やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 団塊の世代が75歳以上となる2025年をひとつのマイルストーンとして,病院再編や地域包括ケアシステム構築が進められている.家族による介護機能が一段と弱くなり,高齢者の夫婦世帯や一人暮らし世帯が増加していることへの対応もとくに都市部では課題となっている.地域全体での支え合いが求められる時代となっているのである.このような背景のもと,住み慣れた地域や自宅での療養生活を支援する訪問看護は,重要な看護活動としてより期待されている.
 在宅療養者や家族を支える訪問看護師のおもな役割は,療養生活支援と診療の補助であるが,求められる在宅看護を展開するうえで基本となるのは「暮らしのなかのケア」である.本書は,第1・2章で在宅看護の概念や歴史を概観する.ここでは在宅看護の理念を学習することとなる.第3章では,地域における暮らしを支える地域包括ケアとそのシステムについて学ぶ.地域包括ケアシステムが今後の高齢社会を支える中心的なシステムである.それぞれの地域における具体的な地域包括ケアシステムをあわせて学ぶと,いっそう理解が深まるであろう.在宅看護を支える保険制度については第4章で述べる.
 第5章では,看護活動の展開に必要な看護過程を理解するが,療養者本人と家族全体を対象とする在宅看護ならではの特徴をおさえられるようになっている.また第6章では,暮らしの場における在宅看護実践で必要不可欠な信頼関係の構築や倫理観について学び,療養者とその家族へのかかわりの基本を学ぶことになる.
 第7・8章では,訪問看護師のおもな役割である療養生活支援と疾患別の支援を,具体的な場面や事例を用いて学べるようになっている.在宅療養者によくみられる疾患を取りあげているが,他の疾患で療養する対象にも応用できるはずである.
 第9章を通して,在宅看護初学者は,学内の演習や実習におけるケースを検討できる.また,困難に直面している訪問看護師は,事例検討会の効果的な進め方を学ぶことができる.さらに,日々の事例検討を事例研究へとまとめるための学びを深めることができる.事例研究の成果を学会で発表するなど訪問看護師がますます研鑽を積むことで訪問看護の質が向上し,さまざまなニーズにより広くより深くこたえていくことにつながる.そして,在宅看護従事者に喜びや楽しさをもたらしてくれるだろう.
 1997(平成9)年,訪問看護活動への期待の高まりにより,看護師養成指定規則に在宅看護論が加わった.それから20年近くを経過する現在,在宅看護の初学者から訪問看護のエキスパートまで,在宅療養者とその家族を強く支援する役割を果たすことが期待されている.基礎教育から実践現場での活用に対応するテキストとして,在宅看護に求められる基本を再確認するとともに,時代に合った新たな潮流をつくる看護師を育てるテキストとして編集したのが,本書「プリンシプル在宅看護学」である.
 2015年11月 原 礼子
第1章 在宅看護とは
 (原 礼子)
 1 在宅看護とは
  1 在宅看護の目的
  2 在宅看護の特性
   1)対象の多様性 2)患者と利用者 3)暮らしのなかでのケア
 2 「在宅看護論」の新設と在宅看護が求められる背景
  1 「在宅看護論」の新設
  2 在宅看護が求められる背景
   1)社会の変化 2)家族の変化
 3 在宅看護小史
  1 萌芽期
  2 成長期(訪問看護活動の啓蒙普及)
   1)1970年代 2)1980〜1990年代
  3 発展期
   1)2000年代 2)2010年代
第2章 地域で生活する療養者とその家族
 (原 礼子)
 1 在宅看護の対象の特性
  1 幅広い年齢層
  2 訪問看護利用者のおもな疾患とケア内容
 2 在宅看護の対象としての家族
  1 家族をどのようにみるか
  2 家族への支援が求められる背景
   1)家族機能が弱くなった 2)家族の範囲 3)家族介護者の介護状況と悩み
  3 家族へのケア
 3 療養者と家族が暮らすコミュニティ
  1 コミュニティとは何か
  2 コミュニティを近づける看護支援
第3章 地域包括ケアにおける看護の役割と機能
 (永田智子)
 1 地域での暮らしを支えるためのシステム
