やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦のことば(初版より)
 わが国は現在,幸いに食環境に恵まれ,飽食の時代を満喫しています.そのこと自体は幸福なことではありますが,一方において生活習慣病が蔓延し,それが1つの大きな社会問題となって,われわれの未来に黒い影を落としています.
 こうした生活習慣病の発生は,その遠因として,子どものころからの食習慣にあることが最近になって明らかにされてまいりました.すなわち,人間が生涯にわたって健康を維持し,その増進を図るために,発育途上の子どもの時代から食生活を正しく指導され,良い食習慣を身に着けることが極めて重要なことであると思います.
 さらに,子どもの人間形成には食教育が不可欠の条件であり,改めてその重要性が強調されております.とりわけ保育に関わる人たちに,小児栄養学に対する正しい知見が,子育ての基本であることを強く広めております.
 このような社会情勢の変化に伴い,時代の要請に応えるべく,旧版の『保育者のための小児栄養学』が,本学の気鋭な学者たちの手によって改訂され,装いをまったく新たにして世に出ることは誠に喜ばしいことであります.
 次代を担う子どもたちが,より逞しく,心豊かに成長することは,新しい世紀への活力ある社会基盤であることを確信し,あるべき明日の保育のために,本書が果たす役割は極めて大きいことと思います.そして,こうした保育者を夢見て努力する若い人たちに,本書が「新しい智恵」として活用されることを期待し,推薦のことばとさせていただきます.
 平成12年の新学期を迎えて
 聖徳大学
 聖徳大学短期大学部
 学長 川並弘昭

第2版の改訂にあたり
 本書の初版「保育者のための新・小児栄養学」が出版されたのは平成12年5月である.旧版は幸い広範な読者の支持を得て,これまで年々増刷を繰り返し,その度に小改訂を重ねてきた.
 平成20年に国の保育所保育指針の改訂があり,保育の食に関するカリキユラムの改正で,従来の「小児栄養」は,「子どもの食と栄養」となり,「子どもの健やかな食生活」を目指す具体的な目標が立てられることになった.そこでは,保育における「食育」は,「知育」「徳育」「体育」の基礎となるべきものと位置づけられた.
 今回本書の改訂にあたり,すべての章を通じて食育の概念を取り入れて全面的に見直し育児支援に役立つように意図して修正するとともに,上記の指針を満たすため新たに数章を追加した.
 総論では,まず子どもに与える栄養の意義を述べ,発育期の栄養の特殊性を示した.また,最近の子どもの食行動における問題点を挙げ「子どもの食生活」が親子の人間関係の絆(きづな)を作る基本となり,それが将来の人問愛形成につながることを強調した.
 さらに,子どもの食事や食習慣が,その後の成人の生活習慣病の蔓延など人生にも大きな影響を持つことを「生涯発達と子どもの栄養」の章で解説した.
 食事摂取基準については,2010年版に改め,さらに最近の肥満児の増加傾向から肥満対策としての判定法を新たに明示した.母乳育児,離乳については,平成19年3月に厚生労働省から公表された「授乳・離乳の支援ガイド」策定に基づき育児支援の観点から修正した.
 また,食育基本法を解説するとともに,「食品と食の安全」「家庭における食事と栄養」を新たに加え,子どもの「食べる力」の推進を目標に具体的に記載した.疾病を持つ子どもの食事には,今回新たに「障害児の食事の支援」の章を追加した.
 本書が,子どもの種々な発育のステージでの食生活の向上と,「質の高い保育」を目標に保育に関わるすべての人たちのお役に立つことができれば幸いである.
 今回の改訂にあたり,ご協カとご鞭撻をいただいた医歯薬出版株式会社の編集担当に深甚の謝意を捧げる.
 平成23年6月
 執筆者一同

序(初版より)
 人生において健康ほど価値のあるものはない.その健康生活に必要な条件として栄養,運動,休養の3条件が挙げられる.わが国では1950年くらいまでの栄養学は「栄養素とその欠乏の栄養学」が主題であった.しかし,現在の先進国では主要栄養素の欠乏による疾患はほとんど姿を消し,栄養学は日常生活やライフスタイルへの応用が進み,「栄養素の科学」から「食事と健康の科学」に移行してきている.
 近年わが国を含め欧米先進国では経済的な繁栄のため食料事情は豊かになり,またモータリゼーション,日常生活の電化などで人々は極めて快適な生活を楽しめるようになった.しかし一方では,これらの社会生活の変貌は「飽食」とか「運動不足」という状況を生み出し,その結果生活習慣病が蔓延し,肥満,糖尿病,高血圧,高脂血症,動脈硬化に起因する疾患や癌などが増加し,むしろ上述の近代化は新たに国民の健康を阻害する社会的な大問題になってきている.しかもこれらの生活習慣病は,かつては「成人病」ともいわれていたが,現在では,その病態はすでに小児期から始まっていることが,最近の疫学的な調査で明らかにされた.
