やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 看護学生は,看護技術を看護実践能力としてどのような過程を経て身につけていくのでしょうか?
 はじめは学内で少しの専門知識とともに技術の基本を学習しますが,これを土台に練習を重ねて,その後臨地に出て,実際に患者さんを受け持ちさせていただきます.そこでは,目的を達成するよう,対象にかなった方法で,自己の力を駆使して適用させていくでしょう.学生は,この体験を通し獲得した知識・技術を評価(クリティカルシンキング)しながら,さらに自己の技術として修得・発展させていくことでしょう.図は看護技術修得の模式図を示したものです.
 臨地実習では,学内で学んだ看護技術を土台に,看護過程にそった看護活動の一つとして実践していきます.このことは,看護の対象を認識し,どんな看護を必要としているかを思考・判断(アセスメント)し,看護技術を提供します.この過程では,一人の看護者として成長していくために必要な,自主的・倫理的・研究的・創造的態度も養われる大切な場でもありましょう.
 一方,臨地における看護活動は学習した技術の応用であり,しかも,多くが複合された集合体です.例えば,対象を把握するには,コミュニケーションをとりながら相互関係を構築し,また,観察を通して相手を理解し,対象にかなった方法で,身体を清潔にするなど,それぞれの単元で学習したことを統合していかなければなりません.また,近年,患者さんの権利意識の高揚などもあって,当然とはいえ高いレベルの看護が求められますので,質の高い技術力で看護活動をすることが必須となりましょう.
 本書は看護学実習で学生が体験する看護場面を中心にシミュレーション化してみました.シミュレーション学習は,学生に“特別な状況,危険のない環境”で実践力を身につけるのに適していると言われています(R.Henker).本書に出てくる場面は,臨地実習で遭遇した場面を基にシミュレーションしたものです.受け持ち患者さんに学んだ知識・技術を学生がうまく適用できるように,場面から必要な情報を読み取り,判断・根拠,留意点,方法などについて,一連の計画プロセスで検討していけるように設定してみました.分かりやすくするために,(1)タイトルをつけた場面,これには患者さんの発達段階・性別・状況などを,(2)看護活動は主となる看護技術を,(3)計画にはその判断と根拠を,(4)実施には援助方法の写真を順番に示しました.また,Point(要点),Attention(留意事項),Column(一筆),EBN(根拠)などを一言メモ風に記しました.
 看護実践能力は一度体験したからといってすぐに身につくものではありません.何度も何度も繰り返し学習することで上達していくことでしょう.本書を一つの実習前の学習用として,あるいは,実習後のあの展開でよかったのだろうかと疑問を感じた時の確認書などとして活用できるかと思います.また,場面の一部分をとってコミュニケーションの練習用に,また,このようなときどのように判断すればよいか等の参考にしていただくなど,いかようにでもご活用いただければ幸いです.
 2013年2月
 執筆者一同
 はじめに
第1章 病床環境を整える
 CASE 1 歩行ができる患者のリネン交換
 CASE 2 ベッド上臥床患者のリネン交換
第2章 バイタルサインの測定
 CASE 1 臥床患者のバイタルサインの測定
 CASE 2 座位がとれる患者のバイタルサインの測定
第3章 身体の清潔
 CASE 1 術後患者の全身清拭
 CASE 2 下肢に冷感を訴える患者の足浴
 CASE 3 洗面所における洗髪台での洗髪
第4章 寝衣の清潔
 CASE 1 点滴静脈注射施行中の患者
 CASE 2 臥床患者のパジャマの交換

 COLUMN
  患者の持ち物(私物)管理は自己責任!
  環境整備と個人用防護具(personal protective equipment:PPE)
  ナイチンゲールは環境についてどのように言っているか?
  リネンの管理:リネンの洗濯は, 外部委託業者だから安心?
  アネロイド血圧計を推奨する理由
  血圧値の分類
  パルスオキシメーター
  「清拭」 にまつわる意味
  熱布清拭を行うということ
  臥床患者の洗髪に使用する用具
  「点滴」にまつわる用語や略語
  着物の前合わせは右前(右の身頃が下にくる)