やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 整形外科医,柔道整復師が業務を行う上での治療手段として,種々の外固定がきわめて重要な位置を占める.近年,ポリウレタン樹脂やガラス線維を組み合わせた水硬化性キャスト材が普及するにつれて,その用途は大きく広がりつつある.工夫次第では,固定範囲を狭小化させたり,少ない材料で固定の目的を達成することになり,結果として軽量化と関節の機能保持に役立つことになる.整形外科医,柔道整復師が運動器を扱う以上動きを抑制するための固定法は重要であり,まずは伝承的固定の手法・技術を理解し,認識することから始まる.したがって,古典的・伝承的手法の利点と,新しく開発された材料の特性を織り込んだ新たな固定法の開発が必要と考えていた.運動器に対する上記の目的に沿った固定法を考察し体験した中で有用なもののみ選択して写真と説明を加えたものが本書である.
 本書は臨床上,特に用途の大きい項目を選択し,特に四肢関節の固定法を具体的に示すことで即戦力となる技能を高めるように構成されている.学生のみならず,臨床家の座右の書として利用いただければ幸甚である.
 なお,本書を出版するにあたり,材料の提供をいただいたスリーエムヘルスケア株式会社(東京),執筆に協力をいただいた医歯薬出版の竹内大氏に深く謝意を表します.また,すばらしいモデルとしてご協力いただいた本学の学生,彦由亜希子さん,武永朋子さんにあわせて感謝いたします.
 2004年10月
 竹内義享


はじめに
 キャスト法は,運動器傷害による関節損傷,関節変形から生じるアライメントの異常と二次的にもたらされる関節障害,筋力の低下(高齢者における筋萎縮)から生じる関節の不安定性などに対して,炎症の早期消失,アライメントの矯正,安定性の獲得を目的として使用される.固定の意義が成就されるには,病態とキャスト法の目的が一致する必要性があり,そのときはじめて治療効果が現れると考えている.
 従来,キャスト法にはギプス包帯が主に使用されていたが,ここ20年くらい前から次々にギプス包帯にかわる固定材料が考案されている.特に柔道整復師の治療対象は,簡易な骨折・脱臼,捻挫,あるいはオーバーユース(over use)によるスポーツ傷害からくる痛み,高齢者の不安定な関節の補強などである.この場合,固定の意義を十分に理解しした上で,いかなる材料を応用し,より目的に沿った効果的な固定を行うかがポイントとなる.そのためには,今までのように経験則のみの固定では患者さんの十分な納得が得られず,当然,機能解剖学的裏づけが要求されることになる.
 本書では,伝承的手法の利点を取り入れながらも,今までの固定概念にとらわれることのない,新しい視点からの固定法を求めることに留意した.
 なお,本文中に適宜*を付し,当該頁下に,メモとして解説を加えてある.メモでは,知っておいたほうが良いと思われる知識,操作上の注意点やヒント,なぜこのように行うのかなどを説明しており,読者がより深い理解を得られることを目的とした.
序……III
はじめに
 キャスト法の目的,適応,評価,禁忌,合併症
 固定方法と固定材料
 固定材料と用意するもの
 キャスト材料の特性と種類
 キャストの除去方法
第一部 キャスト固定の基本
 I.ギプスを巻く前に
 II.ギプスの巻き方
  1. キャスト(全周にわたる)の場合
  2. シャーレ(半切り)の場合
  3. スプリント(副子)の場合
 III.水硬化性プラスチック材の巻き方
  1. キャスト(全周にわたる)の場合
  2. シャーレ(半切り)の場合
 IV.熱可塑性プラスチック材
  1. スプリントとして使用する例(その1)
  2. スプリントとして使用する例(その2)
  3. スプリントとして使用する例(その3)
第二部キャスト法の実際
 I.母指のCM,MP,IP関節
  1. MP外転位固定
  2. ロングアームキャスト・ショートアームキャスト
  3. ショートアームスプリント
  4. CM外転位固定
 II.指関節
  1. DIP伸展位固定(板状タイプ)
  2. DIP伸展位固定(ラセン状タイプ)
  3. MP,PIP,DIP屈曲位固定
  4. Extension block
 III.指のCM,MP,IP関節
  1. Jahss-90-90法
 IV.手関節
  1. 背側スプリント
  2. 掌側スプリント
  3. 橈側-尺側スプリント
  4. sugar-tongスプリント
 V.肘関節
  1. 肘関節可動キャスト
  2. 後方スプリント
  3. 肘関節屈曲位スプリント
 VI.上腕から肩関節
  1. ハンギング・キャスト
  2. 機能的装具
  3. 外側スプリント
  4. 前方-後方スプリント
  5. 鎖骨圧迫用スプリント
  6. フィギュア・エイト固定
 VII.膝関節
  1. 膝関節固定キャスト
  2. 内側-外側スプリント
  3. スパイラルスプリント
 VIII.下腿
  1. ロングレッグキャスト
   (1) 足関節90°位固定
   (2) 足関節底屈位固定
  2. ショートレッグキャスト
  3. 外側・(内側)スプリント
 IX.足関節
  1. U字型スプリント
  2. 後面スプリント(靴ベラ型)
  3. スパイラルスプリント
 X.足根骨
  1. グラフィン型キャスト
 XI.中足骨〜足指,足底
  1. 足底板
  2. 母趾用スプリント
第三部ソフトキャストの応用例
  1. 狭窄性腱鞘炎(ドゥケルバン)
  2. 狭窄性腱鞘炎
  3. PIP,DIP,MP関節捻挫
  4. 手関節捻挫
  5. テニス肘(外顆炎)
  6. 足関節捻挫(軽度の場合)
  7. 膝蓋骨脱臼,膝蓋大腿関節症
  8. 膝関節内側・外側側副靱帯損傷
  9. 腰部捻挫
  10. 胸部挫傷,肋骨骨折
 索引