やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 「看護過程にそったポケッタブル・マニュアル“基礎看護技術”」が発行されてから21年が経過しました.これは看護技術を学習する時,手順のみを学習するのではなく,看護過程を展開していく上で使う看護技術として学習できることを意図して作成されました.おかげさまをもちまして同書は多くの看護学生や看護師の皆様にご活用いただくことができましたことを心より感謝申し上げます.
 今回は新シリーズ「ナーシング・ポケットマニュアル」の中の一冊として出発することになりました.これは前シリーズ同様に看護技術を学習する時に参考書として活用できることをねらいとしております.また今回は特に臨地実習で活用できるような内容を組み入れました.臨地実習では学内で学んだ基本技術を活用しながら実際の患者様に看護を実践していきます.患者様は病理的状態など(疾病の症状や治療・処置など)によって,生活行動がさまざまに変化します.このような患者様の状態に応じた援助を学習していくことが臨地実習です.
 学内において基本的な看護技術を学習しても,臨地実習に行くと患者様の状態によって,基本的な看護技術だけでは援助しきれない,いわゆる“こんな時どうすればよいのか?”という場面にぶつかることが多々あります.このような時の看護技術の応用の仕方もとりあげ,学習の助けになるものを作りたいと考え,本書を作成しました.

 本書の構成と特徴は次のようになっています.
 ●「看護の独自の機能は生活行動への援助である」というV・ヘンダーソンの考えを基に,14の基本的欲求を充足する行動(生活行動)を助けるための看護技術を柱にして,医師の立てた治療計画を実行するのを助ける技術,いわゆる診療の補助技術も組み入れて構成しました.
 ●看護技術を活用して援助する時の手順(準備から実施方法,実施時の留意点)に沿ってまとめました.
 ●援助時のポイントと根拠を簡潔に明示しました.
  根拠は看護技術を活用する時に押さえておく必要のある知識です.
 ●患者様はさまざまな状態にありますので,“こんな時どうするのか?”という疑問をもった場面での援助の方法を明記しました.
 ●コンパクトながら必要最低限のことが網羅されています.また携帯に便利です.

 このような特徴をもった本書を看護学生の皆様には臨地実習のみではなく学内の実習でもぜひ活用していただきたいと思います.また臨床の現場で働いていらっしゃる看護師の皆様にもお使いいただければ幸いです.
 2011年7月
 岡本恵里・玉木ミヨ子
第1章 正常に呼吸する
呼吸測定(宮ア素子)
 呼吸測定中に,患者が話し出す場合
体温測定(宮ア素子)
 痩せていて,体温計が腋窩に密着できない場合
脈拍測定(宮ア素子)
 結滞がある場合
血圧測定(宮ア素子)
 上腕が細い(太い)場合
 肘関節に拘縮がある場合
 上肢に麻痺やシャント,点滴静脈注射(DIV)を実施している場合
酸素吸入(カヌラ法)(蒲生澄美子)
 酸素流量が低流量(加湿をしない)の場合
 車椅子での移動中に酸素投与が必要となった場合
パルスオキシメーター(蒲生澄美子)
 指先が冷たい(センサーが感知しない)場合
一時吸引(鼻腔・口腔内吸引)(蒲生澄美子)
 気管内吸引(気管内挿管チューブ)を行う場合

第2章 適切な飲食をする
食事介助(佐藤智子)
 嚥下障害がある場合
 視力障害がある場合
経鼻経管栄養法(佐藤智子)

第3章 あらゆる排泄経路から排泄する
排尿・排便の介助(尿器・便器)(木根久江)
 側臥位をとることができない患者の便器の挿入(下肢の牽引療法中の場合)(木根久江)
 運動制限のある患者の便器の挿入(股関節の手術後で屈曲・内転・内旋が制限されている場合)(木根久江)
 温罨法により自然な排便・排ガスを促す方法(腰背部に熱布を用いる方法)(酒井見名子)
一時的導尿(木根久江)
持続的導尿(木根久江)
 カテーテル挿入が困難な場合
浣腸(グリセリン)(木根久江)
 側臥位をとることができない患者の場合
摘便(木根久江)

第4章 身体の位置を動かし,また良い姿勢を維持する
体位変換(ボディメカニクス)(関口恵子)
移乗・移送(車椅子)(関口恵子)
移乗・移送(ストレッチャー)(関口恵子)
 各種チューブ・ラインを挿入中である場合(ドレーン,チューブ,点滴ライン,酸素吸入,輸液ポンプを使用中)
 片麻痺がある場合
 膝関節が屈曲できない患者の車椅子移乗を行う場合
  (A.看護師2人で移乗動作を行う場合)
  (B.患者が自力で移乗する場合)

