やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 脳卒中は,1960年代までは日本人の死因の第1位でしたが,高血圧治療の進歩や脳卒中の救命率の上昇により,現在は第4位にまで減少しました.しかし,新規発症者数は毎年約30万人といわれ,現在約300万人いる患者は,2025年には約330万人に達するといわれています.さらに,要介護や寝たきりの原因の第1位であり,超高齢社会に突入したわが国では健康寿命の延伸という点からも,脳卒中は非常に重要な疾患であることに変わりはありません.
 脳卒中は,リハビリテーション(以下,リハ)医療の対象疾患として,わが国で最も頻度の高い疾患です.その診療は,急性期治療の進歩(血栓溶解療法,血管内治療,脳保護療法など),脳卒中病床(stroke unit)やクリニカルパスの導入,治療ガイドラインの策定,回復期リハビリテーション病棟の設置,脳卒中地域連携パスなどの医療システム改革など,大きく変貌してきました.
 現在,脳卒中に関わる医師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士をはじめとする関連スタッフには,その基礎知識から最新知見までを知り,チーム医療で取り組むことが求められています.このため,本書では,各科の医師からリハ医療者,およびリハ療法士養成校の学生を読者対象として,脳卒中に関わる医療スタッフの共通用語・共通理解を醸成しつつ,基礎知識からリハまでの実際が1冊で理解できる書籍を目指しました.
 本書には,脳卒中に関する基礎知識,診断・評価,治療,脳卒中リハの実際が詳細に解説されています.
 また執筆陣には神経内科,脳神経外科,リハ科と幅広い領域からその第一線で活躍されている医師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,看護師,管理栄養士の先生方を迎え,解説いただきました.本書が実際の脳卒中医療現場に関わる医療スタッフの明日の診療に役立つことはもちろん,近い将来に携わるであろう学生の皆さんの参考となれば幸甚です.
 本書の出版に際し,編集に加わっていただいた東京都済生会中央病院院長であり,脳神経内科医として脳卒中医療を牽引してこられた高木誠先生に深謝申し上げるとともに,絶えず支えていただいた医歯薬出版の編集担当者に感謝申し上げます.
 2019年6月吉日
 編集を代表して 正門由久
第1章 脳卒中の基本知識
 脳卒中医療に関わる医療職が知っておきたい知識(高木 誠)
 脳の構造と機能を理解する(高嶋修太郎)
 脳血管障害の分類(高木 誠)
 脳卒中の分類と発症機序(高木 誠)
 脳卒中の危険因子は何か(星野晴彦)
 脳卒中の症状─何で気づかれるか(FAST)(竹川英宏,飯塚賢太郎,平田幸一)
 脳卒中の最近の疫学(清原卓也,吾郷哲朗)
 脳梗塞の特徴(大木宏一)
 一過性脳虚血発作(TIA)の特徴(北川一夫)
 脳出血の特徴(寺尾 聰)
 くも膜下出血の特徴(秋山武紀)
 脳卒中の特殊な原因とその特徴(阿久津二夫)
 障害部位とその症候(田口芳治)
 脳卒中を罹患した患者・家族が直面すること(中山博文,川勝弘之,園田尚美)
第2章 脳卒中の診断
 急性期の診断はどのように行われるか(野川 茂)
 問診・診察(山形真吾)
 脳画像診断 1.CT,MRI(上原敏志)
 脳画像診断 2.SPECT(平野照之)
 脳画像診断 3.超音波検査(頸動脈,経頭蓋など)(玄 富翰,長束一行)
 病型別の画像所見(丸山路之)
 脳画像診断の進歩─脳梗塞超急性期の実践的MRI撮像法(井田正博)
第3章 脳卒中の治療
 脳卒中治療の進歩(高木 誠)
 脳卒中治療ガイドライン2015(伊藤義彰)
 急性期の全身管理と合併症の治療─SCU,SUで行われる治療(中瀬泰然)
 脳梗塞の急性期治療(小松鉄平,井口保之)
 脳出血の急性期治療(淺田英穂)
 くも膜下出血の急性期治療(牟田大助,西 徹)
 抗血栓療法(1.血栓溶解薬 和田晋一,古賀政利)
 抗血栓療法(2.抗凝固薬,抗血小板薬 長尾毅彦)
 その他の薬物療法(脳浮腫治療薬,脳保護薬など)(後藤 淳)
 外科治療(堀口 崇)
 血管内治療(植田敏浩)
 再発予防─危険因子の管理と抗血栓療法(卜部貴夫)
 脳卒中に伴うてんかん発作への対応(荒川千晶)
