序文
動脈硬化は多くの危険因子を背景に発症進展するが,とくに高脂血症は中心的な役割を演じている.本特集では,高脂血症と動脈硬化に関する最近の進歩を中心に紹介するものとした.執筆者はそれぞれの項のわが国における第一人者にお願いしてあり,興味あるポイントを的確に指摘していただいている.
高脂血症治療ガイドラインに関して,昨年5月米国のThe national cholesterol education program,adult treatment panel III(NCEP-ATPIII)が発表され,6月にはわが国でも新しいガイドラインが提案された.最終的には新ガイドラインが設定されていないが,基本的な考え方を紹介したい.一般的に誰にでも適応できるガイドラインから個々の患者に適応できるテーラーメイド医療をめざすガイドラインが必要となっている.ガイドライン設定に必要なわが国独自のエビデンスは少ない.わが国で実施されたJapan lipid intervention trial(J-LIT),Pravastatin anti-atherosclerosis trail in the elderly(PATE),Kyusyu lipid intervention(KLIS)などについて解説してもらう.
脂質代謝の成因に関する進歩はめざましい.古典的な酵素,転送蛋白,アポ蛋白,レセプターの最近の研究成果と脂質代謝異常の関係を明らかにしてもらう.最近発見されたATP-binding cassette(ABCA1)遺伝子異常によってコレステロール(CHOL)排出制御蛋白(cholesterol-efflux regulatory protein:CERP)の異常が起こり,ゴルジから細胞膜へのCHOL輸送が障害され細胞内にCHOL-エステルが蓄積し,タンジール病が発症することが明らかとなった.ABC5およびABC8蛋白とその欠損症であるシトステロール血症が紹介される.細胞内脂質の代謝が核内受容体(PPARαとPPARγ)などを中心に明らかになってきた.異常リポ蛋白や特殊な関連蛋白もつぎつぎと発見され,動脈硬化との関連性が検討されており,今後の臨床応用が期待されている.
高脂血症の治療の進歩もめざましい.とくにスタチン系薬剤の臨床効果は特筆すべきである.スタチンによる大規模臨床試験成績と多面的効果が明らかにされている.スタチンによる高CHOL血症の一次予防(West of Scotland coronary prevention study:WOSCOPS)と二次予防(Scandinavian simvastatin survival study:4S),血清CHOL値がそれほど高くない患者の一次予防(Coronary atherosclerosis prevention study:CAPS)と二次予防(Cholesterol and recurrent events trial:CARE,The long term intervention with pravastatin in ischemic disease study:LIPID)が報告されており,いずれも冠動脈疾患の発症が約30%低下している.スタチンが第一選択薬であるが,補助的な薬物としてフィブレート系薬剤,ニコチン酸系薬剤,エストロゲン製剤も必要となり,その効果が紹介される.家族性高CHOL血症(familial hypercholesterolemia:FH)などの重症例ではLDL-アフェレーシスも適応となる.今後期待される治療としてはACAT阻害剤,CETP阻害剤などがあるが,臨床応用には至っていない.動脈硬化の遺伝子治療やFHに対するLDLレセプターの遺伝子治療などはもっとも新しいトピックといえる.
本特集で明らかにされた最新の基礎的・臨床的進歩に基づいて,脂質代謝と動脈硬化に関する研究と臨床の全容を理解していただければ幸いである.
金沢大学大学院医学系研究科循環医科学専攻(内科) 馬渕 宏
動脈硬化は多くの危険因子を背景に発症進展するが,とくに高脂血症は中心的な役割を演じている.本特集では,高脂血症と動脈硬化に関する最近の進歩を中心に紹介するものとした.執筆者はそれぞれの項のわが国における第一人者にお願いしてあり,興味あるポイントを的確に指摘していただいている.
高脂血症治療ガイドラインに関して,昨年5月米国のThe national cholesterol education program,adult treatment panel III(NCEP-ATPIII)が発表され,6月にはわが国でも新しいガイドラインが提案された.最終的には新ガイドラインが設定されていないが,基本的な考え方を紹介したい.一般的に誰にでも適応できるガイドラインから個々の患者に適応できるテーラーメイド医療をめざすガイドラインが必要となっている.ガイドライン設定に必要なわが国独自のエビデンスは少ない.わが国で実施されたJapan lipid intervention trial(J-LIT),Pravastatin anti-atherosclerosis trail in the elderly(PATE),Kyusyu lipid intervention(KLIS)などについて解説してもらう.