  1 在宅ケアシステムの整備の必要性
  2 在宅ケアシステムの構成要素
   1)訪問系サービス 2)通所系サービス 3)短期入所
   4)ケアマネジャー(介護支援専門員) 5)医療機関 6)薬局・薬剤師
   7)地域包括支援センター 8)自治体・保健センター
   9)民間・非営利事業等の実施サービス 10)民生委員,自治会役員など
  3 ケアマネジメント
   1)在宅療養者のニーズ領域 2)アセスメントの枠組み
  4 地域連携,多職種との連携
   1)ケアの連携とその保証 2)連携のモデルと要件 3)どのように連携するか
  5 退院支援・調整とケアマネジメント
   1)背景 2)定義 3)ケアマネジメント・看護過程と退院支援
   4)退院支援のプロセス 5)退院支援に対する診療報酬
 2 地域包括ケアシステム
  1 地域包括ケアシステム推進の経緯
  2 現在の地域包括ケア推進の背景
  3 地域包括ケアシステム
   1)在宅医療の強化と連携の推進 2)介護サービスの充実強化 3)予防の推進
   4)生活支援サービスの確保や権利擁護 5)住まいの整備
  4 地域包括支援センターの業務と地域ケア会議
   1)地域包括支援センターの業務 2)地域ケア会議
  5 地域包括ケアにおける看護の役割
   1)効果的なケア 2)多職種連携の要
第4章 在宅看護を支える保険制度と訪問看護
 (原 礼子)
 1 わが国の社会保険の概要
  1 医療保険制度
   1)医療保険制度の概要 2)医療保険の種類
  2 介護保険制度
   1)介護保険制度の概要 2)介護保険の対象
   3)介護保険制度の利用手順(申請から給付まで) 4)介護サービス
 2 訪問看護の提供体制
  1 介護保険制度に基づく訪問看護
   1)訪問看護ステーションによる訪問看護(介護給付費)
   2)医療機関(病院・診療所)による訪問看護(介護給付費)
  2 医療保険制度に基づく訪問看護
   1)訪問看護ステーションによる訪問看護(訪問看護療養費)
   2)医療機関(病院・診療所)による訪問看護(訪問看護・指導料)
第5章 在宅看護における看護過程
 (北 素子)
 1 看護過程の必要性
 2 在宅特有の看護過程
  1 在宅における看護過程の特徴
   1)療養者本人,家族,環境という視点からのアセスメントと介入
   2) 家族全体を支える家族看護
   3)療養者とその家族の価値観をとらえ自律性を前提とした看護
   4)短期的・長期的な展望を持った看護
   5)社会制度・在宅ケアシステムの理解と多職種連携・協働
  2 在宅における看護過程展開の実際
   1)インテーク 2)初回訪問による情報収集 3)アセスメント
   4)看護課題の抽出 5)計画立案 6)実施 7)評価
 3 家族全体を対象にした看護過程
  1 家族を理解するための諸理論
   1)システムとしての家族 2)家族の範囲 3)療養者の健康障害と家族の発達段階
   4)家族生活の混乱と家族員間のニーズの競合 5)外部サービス活用
  2 家族をとらえるための技法
  3 家族全体をとらえた看護過程の実際
   1)アセスメント 2)看護目標 3)看護計画
第6章 生活の場における看護の基本
 1 生活の場への訪問(松村ちづか)
  1 初回訪問の重要性
   1)初回訪問とは 2)初回訪問はなぜ重要か 3)看護師は初回訪問で何を知るべきか
  2 療養者・家族とのコミュニケーション
   1)在宅での療養者・家族とのコミュニケーションの重要性 2)コミュニケーションの留意点
  3 療養環境の整備
   1)療養環境とは 2)なぜ整備が必要か
   3)整備すべき内容と留意点 4)在宅での住宅改修や工夫
 2 信頼関係の形成・意思決定への支援(松村ちづか)
  1 信頼関係の形成に必要な看護師の資質と能力
   1)なぜ信頼関係の形成が重要か 2)信頼形成のために,看護師に必要な資質と能力
  2 意思決定の支援プロセスと意思決定上の技術
   1)意思決定支援とは…在宅看護でとくに必要とされる理由
   2)在宅で療養者・家族が意思決定に悩む内容
   3)療養者・家族が意思決定するプロセス
