やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 一般社団法人日本在宅ケア学会は,2017年に「日本在宅ケア学会ステートメント」を策定しました.そのなかで,当学会がもつ在宅ケアへの基本姿勢として,地域で暮らす人びとが自らの能力を最大限に発揮し,自立した生活を送ることができる支援をめざすこと,多様な人びとの人権と主体性を尊重するノーマライゼーションの考え方にもとづくこと,健康増進・保健・予防・医療・看護・リハビリテーション・福祉・介護・就労・教育・住まいなどのあらゆる側面において人としての尊厳と権利を守り,在宅ケアを必要とするすべての人びとの生活の質を確保していくことを明文化して,多職種で構成する学際学会である強みをいかし,多職種連携による地域包括ケアを実現するためのアカデミアとしての諸活動をこれまで推進してきました.
 学会ステートメントのひとつに「不断の研究活動を通じた科学的根拠のある在宅ケアの推進」があります.そして,2018年から「エビデンスにもとづく在宅ケア実践ガイドライン」の策定を多職種協働で,かつ委員会メンバーと若手研究者で構成するレビューチームによって進めました.
 第1版であるこのガイドラインは当初,日本医療機能評価機構(Minds)の「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」にしたがって作成を開始し,途中で同マニュアルが改訂されたため,GRADE評価や推奨については,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020」にしたがって進めました.
 ガイドライン作成のプロセスは,現代の在宅ケアのなかでの重要課題をあげることからスタートし,クリニカル・クエスチョン(臨床疑問)を絞りました.その内容は,在宅における食支援,リハビリテーション支援,薬物管理,情報通信技術(ICT)を活用した支援,アドバンス・ケア・プランニング支援,家族支援,ケアマネジメント支援の7項目です.各クリニカルクエスチョンに関する回答を探す方法として,システマティックレビューとメタアナリシスを行い,網羅的に先行論文を検索・収集し,厳密な手続きに沿ってスクリーニングと評価を行い,当初のクリニカルクエスチョンに対する答えをまとめていきました.
 推奨の作成にあたっては,レビューした論文のバイアスリスク,一貫性,直接性,精確性,出版バイアスなどから研究の質を十分に吟味したうえで,ガイドライン作成委員会の親委員会である日本在宅ケア学会理事会パネルに諮り,投票によって最終化を行いました.また,在宅ケアの受け手である市民の意見,および在宅ケア学会会員の意見をハプリックコメントとして収集し,それを反映しました.
 日本在宅ケア学会ではガイドライン作成は初の取り組みであったため,当初の想定以上の時間を要しました.とくにわが国で行われた在宅ケアに関するエビデンス(科学的根拠)レベルの高い論文は非常に少なく,諸外国の文献の結果にもとづいた検討が中心となりました.しかしながら,エビデンスの吟味に時間をかけて推奨度を明確化することができ,在宅ケアの現場で活用できるガイドラインとして,ケアの受け手であるご本人やご家族と話し合いを行う際のガイドとしての役割を果たす一助となったものと考えています.読者の皆様には,第2版に向けてご批判を頂けますようお願い申し上げます.
 最後になりましたが,本ガイドラインの作成に多大なるご協力をいただいたMindsの吉田雅博先生,森實敏夫先生,文献検索にご協力いただいた聖路加国際大学図書館司書の松本直子さん,佐藤晋臣さん,市民委員の佐藤重松さん,坂川健さん,また,多くの時間を費やして文献を読み,まとめていただいた若手会員によるレビューチームメンバーの皆様,システマティックレビューに関して研究助成をいただいた一般社団法人看護系学会等社会保険連合様に深く感謝申し上げます.
 2022年2月5日
 一般社団法人日本在宅ケア学会
 一般社団法人日本在宅ケア学会ガイドライン作成委員会
第1章 ガイドライン作成プロセス
 1.本ガイドラインの基本理念・概要
 2.システマティックレビューに関する事項
 3.推奨作成から最終化,公開までに関する事項
 4.ガイドライン作成体制に関する事項
第2章 CQ別在宅ケア実践推奨一覧
第3章 食支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.食支援の対象となる在宅高齢者の特徴
 2.食支援の対象となる在宅高齢者の介護者の特徴
 3.在宅高齢者への食支援の概要
  CQ1-1 身体機能が低下している在宅高齢者を対象とした筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)とタンパク質強化型栄養療法による複合的介入は,骨格筋量,握力,運動機能の向上などに有用か?
   CQ1-1-1,CQ1-1-2,CQ1-1-3,CQ1-1-4,CQ1-1-5,CQ1-1-6
  CQ1-2 在宅要介護高齢者を対象とした栄養に関する多職種介入のうち,栄養士による訪問栄養指導は,体重の増加,栄養摂取量の向上などに有用か?
