やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 がん放射線治療は国内のすべての医療施設で行われているわけではなく,また,がんサバイバーの治療過程における放射線治療の割合は約3割と,欧米の6割に比べるとまだまだ少ない状況です.しかし,治療装置の性能や技術の進歩によって,有害事象も少なくなり,がんの根治や骨転移による痛みの緩和などにも効果を期待できるため,放射線治療を受ける患者数は増加しています.放射線治療を受けるがんサバイバーの増加に対応すべく,がん専門家の育成を目指した文部科学省による「がんプロフェッショナル養成プラン」では,2008年から,不足している放射線治療専門医師や放射線腫瘍医師の養成に加え,加速器や治療関連装置の品質保証と研究開発を担う医学物理士の数を増やそうとしています.
 放射線治療の現場で医療チームとして主に活動しているのは,医師や診療放射線技師です.治療や症状に関する情報提供や患者の治療に対する不安への対応,治療場面での様々な工夫などについても,取り組みが行われています.しかし,放射線治療に携わる看護師の数は少なく,その多くは治療現場の診療補助やカルテ準備などの業務が中心となっています.今後は看護の専門性を生かし,がんサバイバーや家族の生活への情報提供,セルフケアへのサポートなどが期待されます.課題であった放射線治療の認定看護師コースが2009年から開始され,放射線治療における看護の専門性の発展はまさにこれからだといえるでしょう.
 これまで,病棟や外来での看護は,放射線治療を受ける患者の完遂を目的とした「不安の軽減」や「有害事象の予防」などの患者教育を充実させることが重要でした.今後は,治療の拡大とともに,患者指導に加え,放射線治療を受けるすべての病期にあるがんサバイバーと看護師がパートナーとなってどのような看護ケアを展開していくかが課題です.特に,がんサバイバーにとって未知のものである放射線への恐れや不安を抱くがんサバイバーや家族へのケアリングは重要です.
 本書の特徴は,臨床で放射線治療・看護に取り組む実践家の方々に執筆を依頼し,看護職者の方々にわかりやすいよう,図,写真,イラストを用い,事例やコラムなどを挿入しています.総論では,「最新のがん放射線治療」「有害事象と症状緩和」や「スキンケア」「症状緩和ケア」に加え,身体面への影響と看護ケアについても治療部位別に平易な詳述をしています.「外部照射や小線源治療」を受けるがん患者へのケアでは海外の視点を加えたり,事例を提示することで具体的にイメージできるように配慮しました.また,家族,患者の意思を尊重した「教育・日常生活指導の実際」,治療完遂まで長期にわたる「相談」への対応,そして精神面のケアの実際も収めています.
 ナーシング・プロフェッション・シリーズの「がん看護の実践」シリーズも3冊目となりました.放射線治療を受けるがんサバイバーへの看護が創出期から発展期に向けてベクトルが伸びることを著者一同,望んでいます.
 2009年1月
 編者 嶺岸秀子 千ア美登子 近藤まゆみ
1 最新のがん放射線治療――治療と効果・有害事象との関連がわかる(早川和重)
 1)放射線治療の基礎知識
  放射線治療の特徴 放射線治療に用いられる放射線の種類 放射線治療の理論 照射法と放射線治療計画 治療目的別の放射線治療の違い
 2)完治を目指しての放射線治療
  根治的放射線治療の適応 治療可能比 化学療法(抗がん剤)との併用
 3)緩和ケアとしての放射線治療
  骨転移の放射線治療 脳転移の放射線治療 周囲臓器への圧迫・浸潤による症状緩和を目的とした放射線照射
 4)特殊療法(TBI,定位照射,IMRT)
  全身照射 定位放射線照射 強度変調放射線治療
 5)放射線治療とEBM
 6)放射線安全管理と注意点
  放射線に対する注意点 放射線治療の安全管理にかかわる注意点
2 放射線治療を受けるがんサバイバー・家族への看護(嶺岸秀子)
 はじめに
 1)がん放射線治療看護に活用できる理論と概念
  オレムのセルフケア理論 症状マネジメントの概念モデル
 2)放射線治療を受けるがんサバイバーへの看護
  放射線治療による有害事象と看護 治療による苦痛の緩和を目指した全人的な看護介入
 おわりに
