やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序

 近年,高齢少子社会,地域医療の発展,医療や療養に対する多様な価値観などにより,リハビリテーションはその必要性を増している.リハビリテーションというと,機能訓練や社会復帰ということがまず頭に浮かぶ.しかしその理念は,障害をもった人々が共に地域社会で暮らすための方法を追求することである.患者や障害者と接する専門職は常にリハビリテーションの理念と,その知識や技術の実際的応用が求められる.
 今回この本は大きく改訂された.その理由は教育ガイドラインが示されたことによる.全国の学生がガイドラインに沿い勉強できるよう編成しなおし,内容も新しいものとした.
 第I章は「リハビリテーション医学の理念と方法」であり,総論としてリハビリテーションの理念や障害の概念,またリハビリテーションのさまざまな治療技術について総括的に記載されている.
 第II章は「運動のしくみ」である.リハビリテーションにとって基礎となる運動学を中心に述べている.運動のメカニズムを知り,その治療原則を理解するのに必要な章である.また第II章の最後には,運動の成り立ちをもう少し詳しく学びたい人のために付録として「骨・関節・筋・神経の解剖と生理学」を載せた.この部分はガイドラインに示されていないが,リハビリテーションの基礎をより深く理解するのに役立つとともに,人体の運動や活動についての興味がますます膨らんでくるであろう.時間が許せば目を通していただきたい.
 第III章は各疾患のリハビリテーションについてガイドラインに沿って述べた.各疾患ごとにどのような問題があり,実際にリハビリテーションがどのように行われるか理解していただければと思う.最後の心疾患のリハビリテーションはガイドラインにないが,心臓に障害のある人の運動療法は盛んになっており,参考にしていただければ幸いである.
 正しいリハビリテーション知識を身につけられ,医療施設や地域においてチーム医療・チームケアを担う社会の一員として,患者さんや障害をもった人々のよりよい機能回復・維持と社会参加のために貢献されることを願っている.
 2003年1月
 著 者