 したがって,これから健康を維持するには,国民一人一人が日常の食生活で豊富な食物の中からいかに賢く食品を選択してゆくかが重要になってきている.すなわち21世紀の国民の健康の維持には,医療に依存するよりも子どもの保育に関わる人々が子どもの頃から発育の栄養学を十分に理解し,さらに成人に至るまで公衆栄養学知識に基づいて啓蒙活動を続けることが極めて重要である.
 さて本書は故国分義行教授と佐伯節子教授の『保育者のための小児栄養学』を全面的に改編した新版である.旧版は幸い広範な読者の支持を得て版を重ねてきたが,最近の小児栄養学が乳幼児の栄養学から,さらに上述の社会的変動に伴う学童・思春期の栄養学にいたるまで,その重要性が大きくなってきたので,従来の記載に最近の問題点を含めて広く詳細に記述することにした.またわが国の最近の保育環境も「健康児の保育」から「病児を含めた保育」に拡大する状況を配慮して,「病児の栄養」についての基礎的な知見も加えることにした.
 「食の乱れは心の乱れ」といわれる.食事は子どもにとっては毎日の生活の中でのメインイベントであるべきなのに,最近のわが国の子どもたちを囲む食環境には肥満児の増加,欠食,孤食,問題の多い外食や夜食,理不尽なダイエットの流行,あるいは家族団欒の食事の機会の減少など問題が山積しており,子どもの健全な心身の発達を目指すうえでの大きな障害になっている.食事は子どもにとっては栄養のみならず,基本的な人間形成の極めて有効な場であり,食育の重要性はいくら強調してもし過ぎることはない.これは子どもの食事と大人の食事の根本的に異なる点である.
 本書が保育や看護に関わるすべての職種の人々,児童学の修得を目指す学生諸君に有用な教科書になることを念願するものである.今後,読者のご指導を賜りながら内容の充実に一層努力する所存である.
 本書は第1,2,3*,4,5,8章および第12章は赤塚,第6,7章および11,12章は野原,第9章および10章は佐伯が,それぞれ単独または分担して執筆にあたった.
 おわりに本書の出版に際して大変お世話になった医歯薬出版の編集部はじめ関係各位に深甚の謝意を捧げます.
 平成12年4月
 執筆者一同
 *平成18年より第3章は所担当.
 ※第1版第8刷の増刷にあたり,第1章の栄養素に関する図表作成についてご協力賜りました社団法人米穀安定供給確保支援機構消費拡大事業部の皆様に衷心より感謝申し上げます.
第1章 総論─子どもの健康と食生活(赤塚順一)
 1.子どもの栄養の意義と特徴
 2.栄養学の発展の歴史
 3.わが国の最近の栄養ならびに食事に関する諸問題
  1)栄養素摂取の変遷と問題点
  2)食品摂取からみた栄養への影響
  3)栄養と疾病構造の変化
  4)若年女性のやせの問題
  5)運動不足が健康に及ぼす要因
  6)食品産業と栄養
  7)食品の安全
 4.子どもの発育と栄養の特徴
  1)発育過程における栄養の特徴
  2)発育に応じた摂食行動の発達と支援
 5.最近の子どもの食の問題点
  1)最近の栄養過剰による問題
  2)最近の子どもの栄養不足による問題
 6.子どもの食行動の問題点と食育
  1)朝食の欠食
  2)ファーストフードと夜食症候群
  3)子どもとダイエット
  4)最近の子どもは食物の大切さを認識していない
  5)食は愛なり
第2章 栄養生理(宮川三平)
 1.炭水化物(糖質)
  1)炭水化物の種類
  2)炭水化物の消化・吸収
  3)炭水化物の代謝
  4)炭水化物の栄養学的意義
  5)炭水化物を含む食品
 2.脂質
  1)脂質の種類
  2)脂質の消化・吸収
  3)脂質の代謝
  4)脂質の栄養学的意義
  5)脂質を含む食品
 3.たんぱく(蛋白)質
  1)たんぱく質の種類
  2)たんぱく質の栄養価
  3)たんぱく質の消化・吸収
  4)たんぱく質の代謝
  5)たんぱく質の栄養学的意義
  6)たんぱく質を含む食品
 4.エネルギー(熱量)
  1)基礎代謝
  2)特異動的作用(食事誘発性産熱反応)
  3)成長
  4)活動
  5)排泄
  6)各栄養素のエネルギー
  7)エネルギー摂取の過剰と過少
 5.無機質
  1)カルシウム(Ca)
  2)リン(P)
  3)鉄
  4)ヨウ素
  5)ナトリウム(Na),カリウム(K),塩素