3 がん放射線治療の有害事象と症状緩和(一守くみ子/近藤まゆみ)
 1)放射線治療の有害事象
 2)皮膚への反応とケア
  急性皮膚障害 アセスメントと看護ケア 晩期皮膚障害
 3)粘膜への反応とケア
  急性粘膜障害 アセスメントと看護ケア 晩期粘膜障害
 4)消化器への反応とケア
  急性有害事象 アセスメントと看護ケア 晩期有害事象
 5)放射線宿酔
  急性有害事象 アセスメントと看護ケア
 6)倦怠感
  急性有害事象 アセスメントと看護ケア
 7)骨髄抑制
  急性有害事象 アセスメントと看護ケア
 8)放射線肺臓炎
  急性有害事象 アセスメントと看護ケア 晩期有害事象
 9)その他の症状と看護ケア
  浮腫 眼障害 腎・膀胱障害 放射線脳障害 骨・脊髄障害 発がん
4 放射線治療とスキンケア(松原康美)
 はじめに
 1)皮膚への影響
  放射線による皮膚反応 放射線皮膚炎の症状と発生時期
 2)放射線皮膚炎による影響とセルフケアの必要性
 3)放射線皮膚炎を予防するためのセルフケア
  治療前 治療中 治療後
 4)放射線皮膚炎発生時の対策
  観察と症状アセスメント 局所ケア 精神的サポート
 おわりに
5 放射線治療の身体面への影響とケア
 A.外部照射法
  1-頭部(脳)・脊椎へ照射を受けるがん患者(岸田さな江)
   はじめに
   1)頭部への照射
    脳腫瘍への照射目的と照射方法 日常生活への留意点と患者教育 疾患と治療の特徴から考えるよりよい看護援助
   2)脊椎への照射
    脊椎腫瘍への照射目的と照射方法 日常生活への留意点と患者教育 疾患と治療の特徴から考えるよりよい看護援助
  2-頭頸部へ照射を受けるがん患者(早川満利子)
   はじめに
   1)オリエンテーションと看護
    照射開始前 照射中 照射後
   2)照射部位に特有な有害事象とケア
    上咽頭・中咽頭 下咽頭・喉頭 舌 口腔 副鼻腔 外耳・耳下腺
   3)有害事象に伴う日常生活への影響とケア
   4)事例-皮膚炎が悪化した患者の外来でのケア
   まとめ
    コラム 頭頸部領域での放射線看護のポイント
  3-食道へ照射を受けるがん患者(千ア美登子/片塩 幸)
   はじめに
   1)オリエンテーション
   2)有害事象のアセスメントとケア
    食道粘膜炎 食道狭窄 食道気管支瘻 心外膜炎 放射線肺臓炎(肺炎) 大動脈浸潤
   3)日常生活のケア
    食事 清潔 活動と休息
   4)医療チームによる心理・社会面へのケア
   5)事例-高度食道粘膜炎を併発した患者の経過とケア
   おわりに
    コラム 化学療法・手術療法と放射線治療を併用する場合の留意点
  4-肺へ照射を受けるがん患者(我妻孝則)
   はじめに
   1)オリエンテーション
    放射線治療に対する正しい知識提供 肺がん患者に行われる治療方法の情報提供 出現しやすい有害事象と対処法の指導 療養生活への留意点の教育
   2)放射線治療を受ける肺がん患者・家族の体験
    治療前 治療中 治療終了後
   3)放射線治療を受ける肺がん患者・家族のケア
    身体状況のアセスメント 患者・家族の教育 身体ケア サポートとカウンセリング 継続ケア
   4)事例身体での苦痛が生じている肺がん患者を支えるチームアプローチ
   おわりに
  5-乳房へ照射を受けるがん患者(児玉美由紀)
   はじめに
   1)乳がんの放射線治療
    早期乳がん:乳房温存術後の放射線治療 治療前 進行乳がん:乳房切除後の放射線治療 再発乳がん:胸壁・皮膚・リンパ節への局所再発,骨転移・脳転移などの遠隔転移
   2)放射線治療による身体的影響と乳がんサバイバーの体験
    治療前 治療中 治療後
   3)放射線治療を受ける乳がん患者のケア
    治療前 治療中 治療後
   4)事例-放射線治療と日常生活との折り合いに向けたケア
   おわりに
  6-骨軟部へ照射を受けるがん患者(末國千絵)
   はじめに
   1)オリエンテーション
    有害事象の予防と対策 不安の軽減
   2)患者に生じる問題と看護の課題
   3)有害事象の予防とケア
    皮膚炎・リンパ浮腫 粘膜炎 消化器症状
   おわりに