 脳卒中に対する再生医療(田口明彦)
第4章 脳卒中リハビリテーションにおける障害の評価
 障害・問題点の評価はどのように行われるか(正門由久)
 総合評価(高橋秀寿)
 意識障害(片桐伯真)
 感覚障害(安部 佑,岡島康友)
 片麻痺(羽田康司)
 運動失調(羽田康司)
 痙縮(羽田康司)
 拘縮(猪飼哲夫)
 肩の問題を含む疼痛─亜脱臼,疼痛,肩手症候群など(荒川英樹,中村 健)
 歩行障害(大畑光司)
 ADL障害(辻 哲也)
 失語(渡邉 修,山本一真)
 失認・失行(青木重陽)
 脳卒中後うつ(村岡香織)
 摂食嚥下障害(小口和代)
 排尿障害(仙石 淳)
 予後予測─どこまで回復するか(水尻強志)
第5章 脳卒中リハビリテーション医療の基本
 チームで行う脳卒中リハビリテーション─誰が何を行うか(宮越浩一)
 医療スタッフ間の連携・情報共有(宮越浩一)
 スタッフ数が充足していない場合の対応(宮越浩一)
 脳卒中リハビリテーションの流れ(中馬孝容)
 地域連携パス(橋本洋一郎,寺崎修司,平田好文)
 「脳卒中治療ガイドライン2015」におけるリハビリテーション(児玉三彦)
 脳卒中リハビリテーションのゴール(里宇明元)
 早期離床の判断と注意点(山田 深)
 栄養管理(二井麻里亜,若林秀隆)
 脳卒中後うつへの対応(村岡香織)
 転帰についてどう考えるか(横井 剛)
 退院指導の進め方(補永 薫)
 地域にどうつなげるか(補永 薫)
 自動車運転の判断(武原 格)
 急性期リハビリテーションでは何が重視されるか(尾花正義)
 回復期リハビリテーションでは何が重視されるか(山鹿眞紀夫,砥上若菜)
 生活(維持)期リハビリテーションでは何が重視されるか(長谷川 幹)
 生活(維持)期リハビリテーションを支える体制(堀田富士子)
第6章 脳卒中リハビリテーションの実際
 ベッドサイドリハビリテーション(長谷川千恵子,内川友裕)
 早期訓練(花山耕三,竹丸修央,狩屋俊彦)
 合併症・併存疾患の管理(影近謙治)
 片麻痺(痙縮を含む)のリハビリテーション(田中直次郎,岡本隆嗣)
 拘縮のリハビリテーション(廣瀬 恵,廣瀬 昇,猪飼哲夫)
 肩の問題を含む疼痛管理(和田直樹)
 歩行障害のリハビリテーション(友田秀紀,小泉幸毅,梅津祐一)
 筋力増強・持久性向上(阿部浩明)
 運動指導(阿部浩明)
 上肢機能障害のリハビリテーション(坂田祥子)
 ADL訓練(阿部 薫,辻 哲也)
 失語症のリハビリテーション(山本一真,渡邉 修)
 失認・失行のリハビリテーション(青木重陽,藤原ゆかり)
 摂食嚥下障害のリハビリテーション(保田祥代)
 排尿障害のリハビリテーション(山本直樹,柴田八衣子,谷口真弓,仙石 淳)
 動作介助の注意点(塩地由美香,園田 茂)
 補装具の適応と使い分け(中島英樹,久米亮一)
 杖・車椅子などの指導(蓮井 誠)
 家屋の評価・改修の指導(藤井 智)
 復職指導(二宮正樹,伊藤英明,佐伯 覚)
 生活(維持)期リハビリテーション(齋藤正洋)
第7章 最新リハビリテーション治療
 神経の可塑性─機能回復を理解する(宮井一郎)
 運動学習理論とリハビリテーション(長谷公隆)
 ボツリヌス療法(川手信行)
 最新リハビリテーション治療の使い分け(藤原俊之,羽鳥浩三)
 rTMS治療(角田 亘)
 tDCS治療(伊藤英明,佐伯 覚)
 電気刺激 1.上肢機能障害(阿部 薫)
 電気刺激 2.下肢機能障害(山口智史)
 CI療法(竹林 崇)
 BMI療法(三原雅史)
 促通反復療法(野間知一,下堂薗 恵)
 先端リハビリテーション機器─ロボット 1.下肢(和田 太)
 先端リハビリテーション機器─ロボット 2.下肢(大畑光司)
 先端リハビリテーション機器─ロボット 3.上肢(松永俊樹)
第8章 社会保障の活用
 診療報酬(小林宏高)
 介護保険(高岡 徹)
 年金(大場純一)
 身体障害者手帳(高岡 徹)
 社会資源の活用(水落和也)
 福祉機器(水落和也)

 Column
  脳卒中と鑑別の必要な疾患(丸山路之)
  観察の重要性(正門由久)
  脳卒中と外傷性脳損傷で現れる高次脳機能障害の違い(青木重陽)
  脳血管性認知症(VaD)(青木重陽)
  脳卒中リハビリテーションの歩み(里宇明元)
  上肢機能障害の最新リハビリテーションとその適応(野間知一,下堂薗 恵)

 略語集
 索引