やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 研究とは未知なことを既知にすることです.つまり,「わからないこと」を「わかること」にするのが研究です.これだけで立派な研究になります.
 「わからないこと」は,実は自分だけがわからないだけで,すでに世の中の誰かが明らかにしているかもしれません.そのため,まずは広い範囲で研究論文を検索しなくてはなりません.いくつかの研究論文が見つかり,疑問が解決するときもありますが,また新たな疑問が浮かび上がり,その研究論文が存在しないことが明らかになれば研究テーマは決まります.簡単に書きましたが,これが第一の関門です.
 苦労してテーマを決めた後,今度は研究を具体的にどうやって進めていくか…と悩みます.基本的には世界に2つと同じ研究は存在しないはずなので,見本となる全く同一の研究論文は存在しません.どうやって始めたらよいかという悩みが研究を始める難しさです.これが第二の関門です.
 苦労して研究計画を具体化していくと,測定機器の操作,測定技術はもとより,研究デザインの知識,統計解析の手順など,ますます進行を阻害する要因が舞い込んできて,混乱してしまいます.これが第三の関門です.運よくクリアしても,思いどおりに対象者が集まらない,イメージした測定どおりにいかない,という第四の関門があり,さらに論文を書く段階で第五の関門が訪れます.研究というものは敷居が高く,一筋縄ではいかないと感じることでしょう.
 でも,気にしないでください.研究が終わるころには,無理だったはずの5つの関門を何とか突破しています.できるわけがないことができるようになるのです.この成長こそ,お金では買えない一生の財産になるでしょう.そのうえ「未知を既知に」できるのです.少し苦労するだけで,こうした過程を経験できるのは,このうえない喜びです.
 「医療」と「研究をする能力・読む能力」は,ほど遠いイメージがあるかもしれませんが,どちらも専門家にとって必要不可欠な能力です.なぜ必要不可欠なのかは,勉強してみないとわからないのが正直なところですが,その機会を活かすも殺すも自分次第です.
 本書を初めて読むとき,見たことも聞いたこともない用語が多くて,難しいイメージをもつかもしれません.とても勉強したいとは思えないという方もいるかもしれません.けれども,なぜ「研究法」の知識が必要不可欠なのかを知るためにも,まずは騙されたと思って勉強してみてください.研究を見る目が変わるはずです.
 2020年11月
 対馬栄輝
1 研究とは? なぜ研究が必要なのだろう
 (対馬栄輝)
 研究とは何か
 なぜ研究が必要か
 研究を始めるための準備
  1.臨床での疑問
  2.PICOの例(1)
  3.PICOの例(2):介入の存在しない例
  4.PICOの例(3):介入が存在せず,群分けもされない例
  5.研究の実現可能性を考える
 文献の検索:測定方法のヒントを得るために
 研究の具体化
  1.PICOの具体化
  2.操作的定義
 まずは実践から始める
 研究計画の立案
2 研究デザインの基礎知識
 (対馬栄輝)
 研究デザインの基礎知識
 横断研究・縦断研究(後ろ向き研究・前向き研究)
 観察研究
  1.横断研究
  2.ケースコントロール研究(縦断研究)
  3.コホート研究(縦断研究)
 介入(実験的)研究
  1.ランダム化比較試験
  2.ランダム割り付けの方法
  3.意識したデータの操作を防止する:コンシールメントとブラインディング
  4.データが揃っているか? いないか? で決める(PPS,ITT,FAS)
3 文献を探す方法
 (阿部裕一)
 何のために文献検索をするのか
 文献検索の実践的な手順
 データベースの選択
  1.医中誌Web(https://search.jamas.or.jp)
  2.PubMed(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/)
  3.Google Scholar(https://scholar.google.co.jp)
  4.J-Stage(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja)
  5.CiNii(https://ci.nii.ac.jp)
  6.メディカルオンライン(http://www.medicalonline.jp)
  7.PEDro(https://www.pedro.org.au)
  8.各データベースの特徴
 文献検索の例(複数データベースを同じキーワードで検索した場合の抽出候補数)
 キーワードの選択
 文献検索の例(複数データベースを複数キーワードで検索した場合の抽出候補数)
 論文の選択
 目的に応じた検索条件の着眼点
 検索時間節約の各種ノウハウ
  1.汎用検索エンジンからの文献検索
  2.人に聞く
  3.ガイドライン,システマティックレビューの検索
4 研究計画の立て方とバイアスの考慮
 (対馬栄輝)
 研究テーマの見つけ方
 研究計画書の作成
 データをとるときの注意─バイアスとは?