  7-女性生殖器へ照射を受けるがん患者(唐橋美香/望月美穂)
   はじめに
   1)オリエンテーション
   2)有害事象とケア
    放射線宿酔 消化器系の障害 泌尿器系の障害 皮膚・粘膜系の障害 その他
   3)事例-皮膚障害が強く出現した患者への治療の完遂を支えるケア
   おわりに
  8-尿路・男性生殖器へ照射を受けるがん患者(向野香織/岸田さな江)
   はじめに
   1)尿路・男性生殖器がんの特徴と放射線治療
    前立腺がん 膀胱がん
   2)放射線治療を受ける尿路・男性生殖器がん患者と家族へのケアポイント
    セクシュアリティへの配慮 前立腺がん放射線治療選択における意思決定支援
   3)尿路・男性生殖器がん患者への放射線治療に伴う有害事象とケア
    急性有害事象 晩期有害事象
   4)患者・家族へのオリエンテーション
    オリエンテーションの目的 オリエンテーションの内容
   5)事例-前立腺がんの外部照射の後,晩期有害事象に悩んでいたAさんへのケア
   まとめ
 B.特殊な放射線治療
  9-小線源治療,RI内服治療,全身照射(朝倉由紀)
   はじめに
   1)小線源治療
    小線源治療の適応 小線源治療に使用される放射線 婦人科系悪性腫瘍患者:小線源低線量照射のマネジメント 婦人科系悪性腫瘍患者:小線源高線量照射のマネジメント(タンデム・オボイド) 頭頸部がん患者:小線源高線量照射のマネジメント 肺がん患者:小線源治療のマネジメント 乳がん患者:小線源治療のマネジメント 前立腺がん患者:低線量小線源治療のマネジメント 前立腺がん患者:高線量小線源治療のマネジメント
   2)RI内服治療
    対象 看護の留意点 オリエンテーション・外来でのケア 内服前後(入院中)のケア 退院後のケア・指導
   3)全身照射
    目的 造血幹細胞移植の種類 全身照射による有害事象と看護
   4)事例-前立腺がんで高線量率分割組織内照射を受ける北さんの体験と看護ケア
   おわりに
6 心理・精神面へのケア(入沢裕子)
 はじめに
 1)放射線治療を受ける患者の精神面での変化と看護の必要性
 2)放射線治療を受ける患者の精神的変化の特徴とケア
  治療前 治療中 治療後
 おわりに
  コラム 放射線治療を受ける患者の心理状態
7 教育・日常生活指導の実際(立石久留美)
 はじめに
 1)ナースに求められるがん患者の理解
  疾患(がん)からくる特徴を理解する 治療内容・経過を理解する 患者のもつ力と背景を理解する
 2)具体的で実践可能な教育・指導内容と方法の工夫
 3)インフォームド・コンセントと意思決定への支援
 4)放射線治療を受ける患者のセルフケアを高める支援
  事例1
 5)小線源治療を受ける患者のセルフケアを高める支援
  事例2 事例3
 6)その他,患者自身が放射線源となる場合の支援
 おわりに
8 放射線治療のチーム医療(入沢裕子)
 はじめに
 1)放射線治療部門内のチーム医療メンバーと役割
  放射線腫瘍医の役割 診療放射線技師の役割 看護師の役割
 2)看護師の調整に焦点をあてたチーム医療活動の実際
  照射開始前の意思決定への支援と調整 照射中の患者の孤立感を最小にするための情報提供 照射中の羞恥心に関する調整 患者の状態や日常生活自立度に対応した調整
 3)治療の質向上のためのチーム医療活動の実際
  主治医,病棟・外来看護師などとの連携 スタッフミーティングでの患者情報の共有 情報共有の効果を高める記録の工夫
 おわりに
  コラム 放射線治療を受ける患者同士の支援について
9 相談(祖父江由紀子)
 はじめに
 1)看護師からのがん放射線治療・看護についての相談
  有害事象に対するケア方法-放射線皮膚炎 放射線治療部門の看護師から病棟看護師への相談-疼痛コントロールが困難な場合
 2)患者・家族からの相談
  放射線治療そのものに対する不安 急性有害事象に対するケア方法 晩期有害事象に対するケア方法 患者の心理に関連した問題 治療方法の選択 療養の場の選択
 3)放射線治療チームからの相談
  患者・家族の不安への対処 有害事象の症状緩和に関するチーム医療の一例
 4)放射線治療分野の看護師から,他領域の看護師や他職種への相談

 索引