やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修者の序
 本シリーズは当初,単独で出版された『イラストでわかる小児理学療法』『イラストでわかる人間発達学』,さらに『イラストでわかる発達障害の作業療法』が多くの方から支持されたことによりシリーズ化されることになりました.すなわち本シリーズは,多くの養成校の教科書として採用された実績によって作られた企画です.きっと,キャンパスでたくさんの学生が本書を抱えて歩いていることでしょう.
 本書は,編集の先生方に,「イラストでわかるシリーズ」の共通した内容である,理学療法士・作業療法士養成校の学生に合った内容で,「わかりやすい」・「興味がもてる」・「ポイントを絞った」を目標に,平易な文章でイラストを多用しコンパクトにまとめていただきました.加えて,具体的な内容については編集者の「伝えたい思い入れ」に従って構成していただきました.そのため,テキストによっては,若干,構成が違う内容になっていると思います.
 監修にあたり,できるだけ読みやすくすることを心がけました.また,不適切な用語がありましたらご教授いただければうれしく思います.最後に,ご多忙のところ監修者のお願いをこころやすくお聞き入れてくださいました編集者・著者の先生方,および出版に労をいとわずにご尽力をくださった医歯薬出版株式会社編集部担当者に深くお礼申し上げます.
 2019年5 月
 監修者 上杉雅之


編集者の序
 物理療法学は,運動療法学とともに理学療法の両輪となる治療手段であるとされています.物理療法は, 生体( 細胞・組織) 環境の設定を変換することにより, 逸脱した治癒過程を自然な治癒過程に軌道修正する治療手段です.物理療法学は,生物学や物理学を基盤とする知識で物理刺激を理解する必要があり,敬遠されがちな専門領域です.そこで本書では,生物学や物理学の高度な知識がなくても理解できるよう,専門用語をわかりやすい語句に言い換えています.できるかぎり専門用語を統一し,英語の略語やカタカナ語を多用せずに意味を確認できるように原語のフルスペルを併記し,必要に応じて日本語に置き換えています.
 本書は教科書として使いやすくすることを基本方針としました.学生には理解を深めやすく,教員にも教材資料として教えやすいように編集しました.それゆえ,本書を15 章の単元として,各章が90 分の授業で納まる内容にいたしました.第1 章の総論では,物理療法の定義,物理療法の変遷だけではなく,物理療法を適用するときに,物理療法の特性を理解して治療仮説をたてる意義と物理療法機器を選択するときの臨床意志決定プロセスの重要さについて述べています.この指針は各章に盛り込まれています.第2〜 13 章は各物理療法手段を理解してもらうために,定義や概念,治療目的,物理療法の特徴や治療メカニズム,適応や禁忌の理由を含めて記載しています.第14 章には,適応・禁忌を疾患名だけで覚えるのではなく,医療機器を取り扱う医療専門職としての実践的な医療安全について記載しています.第15 章では,理学療法士と患者との会話を通して,治療前の説明や実施手順について臨床現場を意識してまとめました.
 各章には,冒頭に「エッセンス」を配置してその章の概要を理解してもらい,末尾に「確認してみよう!」を配置して,学生が1 人で復習できるように内容をまとめています.文中には,最新の知識や基盤となる知識を「トピックス」として,臨床で物理療法を活用する際に物理療法機器をうまく取り扱う知恵を「先輩からのアドバイス」として掲載しています.重要な内容やキーワードは赤字で示し,「です・ます調」で学生にも親しみやすい文章にしました.
 本書を教科書として活用することによって,学生が,理学療法士にとって最も必要な「問題解決能力」を身につけ,臨床で力を発揮されることを期待しています.最後に,諸先生方の専門領域での最新の知識と,本書のために作成された概念図,実践場面のイラストや写真を掲載したことで,より充実した教科書となったことを心から感謝申し上げます.
 2019年5 月
 編集者 杉元雅晴
 菅原 仁
 執筆者一覧
 監修者の序(上杉雅之)
 編集者の序(杉元雅晴,菅原 仁)
第1章 総論
 (杉元雅晴)
  エッセンス
  物理療法の定義と分類
  物理療法の歴史的変遷
   理学療法士と物理療法機器の草創期〜1974 年)
   理学療法士と物理療法機器の展開期(1975〜2005 年)
   物理療法や物理療法機器の見直し期(2006 年〜現在)
  適応と禁忌
  効果的な物理療法への提案
   物理的特性を理解して治療仮説を立てましょう
   障害の病態像や治癒過程を理解して,治療仮説を立てましょう
   物理療法手段の最適条件を細胞や組織レベルで確認しましょう
   物理療法と組み合わせて運動療法の効果を高めましょう
   臨床実習内容に物理療法の実施体験項目を作りましょう
  理学療法の新たな展開
  確認してみよう!・解答
第2章 温熱療法(1) ホットパック療法・パラフィン浴療法(表在温熱療法)
 (杉元雅晴)
  エッセンス
  定義
  治療目的
   適応
  禁忌
  ホットパック療法
   症例
   物理療法実習体験
  パラフィン浴療法
   症例
   物理療法実習体験
  治療効果の判定手段(評価)
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  先輩からのアドバイス
第3章 温熱療法(2)エネルギー変換療法
 (木峰子)
  エッセンス
  定義
  分類
  治療原理
   法則の考慮
  治療目的
   適応
   禁忌
   注意事項
  極超短波療法
  超短波療法
  物理療法と組み合わせると効果的な運動療法の紹介
   極超短波療法
   超短波療法
  物理療法実習体験
   極超短波療法
   超短波療法
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  先輩からのアドバイス
第4章 温熱療法(3)超音波療法
 (吉川義之)
  エッセンス
  分類
  定義
   超音波とは?
