やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 わが国の医療技術の進歩や生活水準の向上により,患者や家族からの医療に対する要望は年々多様化しています.そして,キュア中心の急性期医療からケア中心の長期療養型医療へのシフト,施設中心の医療から在宅医療への流れ,自己完結型から地域連携システム型へと移行する中で,医療連携に必要な機能分化が求められる等,医療変革が続いています.その連携システムの1つといえる病院情報システム(電子カルテ)の取り組みが加速しています.
 一方,看護サービス提供を表す看護記録は,「看護過程を展開した実践を記録する」という概念が,インフォームド・コンセントやチーム医療の推進,個人情報保護法の全面施行,第5次医療法の一部改正等により,その内容は患者記録となり,また組織人,専門職として提供した看護サービスについて説明・同意・証明・説明責任を果たす記録として求められる等,変貌を遂げています.すなわち実践したが記録されていないと実践したことにならないという解釈です.
 筆者は,1994年に社会保険病院で看護情報支援システムの開発にあたり,看護記録の研究を行う等,看護記録はもとより,それを表す看護実践に課題・問題が山積している現状を目の当たりにしました.その際,課題解決策として,患者に説明・証明できる方法のフォーカスチャーティングR(フォーカスケアノート)に出会い,開発者が所属していたクリエイティブヘルスケアマネジメント社で,数年間にわたりフォーカスチャーティングR,プライマリーナーシング,コンピテンシーアセスメント,ケアマネジメント,エンパワーリーダーシップなどのコースを受講し,コンサルタントとして訓練を受けました.またメーヨークリニックやミネソタ州立大学病院等で数年間にわたり,視察研修に参加する等,フォーカスチャーティングRをはじめとして,病院・施設の看護コンサルタントとして15年間活動してきました.
 一方,臨床看護師を中心に,看護記録を考える会から,フォーカスチャーティングR研究会,2003年には特定非営利活動法人日本フォーカスチャーティングR協会を設立し,院内看護・介護記録指導者の育成や,フォーカスチャーティングRの啓蒙教育並びに看護・介護記録のあり方の臨床研究について活動してきました.そのような経験や得た知識から,医療の変革にともなう記録の変貌に対応する現任教育の指導書や,病院情報システム構築に際しての実務専門書が必須と思い,フォーカスチャーティングR認定指導士コースの講師,ミネソタ海外視察研修終了者,訪問病院先のフォーカスチャーティングR認定指導士のご協力により本書を発刊することとなりました.
 本書は臨床現場で活動されている看護師が看護記録を記載する上での疑問や課題の解決策としてフォーカスチャーティングRでの看護記録の実際を具体的にわかりやすく解説しています.
 本書を通して,専門職として看護記録の役割や重要性を再認識し,医療人・組織人として,患者・利用者にわかる・みえる・説明・証明できる記録のあり方や,看護サービス内容について説明責任を果たせる記録であるかを振り返ってみましょう.
 また,病院電子情報システムの取り組みが加速する中で,看護実践とシステム構築の連動が一次利用のみにとどまることなく,二次利用できるシステム構築の参考にしていただければと思います.
 つまり「実践がよくなれば,患者がよくなる.患者がよくなれば記録がよくなる」ということです.専門職は,生涯学習が必須といえます.その実務書・学習書として多くの方々が本書を活用されて成果をあげ,より質の高い看護サービスが提供できるよう期待しています.本書を発刊するにあたり,医歯薬出版株式会社編集担当に心より感謝を申し上げます.
