やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

『経穴集成』復刻版発刊に際して

 『経穴集成』は,1987年6月に(第一次)日本経穴委員会調査部が編集発行した経穴部位を収載した資料集である.
 (第一次)日本経穴委員会は1965年に発足し,第二次日本経穴委員会が発足したのは2004年であるので,両委員会の発足時期には40年間あまりの開きがある.(第一次)日本経穴委員会はその下に調査部があり,そこで『素問』,『霊枢』,『鍼灸甲乙経』,『十四経発揮』などの文献数種をもとに,経穴部位の検討を行った.それは,1975年までに2冊の本にまとめられたが,その後,WHOの要請により鍼灸用語の国際的な標準化の会議が開催される事になり,さらに詳細な検討を行うために多くの文献が追加され,59種類の古典文献を検討することになった.
 これらの古典文献相互の比較検討は,現在ならばコンピューターに必要データを入力してエクセルデータなどを作り行うことも可能であろうが,当時は59冊の古典文献に記載されている経穴部位を短冊に書き込んで,それを経穴ごとに並べて比較検討するという手法が確実な方法とされた.短冊の数だけでも単純に計算すると59(枚/穴)×361(穴)=21,299(枚)となる.これだけの短冊を手書きする事は大変な作業であったと思う.20人でこの作業を行うとしても,一人1000枚あまりを書かなければならないことになる.
 しかしながら,大変な作業の集積により作製されたこの先人の労作は非常に役に立った.第二次日本経穴委員会が作業を始めた時には作業部会の委員がこれを参考にしていたが,日中韓の3カ国会議で部位を検討する際に韓国代表が『経穴集成』を日本に持参してきて,時折必要な頁を示すのには驚いた.
 さて,会議が進むにつれ,作業部会の委員の間で,(第一次)日本経穴委員会が残したこの貴重な資料を何とか多くの人の役に立てる事が出来ないかと意見が出るようになった.1987年に出版された時は300部印刷されたと聞くが,当時の研究者が蔵書しているだけで,現在40代以下の世代はおそらく持っている方はほとんどいないのではないかと思う.
 (第一次)日本経穴委員会の苦労の結晶が一人でも多くの古典研究者や現役の教員,また,経穴を深く学びたい学生などの役に立つ事を願ってこれを復刻しようと意見が一致し,復刻版出版の運びとなった.

 なお,この間の経緯について簡単に記しておきたい.1989年にジュネーブ会議で部位以外の経穴に関する基本的な用語が標準化され,(第一次)日本経穴委員会は解散し,委員会の事業内容は全日本鍼灸学会研究部に継承されることとなった.その結果,2003年に経穴部位標準化非公式会議がWHO/WPROからの呼びかけで始まるまでは,全日本鍼灸学会が(第一次)日本経穴委員会を引き継いできた.そのため,第二次日本経穴委員会設立の必要が出てきた2004年に,全日本鍼灸学会がその責任で鍼灸関係団体へ呼びかけ,5団体で第二次日本経穴委員会運営委員会が結成され,第二次日本経穴委員会が発足した.したがって,(第一次)日本経穴委員会の事業を第二次日本経穴委員会が引き継ぎ,6年間に亘り経穴部位標準化作業を進め,また,本著の復刻も手がけた次第である.本著復刻は,平成19年3月31日に開催された平成18年度第二次日本経穴委員会運営委員会で承認された.また全日本鍼灸学会理事会にて,『経穴集成』の著作権は全日本鍼灸学会が継承したと判断され,第二次日本経穴委員会が著作権を継承したことが了承され,その上で復刻版発行を実施した.

 復刻に際し,その内容については一切手を加えなかった.手書き版であり,基にした書籍により,内容の正確さに難がある点の指摘がないわけではないが,歴史的な資料として一切内容を変更せずに,文字通り復刻・印刷して,発行したいと思う.読者の皆さんがこれを有効に活用される事を望んでいる.
 また,読者の理解に役立てるために,古典の解剖用語の解説や,古典文献の概説を参考資料編として追加した.これも理解の際の役に立つものと考える.

 2009年7月
 第二次日本経穴委員会委員長
 筑波技術大学保健科学部教授
 形井 秀一
経穴集成
 (第一次)日本経穴委員会
 発刊に際して
 凡例
文献一覧表
手太陰肺経
手陽明大腸経
足陽明胃経
足太陰脾経
手少陰心経
手太陽小腸経
足太陽膀胱経
足少陰腎経
手厥陰心包経
手少陽三焦経
足少陽胆経
足厥陰肝経
督脈
任脈
経穴索引
参考資料編
 鍼灸古典医書概説 浦山久嗣
 『釈骨』の全文とその現代語訳 荒川 緑,小林健二
 古典解剖用語の解説 小林健二