドステロンと血管機能異常
  ・アルドステロンとRho kinase
  ・抗アルドステロン薬
  ・おわりに
 14.アルドステロンブレイクスルー(田辺晶代)
  ・アルドステロンの臓器障害作用
  ・アルドステロンブレイクスルーの概念
  ・アルドステロンブレイクスルーの機序
  ・アルドステロンブレイクスルーの病態生理的意義
  ・アルドステロンエスケープとアルドステロンブレイクスルー
  ・おわりに
第3章 展望
 アルドステロンを標的とする治療戦略のエビデンス(田村尚久・中尾一和)
  ・心疾患に対するMR拮抗薬のエビデンス
  ・血管疾患に対するMR標的治療
  ・腎疾患
  ・脳血管疾患とMR拮抗薬
  ・結語
第4章 AYUMI Glossary of Terms
 1.アルドステロン研究の理解に必要な基礎知識〔基礎編〕(西山 成・人見浩史・清元秀泰)
  ・アルドステロンの合成とCYP11B2
  ・副腎以外のアルドステロン産生とaldosterone releasing factor
  ・11β-hydroxysteroid dehydrogenase(11β-HSD)2の機能・分布,ならびにその遺伝子異常と疾患
  ・アルドステロンによるゲノム作用と非ゲノム作用
  ・アルドステロンとミネラロコルチコイド受容体によるナトリウム再吸収(古典的作用)
  ・ミネラロコルチコイド受容体の体内分布と新しい機能
  ・アルドステロンによる血管反応と高血圧
  ・アルドステロンの交感神経系への作用
  ・アルドステロンによる臓器障害と食塩
  ・アルドステロンによる臓器障害と炎症
  ・アルドステロンと他の生理活性物質との関連
  ・エプレレノン
 2.アルドステロン研究の理解に必要な基礎知識〔臨床編〕(槙田紀子)
  ・アルドステロンブレイクスルー
  ・アルドステロンと臓器障害(end-organ damage)
  ・RALES試験
  ・EPHESUS試験
  ・MR阻害薬と心筋線維化・左室リモデリング抑制効果
  ・MR阻害薬と抗蛋白尿効果
  ・遺伝子多型(ポリモルフィズム)
  ・原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)
  ・原発性アルドステロン症の腫瘍性病変と非腫瘍性病変
  ・メタボリックシンドロームとアルドステロン

 ・サイドメモ目次
  原発性アルドステロン症と鑑別すべき疾患
  ステロイドホルモン合成酵素の免疫組織化学