やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 世の中は高齢化社会へと急速に進んでいる.疾病で治療を受けている人のみならず,老化現象によって心身に変調をきたしている人なども増加の一途をたどっている.
 近年,疾病の予防のみならず,全人的な調和のとれた治療を主眼として行われてきた東洋医学が注目をあびることとなった.その中心的な存在として鍼治療があるが,鍼治療による効果は鎮痛作用,自律神経調節作用,血流改善,免疫系の自然治癒力の活性化などが考えられている.社会的には種々の補完・代替医療の併用によって疾病の予防,ストレス軽減,健康維持・増進,抗老化,体質改善そしてQOLの向上などへと応用されている.最近では,鍼灸治療はスポーツ界でも応用され,薬物治療にみられるような副作用が少なく,また,ドーピング検査に引っかかる恐れもないという点で,スポーツ選手が安心して受けられる治療としても注目されている.
 一方,東洋医学の適応と有効性や有用性について科学的に証明されるべきという意見も多くなった.このようなEBM(evidence based medicine)に関する賛否はいろいろ出されている.しかし,疾病の根本的治療を目指す現代の西洋医学とのチームワークを果たすため,さらには今後の東洋医学の普及と発展のことを考えると,どのような症例に良い適応となり,良好な成果が得られるのかが,治療指針の中で有効に含まれて活用されることが必要であろう.
 そのためには鍼治療の古典をひもといて,その理念を正しく治療に活用することが基本として必要なことと考える.また,伝統鍼灸と現代鍼灸とが大きく2つに分かれて発展してきた経緯も理解されなければならない.治療を行うにあたって,どちらを選択するかについては臨床家自身にまかせられなければならない.幸いにも最近,東洋医学の診断や治療に重要な経穴部位に関しては,国際的な標準化が進められた結果,これからは世界標準のもとに,共通の鍼治療が行われることが実現されることとなった.
 さて,西洋医学と東洋医学が疾病の病態と診断を共通の立場で行って治療指針を作り,それによって治療を実施することでその効果を判定でき,また,疾病に対する東洋医学的な治療の適応と有効性を把握できると考える.同時に,西洋医学的治療と東洋医学的治療とがそれぞれの欠点を補いあって,人々の健康と疾病に対するチームワークができれば理想的な治療体系を確立することができよう.
 現代社会においては,メタボリックシンドロームとともに運動器の異常,殊に腰痛,肩こり,関節痛が国民の有訴率の1〜3位を占め,医療経済を圧迫することが懸念されている.今回,本書では運動器の疾患を中心に,整形外科医と鍼治療に造詣の深い先生達とともに共通の概念と診断のもとに,両者の治療に対するアプローチをまとめる企画を行った.実際に編集を進めていくと,鍼灸治療を臨床医が適確に応用するための表現には大きな困難を伴った.そのため鍼灸治療担当の先生方には,殊に効果の面で忘れてはならない大切なツボについて,骨や筋のメルクマールを示すことで,よりわかりやすくするように努めていただいた.今後の西洋医学と東洋医学の融合とチームアプローチの進展のための新しいいしづえ(礎)となってくれることを願っての試みである.
 鍼治療を臨床に取り入れて,あるいはこれから臨床応用しようという医師,鍼治療の実施診療にて活躍しておられる人々,鍼治療に興味を持っておられる学生達のお役に立てれば幸甚である.
 本書の意図するところを理解していただき,快くご執筆して下さった先生方に心から感謝いたします.また,4年間の歳月をかけ出版に至るまで終始お世話下さった医歯薬出版編集部竹内大氏ならびに関係者の皆さまに厚くお礼申し上げます.