 学びの基本・指導の基本 調べる・わかる・生かす
 平成24年6月 川上千英子
Chapter 1 変革する医療情勢と看護記録の重要性(川上千英子)
 1. 医療制度改革の変遷
 2. 看護記録の変遷
 3. 看護記録の重要性
Chapter 2 病院の電子情報の個人情報保護と安全管理(山本隆一)
 1. プライバシーの歴史
 2. 医療と個人情報保護
 3. 医療情報システムと個人情報保護
 4. 医療情報の安全管理
 5. 安全管理の基礎
 6. 運用とシステム機能
 7. 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン
 8. 一般の医療従事者として守らなければならないこと
 9. 個人情報保護における電子化の利点
Chapter 3 説明責任と法と記録(鈴木 真)
 1. 医療従事者の有する法的責任
 2. 医療記録と法令上の規定
 3. 訴訟と医療記録
 4. 訴訟と看護記録
Chapter 4 説明責任と看護師の役割(川上千英子)
 1. 看護の仕事
 2. 看護とはなにか
 3. 専門職として看護師が持つ技能
Chapter 5 フォーカスチャーティング(R)の基本原則と活用の実際(川上千英子)
 1. なぜフォーカスチャーティング(R)が誕生したか
 2. フォーカスチャーティング(R)の定義
 3. フォーカスチャーティング(R)のフォーマット
 4. フォーカスチャーティング(R)の構成要素
 5. フォーカスチャーティング(R)の基本的な書き方・表し方
 6. 看護過程とフォーカスチャーティング(R)の関係
 7. クリティカルシンキングとアセスメントのとらえ方
Chapter 6 各シート類との連動方法の実際(川上千英子)
 1. 入院基本料等の各シート類との連動の必要性
 2. 地域連携計画を含めた患者参画型看護計画
 3. 患者参画型看護計画とのフォーカスチャーティング(R)の連動記載方法
 4. ヒヤリハット,事故・過誤発生時のフォーカスチャーティング(R)記載方法
 5. 看護必要度とのフォーカスチャーティング(R)連動記載方法
 6. クリニカルパスとのフォーカスチャーティング(R)の連動方法
Chapter 7 説明責任が果たせるフォーカスチャーティング(R)による看護記録の実際例
 Case 1 看護必要度との連動記録(新井則子,吉澤衣絵,本田さお里,及川扶美子)
 Case 2 看護サービス実施の証明とその評価〜看護必要度との連動(足立裕子,下郡美香)
 Case 3 暴言・暴力にかかわる記録の実際(渡辺里花)
 Case 4 行動制限(隔離・拘束)の記録の実際(紙カルテ編)(竹園輝秀,宇佐美政明)
 Case 5 行動制限(隔離・拘束)の記録の実際(電子カルテ編)(宮下 誠)
 Case 6 転倒・転落時の説明責任の果たせる看護記録(新名里美,井上洋子,吉田弘美,疋田八千代)
 Case 7 転倒・転落を繰り返す患者の記録(原田良子)
 Case 8 急性期病院においてがん告知を受け,治療のため入院が長期化した患者の事例記録(田中雅代,森山祐佳,玉井保子,黒田なおみ,小野千代子)
 Case 9 介護福祉士とともに,ケアサービスを提供したことを証明する記録の実際(田中明美)
 Case10 訪問看護記録のあり方―実態調査の結果から考える―(毛尾ゆかり)
 Case11 標準看護計画から,個別性のある患者参画型看護計画立案とフォーカスチャーティング(R)との連動を目指して(本部美和)
 Case12 助産録の意義とクリニカルパスとの連動方法(日下富美代)
Chapter 8 電子情報と記録
 (1)電子カルテを取り入れる前に.導入の際の注意点(入江真行)
  1. 電子カルテの現状
  2. 電子カルテ導入のプロセス
  3. システム開発過程での留意点
  4. 電子カルテの運用と活用
 (2)電子カルテ上での看護記録の現状(岡室 優)
  1. 電子カルテ導入に向けて
  2. 電子カルテ上での看護記録の種類
  3. フォーカスチャーティング(R)導入に向けて
  4. 導入後に見えてきた電子カルテの利点,問題点
Chapter 9 記録の評価・監査とその教育の実際(佐藤早苗,遠藤貞子)
 1. 記録マニュアル改訂・作成の視点
 2. 看護記録基準
 3. 記録の監査基準
 4. 記載マニュアル
 5. 院内研修
 6. 評価
 7. 今後の課題

 付録
  患者・利用者記録として表現できない用語・熟語1 急性期編(駒形由未加,高木 聡,苅田明子,川上 薫)
  患者・利用者記録として表現できない用語・熟語2 精神科編(桑島裕子,井上美穂)
 Column
  災害時の診療情報の管理とは(阿南 誠)