  6)微量成分
 6.ビタミン
  1)ビタミンA(レチノール)
  2)ビタミンD(カルシフェロール)
  3)ビタミンE
  4)ビタミンK
  5)ビタミンB1(チアミン)
  6)ビタミンB2(リボフラビン)
  7)ビタミンB6(ピリドキサール)
  8)ビタミンB12(コバラミン)
  9)葉酸
  10)ナイアシン(ニコチン酸,ニコチンアミド)
  11)ビオチン
  12)ビタミンC
 7.水分の役割
  1)生体内水分
  2)水分の働き
  3)水分の出納
第3章 食事摂取基準(所 敏治)
 1.日本人の食事摂取基準(2010年版)
 2.各栄養素の摂取基準
  1)エネルギー
  2)炭水化物・食物繊維
  3)脂質
  4)たんぱく質
  5)ビタミン
  6)無機質(ミネラル)
  7)食事摂取基準量のまとめ
第4章 摂食・消化機能の発達(宮川三平)
 1.小児の食物摂取機序
 2.摂食行動の発達過程
  1)乳汁の摂取
  2)固形物の摂取
  3)咀嚼
 3.味覚と嗜好
 4.消化吸収の生理
  1)口腔
  2)食道
  3)胃
  4)腸
  5)便
  6)肝臓
  7)腎臓
第5章 栄養状態の評価(宮川三平)
 1.栄養評価とは
 2.栄養摂取量による評価
  1)食事の質的評価
  2)食事の定量的評価
 3.栄養障害に関連する臨床症状による評価
 4.人体計測による栄養評価
  1)体重および身長
  2)皮下脂肪厚(皮脂厚)による肥満の判定法
第6章 献立・調理の基本(佐伯節子)
 1.献立
  1)献立作成の基本
  2)1日の栄養配分
  3)献立の組み合わせ
  4)食品成分表
  5)献立の栄養価計算
  6)行事と行事食
 2.調理
  1)調理の目的
  2)調理法
  3)調味
  4)調理についての一般的注意
  5)乳幼児調理の注意点
  6)乳幼児の供食の注意点
  7)調理実習にあたって
第7章 乳児期の心身の発達と栄養(野原八千代)
 1.授乳栄養
  1)母乳栄養
  2)人工栄養
  3)混合栄養
 2.離乳栄養
  1)離乳の定義
  2)離乳の必要性
  3)離乳の開始と進め方の基本
  4)離乳食の進め方
  5)離乳食の与え方
  6)離乳食品類
第8章 幼児期の心身の発達と栄養(野原八千代)
 1.幼児期栄養の特徴と必要性
  1)身体発育の特徴
  2)脳の発育
  3)活動
  4)精神発達
  5)こころの発達と食事
  6)食生活
 2.幼児期の栄養生理
  1)生体のリズムと食事
  2)消化機能
  3)食欲の発達
  4)味覚の発達
  5)嗜好の発達
  6)咀嚼機能の発達
 3.幼児期の栄養所要量
 4.幼児の食品構成
 5.幼児期の献立
  1)幼児期の献立の原則
  2)1日の栄養の配分
  3)献立作成上の注意
  4)避けたい食品
 6.幼児食の調理
  幼児食の調理の原則
 7.食事の与え方
  1)食事の与え方
  2)食行動の発達
 8.幼児期の栄養上の注意
  1)遊び食い
  2)むら食い
  3)偏食
  4)食欲不振
  5)咀嚼に関する問題
 9.幼児の間食とお弁当
  1)間食の意義
  2)間食の食品
  3)間食の与え方
  4)お弁当
第9章 学童・思春期の心身の発達と栄養(宮川三平)
 1.学童・思春期の心身の発達
 2.思春期の栄養の特徴
 3.学校給食
  1)学校給食の目標
  2)学校給食の実施状況
  3)学校給食の栄養基準と食品構成
  4)学校給食の摂取の現状
 4.学齢期の栄養の問題
  1)欠食・孤食
  2)間食・夜食
  3)ダイエット
  4)貧血
  5)肥満
  6)高脂血症
  7)食事アレルギー
  8)給食嫌い
  9)神経性食欲不振症(摂食障害)
  10)青少年のスポーツと栄養
第10章 生涯発達と子どもの栄養(宮川三平)
 1.生涯発達について
  1)生涯発達とは
  2)脳科学から見た生涯発達
 2.豊かな生涯発達をもたらす子どもの栄養
  1)神経系の発達と脂質摂取
  2)子どもの食生活習慣と生涯発達
  3)骨代謝と生涯発達
第11章 食育(上野美保)
 1.食育の基本
  1)食育基本法
  2)食育推進基本計画
  3)食育白書