   4)療養者・家族の意思決定プロセスを支える看護師の役割
   5)意思決定支援プロセスと意思決定上の技術 6)意思決定の支援プロセスの例
 3 在宅看護と倫理(松村ちづか)
  1 対象の尊厳を守ること
   1)対象の尊厳とは何か 2)なぜ在宅では,尊厳を守ることがとくに重要なのか
   3)在宅において,尊厳が守られない状況
  2 看護師の倫理観
   1)在宅看護を提供する看護師に必要な倫理的感受性 2)尊厳を守るための看護師の役割
   3)看護師自身に必要な基本的な倫理観
 4 リスクマネジメント(竹森志穂)
  1 在宅看護におけるリスクマネジメントの考え方
   1)リスクマネジメントの目的 2)リスクマネジメントはなぜ大切なのか
   3)リスクマネジメントに関連する在宅看護の特徴 4)在宅看護で起こりうる事故の種類
  2 対策と予防の実際
   1)PDCAサイクル 2)在宅看護で起こる事故の誘因・原因
   3)事後対応と予防対策 4)リスクマネジメントも看護の一部
第7章 在宅看護に求められるケアと療養者・家族への支援 I 生活支援
 1 食べること,栄養を確保すること(竹森志穂)
  1 食べること,栄養を確保することの意味,援助の必要性
   1)食べるということ 2)食べるための生活行動とは
   3)食事に関連した支援の必要性
  2 経口摂取の援助
   1)経口摂取に関するアセスメント 2)経口摂取の援助方法
  3 経管栄養法の看護
   1)経管栄養法の種類 2)経管栄養法に関するアセスメント 3)経管栄養法の援助方法
  4 在宅中心静脈栄養法の看護
   1)在宅中心静脈栄養法の種類 2)在宅中心静脈栄養法に関するアセスメント
   3)在宅中心静脈栄養法の援助方法
 2 自立した排泄を維持すること(渡邉美也子)
  1 排泄することの意味,援助の必要性
   1)排泄するということ 2)自立した排泄の援助と多職種との協働
  2 排泄に関するアセスメント
   1)排尿のアセスメント 2)排便のアセスメント
  3 排泄の援助方法
   1)排尿(尿失禁,自己導尿,留置カテーテル,腎瘻など)
   2)排便(緩下剤の調整,浣腸,摘便,ストーマケア)
 3 清潔を保つこと(宮田乃有)
  1 清潔を保つ目的と意義
  2 清潔に関するアセスメント
   1)療養者の心身の健康状態やADL 2)これまでの保清方法
   3)保清のための住環境 4)他の在宅サービスによる支援 5)療養者の希望
  3 清潔を保つための具体的方法
   1)入浴 2)シャワー浴 3)清拭 4)陰部洗浄
   5)洗髪 6)口腔ケア 7)手浴・足浴 8)整容
  4 褥瘡の予防とケア
   1)褥瘡の予防 2)褥瘡のケア 3)訪問看護師の役割
 4 自立して移動すること(渡邉美也子)
  1 自立して移動することの意味,援助の必要性
   1)移動するということ 2)自立とは 3)自立した移動と在宅療養
  2 移動に関するアセスメント
  3 安全で自立した移動を行うための援助方法
   1)療養者の自立度に合わせた移動・移乗の援助 2)家族への移動介助の指導
   3)転倒予防のためのトレーニング 4)介助者の腰痛予防 5)多職種との連携
 5 呼吸を整えること(在宅酸素療法・気管カニューレ・吸引・呼吸リハビリテーションの実際と指導)(諏訪部高江)
  1 安楽に呼吸することの意味,援助の必要性
   1)呼吸するということ 2)呼吸困難に対するケア
   3)日常生活動作を維持する 4)栄養状態を維持・改善する
  2 呼吸器に関するアセスメント
  3 安全に安楽に呼吸できるための具体的方法
   1)呼吸リハビリテーション 2)気管切開
   3)在宅酸素療法 4)在宅人工呼吸
 6 24時間を支えること(安岡しずか)
  1 24時間を支えることの必要性
   1)24時間訪問看護体制の現状と課題 2)24時間365日を支える訪問看護サービスの多様化
  2 24時間を支えるために必要なアセスメント
   1)療養者のアセスメント 2)家族のアセスメント
   3)療養者と家族を取り巻く環境のアセスメント