脂質代謝の成因に関する進歩はめざましい.古典的な酵素,転送蛋白,アポ蛋白,レセプターの最近の研究成果と脂質代謝異常の関係を明らかにしてもらう.最近発見されたATP-binding cassette(ABCA1)遺伝子異常によってコレステロール(CHOL)排出制御蛋白(cholesterol-efflux regulatory protein:CERP)の異常が起こり,ゴルジから細胞膜へのCHOL輸送が障害され細胞内にCHOL-エステルが蓄積し,タンジール病が発症することが明らかとなった.ABC5およびABC8蛋白とその欠損症であるシトステロール血症が紹介される.細胞内脂質の代謝が核内受容体(PPARαとPPARγ)などを中心に明らかになってきた.異常リポ蛋白や特殊な関連蛋白もつぎつぎと発見され,動脈硬化との関連性が検討されており,今後の臨床応用が期待されている.
高脂血症の治療の進歩もめざましい.とくにスタチン系薬剤の臨床効果は特筆すべきである.スタチンによる大規模臨床試験成績と多面的効果が明らかにされている.スタチンによる高CHOL血症の一次予防(West of Scotland coronary prevention study:WOSCOPS)と二次予防(Scandinavian simvastatin survival study:4S),血清CHOL値がそれほど高くない患者の一次予防(Coronary atherosclerosis prevention study:CAPS)と二次予防(Cholesterol and recurrent events trial:CARE,The long term intervention with pravastatin in ischemic disease study:LIPID)が報告されており,いずれも冠動脈疾患の発症が約30%低下している.スタチンが第一選択薬であるが,補助的な薬物としてフィブレート系薬剤,ニコチン酸系薬剤,エストロゲン製剤も必要となり,その効果が紹介される.家族性高CHOL血症(familial hypercholesterolemia:FH)などの重症例ではLDL-アフェレーシスも適応となる.今後期待される治療としてはACAT阻害剤,CETP阻害剤などがあるが,臨床応用には至っていない.動脈硬化の遺伝子治療やFHに対するLDLレセプターの遺伝子治療などはもっとも新しいトピックといえる.
本特集で明らかにされた最新の基礎的・臨床的進歩に基づいて,脂質代謝と動脈硬化に関する研究と臨床の全容を理解していただければ幸いである.
金沢大学大学院医学系研究科循環医科学専攻(内科) 馬渕 宏
新治療ガイドライン 馬渕 宏
疫学
1.J-LIT──シンバスタチンによる大規模臨床疫学調査 板倉弘重
2.Pravastatin anti-atherosclerosis trial in the elderly(PATE)──高齢者におけるプラバスタチン低用量と常用量の心血管イベント抑制効果の比較 井藤英喜
3.Kyushu lipid intervention study(KLIS) 佐々木 淳
4.第5次循環器疾患基礎調査(2000年)成績からみた高脂血症の動向──上昇傾向が止まりつつある日本人成人の血清総コレステロール 吉池信男・田中平三
病因と病態
5.高脂血症と粥状動脈硬化 北 徹
6.LPLとHTGL 池田康行・高木敦子
7.HTGL多型と冠疾患 村上 透
8.LPL遺伝子多型と冠動脈心疾患 後藤田貴也
9.CETP遺伝子多型と冠疾患──議論の争点 稲津明広
10.コレステロール逆転送と脂質転送蛋白──CETPとPLTP 酒井尚彦
11.FH 東方利徳・馬渕 宏
12.家族性複合型高脂血症(FCHL)の概念および成因について 荒井秀典・北 徹
13.アポリポ蛋白E異常と臓器障害 岡島史宜・及川眞一
14.タンジール病と低HDL血症──コレステロール引き抜き障害モデル疾患と動脈硬化発症 平野賢一
15.ABCA1 横山信治
16.脳腱黄色腫症研究──最近の進歩 久保田俊一郎・脊山洋右
17.胆汁酸の生成,代謝,分泌,再吸収と核内受容体LXR,PXR,FXR 東郷眞子・他
18.シトステロール血症とABCG蛋白 野路善博
19.Apo A-I異常 松永 彰
20.LCATの作用とFERHDLの臨床的意義 張 波・朔 啓二郎
21.ホモシステイン 森田啓行
22.PPARα 野原 淳・馬渕 宏
23.脂肪細胞の分化・肥大化とインスリン抵抗性──インスリン感受性調節におけるPPARγとアディポネクチンの役割 内田-北嶋晶子・門脇 孝
24.SREBP-1 島野 仁