 平成24年5月
 明治国際医療大学 教授
 附属リハビリテーションセンター長
 平澤泰介
 序文
 序章 運動器疾患の治療
  運動器疾患と整形外科 運動器疾患と現代鍼灸 運動器疾患と伝統鍼灸
第1章 頚部
 総論
  1.脊椎・脊髄の解剖
  2.頚椎疾患
   1)問診 2)神経学的検査 3)画像診断
  3.東洋医学による頚肩部痛・肩こりの病態の捉え方
 各論
  1.変形性頚椎症
   1)頚椎症性神経根症 2)頚椎症性脊髄症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  2.頚椎椎間板ヘルニア
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)
  3.外傷性頚部症候群・頚椎捻挫
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■いわゆる寝違い
  4.いわゆる“肩こり”(頚肩腕症候群)
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  5.胸郭出口症候群
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■耳珠部の圧痛を用いた簡便経筋鑑別法
第2章 肩関節
 総論
  1.肩関節
  2.肩関節疾患
   1)理学的診断 2)画像診断
 各論
  1.腱板損傷
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■肩峰下インピンジメント症候群
  2.石灰沈着性腱板炎
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  3.肩関節周囲炎(五十肩)
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■腎気の虚損
  4.上腕二頭筋長頭腱炎
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
第3章 肘・手
 I.肘
 総論
  1.肘関節
  2.肘関節疾患
   1)視診 2)触診,その他の診察法 3)画像診断
 各論
  1.変形性肘関節症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  2.上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  3.野球肘
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
 II.手関節,手・手指
 総論
  1.手関節,手・手指
   1)手関節 2)手・手指
  2.手関節の疾患
   1)視診 2)触診,その他の診察法
  3.手・手指の疾患
   1)視診 2)触診,その他の診察法 3)手関節,手・手指の画像診断
 各論
  1.ドゥケルヴァン病
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  2.レイノー病
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  3.母指CM関節症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  4.ばね指(弾発指)
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■腱鞘炎
 III.絞扼神経障害
  1.肘部管症候群
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  2.ギヨン管症候群
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  3.円回内筋症候群
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  4.前骨間神経症候群
    整形外科 現代鍼灸
  5.手根管症候群
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  6.橈骨神経障害
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
第4章 腰部・体幹
 総論
  1.腰部・体幹
  2.腰部・体幹の疾患
   1)理学的診断 2)画像診断 3)血液検査
  現代鍼灸
   1)腰痛に対する鍼灸治療 2)腰部障害に伴う下肢症状に対する鍼灸治療
  伝統鍼灸
   1)東洋医学による腰下肢痛の病態の捉え方 2)腰痛に対する伝統鍼灸/のアプローチ 各論
  1.急性腰痛症(ぎっくり腰)といわゆる“腰痛症”(非特異的腰痛)
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  2.腰椎椎間板ヘルニア
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  3.変形性腰椎症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■陰部神経鍼通電療法
     ■神経根鍼通電療法
  4.腰部脊柱管狭窄症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  5.腰椎分離症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  6.腰椎すべり症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  7.骨粗鬆症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  8.側弯症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  9.肋間神経痛
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■化膿性脊椎炎
  10.転移性骨腫瘍
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■胸椎黄色靭帯骨化症
第5章 股関節・大腿部
 総論
  1.股関節・大腿部
  2.股関節・大腿部の疾患
   1)問診 2)視診 3)計測 4)徒手検査 5)画像診断
 各論
  1.変形性股関節症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  2.梨状筋症候群
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  3.外側大腿皮神経痛
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  4.肉離れ(大腿部など)
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
第6章 膝関節
 総論
  1.膝関節
  2.膝関節疾患
   1)問診 2)視診・触診 3)計測と徒手検査 4)画像診断と諸検査
     ■膝蓋大腿関節の異常を知る方法
 各論
  1.変形性膝関節症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■現代鍼灸/の適応と禁忌について
     ■弁病(東洋医学的な名前)
     ■特発性骨壊死
  2.半月板損傷
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■膝靭帯損傷
  3.オズグッド・シュラッター病
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  4.ジャンパー膝
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  5.腸脛靭帯炎
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  6.鵞足炎
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  7.過労性脛部痛(シンスプリント)
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
     ■膝関節部の鍼灸の適応・禁忌・リスクマネージメントについて
第7章 足および足関節部
 総論
  1.足および足関節
   1)足 2)足関節(距腿関節)
  2.足および足関節の疾患
   1)問診 2)視診 3)触診 4)計測 5)画像診断
 各論
  1.変形性足関節症
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  2.足関節捻挫,足関節靭帯損傷
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  3.アキレス腱炎・周囲炎,アキレス腱周囲滑液包炎
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  4.扁平足
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  5.後脛骨筋腱機能不全
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  6.外反母趾
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  7.足根管症候群
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  8.足底筋(腱)膜炎
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  9.モートン病
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
第8章 全身疾患
  1.関節リウマチ
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
  2.結晶誘発性関節炎
   1)痛風
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
   2)偽痛風
    整形外科 現代鍼灸 伝統鍼灸
第9章 統合医療と鍼灸
  1.補完・代替医療の種類,特徴,問題点
  2.統合医療の現状
  3.次世代型統合医療
   1)スピリチュアリティとは 2)次世代型統合医療の試み
  4. 鍼治療を含めた統合医療による認知症予防
   統合医療における鍼灸医学 おわりに
付章 鍼灸の基礎知識
  1.毫鍼の名称と鍼管
     ■毫鍼の鍼体長と鍼体径
     ■厳重に施行される消毒
  2.刺鍼法
  3.鍼灸治療の方法と手技
   1)鍼治療法 2)電気鍼治療 3)経皮的低周波通電法 4)灸治療 5)光線治療 6)圧粒子貼付法 7)SSP療法 8)鍼治療の予期せぬ反応
     ■爽快な鍼響(鍼のひびき)
     ■治療点を的確にする骨度法
     ■眩暈とは異なる暝眩
  4.伝統鍼灸
   1)伝統鍼灸/医学の身体の捉え方 2)伝統鍼灸/医学の診察
   3)伝統鍼灸/医学の病因について 4)伝統鍼灸/医学の病について
   5)運動器疾患で多い病証
    (1)肝腎陰虚証 (2)気血両虚証 (3)血お証 (4)痰湿証 (5)ひ証 (6)経脈病 (7)経筋病
   6)伝統鍼灸/医学の治療について
     ■陰陽五行学説
     ■臓腑経絡学説

 文献
 付表・付図
  ●経穴五十音配列 ●十四経脈と経穴一覧 ●経脈・経穴図
 あとがき
 索引