やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 現在,「緩和ケア」は進行がんのみならず,非がん疾患や認知症ケアまで対象が拡大しており,そのアプローチも薬物療法だけではなく,心理社会的サポート,スピリチュアルケアなど多岐にわたる.また,緩和ケアは終末期のみならず,診断時や治療の早期の段階から切れ目なく提供されるべきであるとの考えが浸透し,緩和ケア病棟で専門的な医療者によって提供されるものから,一般病棟や在宅などで患者にかかわる医師・看護師らが緩和ケアの専門家と連携して提供されるものへと変わりつつある.
 本書は,このような緩和ケアの発展を受けて,一般病棟の看護師が,患者・家族の療養過程に寄り添い支える緩和ケアを実践するうえで必要な知識や援助の要点を伝えることを目的として企画された.
 「CHAPTER 1 緩和ケアと看護師の役割」では,臨床におけるこれまでの緩和ケアの変遷を概観し,看護師の役割について記述した.「CHAPTER 2 症状アセスメントと標準的ケア」では,疼痛,呼吸困難など緩和ケアの対象となる主要な症状を取り上げ,アセスメントや対応の仕方を解説するとともに,疾患別(進行がん,心不全,慢性閉塞性肺疾患,筋萎縮性側索硬化症,認知症)の特徴や注意点にも言及している.そして,「CHAPTER 3 療養過程と事例から学ぶ緩和ケアの実際」では,CHAPTER2で取り上げた5疾患の療養過程の特徴を解説し,臨床現場における実践のヒントとなるような事例展開を試みた.つまり,各疾患の療養過程に準じて,CHAPTER2で取り上げた「症状」と特徴的な「緩和ケア」を事例を通して解説している.事例展開では臨床現場に即して,ぺプロウの看護理論やエスノメソドロジー的相互行為分析なども適宜取り入れている.また,「緩和ケアをいつ・どのように提供すればよいのか」,「教科書どおりの対応では解決しない時,ほかに何かできることはないか」,「治療・ケアについて,患者や家族,他職種との意見が合致しない時,看護師としてどう対応すべきなのか」など,臨床現場で直面する疑問・迷い・葛藤にも応えられるよう努めた.
 CHAPTER1は,臨床で長く緩和ケアに携り,豊富なご経験をもつ先生方にご執筆いただき,CHAPTER 2,3は,北里大学の看護学部教員,各領域に携わる専門・認定看護師らが協同で取り組んだ.くしくもコロナ禍に入ろうかという混乱のなかでの執筆依頼であったにもかかわらず,本書の企画意図に共感いただき,ご多忙ななかご尽力いただいたことに,この場を借りて心より感謝申し上げたい.
 本書が,読者の方々の緩和ケア実践に役立ち,緩和ケアを受けている患者・家族の方々の療養生活の質の向上に寄与することを,心から願っている.
 編者一同
 はじめに
CHAPTER 1 緩和ケアと看護師の役割
 1 緩和ケアの定義と考え方(荻野美恵子)
   はじめに/緩和ケアと類似・関連する概念の整理/緩和ケアの歴史と対象疾患/がん・非がん疾患の緩和ケアの違いと日本の状況/一般病棟が目指すべき緩和ケアとは
 2 わが国におけるがん医療の変遷と緩和ケアの拡がり(長谷川久巳)
   はじめに/日本におけるホスピスケア・緩和ケアの始まり/医療者主体の医療から患者主体の医療へ/がんの診断早期からの緩和ケア/人生の最終段階の医療・ケアの決定―アドバンス・ケア・プランニング/緩和ケアの拡がり―がんから他疾患へ/おわりに
 3 完治を望めない病を患った人とその家族の全人的苦痛と看護(小迫冨美恵)
   はじめに/全人的苦痛のとらえ方/全人的苦痛に対する緩和ケア/全人的苦痛の緩和ケアにおいて看護師に求められる役割
 4 緩和ケアにおけるチーム医療の普及と看護師の役割(佐藤美紀・千ア美登子(執筆協力:小山幸代))
   はじめに/緩和ケアにおけるチーム医療の普及/スペシャリスト(専門看護師・認定看護師)の誕生と専門チームにおける役割/緩和ケアにおけるジェネラリストの役割/チーム医療におけるジェネラリスト育成―当院師長会の取り組みから/おわりに
CHAPTER 2 症状アセスメントと標準的ケア
 1 疼痛(小山友里江・千ア美登子(執筆協力:蛯名由加里・水野佳都美・玄海泰子・大永里美・小山幸代))
   症状の定義/アセスメント/標準的対応/原因疾患別の特徴・対応のポイント
 2 呼吸困難(中尾真由美(執筆協力:蛯名由加里・水野佳都美・小山幸代))
   症状の定義/アセスメント/標準的対応/原因疾患別の特徴・対応のポイント
 3 倦怠感(中尾真由美(執筆協力:蛯名由加里・小山幸代))
   症状の定義/アセスメント/標準的対応/原因疾患別の特徴・対応のポイント
 4 浮腫(小山友里江(執筆協力:千ア美登子・蛯名由加里・水野佳都美・小山幸代))
   症状の定義/アセスメント/標準的対応/原因疾患別の特徴・対応のポイント
 5 悪液質(千ア美登子(執筆協力:蛯名由加里・小山幸代))