25.SREBP-2──SREBPパスウェイによるステロールセンシング機構 酒井寿郎
26.脳脊髄液アポ蛋白の測定とその臨床的意義 清島 満
27.酸化LDL受容体LOX-1とSR-PSOX 久米典昭
28.スカベンジャー受容体クラスBタイプI(SR-BI)とHDL代謝 新井洋由・西本貴子
29.生体内酸化LDLの動態 板部洋之
30.CD36の生理機能と病態──酸化LDL受容体および長鎖脂肪酸トランスポーターとして 山下静也
31.小粒子高比重LDL──注目される新しい動脈硬化の危険因子 平野 勉・他
32.冠動脈疾患におけるRLP測定の意義──RLPに関する研究の最新知見 田中 明
33.Preβ1-HDLの代謝と血中濃度の臨床的意義 三井田 孝
34.血清パラオキソナーゼ1の役割と動脈硬化 末廣 正
35.アレルギー・炎症・動脈硬化性疾患の病態における血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼの役割 山田芳司
36.ヘムオキシゲナーゼの抗動脈硬化作用──新しい内因的抗動脈硬化分子としてのヘムオキシゲナーゼ 石川和信・丸山幸夫
37.IIA分泌型Phospholipase A2と冠動脈疾患──IIA分泌型Phospholipase A2は冠動脈疾患の病態に関与する 久木山清貴
治療
38.スタチンを用いた大規模臨床試験──日常臨床にいかに活かすか 中谷矩章
39.スタチンの多面的薬理作用 吉田雅幸
40.フィブラート系薬物の大規模臨床試験 多田紀夫
41.HRT 卜部 諭・本庄英雄
42.ニコチン酸 遠山潤一郎・池脇克則
43.LDL-アフェレーシス──LDL-アフェレーシス施行の実際とその効果 日生下亜紀・斯波真理子
44.ACATとACAT阻害剤 宮崎 章 ・堀内正公
45.CETP阻害薬と動脈硬化 岡本浩史
46.動脈硬化の遺伝子治療──難治性疾患の克服をめざして 井口壮太・森下竜一
47.FHの遺伝子治療 川尻剛照
48.特定保健用食品 近藤和雄・桜井智香
49.PTCA後再狭窄予防はどこまで可能か?──再狭窄予防における薬物療法の現状 相原恒一郎・代田浩之
50.リボザイムによる心血管病の治療 福田 昇
サイドメモ
LDL-C/HDL-C比
NNT(number needed to treat)
LPLとHTGLの発見とその後の進展
HL遺伝子とその多型
SNPを用いた遺伝解析
性ホルモンと脂質転送蛋白
コレステリルエステル転送蛋白(CETP)欠損症
Small dense LDL
アポE4と睡眠時呼吸障害(SDB)
HDL粒子とHDL-コレステロール
ステロール27位水酸化酵素(CYP27)
サイトカインによるCYP7A1調節
ABC蛋白
遺伝素因-環境要因相互作用
PPARγ
栄養代謝の転写調節機構と生活習慣病
ステロールセンシングドメイン
中枢神経を構成する細胞
相互作用蛋白質の探索──Two-hybrid法それともアフィニティーカラム法?
スカベンジャー受容体
酸化LDLとスカベンジャー受容体
食後高脂血症
インスリン抵抗性
HDLの電気泳動
LDL表面のリン脂質の酸化
Plasma PAF-AH遺伝子導入による動脈硬化進展の抑制
ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の幅広い誘導性と疾患へのかかわり
炎症抑制による動脈硬化進展防止の試み
わが国における大規模試験の現況
高感度CRP
PPAR
超悪玉コレステロール(small dense LDL)と超善玉コレステロール(LpA-I)
哺乳類の進化と肝臓ACAT
HGFと血管新生
非ウイルスベクター
再狭窄の定義
マイクロアレイ法
疫学
1.J-LIT──シンバスタチンによる大規模臨床疫学調査 板倉弘重
2.Pravastatin anti-atherosclerosis trial in the elderly(PATE)──高齢者におけるプラバスタチン低用量と常用量の心血管イベント抑制効果の比較 井藤英喜
3.Kyushu lipid intervention study(KLIS) 佐々木 淳
4.第5次循環器疾患基礎調査(2000年)成績からみた高脂血症の動向──上昇傾向が止まりつつある日本人成人の血清総コレステロール 吉池信男・田中平三
病因と病態
5.高脂血症と粥状動脈硬化 北 徹
6.LPLとHTGL 池田康行・高木敦子
7.HTGL多型と冠疾患 村上 透
8.LPL遺伝子多型と冠動脈心疾患 後藤田貴也
9.CETP遺伝子多型と冠疾患──議論の争点 稲津明広
10.コレステロール逆転送と脂質転送蛋白──CETPとPLTP 酒井尚彦