 リハビリテーションとは大変広い意味をもつ言葉である.更生や社会復帰という言葉も思いつくであろうが,これらはリハビリテーションのごく一部をいい表わすにすぎない.適当な言葉がないまま,リハビリテーションというカタカナが定着してしまった.リハビリテーションの真の意味は“人間らしく生きる権利の復活”である.本書に示すリハビリテーション医学は,リハビリテーションを医学的側面から進めるための学問である.
 リハビリテーション医学の基礎のうち,最も大切なものは障害学と運動学であろう.第1章の総論ではリハビリテーション(医学)についての概略を述べ,さらに障害の評価(診断)法と治療法について述べた.評価とは一般医学でいう診断に相当するものであるが,病気の診断ではなく障害の診断が主である場合,評価という言葉が適切であり,広く用いられるようになった.評価には運動器の状態から日常生活動作や心理まで幅広い知識が必要であることを理解してほしい.治療についても同じで,各専門職の治療が必要であることが理解されるべきである.
 第2章は各疾患ごとのリハビリテーションについての具体的内容である.その疾患と障害についてよく知ることが適切な治療とフォローアップにつながる.私達は単に疾患や障害を治療しているのではなく,疾患に悩む人(患者)や障害に困っている人(障害者)を治療していることを忘れてはならない.全人的アプローチともいわれるが,治療は患者と治療者の人格のふれあいである,という気持から治療を出発させるとよい結果につながる.
 第3章はリハビリテーション医学の基礎となる運動学である.障害やその治療のメカニズムを理解するために必要な学問であり,多くのページがさかれている.まず,解剖を理解し,運動のメカニズムを理解することが望まれる.
 リハビリテーションはけっして後療法ではない.人体組織は疾病により,また安静臥床のみでも著しく障害される.運動は人体の機能維持と回復には欠かせないことを念頭におき,正しい指導を必要とする.むろん,運動による危険性を回避する知識(リスク管理とよばれる)も要求される.
 学生諸君は正しいリハビリテーション知識を身につけ,障害をもつ患者のために役立ち,社会に貢献することをめざしてほしい.
 なお,本書の執筆にご協力いただいた国立喧シ古屋病院付属リハビリテーション学院米澤久幸,近藤 登,渡邊潤子,斎木しゅう子の諸先生方に深謝する.
 1991年5月
 著 者
I リハビリテーション医学の理念と方法
 1.リハビリテーションの概要
  A.リハビリテーションの理念
    (1)リハビリテーションとは 2)ノーマライゼーション
  B.リハビリテーション医学
    (1)医学の体系とリハビリテーション (2)リハビリテーション医学の沿革 (3)リハビリテーション医学の対象 (4)リハビリテーション医学の構造
  C.障害のとらえ方
    (1)障害とは (2)WHOによる障害概念の変遷 (3)体験としての障害
  D.リハビリテーションの分野
  E.地域ケアと地域リハビリテーション
    (1)地域リハビリテーションの定義 (2)地域リハビリテーションとネットワーク
 2.医学的リハビリテーションの概要
  A.リハビリテーション医療の概念
    (1)リハビリテーションと医療の統合 (2)医療各時期のリハビリテーション
  B.リハビリテーションチーム
    (1)チームアプローチの必要性 (2)チームの構成メンバー
  C.医学的リハビリテーションの方法
    (1)医学的リハビリテーションの流れ (2)アフターケア
  D.小児,成人,老人における障害の特徴
    (1)小児 (2)成人 (3)老人
 3.障害の評価
  A.機能・形態障害の評価
    (1)長さと周径 (2)関節の動きと動作
  B.活動(activity)および活動制限(activity limitation)の評価[(従来の国際障害分類による)能力障害(disability)]の評価
    (1)日常生活動作の評価 (2)歩行の評価
  C.参加(participation)および参加の制約(participation restriction)の評価[(従来の国際障害分類による)ハンディキャップ{社会的不利:disability)]の評価
    (1)社会参加と意義 (2)環境因子
  D.合併症(廃用症候群)の評価
    (1)廃用症候群とは (2)廃用症候群の症候
  E.運動麻痺の評価
    (1)弛緩性麻痺の評価 (2)痙性麻痺の評価
  F.運動年齢テスト(運動発達テズト)
    (1)運動発達テストの意義 (2)運動発達評価法
  G.失行失認テスト(高次脳機能評価)
    (1)高次脳機能とは (2)失行と失認
  H.心理的評価
    (1)心理テスト (2)認知症(痴呆)のスクリーニング (3)障害と心理
 4.医学的リハビリテーション
  A.理学療法(physical therapy:PT)
    (1)運動療法の意義 (2)基本的な運動療法 (3)特殊な技術を要する運動療法 (4)応用的な運動療法 (5)運動療法機器 (6)物理療法
  B.作業療法(occupational therapy;OT)
    (1)作業療法とは (2)作業療法の種類 (3)治療に用いられる作業とその特徴
  C.言語聴覚療法(speech therapy:ST)
    (1)失語症 (2)構音障害 (3)言語発達の障害(小児期の言語発達の遅れ)
  D.装具療法と義肢(装具・杖・自助具・車椅子・義肢)
    (1)装具 (2)杖(cane,crutch) (3)自助具 (4)車椅子 (5)義肢
  E.リハビリテーション看護
    (1)リハビリテーション看護の意義 (2)リハビリテーション看護の方法 (3)社会復帰への援助
  F.ソーシャルワーク
    (1)ソーシャルワークとは (2)面接技術 (3)ケアマネッジメント
  G.リハビリテーション工学