   超音波の物理的特性
  治療目的
   温熱効果
   機械的刺激効果
  実施上の留意点
   周波数
   照射時間率
   強度
   ビーム不均等率
   有効照射面積
   伝播物質
   深達度
   超音波療法の禁忌…注意事項
  物理療法手段
   超音波療法の治療手順
  超音波療法の適応
   軟部組織短縮の改善
   圧迫由来の神経症状の改善
   筋・腱部の炎症
   組織損傷(創傷…骨折)
   石灰化沈着
   フォノフォレーシス
  超音波療法と組み合わせることで効果的な運動療法の紹介
  治療効果判定手段としての超音波
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
第5章 寒冷療法
 (菅原 仁)
  エッセンス
  定義
  分類
  寒冷による生体の変化
   疼痛
   新陳代謝
   血流
  寒冷療法の実際
   適応
   禁忌
   注意事項
   寒冷療法の実施方法
  コールドパック療法
   症例
  アイスパック療法
  クライオキネティクス
  物理療法実習体験
  治療効果の判定手技
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
第6章 光線療法: 紫外線療法・赤外線療法・レーザー療法
 (大矢暢久)
  エッセンス
  定義と分類
  生体への影響
   温熱作用
   光化学作用
  紫外線療法
   紫外線療法の治療手順
   適応
   禁忌
   最小紅斑量テスト
  直線偏光近赤外線療法
   直線偏光近赤外線療法の治療手順
   適応
   禁忌
   症例
  低反応レベルレーザー療法
   低反応レベルレーザー療法の治療手順
   適応
   禁忌
  治療効果の判定手段(評価)
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
第7章 水治療法
 (吉川義之)
  エッセンス
  分類
  定義
   水治療法とは
   水の力学的作用
   水の生理学的作用
  治療目的
   渦流浴療法…気泡浴療法
   交代浴
   ハバード浴療法
   水中リラクゼーション療法
   和温療法(軟式サウナ浴)
  物理療法と組み合わせると効果的な運動療法の紹介
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
第8章 電気刺激療法(1)電気刺激の基礎・測定
 (中西亮介)
  エッセンス
  定義と分類
   治療的電気刺激
   機能的電気刺激
  電気刺激療法における基礎知識
   静止膜電位と活動電位
   電流,電圧,抵抗
  電気刺激療法の設定における基礎知識
   直流電流,交流電流,パルス電流
   電流密度
   刺激周波数
   波形
   立ち上がり時間と立ち下がり時間
   パルス通電時間(パルス幅)
   通電率
  電気刺激療法の禁忌と注意点
   禁忌
   注意点:実施可能であるが,注意が必要な場合
  電気刺激による生体測定の意義と活用方法
   強さ-時間曲線
   臨床現場におけるS-D曲線の使用場面
   誘発筋電図
   客観的痛覚閾値の測定
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
第9章 電気刺激療法(2)知覚神経刺激
 (中西亮介)
  エッセンス
  経皮的電気神経刺激の定義
  疼痛の種類
   急性疼痛と慢性疼痛
   複合性局所疼痛症候群
  TENSを用いた鎮痛機序
   内因性オピオイド系
   疼痛を伝達するAδ線維とC線維の神経ブロック
   ゲートコントロール仮説(理論)
   下行性疼痛抑制系
  TENSの実施方法
   刺激強度
   波形
   電極貼付位置
   刺激時間
  干渉波電流刺激療法
  TENSとIFCの手順
  TENSの適応と禁忌と注意点
   適応
   禁忌
   注意点:実施可能であるが,注意が必要な場合
  TENSの実際
  TENSと運動療法
  物理療法実習体験
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
第10章 電気刺激療法(3)運動神経・筋刺激療法
 (平賀 篤)
  エッセンス
  分類
  治療的電気刺激療法の定義
  神経・筋電気刺激療法の定義
  治療目的
  生理学的作用
   筋力増強作用
   筋萎縮の抑制…予防作用
   随意運動の促通―神経…筋再教育
   痙性抑制作用
  筋力増強目的のNMESの実際
   適応となる疾患
   禁忌
   注意事項
   実施方法
  筋萎縮の抑制・予防目的のNMESの実際
   適応となる疾患
   禁忌
   注意事項
   実施方法
  随意運動の促通―神経・筋再教育目的のNMESの実際
   適応となる疾患
   禁忌
