やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 近年,我が国における社会構造や医療体制の変化に伴い,医療費削減,在院日数が短期化される一方で,安心・安全な医療を求めるニーズはさらに高まっています.手術医療においても治療の進歩とともに,難度の高い手術の増加,手術で使用する機器が高度化・複雑化されています.その中で質の高い医療を提供するため,医師・看護師,放射線技師,臨床工学技士,薬剤師など異職種が,患者を中心としてひとつのチームとなり治療にあたっています.手術室においてはチーム医療を向上させるために,各職種が専門性を向上させるだけでなくスタッフ間の連携を深めていく必要があるといわれており,看護師はチームの要となる調整役を担っていくことを期待されています.手術を受ける患者の身体の状態について情報を共有し,患者の安全かつ合併症予防に留意することで,手術をスムーズに遂行し早期回復を実現するための医療・看護を提供しなければなりません.また,手術看護を手術室内での看護にとどめることなく,手術を受ける患者を中心とした継続看護,いわゆる周手術期看護としてとらえ,手術室での看護実践を多領域の看護職や多職種に明示していくことでより安全な看護を提供できると思っています.
 本書では,手術室看護師に必要な基礎的な医学的・薬理学的な知識,手術室で必要な看護技術,日頃行われている看護実践を看護過程に沿ってまとめた事例を通して,これまであまり示されてこなかった手術室からみた周手術期看護を可視化してみようと試みました.執筆者は,手術室で働く手術看護認定看護師がほとんど担当し,看護実践に必須の知識・理論と,臨床で行っているエキスパートナースの実践知を結びつけて,手術室で行われる看護を活き活きと伝えようと努力しました.
 1章では,手術侵襲や麻酔が生体に及ぼす影響について詳しく記述し,手術室の看護師のみならず,手術に関連する部署で働く看護師や看護学生にもよく理解できる内容となっています.2章は,手術中に起こり得るさまざまな合併症予防,特に手術体位固定とその看護を取り上げています.3・4章では,手術室看護師が実践する周手術期看護を,術中看護を中心とした看護過程の展開を通して示しました.手術室内での器械出し看護・外回り看護の実際,チームの中での看護師の役割,患者の擁護者としての看護師の役割が詳しく記載されています.事例には,緊急時対応,合併症のある人の手術,小児・高齢者など,特別な知識や対応が必要となる事例を取りあげ,手術患者の状況を的確にアセスメントして看護実践する方法を示しました.
 手術室勤務になる新人はもちろん,ローテーションで初めて手術看護に携わる人,手術室勤務2〜3年目でこれまでの実践を理論と照らし合わせることによってステップアップしたい人,そして,周手術期看護に携わる部署で働く人には術前・術後管理において参考にできる内容になっています.これまで他部署の看護師が目にすることが少なかった「患者が手術をどのように受けているのか」「手術中の患者の状況がわからない」「手術室での看護とは何か」が見えることにより,患者を中心とした周手術期看護がより明らかになっていくことを期待しています.5章では,手術看護の現状を理解していただくために手術看護認定看護師の活動の実際や手術室看護師のキャリアアップについて収録しました.
 本書が,少しでも手術看護の発展に寄与でき,一人でも多くの手術室看護師や周手術期に関わる看護師の看護実践に役立つことで,患者が安心して手術を受けられ,早期回復が実現できることを願っております.