 2.小児期における食育
  1)「食を通じた子どもの健全育成」のねらいと目標
  2)発育・発達過程に応じて育てたい“食べる力”
 3.保育園(幼稚園)における食育
  1)保育所における食育の目標
  2)「保育所保育指針」における食育
  3)「幼稚園教育要領」における食育
 4.保育所における食育計画の立て方
  1)目標の設定
  2)実施
  3)評価
  4)改善策の検討
 5.保育所における食育の実際
  1)クッキング
  2)栽培活動
  3)絵本の読み聞かせや種々の媒体の使用
  4)給食やおやつの時間を利用して
  5)保護者への食育
 6.食育のための環境
 7.食育推進のための保護者・地域との連携
  1)保育所職員の研修および連携
  2)保護者との連携
  3)地域との連携
第12章 家庭における食事と栄養(佐伯節子)
 1.家族の食事と栄養の特徴
  1)乳児期
  2)幼児期
  3)学童期
  4)思春期
  5)成人期
  6)高齢期
 2.家庭の栄養摂取の現状と課題
 3.家庭の食生活をとりまく現状と課題
  1)食生活の変化
  2)三食の重要性
  3)食料自給率
  4)食事時間
  5)食に関する情報提供
  6)家庭でできる食中毒予防
 4.保育所・地域と家庭との連携
 5.健康な食生活の方向性
第13章 食品と食の安全(佐伯節子)
 A.食品の選びかた
  1.植物性食品
   1)穀類およびその製品
   2)いも類およびその製品
   3)豆類およびその製品
   4)野菜類
   5)果実類
   6)種実類
   7)きのこ類
   8)海藻類
   9)香辛料食品
  2.動物性食品
   1)獣鳥肉類およびその製品
   2)卵類
   3)魚介類とその製品
   4)牛乳および乳製品
  3.油脂類
   1)植物性油
   2)動物性脂
   3)マーガリン
   4)その他の油脂類
  4.砂糖類
   1)砂糖
   2)滋養糖
   3)はちみつ
  5.菓子類
 B.食の安全性
  1.食品表示制度
  2.食品添加物
   1)食品添加物とは
   2)食品添加物の安全性
   3)食品の表示にはどんなものがあるのだろうか
   4)安全に食べるテクニック
第14章 施設における食事と栄養(野原八千代)
 1.集団における給食
 2.児童福祉施設の給食
  1)施設の種類と給食の区分
  2)給食の役割
  3)児童福祉施設の栄養給与目標
 3.保育所の給食
  1)保育所における給食の役割
  2)保育所給食の問題点
  3)保育所入所時の食事に関する個人情報
 4.保育所給食の実際
  1)乳児の栄養
  2)幼児の栄養
第15章 疾病および体調不良の子どもへの対応(宮川三平,野原八千代)(1〜5:宮川,6〜8:野原)
 1.急性胃腸炎
  1)乳幼児下痢症の食事療法の原則
  2)食事療法の際の注意事項
 2.食物アレルギー
  1)食物アレルギーの症状
  2)食物性アレルゲン
  3)食物アレルギーの診断
  4)食物アレルギーの治療
 3.栄養性貧血
 4.慢性疾患
  1)心臓病
  2)腎臓病
  3)肝臓病
 5.悪性腫瘍
 6.先天性代謝異常症
 7.肥満症
  1)肥満の原因
  2)肥満の判定
  3)肥満の治療
 8.糖尿病
  1)1型糖尿病
  2)2型糖尿病
第16章 障害のある子どもの栄養(宮川三平)
 1.健康な子どもの摂食機能の獲得過程
 2.大脳に障害のある子どもの摂食機能
 3.大脳に障害のある子どもの摂食と栄養
  1)脳性麻痺と重症心身障害児
  2)脳性麻痺を中心とした重症心身障害児の摂食
  3)重症心身障害児(者)の栄養評価
 4.知的障害のある子どもの摂食と栄養
 5.筋肉の病気のある子どもの摂食と栄養
  1)準備期・口腔期障害
  2)咽頭期障害
  3)摂食・嚥下障害
 6.視覚障害のある子どもの摂食と栄養
  1)乳児
  2)年長児
付録 献立例集(佐伯節子)
 1.離乳期の献立
 2.幼児期の献立
 3.学童・思春期の献立(6〜8歳・9〜11歳)
 4.学童・思春期の献立(12〜14歳)
 5.学童・思春期の献立(15〜17歳)
 6.保育所での給食
 7.病児の献立

 文献
 索引