第5章 睡眠と休息をとる
リラクセーション(腹式呼吸法:椅座位で行う場合)(鈴木聡美)
アロマセラピー(鈴木聡美)

第6章 適切な衣服を選び,それを着たり脱いだりする
寝衣交換(玉木ミヨ子)
 上肢に片麻痺,持続点滴,創傷などがある場合(寝衣の袖が広い場合)
 輸液ポンプを使い上肢に持続点滴をしている場合(寝衣の袖が細い場合)
 かぶりのパジャマを着ている臥床患者の場合(上衣の脱がせ方,着せ方)

第7章 衣類の調節と環境の調節により,体温を生理的範囲内に維持する
罨法(氷枕を使った冷罨法)(酒井見名子)
 発熱している場合に行う冷罨法
罨法(湯たんぽを使った温罨法)(酒井見名子)

第8章 身体を清潔に保ち,身だしなみを整え, 皮膚を保護する
全身清拭(蒲生澄美子)
 浮腫(腹水)がある場合
 張りのない皮膚(高齢者など)の場合
 掻痒感が強い場合
 創部・褥瘡がある場合
整容(結髪)(吉武幸恵)
整容(髭剃り)(吉武幸恵)
口腔ケア(今野葉月)
 意識障害がある(自分で洗口できない)場合
 経鼻経管栄養(栄養チューブの留置)をしている場合
 出血傾向がある場合
 舌苔がある場合
 義歯を使用している場合
洗髪(仰臥位・洗髪車使用)(吉武幸恵)
 硝子体手術(黄斑円孔や網膜離など,眼内に空気やガスを注入する手術)後,一定期間のうつ伏せ姿勢の保持が必要な場合
 喉頭摘出術後や頸椎損傷など,頸部の安静が必要な場合
足浴・爪切り(寺岡三左子)
 真菌症がある場合
 出血傾向がある場合
手浴(寺岡三左子)
陰部洗浄とオムツ交換(村岡博美)
 膀胱留置カテーテルを挿入している女性の場合
 大腿静脈から中心静脈カテーテルを挿入している場合
手洗い(皮膚・粘膜の清潔)(今野葉月)
 手に唾液・排泄物・血液など(湿性生体物質)が付着した場合
創部消毒/皮膚消毒(無菌操作)(今野葉月)
 皮膚が弱い人に創部消毒を行う場合

第9章 環境のさまざまな危険因子を避け,また,他人を傷害しないようにする
病床の環境整備(ベッド上に臥床患者がいる場合)(菊池昭江)
臥床患者のシーツ交換(2人で行う場合)(菊池昭江)
 膀胱留置カテーテル挿入中の臥床患者の場合
 胸腔ドレーン挿入中の臥床患者の場合

第10章 自分の感情,欲求,恐怖あるいは気分を 表現して他者とコミュニケーションをもつ
コミュニケーション/カウンセリング(岡本恵里)
 何から話したらよいかわからない場合(コミュニケーションの導入)
 沈黙が続く場合

第11章 自分の信仰に従って礼拝する
エンゼルケア(玉木ミヨ子)
 浮腫がある場合
 中心静脈カテーテルが挿入されている場合

第12章 達成感をもたらすような仕事をする
役割達成への援助(今野葉月)

第13章 遊ぶ,あるいはさまざまな種類のレクリエーションに加わる
気分転換の援助(レクリエーション)(岡本恵里)
 認知症のある患者のレクリエーション

第14章 “正常”な発達および健康を導くような学習をし, 発見をし,あるいは好奇心を満足させる
個別指導(宮ア素子)
 視覚障害がある場合
 認知症がある場合
集団指導(宮ア素子)
 対象者同士の交流により,不安が増強した者がいる場合

その他 診療・治療に応じた技術
内服薬の与薬(藤井洋子,岡本恵里)
坐薬の与薬(藤井洋子,岡本恵里)
注射(皮内・皮下,筋肉内,静脈内,点滴静脈内)(渡邉亜紀子)
上腕での静脈血採取(真空採血)(白石葉子)
 血管が細くて見えにくい場合
 採血針を刺入した時に,患者が電撃痛や痺れ感を訴えた場合
 誤って動脈に採血針を刺入してしまった場合
 止血しにくい状態の患者の場合
 針刺し事故を起こしてしまった場合
医療廃棄物の処理(白石葉子)
血糖測定(看護師が実施する場合)(鈴木聡美)

その他 観察技術
フィジカルアセスメント(視診・触診・打診・聴診)(岡本恵里)
 患者が「息苦しい…」「胸がチクチク痛い…」「お腹に鈍い痛みが…」という状態になった場合

付録
 検査データ(岡本恵里)
 形態機能図(岡本恵里)
 引用・参考文献