  3 24時間を支えるための具体的方法
   1)一般的なオンコール体制 2)夜間・早朝の定期的な訪問看護サービス
   3)「通い」や「泊まり」と訪問看護サービスの連携
   4)グループホーム等居宅系施設との連携
第8章 在宅看護に求められるケアと療養者・家族への支援 II 疾患別の支援
 1 ターミナル期にある療養者と家族の支援(吉田美由紀)
  1 ターミナルケアとは
  2 がんと非がんによるターミナルケアの違い
  A ターミナル期にあるがん療養者と家族の支援
   1 ターミナル期にあるがん療養者の臨床経過
    1)準備期 2)開始期 3)安定期 4)終末期 5)臨死期
   2 ターミナル期にあるがん療養者の特徴とケア
    1)痛みのアセスメントとがん性疼痛のコントロール 2)医療の選択における意思決定支援
   3 ターミナル期にあるがん療養者の家族への援助
    1)準備期 2)開始期 3)安定期 4)終末期 5)臨死期 6)死別期
   4 ターミナル期にあるがん療養者へのチームケア
    1)学際的チームケア 2)独居療養者への訪問介護とチームケア
   5 ターミナル期にあるがん療養者の経済的問題への対応
  B ターミナル期にある非がん療養者と家族の支援
   1 ターミナル期にある非がん療養者の臨床経過
   2 ターミナル期にある非がん療養者の特徴とケア
    1)老衰の看取りにおける医療の考え方 2)医療の選択における意思決定支援
   3 ターミナル期にある非がん療養者の家族への援助
   4 ターミナル期にある非がん療養者へのチームケア(多機関・多職種との連携,サービス調整のポイント)
   5 ターミナル期にある非がん療養者の経済的問題への対応
 2 認知症による療養者と家族の支援(宮田乃有)
  1 認知症とは
   1)認知症の定義 2)認知症の症状 3)認知症の原因疾患
   4)認知症を取り巻く状況と看護の役割
  2 認知症療養者へのケアの特徴
   1)認知症の症状と在宅療養 2)独居の認知症療養者
   3)ステージに応じた認知症療養者と家族のケア
  3 認知症療養者の家族へのケア
  4 認知症療養者へのチームケア
 3 精神障害による療養者と家族の支援(田嶋佐知子)
  1 精神障害とは
  2 精神障害による療養者の特徴とケア
   1)精神障害による療養者にとっての障害とは
   2)精神障害による療養者の日常生活への影響(生活障害) 3)具体的援助の内容
  3 精神障害による療養者の家族への援助
   1)家族への理解と看護 2)家族への具体的な援助方法
  4 精神障害による療養者へのチームケア
   1)医療,保健・行政,福祉領域との連携 2)連携のポイント
  5 精神障害による療養者を取り巻く環境の変遷と課題
   1)法制度の変遷 2)障害者総合支援法
   3)精神障害者保健福祉手帳 4)今後の課題
 4 難病による療養者と家族の支援(諏訪部高江)
  1 難病とは
  2 難病の特徴とケア
   1)人工呼吸器装着中の看護 2)コミュニケーションへの支援
   3)難病療養者の家族への援助 4)療養者・家族を支える制度
  4 難病療養者へのチームケア
   1)チームケアの運営 2)チームにおける看護師の役割 3)専門職からの援助
  5 難病療養者を取り巻く環境の変化と課題
第9章 在宅看護学を深める方法
 (山本則子)
 1 看護を深めるための事例検討会
  1 事例検討会とは
   1)事例検討会の意義 2)事例検討会の定義
  2 事例検討会の実際
   1)実践を深める事例検討会の枠組みを開発する
   2)実践エンパワメントのための事例検討会の枠組みとシート
   3)事例検討会の場づくり 4)事例検討会の効用
 2 看護を広めるための事例研究…実践を説明する言葉(概念)づくりを意識して
  1 事例研究とは
   1)看護実践を再考する 2)看護実践の事例研究とは
  2 事例研究の実際
   1)実践を語る言葉づくりを意識した事例研究─ある事例研究論文を題材に─
   2)事例報告会などでの事例研究発表 3)事例報告会から事例研究論文へ
  3 事例研究から看護学をつくろう