やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

●推薦の言葉
 糖尿病の運動療法の指導を30年続けてきた著者,藤沼宏彰氏の運動療法に対する思想が本書には凝縮されています.
 第1章の実践編では,糖尿病の運動療法はこれほどいろいろな種類があるのかと,驚かれる方が多くいらっしゃると思います.患者さんも,患者さんを指導する運動指導士にも役立つこと必見です.
 第2章の運動実践者からの「声」では,運動療法を実体験し継続している患者さんの体験談が載っています.なんと皆さん運動を楽しんでいるのでしょう.楽しくなければ運動ではない,という思いを改めて感じました.また,楽しい運動療法を指導していくことの重要性を痛感します.
 第3章の「運動療法なぜ必要?」の章では,運動療法の効果を医学的に解りやすく説明しています.また,運動療法の具体的効果を,患者さんのデータを示しながら解説しています.患者さんも運動指導士の方も,なるほどと言っていただけるのではと思います.
 第4章は,運動指導室30年間のあゆみについて記載されていますが,歴史の重みを感じます.当時,非採算部門の運動療法のための敷地を経営陣が認めて下さったことに敬意の念を禁じ得ません.運動療法に情熱を込め,運動指導室を立ち上げて下さった故阿部佑五先生,運動療法に花を咲かせて下さった故阿部隆三先生の偉大さをひしひしと感じます.
 藤沼宏彰氏は,運動療法に関する論文も多数書かれています.これらの功績で,糖尿病治療研究会の第1回優秀賞を受賞されています.また,30年前からの小児糖尿病サマーキャンプにおける活動で,小児糖尿病功労賞も受賞されています.本書は,30年の糖尿病運動療法の経験から生まれた他に類をみない書籍となりました.このような機会を与えて下さった,医歯薬出版の田辺靖始氏に感謝し,推薦の言葉とさせていただきます.
 平成17年1月吉日
 太田西ノ内病院 糖尿病センター長 清野弘明

●はじめに
 私が病院に職を得,糖尿病の運動療法を担当するようになってから30年を迎えようとしています.ここ数年の間に,分子細胞レベルでの運動の効果が明らかにされ,糖尿病治療における運動療法の意義が確立されつつあるように思います.今でこそ市民権を得たといわれる運動療法ですが,30年前はほとんど手がつけられていない状態でした.
 私が就職した1975年の日本糖尿病学会誌や「糖尿病学の進歩」の抄録集を見ると,糖尿病は患者教育が重要であり,治療の基本は食事療法と運動療法であると認識されていたようです.食事療法については,すでに日本糖尿病学会編集の『食品交換表』が出版され,全国的に広く普及していました.学会の演題数も12題と多く,盛んに研究されていたようです.しかし,運動療法に関する報告はわずか2題であり,いずれも基礎的な研究報告でした.
 そのような時代に運動指導のための施設をつくり,職員を配置した,当時の太田綜合病院上層部の英断に敬意を表すると同時に,それを担当するようになった自分自身に不思議な巡り合わせを感じています.体育大学を出て教員を目指していた私が,なぜこのような道を歩くようになったのか.当時,副院長であった故阿部佑五先生との出会いは,私の人生最大のターニングポイントでした.
 各地に運動療法が広まってほしい.たくさんの患者さんに運動の楽しさを知っていただき,運動を継続していただいて,その効果を実感してほしい.そのためには運動を指導する専門のスタッフが必要であり,各地に運動の指導者が増えてほしいと願っておりました.
 現在,各地の糖尿病スタッフ研究会で,運動療法について,たびたびお話させていただくことがあります.また,患者さんやスタッフの方々に,実際に運動を体験していただくこともあります.しかし,いずれも単発であり,いつもお伝えしきれないものを感じております.
 そのようなとき,医歯薬出版の田辺靖始さんから出版のお話をいただきました.私にとってはまたとない機会であり,非常に光栄なことです.田辺さんには私の最初の著書である『患者さんとスタッフのための糖尿病 運動のすすめ』(阿部隆三・監修,藤沼宏彰・著,本体2,000円+税)を出版する際にも,大変お世話になりました.ふたたび企画をいただき,とても感謝しています.
 本書は,試行錯誤の繰り返しの私のつたない経験をまとめたものですが,これから運動を始めようとする患者さん,運動療法の指導を志すスタッフの方々にとって,少しでもお役に立つことができれば幸いと思い,喜んでお引き受けしました.
 この本のイラストは当院の患者さんであり,運動指導室の常連である関根慎一郎さんに担当していただきました.関根さんは137kgという超肥満から,50kgの減量に成功し,それを9年間維持している方です.いわば運動指導室の優等生ということができるでしょう.さまざまなお仕事をこなす忙しい中,私の本のイラストを担当して下さいました.作品は私の意図するところをしっかりと表してくれています.また,運動指導室を利用する多くの皆さまから体験談をお寄せいただきました.患者さんと一緒に本を出版することができて,とてもうれしく思うと同時に,心より感謝しています.
 最後に私をこの道にお導き下さいました故阿部佑五先生,お育て下さいました故阿部隆三先生に深く感謝いたします.そして,今回,糖尿病センター設立当時のお話をお聞かせいただいた井上淳先生,原稿のご校正をいただき,推薦の言葉をお寄せいただいた現センター長の清野弘明先生に厚く御礼を申し上げます.ありがとうございました.
 平成17年1月吉日
 藤沼宏彰

