やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき

 中医学の弁証方法を用いて臨床を行う学生や鍼灸師,医師が増えつつあります.しかし,中医専門の教育機関も少なく,なによりも中医学が教育に生かされているとは限りません.筆者が大学で担当している教科では基礎理論を学び,弁証理論を用いて証を立て,臨床現場で遭遇するさまざまな疾患に対して対応できる臨床家の育成を目指しています.
 東京で学生諸氏が「弁証ができるようになる!」というテーマで,講習を行う機会にめぐまれました.そこで講習会用の資料を本学中医学研究会OBの協力を得て編集し,タイトルを「中医学の招待」と題し,勉強会でこの資料による弁証トレーニングを行いました.
 「中医学の招待」と題した資料の内容は,まず弁証の仕方や考え方について,「患者へ何を問い,どう考えるか」「患者より情報を引き出すコツ」などを述べ,さらに症例を用いて具体的に弁証をマスターすることを目的としたものでした.実はその時に用いられた「中医学の招待」が本書の生まれるきっかけとなりました.
 初学者にとって中医学の用語は難しい,中医学的な考え方も難しい,これは私たちの日常の生活で食養生や予防,また漢字への「なじみ」が薄いのか,なかなか親しむことができません.
 現代医学に生理学や病理学があるように,中医学にも生理学と病理学はあります.たとえば英語を学ぶ者が英単語を学び,文法を習得して文書を組み立て,他人に伝える努力をしようとします.中医学も同じことです.鍼灸医学,漢方医学を学ぶ者が,専門の用語を覚えて,東洋医学の生理と病理の知識を身につけて,人体の仕組みを学び,臨床に応用できるように技能を訓練します.
 医学部でも英語を学んで,現代医学の生理と病理また解剖学の知識をマスターしなければなりません.
 本書はこれらの身近なことを少しずつでも,中医弁証ができるようになるためのマニュアルとして編集しました.用語に慣れるためには,「覚えるよりも慣れること,また使うこと」が大切です.そこで基礎理論よりトレーニングを始め,自然と中医学に親しめるようにしました.当初,中国の問題集を参考にしていましたが,中国の問題集をそのまま日本で使うことができません.日本での教育事情は中国のカリキュラムとは異なるためです.日本の教科書には中国の問題集を解くための十分な解説が少ないという点でした.そこで本書は学校協会指定教科書である「東洋医学概論」を付き合わせて,日本の教科書を参考に,設題をある程度まで解けるように改めて作り換えました.これは弁証を行う上の基礎知識を身につけ,自然に専門用語に親しめるように工夫し,家庭学習,「ひとりでも学べる弁証」のためのトレーニングとして出版する運びとなりました.
 本書の出版にあたり多くの人々にお世話になりました.上海中医薬大学の国際鍼灸センターの諸先生方,いろいろとご指導いただいた関西鍼灸大学の諸先生方,本学卒業生の天野総子さん,並びに担当編集の医歯薬出版株式会社の吉田邦男氏にこの場を借りて謝辞を申し上げます.
 2003年10月


本書の特徴

 ●弁証ができるための基礎知識を習得し,多くの設問を解くことで,家庭でも個人学習が容易に出来るようにしました.また,弁証の必要性と考え方について,より具体的に理解しやすくし,弁証に親しめるようにしました.
 ●設問は東洋療法学校協会指定教科書である「東洋医学概論」を基本に,中国の有名大学で用いられている例題集をリンクさせて,日本の教育実情に合わせて解答できるようにしました.
 ●設問は五者択一式で,わからないところは学校協会指定の教科書,参考書を用いれば解答が見つかります.
 ●教科書や参考書に記されている基礎理論などのポイントを随所に記述することで問題を解きやすくしました.
 ●学校協会指定教科書の学習を終えたあとの自己点検,自己評価ができます.
 ●難しい用語について問題を解いていくことにより「慣れ親しむ」ことができます.
 ●設問のポイントには「黄帝内経」素問,霊枢,および「難経などの古典文献中心に,古典のどこの部分に記述があるのかを記しました.
 ●臨床上よく遭遇することの多い問題点をあげて注意事項を具体的に列記しました.
 ●四診と弁証の関係などを具体的に示し,四診診断の重要性に触れています.
 ●臨床あるいは学習上で疑問を感じる点についても問題として取り上げてみました.
 ●解答と問題を2色刷りにしたことで,赤い下敷きなどを用いて,暗記とトレーニング学習ができるようにしました.
 (赤下敷きは各自でご用意下さい)
わかりやすい臨床中医実践弁証トレーニング 目次