   症状の定義/アセスメント/標準的対応/原因疾患別の特徴・対応のポイント
 6 せん妄(小山友里江(執筆協力:千ア美登子・蛯名由加里・水野佳都美・大永里美・和田奈美子))
   症状の定義/アセスメント/標準的対応/原因疾患別の特徴・対応のポイント
 7 抑うつ・不安・希死念慮(中尾真由美(執筆協力:蛯名由加里・水野佳都美・小山幸代))
   症状の定義/アセスメント/標準的対応/原因疾患別の特徴・対応のポイント
CHAPTER 3 療養過程と事例から学ぶ緩和ケアの実際
 1 進行がん
  (1)療養過程と緩和ケアの特徴(千ア美登子)
   進行がんとは/療養過程と各時期における特徴的な緩和ケア/おわりに
  (2)事例―診断初期から緩和ケアを希望されたAさん(水野佳都美・千ア美登子)
   患者概要と療養過程/症状アセスメントと苦痛の緩和―疼痛への対応/優先して取り組んだ緩和ケア―夫・看護師のジレンマへの対応/おわりに
  (3)事例―急激に病状が悪化したBさん(千ア美登子(執筆協力:小山幸代))
   患者概要と療養過程/症状アセスメントと苦痛の緩和―抑うつへの対応/優先して取り組んだ緩和ケア―家族ケア/おわりに
 2 心不全(蛯名由加里)
  (1)療養過程と緩和ケアの特徴
   心不全とは/療養過程と各時期における特徴的な緩和ケア/おわりに
  (2)事例―治療と並行した緩和ケアを受け入れたCさん
   患者概要と療養過程/症状アセスメントと苦痛の緩和―倦怠感への対応/優先して取り組んだ緩和ケア―アドバンス・ケア・プランニング/おわりに
  (3)事例―治療を中止して尊厳ある死を望んだDさん
   患者概要と療養過程/症状アセスメントと苦痛の緩和―浮腫への対応/優先して取り組んだ緩和ケア―患者の意向尊重と治療中止の決断/おわりに
 3 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  (1)療養過程と緩和ケアの特徴(水野佳都美)
   COPDとは/療養過程と各時期における特徴的な緩和ケア/おわりに
  (2)事例―呼吸補助療法による苦痛を抱えるEさん(山本未菜)
   患者概要と療養過程/症状アセスメントと苦痛の緩和―呼吸困難への対応/優先して取り組んだ緩和ケア―患者と家族の意思決定支援・家族支援/おわりに
  (3)事例―症状の進行に伴い不安が増強したFさん(玄海泰子)
   患者概要と療養過程/症状アセスメントと苦痛の緩和―悪液質への対応/優先して取り組んだ緩和ケア―不安・パニックがみられる患者への対応に困難感をもつ看護師へのケア/おわりに
 4 筋萎縮性側索硬化症(ALS)(大永里美)
  (1)療養過程と緩和ケアの特徴
   ALSとは/療養過程と各時期における特徴的な緩和ケア/おわりに
  (2)事例―延命治療を望まなかったGさん
   患者概要と療養過程/症状アセスメントと苦痛の緩和―呼吸困難への対応/優先して取り組んだ緩和ケア―病との折り合いをつけるための支援・グリーフケア/おわりに
  (3)事例―病気を否認するHさん
   患者概要と療養過程/症状アセスメントと苦痛の緩和―苦痛に伴うパニックへの対応/優先して取り組んだ緩和ケア―患者と家族の意思決定支援/おわりに
 5 認知症
  (1)療養過程と緩和ケアの特徴(小山幸代)
   認知症とは/療養過程と各時期における特徴的な緩和ケア/おわりに
  (2)事例―深刻な表情で同じことを訴え続けるIさん(小山幸代)
   患者概要と療養過程/症状アセスメントと苦痛の緩和/優先して取り組んだ緩和ケア―スピリチュアルな苦痛への対応/おわりに
  (3)事例―がん疼痛を訴えられず,興奮を繰り返すJさん(和田奈美子)
   患者概要と療養過程/症状アセスメントと苦痛の緩和/優先して取り組んだ緩和ケア―生理的ニーズの充足のためのケア・心地良いと感じられるケア・家族の精神的ケア/おわりに

 索引

 COLUMN
  (1) 化学療法を受ける患者の悪液質予防のための指導の実際
  (2) 「何もできなかった」「こうすればよかった」と自分を責めていませんか
  (3) 進行がん患者の精神的苦悩を緩和するために看護師は何ができるのか

 NOTE
  (1) エスノメソドロジー的相互行為分析とは
  (2) 低心拍出量症候群と強心薬
  (3) 心不全患者のアドバンス・ケア・プランニング
  (4) 心不全の浮腫の特徴と確認方法
  (5) 高齢心不全患者の終末期における治療中止の倫理的妥当性
  (6) 呼吸サポートチームの役割
  (7) 当院における不応性悪液質への標準対応
  (8) 下肢伸展挙上運動
  (9) 呼吸に伴うエネルギー消費量を考慮した栄養サポート
  (10) ペプロウの対人関係理論
  (11) ユマニチュード(R)(Humanitude)
  (12) ライフレビュー(人生回顧)
  (13) 認知症ケア加算