II 運動のしくみ
 1.運動学の基礎
  A.関節と運動の力学
    (1)関節運動とてこ (2)空間における関節運動
  B.姿勢とその異常
    (1)重心と重心線 (2)異常姿勢
  C.運動路と感覚路
    (1)運動路 (2)感覚路
  D.反射と随意運動
    (1)反射とは (2)脊髄反射 (3)姿勢反射と立ち直り反射 (4)平衡反応 (5)連合反応と協同運動 (6)随意運動
 2.身体各部の機能
  A.脊柱・体幹の機能
    (1)脊椎 (2)脊柱 (3)椎間板 (4)脊柱の動きと筋の作用 (5)胸郭の動きと呼吸筋の作用
  B.肩甲帯・肩の機能
    (1)肩甲帯・肩とは (2)肩甲帯・肩の構造 (3)肩甲帯・肩に作用するおもな筋 (4)肩甲帯・肩の動き
  C.肘と前腕の機能
    (1)肘と前腕の構造 (2)肘と前腕に作用するおもな筋 (3)肘と前腕の動き
  D.手と手指の機能
    (1)手関節の骨構造と関節 (2)手関節と手に作用する筋 (3)手関節と手の動き (4)手のアーチと良肢ハ (5)内在筋プラスとマイナス肢位 (6)手の変形
  E.骨盤と股関節の機能
    (1)骨盤と股関節の構造 (2)骨盤と股関節に作用する筋 (3)骨盤と股関節の動き (4)股関節の異常
  F.膝関節の機能
    (1)膝関節の構造 (2)膝関節に作用するおもな筋 (3)膝関節の動き (4)膝関節の異常
  G.足の機能
    (1)足(足関節と足部)の構造 (2)足関節と足に作用するおもな筋 (3)足関節と足の動き (4)足のアーチと変形
  H.正常歩行と異常歩行
    (1)歩行とは (2)歩行のサイクル (3)歩行の速度とエネルギー消費 (4)歩行の分析 (5)異常歩行
  I.顔面および頭部の筋

II-付.骨,関節,筋,神経の解剖学と生理学
  A.骨の構造と機能
    (1)骨の機能 (2)骨の分類 (3)骨の構造 (4)骨とビタミン・ホルモン
  B.関節の機能と構造
    (1)関節の機能 (2)連結による分類 (3)形態による分類 (4)関節の構造
  C.筋肉の構造と機能
    (1)筋肉の種類 (2)骨格筋の形状 (3)骨格筋の微細構造 (4)骨格筋の収縮
  D.神経の構造と機能
    (1)神経細胞(ニューロン)とシナプスの構造 (2)シナプスの機能の特徴

III 各疾患のリハビリテーション
 1.脳卒中のリハビリテーション
  A.脳卒中とは
  B.運動機能評価
  C.急性期理学療法
  D.回復期理学療法
  E.回復期作業療法
  F.リスク管理
  G.言語治療
  H.ホームプログラムとアフタケア
  I.脳卒中リハビリテーションのゴール
 2.脊髄損傷(四肢麻痺,対麻痺)のリハビリテーション
  A.脊髄損傷とは
  B.脊髄損傷による症状と障害
  C.急性期の理学療法
  D.回復期の理学療法
    (1)訓練の進め方 (2)移動手段の確保と社会復帰
  E.リスク管理
 3.切断のリハビリテーション
  A.切断の原因と分類
  B.合併症
  C.理学療法と義肢装着
    (1)切断の評価 (2)切断から義肢の装着までの流れ
  D.各切断の特徴
  E.アフタケア
 4.脳性(小児)麻痺のリハビリテーション
  A.脳性麻痺とは
  B.脳性麻痺児の評価
  C.理学療法とその他のケア
  D.リスク管理
 5.慢性閉塞性肺疾患のリハビリテーション
  A.慢性閉塞性肺疾患とリハビリテーション
  B.肺理学療法
  C.リスク管理
  D.その他の疾患の肺理学療法
 6.おもな整形外科疾患の理学療法
  A.いわゆる五十肩
    (1)五十肩とは (2)評価 (3)理学療法 (4)生活指導
  B.腰 痛
    (1)腰痛とは (2)評価 (3)理学療法 (4)生活指導
  C.変形性膝関節症
    (1)変形性膝関節症とは (2)評価 (3)理学療法 (4)生活指導
  D.末梢神経麻痺
    (1)末梢神経障害とは (2)評価 (3)治療の原則 (4)各末梢神経麻痺の特徴 (5)生活指導
  E.大腿骨頸部骨折
    (1)大腿骨頸部骨折とは (2)評価 (3)理学療法 (4)生活指導
  F.関節リウマチ
    (1)関節リウマチとは (2)評価 (3)理学療法と作業療法 (4)生活指導
 7.心疾患のリハビリテーション
    (1)心疾患のリハビリテーションとは (2)評価 (3)理学療法とその他のケア (4)リスク管理