まえがき 王 財源i
本書の特徴
参考文献

第1章 診断ができるようになろう
 1.弁証総論
  1.「弁証」って何だ?
  2.二つの目線を持とう!
  3.中医学はムズカシイ?
  4.人類の宝を自分の力にしよう!
  5.弁証はどこから生まれたのか!
  6.「弁証」とは弁別すること
  7.「本」と「標」
  8.一事が万事,私たちの肉体
  9.陽虚と陰虚
  10.本虚標実とは
  11.虚と実
 2.四診総論
  1.体表から体内を観察する
  2.体表へシグナルを送る仕組み
  3.四診は合参しよう
  4.弁証論治の意味
 3.弁証論治
  1.弁証論治をしてみよう!
 4.臨床における注意点
  1.望診術で心得ておかなくてはいけないこと
  2.聞診術で心得ておかなくてはいけないこと
  3.問診術で心得ておかなくてはいけないこと
  4.切診術で心得ておかなくてはいけないこと
  5.治療に対して心得ておかなくてはいけないこと

第2章 中医学用語を克服しよう!
A 基礎理論に関係のある用語
 1.気血津液
  I 気
   気の概念
   気の生成
   気の運動
   気の種類
    原気(元気)
    宗気
    営気(栄気)
    衛気
   気の作用
  II 血
   血の概念
   血の生成
   血の循環
   血の作用
   血と津の関係
  III 津 液
   津液の概念
   津液の生成
   津液の代謝
   津液の働き
   津液と気の関係
 2.蔵象
  I 臓腑概説
   臓腑概念
  II 五 臓
   ■ 心
    生理作用
    五行との関係
   ■ 肺
    生理作用
    臓腑概念
   ■ 脾
    生理作用
    五行との関係
   ■ 肝
    生理作用
    五行との関係
   ■ 腎
    気の生成
    五行との関係
  III 六 腑
   生理作用
  IV 奇恒の腑
   生理作用
  V 臓腑と古典
  VI 臓腑間の関係
   臓腑概念
   蔵象概論
   単臓腑
   二臓腑
 3.病因
  I 外感病因
   六気(淫)
   (一)風
   (二)寒
   (三)湿
   (四)燥
   (五)熱(火)
   (六)暑邪
  II 内傷病因
   (一)七情
   (一)七情
   (一)七情
   病因と飲食
   過労(虚労)の分類
   お血の概念
   お血の形成
   痰飲の基本概念
   痰飲の形成
 4.病機
  病機の概念
  気の病機
  血の病機
 5.防治原則
  防治原則の概念
  防治原則の役割
  正治と反治
  扶正ときょ邪
  治則と標本緩急
 6.経絡
  経絡の構成
  経絡の機能
  十二経の走行
  経絡の長さ
  脈気の循環速度
  経脈の深浅
  気血の量
  奇経八脈の働き
B 四診に関係のある用語◆
 四診
 1.望診
  望診の意義-視診
  神の種類
  色を望診する
  形体を望診する
  姿態を望診する
  舌を望診する
  舌と経絡の関係
  舌色で見分ける
  注意を要する舌
  舌と臓腑の関係
  舌と八網との関係
 2.聞診
  聞診の意義
  聞診と音声
  聞診と呼吸
  聞診と臭い
 3.問診
  問診の意義
  十問歌
  発汗
  気の不足を知る
  発熱の種類
  頭痛の種類
  血の不足を知る
  痛みの性質を知る
  便秘を分ける
  排尿障害
 4.切診
  I 脈 診
   脈診の意義
   脈状形成の原理
   脈状の種類
   脈状の四要素
   脈診の部位
  II 按 診
   按診の概念
   按診の意義
   按診の注意事項
   腹診の種類
   虚里のポイント
   按診と圧痛

索引
 東洋医学用語・その他
 古典文献