 3つのバイアスと対策
  1.選択バイアス
  2.情報バイアス
  3.交絡バイアス(交絡)
 さまざまな研究報告の評価指標
 研究計画書を書いてみよう
5 倫理申請の要点
 (下井俊典)
 倫理審査とは何か
 研究倫理審査はどういうときに受けなければならないのか
 研究倫理審査を受ける前に
  1.研究倫理審査における研究の区分
  2.研究者の責務
 具体的な研究倫理審査の手順と必要書類
  1.研究倫理審査の手順
  2.研究倫理審査に必要な書類
  3.研究計画書
 研究対象者に対する配慮
  1.インフォームド・コンセント
  2.個人情報の保護
 利益相反
 動物を対象とした研究の場合
6 対象を決める・データをとる
 (石田水里)
 対象者を集める
 対象者数の決定
  1.効果量とは
  2.対象者数の求め方(G*powerの使用例)
  3.つねに対象者数を決められるとは限らない
 データのとり方
  1.データの測定尺度
  2.測定項目の選定
  3.概念の操作的定義
  4.データの測定
  5.測定の信頼性の確認
 パイロットスタディ
7 データをとるための実践と統計ソフトの準備
 (日高正巳)
 収集したデータの整理
 データファイル作成時の留意点
 統計ソフトRコマンダーの準備
 ExcelファイルからRコマンダーへのデータ読み込み手順
 数値変数から因子変数への変換
 評価・測定の信頼性の検討
 改変Rコマンダーによる級内相関係数の求め方
 検者内信頼性ICC(1,1)の解釈
 検者間信頼性ICC(2,1)の解釈
8 統計解析の準備と簡単な検定
 (國澤洋介)
 記述統計量の求め方
  1.なぜ記述統計量を記載するのか?
  2.データの尺度を確認する
  3.特性値を適切に使い分ける
 グラフの種類と見方
  1.いくつかのグラフを描く必要性
  2.グラフ観察の要点
 検定の選択方法と標本
  1.対応がある標本と対応のない標本との違い
  2.検定の選び方
9 統計解析の実際:2変量解析
 (日高正巳)
 統計解析と統計的検定
 平均・中央値の差の検定
 Rコマンダーによる差の検定の準備
 2標本の(対応がない)差の検定
  1.シャピロ・ウィルクの正規性の検定(データが正規分布に従うかの確認)
  2.ルビーン検定(等分散性の確認)
  3.2標本t検定(2群の平均の差を調べる)
  4.2標本t検定の結果の読み方
 1標本の(対応がある)差の検定
  1.シャピロ・ウィルクの正規性の検定
  2.対応のあるt検定
  3.対応のあるt検定の結果の読み方
 Rコマンダーによる相関の検定の実際
  1.シャピロ・ウィルクの正規性の検定(データが正規分布に従うかの確認)
  2.相関の検定(2つの変数の関係をみる)
  3.相関の検定の結果の読み方
 相関係数の解釈時の留意点
 Rコマンダーによるχ2独立性の検定(分割表の検定)の実際
  1.生データによるχ2検定
  2.分割表データによるχ2検定
10 統計解析の実際:分散分析
 (石田水里)
 分散分析とは
  1.分散分析とは何か
  2.分散分析のしくみ
 分散分析のさまざまな手法
  1.一元配置分散分析とは
  2.反復測定分散分析とは
  3.二元配置分散分析とは
  4.分散分析の特徴と多重比較法について
 実際の解析例
  1.一元配置分散分析の解析例
  2.反復測定分散分析の適用例
  3.二元配置分散分析の適用例
11 統計解析の実際:多変量解析
 (対馬栄輝)
 多変量解析とは何か
 重回帰分析とは
  1.どのようなときに使うか
  2.重回帰分析の例
 多重ロジスティック回帰分析とは
  1.どのようなときに使うか
  2.多重ロジスティック回帰分析の例
 オッズ比と関連する臨床判断指標
  1.オッズ比の計算理論
  2.関連した臨床判断指標
 多変量解析を使用するときの注意点
12 学会発表に向けて
 (田畑 稔)
 抄録の書き方
  1.抄録とは
  2.抄録の構造化
  3.構造化抄録の作成において留意すること
  4.「症例・経験・その他報告」における構造化抄録の記載方法
  5.抄録作成時に気をつけること
 演題(抄録)登録時に気をつけること
  1.演題募集要項の確認
  2.症例報告における個人情報保護
  3.抄録に関する著作権など
  4.応募方法の確認