●本書の利用の仕方
 この本は4章からなっています.それぞれが独立した内容であり,どこから読んでいただいても結構です.興味のあるところからお読み下さい.
 第1章は,運動の実践編です.私たちが運動指導室で実施している実際の運動を,豊富なイラストを用いてお示ししました.狭い場所でも手軽にできる運動,患者さんに興味をもっていただける運動,さまざまなレクリエーション・スポーツの解説,これらのことを知りたい皆さまはこちらをご覧ください.明日からの運動療法や運動指導に利用できる,実践的な内容です.
 第2章は,患者さんの声です.長年運動指導室を利用して運動を継続されている,たくさんの方々に原稿をお寄せいただきました.糖尿病といわれたときの気持ち,なぜ運動を継続することができたのか,患者さんから見た当院の運動指導など,患者さんの生の声から運動の効果と重要性を感じ取っていただけるものと思います.そして,それはこれからの運動指導のため,あるいはご自身の運動実践のために生かしていただけるものと考えています.
 第3章には,糖尿病の運動療法に関する基礎的な知識をまとめてあります.なぜ運動療法が必要なのか,運動するとどのような効果があるのか,運動を安全に効果的に行うにはどうすればよいか,運動を継続するためには何が必要かなどについて,教科書的なことが書いてあります.患者さんにお話しするような,できるだけ平易な言葉で表現したつもりです.スタッフの方々には多少物足りないかもしれませんが,患者さんに伝えるときの参考にしていただければ幸いです.また,できるだけ最近の知見を交えながら書いたつもりですが,私の能力の至らないところは,医歯薬出版から刊行されている,『新版 糖尿病運動療法のてびき』(糖尿病治療研究会編,本体3,200円+税)などをご参照下さい.
 第4章では,太田西ノ内病院糖尿病センター運動指導室の歴史と現状,そしてこれからの展開についてまとめてみました.なぜ30年近くも前に運動指導室ができたのか,故阿部佑五先生,故阿部隆三先生との出会いと先生たちの情熱,西ノ内病院運動指導室の現状と将来,これからの運動療法への期待などが書いてあります.私の履歴を綴ったようになってしまった部分もあります.しかし,30年近く続いた太田西ノ内病院運動指導室の歴史を書き残すことができたことは,私にとって非常に感謝すべきことであります.
 読者の皆さまが興味をもたれた章から,どうぞページをお開き下さい.
・推薦の言葉(清野弘明)
・はじめに(藤沼宏彰)
・本書の利用の仕方

第1章 さあ,まずは楽しく運動!―実践編
 1 有酸素運動
  1 歩く(ウォーキング)
  2 自転車(バイク)
  3 踏み台昇降運動(ステップ・エクササイズ)
  4 水中運動(アクア・エクササイズ)
   (1) 水中体操
   (2) 水中ウォーキング
   (3) 水泳
 2 体操
  1 ストレッチング
  2 タオルの体操
  3 棒の体操
  4 ボールの運動
  5 ビーチボールの運動
  6 筋力トレーニング
 3 レクリエーション・スポーツ
  1 ハイキング
  2 スキー
  3 歩くスキー
  4 ゴルフ
  5 テニス
  6 バドミントン
  7 バレーボール
  8 太極拳
  9 社交ダンス(ソシアルダンス)
  10 運動指導室のレクリエーション・スポーツ
第2章 運動実践者からの「声」―こんな思い,こんな工夫
 ・運動指導室・運動の思い出(関根慎一郎様)
 ・おしゃれができるようになりました(佐藤次子様)
 ・老いてもゴルフ,ダンス,旅行を楽しむために(藤田公平様)
 ・運動でスッキリ,スマート(関三登子様)
 ・私と運動指導室(松本幸一様)
 ・全国の病院に運動指導室を(池田ミサコ様)
 ・運動指導室との出会い(日下俊夫様)
 ・70にして目覚める(柳内カツ子様)
 ・運動療法に「ありがとう」(島喜代子様)
 ・運動は素晴らしい(佐々木光幸様)
 ・最も病院らしくないところ(飯塚千枝子様)
 ・運動とのかかわりのなかで生まれたもの(八代清美様)
 ・運動の大切さ(池上啓子様)
 ・お菓子の誘惑(西山イシ様)
 ・糖尿病と私(渡辺五郎様)
 ・がんばらず,そして楽しく(鈴木冨士美様)
 ・室長から皆さまヘ 楽しくなければ続かない
 ・体験談番外編(藤沼宏彰)
第3章 運動,なぜ必要?―基本編
 1 なぜ運動が必要か
  1 運動療法の基本的意義
  2 健康を支える3本の柱
 2 運動の効果
  1 肥満に対する効果
  2 糖尿病に対する効果
  3 関連疾患に対する効果
  4 体力に対する効果
  5 精神に対する効果
 3 運動を始める前に
  1 メディカル・チェック
  2 フィジカル・チェック
  3 ライフスタイル・チェック
 4 運動の仕方
  1 基本的な運動の仕方
  2 基本的な運動ができない方に
 5 継続のために
  1 継続のコツ
  2 指導のポイント
  3 運動の指導者として
第4章 太田西ノ内病院運動指導室30年間のあゆみ―広がってほしい運動の輪
 1 年表
 2 「ささはら病院」糖尿病センターの誕生まで
 3 運動指導室のこれまで,いま,これから
  1 これまで
  2 いま
  3 これから