 2011年3月 編者
第1章 解剖生理と麻酔の影響(基本知識)
 1.基礎的な解剖生理とモニタリング(村井律子,大西真裕,豊島康仁)
  1 呼吸(村井律子)
   1)呼吸器系の解剖
   2)呼吸器系の生理
   3)全身麻酔への影響
   4)呼吸のモニタリング
   5)術前訪問での患者評価
   6)気道確保と麻酔覚醒
  2 循環(大西真裕,村井律子)
   1)循環器系の解剖
   2)循環器系の生理
   3)体循環のモニタリング
  3 神経系(豊島康仁)
   1)神経系の解剖
   2)中枢神経系の生理
   3)神経系のモニタリング
 2.手術侵襲と生体反応(豊島康仁)
   1)侵害情報の伝達
   2)サイトカインによる炎症反応・免疫系
   3)神経・内分泌系の生体反応
   4)代謝系の生体反応
   5)手術侵襲に対する生体反応とその推移
 3.麻酔侵襲と安全管理(豊島康仁)
   1)麻酔の種類と適応
   2)全身麻酔
   3)脊椎くも膜下麻酔
   4)硬膜外麻酔
   5)麻酔の安全管理
第2章 手術体位
 1.手術体位の基本と看護師の役割(岩田奈津代)
   手術体位について 倫理的配慮 生体に及ぼす影響 二次的損傷予防
  1 仰臥位(岩田奈津代)
   1)生体への影響
   2)体位固定のポイント
  2 側臥位(岡田貴枝)
   1)生体への影響
   2)側臥位の手順と注意点
   3)体位固定のポイント
  3 腹臥位(大久保千夏)
   1)生体への影響
   2)腹臥位の手順と注意点
   3)体位固定のポイント
 2.特別な配慮を要する患者への対応(岩田奈津代,岡田貴枝,大久保千夏)
   1)シャントがある患者への対応
   2)褥瘡・皮膚損傷の可能性が高い患者への対応
   3)麻痺のある患者への対応
第3章 術中の患者の看護
 A.緊急時の対応
  1.緊急手術(吉川昌弥)
   1)緊急手術を要する疾患
   2)緊急手術受け入れの流れ
   3)情報収集
   4)事例展開
    ケース紹介 患者情報 看護の実際 アセスメント 看護計画と看護展開 事例のまとめ
   5)緊急手術における看護のポイント
  2.大量出血(守屋優一)
   1)基本的知識
   2)危機的出血時の対応
   3)事例展開 手術中に大量出血をした患者への対応
    ・事例展開の実際
     ケース紹介 患者情報 術前アセスメント 術中経過 術中の看護展開 事例のまとめ
   4)大量出血時の看護のポイント
 B.合併症のある患者の手術
  1.糖尿病(久野昭子)
   1)病態の解説
   2)周手術期への影響
   3)事例展開 糖尿病を基礎疾患にもつ患者の上行結腸切除術
    ・事例展開の実際
     ケース紹介 患者情報 アセスメント 看護計画と看護展開 事例のまとめ
   4)看護のポイント
  2.高血圧(島田裕子)
   1)病態の解説
   2)高血圧患者の周手術期における血圧コントロール
   3)事例展開 高血圧を基礎疾患にもつ患者の頸動脈内膜切除術
    ・事例展開の実際
     ケース紹介 患者情報 アセスメント 看護計画と看護展開 事例のまとめ
   4)看護のポイント
  3.心疾患(古島幸江)
   1)病態の解説
   2)抗凝固剤治療中の患者の術前準備
   3)術中看護のポイント
   4)事例展開 僧帽弁閉鎖不全症,心房細動のある患者の大腿骨骨頭置換術
    ・事例展開の実際
     ケース紹介 患者情報 アセスメント 看護計画と看護展開 事例のまとめ
   5)看護のポイント
  4.呼吸器疾患(徳山薫)
   1)病態の解説
   2)周手術期への影響
   3)事例展開 呼吸器合併症をもつ患者の胃全摘術
    ・事例展開の実際
     ケース紹介 患者情報 アセスメント 看護計画と看護展開 事例のまとめ
   4)看護のポイント
 C.対象別看護
  1.手術を受ける高齢者の看護(佐々木久美子)
   1)加齢に伴う諸機能の変化
   2)高齢者の手術における主な症状と看護援助
   3)高齢者に多くみられる術後合併症
   4)周手術期における認知症高齢者の看護
   5)事例展開
    ケース紹介 患者情報 アセスメント 看護計画と看護展開 事例のまとめ
   6)看護のポイント
  2.手術を受ける子どもの看護(犬童万里代,峯川美弥子)
   1)子どもの身体的・心理的特徴
   2)手術を受ける子どもへの心理的支援
   3)子どもの麻酔と術中管理
   4)事例展開 鼠径ヘルニアで手術を受ける子どもの看護
    ・事例展開の実際
     ケース紹介 患者情報 アセスメント 看護計画と看護展開 事例のまとめ
   5)看護のポイント
第4章 手術室看護師の役割(堀越悦子)
 1.器械出し看護と外回り看護
  1)器械出し看護師の役割
  2)患者・家族の代弁者,擁護者としての手術室看護師の役割
 2.手術チーム医療
  1)手術チームの特徴と手術室看護師の役割
  2)周手術期看護における手術室看護師の役割
  3)手術チーム医療を推進するために手術室看護師に必要な技術・資質
  4)チーム医療をめぐる動き
第5章 看護専門職としてすすむ道(草柳かほる)
 1.手術看護認定看護師になるには
  1)看護師としてのキャリアを積む
  2)生涯教育としての看護継続教育
  3)より高い専門性をもつ看護師の養成
  4)手術看護のキャリア開発と専門性の追求

 column
  手術看護認定看護師の役割〜手術室から病棟へ,いかに情報発信していくか〜(松嵜愛)
  SICU:Surgical Intensive Care Unit(外科系集中治療室)を併設した手術室の現状と効果(小田原直美)
  認定看護師に期待すること(菊地京子)

 索引