   CQ1-2-1,CQ1-2-2,CQ1-2-3,CQ1-2-4,CQ1-2-5,CQ1-2-6,CQ1-2-7,CQ1-2-8,CQ1-2-9
第4章 訪問リハビリテーション支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.訪問リハビリテーションの対象となる在宅認知症高齢者・在宅脳卒中高齢者の特徴
 2.訪問リハビリテーションの対象となる在宅認知症高齢者の介護者の特徴
 3.在宅認知症高齢者・在宅脳卒中高齢者への訪問リハビリテーションの概要
  CQ2-1 在宅認知症高齢者を対象とした理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のいずれかによる訪問リハビリテーション介入は,日常生活活動(ADL)能力の向上,認知症の行動心理症状(BPSD)の軽減,介護者の介護負担感の軽減などに有用か?
   CQ2-1-1,CQ2-1-2,CQ2-1-3,CQ2-1-4,CQ2-1-5
  CQ2-2 在宅脳卒中高齢者を対象とした理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のいずれかによる訪問リハビリテーション介入は,歩行能力,日常生活活動(ADL)能力,下肢筋力の改善に有用か?
   CQ2-2-1,CQ2-2-2,CQ2-2-3
第5章 多職種協働による薬物管理の臨床アウトカムへの有用性
 1.多職種による薬物管理の対象となる在宅高齢者の特徴
 2.多職種による薬物管理の対象となる在宅高齢者の介護者の特徴
 3.在宅高齢者への多職種による薬物管理の概要
  CQ3 地域在住高齢者を対象とした多職種による薬物管理の介入は,ポリファーマシーの改善,フレイルの改善などに有用か?
   CQ3-1,CQ3-2,CQ3-3,CQ3-4,CQ3-5,CQ3-6,CQ3-7,CQ3-8
第6章 ICTを利用した支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.慢性閉塞性肺疾患,慢性心不全,糖尿病を有する在宅療養者の特徴
 2.慢性疾患を有する在宅療養者の介護者の特徴
 3.慢性疾患を有する在宅療養者へのICTを利用した支援の概要
  CQ4-1 在宅慢性閉塞性肺疾患(COPD)療養者を対象とした遠隔モニタリングと遠隔専門職支援で構成するテレヘルス(遠隔医療)を外来の通常の対面診療に併用することは,ヘルスアウトカムの改善に有用か?
   CQ4-1-1,CQ4-1-2,CQ4-1-3,CQ4-1-4,CQ4-1-5,CQ4-1-6,CQ4-1-7
  CQ4-2 在宅慢性心不全在宅療養者を対象とした専門職による遠隔モニタリングにもとづく遠隔支援は,定期診療などの通常ケアに比べて,ヘルスアウトカムの改善に有用か?
   CQ4-2-1,CQ4-2-2,CQ4-2-3,CQ4-2-4,CQ4-2-5
  CQ4-3 在宅2型糖尿病療養者を対象とした専門職による遠隔モニタリングにもとづく遠隔支援は,定期診療などの通常ケアに比べて,ヘルスアウトカムの改善に有用か?
   CQ4-3-1,CQ4-3-2
第7章 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の臨床アウトカムへの有用性
 1.アドバンス・ケア・プランニングを受ける在宅慢性疾患療養者の特徴
 2.アドバンス・ケア・プランニングを受ける在宅慢性疾患療養者の介護者の特徴
 3.在宅慢性疾患療養者へのアドバンス・ケア・プランニングの概要
  CQ5 在宅慢性疾患高齢者を対象とした専門職との討議によるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)は,終末期医療について主治医との討議の促進,事前指示書作成者数の促進に有用か?
   CQ5-1,CQ5-2
第8章 家族支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.在宅認知症高齢者の行動心理症状の特徴
 2.行動心理症状を有する在宅認知症高齢者の介護者の特徴
 3.行動心理症状を有する在宅認知症高齢者と介護者への行動マネジメントの理解を促すことの概要
  CQ6 在宅認知症高齢者に生じる認知症の行動心理症状(BPSD)にあわせて,専門職が家族介護者に対応策や行動マネジメントについて理解を促すことは,在宅高齢者にとって有用か?
   CQ6-1,CQ6-2,CQ6-3,CQ6-4,CQ6-5,CQ6-6
第9章 ケアマネジメント支援の臨床アウトカムへの有用性
 1.ケアマネジメントの対象となる在宅認知症高齢者の特徴
 2.ケアマネジメントの対象となる在宅認知症高齢者の家族介護者の特徴
 3.在宅認知症高齢者と家族介護者へのケアマネジメントの概要
  CQ7 在宅認知症高齢者と家族介護者を対象としたケアマネジメントは,生活の質(QOL)の向上,在宅療養の継続などに有用か?
   CQ7-1,CQ7-2,CQ7-3,CQ7-4,CQ7-5,CQ7-6

 巻末資料 市民版 根拠にもとづく在宅ケア実践ガイド2022