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特集 サルコペニアの摂食嚥下障害Update
 企画主旨
 編集委員 森 隆志
 筆者は,脳卒中などの明らかに摂食嚥下障害を引き起こす疾患がないにもかかわらず,摂食嚥下障害が生じるケースを多く経験している.なぜこのような事態が生じるのであろうか.この問いの答えには,臨床的には神経伝達物質の濃度変化,薬剤の作用,口腔の問題といったことが考えられるが,その候補の一つとして嚥下関連筋群のサルコペニアも挙げられる.
 全身の骨格筋および嚥下関連筋群のサルコペニアによる摂食嚥下障害が存在しているであろうことは以前より指摘されてきた.サルコペニアの摂食嚥下障害の存在を指摘する論文はわが国では10年前より存在する.しかし,このような機能障害の定義や診断基準が存在していないことが問題であった.2013年からは定義のコンセンサス形成や診断基準の開発が行われてきた.また,ここ数年の間にサルコペニアの摂食嚥下障害に関する論文が急増した.サルコペニアの摂食嚥下障害の研究は黎明期を脱し,発展を遂げようとしている時期にある.
 摂食嚥下リハビリテーション(以下リハ)の研究そのものは,脳卒中や神経筋疾患,頭頸部がんなどの患者について行われ発展してきた.しかし,超高齢社会となったわが国では「高齢者の摂食嚥下サポート」という立場から摂食嚥下リハを理解するほうが,より臨床現場に有益な結果をもたらす可能性が指摘されている.高齢者の摂食嚥下サポートのキーワードは老嚥,オーラルフレイル,サルコペニア,認知症である.この考え方は,これまでの脳卒中などの研究を基盤とした「脳卒中モデル」に対し「高齢者モデル」といえる.サルコペニアの摂食嚥下障害は,「高齢者のモデル」のなかに位置づけることができる.また,サルコペニアの摂食嚥下障害と低栄養の関連が複数の研究で報告されている.リハ栄養ケアプロセスは,低栄養と関連の深いサルコペニアの摂食嚥下障害に対するアプローチ法として非常にマッチする考え方である.サルコペニアの摂食嚥下障害はリハ栄養学会誌の特集テーマとして大変ふさわしいものと考える.
 本特集では,各領域のエキスパートの16名の先生方に近年大幅に進歩したサルコペニアの摂食嚥下障害とその治療方法,および関連事項であるサルコペニア,オーラルフレイル,リハ栄養などについて執筆していただいた.読者の皆様に当該領域の知識を整理しつつわかりやすく提供できるものと確信している.本特集をサルコペニアの摂食嚥下障害,あるいはそのリスクを抱えた方がいる幅広い臨床現場に役立てていただければ深甚である.
 企画主旨
1.サルコペニアの摂食嚥下障害概論
 サルコペニアの摂食嚥下障害の定義と診断(若林秀隆)
 サルコペニアの摂食嚥下障害のリスクと発症機序(前田圭介)
2.高齢者の摂食嚥下機能
 老嚥(金久弥生)
 オーラルフレイル(白石 愛)
3.嚥下関連筋群のサルコペニア
 口腔・舌筋のサルコペニア(貴島真佐子)
 咀嚼筋のサルコペニア(糸田昌隆)
 嚥下筋のサルコペニア(小川奈美)
 呼吸筋のサルコペニア(飯田有輝)
4.サルコペニアの摂食嚥下障害の治療戦略
 治療戦略の概略とリハビリテーション栄養ケアプロセスの有用性(小蔵要司)
 サルコペニアの摂食嚥下障害の予防(園田明子)
 積極的な栄養サポートの実践(二井麻里亜)
 歯科でできる治療とサポート(藤本篤士)
 全身および摂食嚥下訓練の実践方法(永見慎輔)
 「口から食べる」をサポートする包括的アプローチ(小山珠美)
 誤嚥性肺炎における早期離床・早期経口摂取の実践(藤原 大)
 サルコペニアの摂食嚥下障害の研究と臨床の展望(森 隆志)

 連載
  【災害支援とリハビリテーション栄養(1)】
   誤嚥性肺炎とオーラルフレイルの予防(中久木康一)
  【リハ栄養あるある(1)】
   急性期脳卒中症例への不要な絶食と不十分な栄養管理(小蔵要司)
   リハビリテーション栄養 論文紹介(1)(高畠英昭)
  総説 リハビリテーション薬剤のコンセプトと展望(若林秀隆 林 宏行・他)
  第7回日本リハビリテーション栄養学会学術集会 抄録集

 日本リハビリテーション栄養学会 入会のすすめ
 日本リハビリテーション栄養学会誌投稿規定
 次号予告