  5.演題登録期間(期間厳守)の確認について
  6.応募演題に関する倫理上の注意
  7.登録演題(抄録)の査読
  8.登録演題採否の決定
 共同演者の決定,順番
  1.共同演者の順番
  2.演者資格の基準
  3.演者在順の問題点
 口述発表のスライド作成の要点
  1.要点を絞ってコンパクトに
  2.スライドのデザインルール
 口述発表のスライド構成(項目確認)
  1.「表紙(タイトル)」のスライド
  2.「倫理的配慮と利益相反」のスライド
  3.「序文」のスライド
  4.「方法」のスライド
  5.「結果」のスライド
  6.「考察」のスライド
  7.「結論」のスライド
  8.症例報告のスライド構成
 口述発表のコツ
 ポスターの作り方
  1.ポスター発表準備のポイント
  2.内容を伝えるために
  3.文字の書体・サイズや色使いに留意する
 ポスター発表のコツ
  1.ポスタープレゼンテーション
  2.少し離れたところで待機する
  3.相手の興味に合わせて説明内容を調整する
  4.配布資料としてA4版ポスターを用意する
 質疑応答のポイント
  1.質疑応答への準備
  2.質問者の意図が理解できない場合
  3.「今後の課題とさせていただきます」という回答もある
 聞きやすい・わかりやすいプレゼンテーションの方法
  1.プレゼンテーション方法
  2.話し方のポイント
13 論文の執筆
 (建内宏重)
 論文の構成
 著者の決定,順番
  1.誰を著者に含めるか
  2.著者の順番をどうするか
 論文のタイトルについて
 要旨の構成,キーワードの選び方
  1.要旨の書き方
  2.キーワード
 緒言の書き方・要点
  1.緒言で記載すべきこと
  2.パラグラフライティング
 対象と方法の書き方・要点
  1.対象について記載すべきこと
  2.方法について記載すべきこと
 結果の書き方・要点
 図表の書き方・要点
  1.図の作成について注意すべきこと
  2.表の作成について注意すべきこと
 考察の書き方・要点
14 研究不正行為と引用・転載の注意点
 (阿南雅也)
 研究者に求められる責務とは?
 特定研究不正行為(ねつ造,改ざん,盗用)
  1.ねつ造,改ざんとは?
  2.盗用とは?
 好ましくない行為(二重投稿,サラミ論文,不適切なオーサーシップ)
  1.二重投稿(二重出版)とは?
  2.サラミ論文とは?
  3.不適切なオーサーシップとは?
  4.ハゲタカジャーナルとは?
  5.学位論文と論文投稿の関係は?
 引用と転載
  1.他誌からの引用はどうするべきか?
  2.引用の際は,何を記載すべきか?
  3.転載の場合の手続きの方法は?
 倫理的配慮,利益相反の開示
  1.倫理的配慮についてはどう記載すべきか?
  2.利益相反についてはどう記載すべきか?
15 臨床研究の体験例
 (1)研究の醍醐味は…(関 裕也)
  1.研究テーマをみつける
  2.研究計画の立て方
  3.研究のための環境の準備・調整
  4.研究を始めてみて
  5.成果発表
  6.研究を実践してみてよかったこと
  7.大変だったこと
 (2)根拠のある臨床へ(佐藤剛章)
  1.研究テーマをどうやってみつけたか?
  2.研究計画の立て方
  3.倫理申請の手続き
  4.研究環境の調整
  5.研究を始めてみて
  6.成果発表
  7.研究を実践してみてよかったこと
  8.大変だったこと
 (3)世界中の情報にふれるきっかけ(森木研登)
  1.研究テーマをみつける
  2.研究計画の立て方
  3.研究のための環境の準備・調整
  4.研究を始めてみて
  5.成果発表
  6.研究を実践してみてよかったこと
  7.大変だったこと
 (4)120%の力で挑んだ経験(家入 章)
  1.研究テーマをどうやってみつけたか?
  2.研究に取りかかってみて
  3.研究計画の立て方
  4.研究環境の調整
  5.研究を始めてみて
  6.成果発表
  7.研究を実践してみてよかったこと
  8.大変だったこと
 (5)“吟味する力”を養う(葉 清規)
  1.研究テーマをみつける
  2.研究計画の立て方
  3.研究のための環境の準備・調整
  4.研究を始めてみて
  5.成果発表
  6.研究を実践してみてよかったこと
  7.大変だったこと

 索引