   注意事項
   実施方法
  痙性抑制目的のNMESの実際
   適応となる疾患
   禁忌
   注意事項
   実施方法
  NMES適応の症例
  物理療法実習体験
   筋力増強効果の即時的体験と周波数による疲労の確認
  機能的電気刺激の定義
  FESの実際
   適応となる疾患
   禁忌
   注意事項
   実施方法
  症例
  物理療法実習体験
   機能的電気刺激のタイミング体験(上肢):食事動作
   機能的電気刺激と動作との関連(下肢):歩行
  治療効果の判定手段(評価)
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
第11章 電気刺激療法(4)組織刺激
 (植村弥希子)
  エッセンス
  定義
  治療目的
  適応
   創傷治癒効果
  直流パルス微弱電流刺激療法
  高電圧パルス電流刺激療法
   循環改善
  薬剤導入(イオントフォレーシス)療法
  バイオフィードバック療法
  禁忌・注意を要する事象
  症例
  筋電図バイオフィードバック療法
   治療効果の判定手段
  物理療法実習体験
  確認してみよう!・解答
  Point
  先輩からのアドバイス
第12章 牽引療法(持続法・間欠法)
 (植村弥希子)
  エッセンス
  定義
  分類
  治療目的
   適応
  禁忌
  注意事項
  牽引療法の実施方法
  頸椎牽引療法
   牽引方向
   牽引力と牽引時間
  腰椎牽引療法
   牽引方向
   牽引力と牽引時間
  牽引療法の問題点
  症例
  治療効果の判定手段
  物理療法体験実習
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
第13章 マッサージ療法
 (金原一宏)
  エッセンス
  定義と効果
   定義
   治療効果
   生理学的作用
   適応と禁忌
  徒手によるマッサージ療法の基本手技
   軽擦法
   揉捏法
   強擦法
   圧迫法
   叩打法
   振動法
  パウダーマッサージとオイルマッサージの相違点
   パウダーマッサージ
   オイルマッサージ
  間欠的空気圧迫法の特徴
   間欠的空気圧迫法の作用
   間欠的空気圧迫法の実践
  リンパマッサージ療法
   リンパシステムと心臓血管系の関係
   リンパ浮腫
   徒手的リンパドレナージ
  弾性包帯の装着方法
   弾性包帯の装着方法
   治療効果の判定手段
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
第14章 安全管理
 (安孫子幸子)
  エッセンス
  安全管理の総論
  理学療法士の安全管理
   物理療法を用いる目的
   PDCAサイクルによる治療プランの運営
   危険信号
  禁忌・注意事項
   リスクとベネフィットの関係
   禁忌・注意事項の説明
  患者側の安全管理(受ける物理療法の理解)
  物理療法機器の管理(誤作動・誤操作)
   電磁両立性
   機器の安全性
  医療事故
   インシデントと医療事故の違い
   公益財団法人日本医療機能評価機構による医療事故情報収集等事業
  原因の分析と改善策
   SHELLモデル
   4M5Eモデル
   報告
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
第15章 疾患別物理療法
  エッセンス
 (1) 運動器疾患への物理療法(関節形成術)(太箸俊宏)
  人工膝関節置換術患者に行う物理療法
   人工膝関節置換術
   人工膝関節置換術患者のリハビリテーション医療
   術前の物理療法の実践例(温熱療法:極超短波療法)
   術後の物理療法の実践例1(寒冷療法:アイスパック)
   術後急性期の物理療法の実践例2(電気刺激療法:TENS)
   術後急性期の物理療法の実践例3(電気刺激療法:NMES)
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
 (2) 中枢神経疾患への物理療法(痙縮筋への物理療法)(齋藤 弘,菅原 仁)
  脳卒中の回復段階における物理療法
  痙縮の問題点と治療方法
   痙縮の問題点
   痙縮の治療
  脳卒中急性期の物理療法
  脳卒中回復期の物理療法
  脳卒中維持期の物理療法
   脳卒中患者に対する足関節背屈のFESの実践例
   脳卒中患者に対する肩関節亜脱臼のNMESの実践例
   脳卒中患者の痙性筋に対する振動刺激の実践例
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
 (3) 組織障害への物理療法(褥瘡への物理療法)(植村弥希子)
  症例
  治療場面
  確認してみよう!・解答
  トピックス
  Point
  先輩からのアドバイス
  索引