11.FH 東方利徳・馬渕 宏
12.家族性複合型高脂血症(FCHL)の概念および成因について 荒井秀典・北 徹
13.アポリポ蛋白E異常と臓器障害 岡島史宜・及川眞一
14.タンジール病と低HDL血症──コレステロール引き抜き障害モデル疾患と動脈硬化発症 平野賢一
15.ABCA1 横山信治
16.脳腱黄色腫症研究──最近の進歩 久保田俊一郎・脊山洋右
17.胆汁酸の生成,代謝,分泌,再吸収と核内受容体LXR,PXR,FXR 東郷眞子・他
18.シトステロール血症とABCG蛋白 野路善博
19.Apo A-I異常 松永 彰
20.LCATの作用とFERHDLの臨床的意義 張 波・朔 啓二郎
21.ホモシステイン 森田啓行
22.PPARα 野原 淳・馬渕 宏
23.脂肪細胞の分化・肥大化とインスリン抵抗性──インスリン感受性調節におけるPPARγとアディポネクチンの役割 内田-北嶋晶子・門脇 孝
24.SREBP-1 島野 仁
25.SREBP-2──SREBPパスウェイによるステロールセンシング機構 酒井寿郎
26.脳脊髄液アポ蛋白の測定とその臨床的意義 清島 満
27.酸化LDL受容体LOX-1とSR-PSOX 久米典昭
28.スカベンジャー受容体クラスBタイプI(SR-BI)とHDL代謝 新井洋由・西本貴子
29.生体内酸化LDLの動態 板部洋之
30.CD36の生理機能と病態──酸化LDL受容体および長鎖脂肪酸トランスポーターとして 山下静也
31.小粒子高比重LDL──注目される新しい動脈硬化の危険因子 平野 勉・他
32.冠動脈疾患におけるRLP測定の意義──RLPに関する研究の最新知見 田中 明
33.Preβ1-HDLの代謝と血中濃度の臨床的意義 三井田 孝
34.血清パラオキソナーゼ1の役割と動脈硬化 末廣 正
35.アレルギー・炎症・動脈硬化性疾患の病態における血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼの役割 山田芳司
36.ヘムオキシゲナーゼの抗動脈硬化作用──新しい内因的抗動脈硬化分子としてのヘムオキシゲナーゼ 石川和信・丸山幸夫
37.IIA分泌型Phospholipase A2と冠動脈疾患──IIA分泌型Phospholipase A2は冠動脈疾患の病態に関与する 久木山清貴
治療
38.スタチンを用いた大規模臨床試験──日常臨床にいかに活かすか 中谷矩章
39.スタチンの多面的薬理作用 吉田雅幸
40.フィブラート系薬物の大規模臨床試験 多田紀夫
41.HRT 卜部 諭・本庄英雄
42.ニコチン酸 遠山潤一郎・池脇克則
43.LDL-アフェレーシス──LDL-アフェレーシス施行の実際とその効果 日生下亜紀・斯波真理子
44.ACATとACAT阻害剤 宮崎 章 ・堀内正公
45.CETP阻害薬と動脈硬化 岡本浩史
46.動脈硬化の遺伝子治療──難治性疾患の克服をめざして 井口壮太・森下竜一
47.FHの遺伝子治療 川尻剛照
48.特定保健用食品 近藤和雄・桜井智香
49.PTCA後再狭窄予防はどこまで可能か?──再狭窄予防における薬物療法の現状 相原恒一郎・代田浩之
50.リボザイムによる心血管病の治療 福田 昇
サイドメモ
LDL-C/HDL-C比
NNT(number needed to treat)
LPLとHTGLの発見とその後の進展
HL遺伝子とその多型
SNPを用いた遺伝解析
性ホルモンと脂質転送蛋白
コレステリルエステル転送蛋白(CETP)欠損症
Small dense LDL
アポE4と睡眠時呼吸障害(SDB)
HDL粒子とHDL-コレステロール
ステロール27位水酸化酵素(CYP27)
サイトカインによるCYP7A1調節
ABC蛋白
遺伝素因-環境要因相互作用
PPARγ
栄養代謝の転写調節機構と生活習慣病
ステロールセンシングドメイン
中枢神経を構成する細胞
相互作用蛋白質の探索──Two-hybrid法それともアフィニティーカラム法?
スカベンジャー受容体
酸化LDLとスカベンジャー受容体
食後高脂血症
インスリン抵抗性
HDLの電気泳動
LDL表面のリン脂質の酸化
Plasma PAF-AH遺伝子導入による動脈硬化進展の抑制
ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の幅広い誘導性と疾患へのかかわり
炎症抑制による動脈硬化進展防止の試み
わが国における大規模試験の現況
高感度CRP
PPAR
超悪玉コレステロール(small dense LDL)と超善玉コレステロール(LpA-I)
哺乳類の進化と肝臓ACAT
HGFと血管新生
非ウイルスベクター
再狭窄の定義
マイクロアレイ法