やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 保健医療を取り巻く社会環境の変化に伴い,医療が高度化,専門分化し,看護職には社会状況に対応しうる看護実践能力が求められています.
 看護実践に必須である看護技術の習得は個々の学生にとって大きな目標であり,はじめて習得した看護技術はその人の技術の基盤になりうるといわれているので,看護技術のみがき方は重要な課題となります.学生にとって看護技術の習得は,新しい行動を形成していくことを意味しています.行動形成には,「具体の場」「具体の対象」「行動の場の設計」が必要であり,どのような場に学習者を置くか,どのような対象を置いて行動させるか,学習の場の設計をどうするかが重要となります.看護技術は知識を与えるという学習の場では育てることが難しいとされています.知っているからできるのではなく,どのような行動をとればよいか,さらにどのような順序で行動すればよいか,主体的に探求する行動姿勢から形成されるものです.この主体的な行動姿勢はその場に応じた行動として学習者自らつくり出していくものであります.
 本書は看護技術がどのような行動から成り立っているか,その行動がどのような構造を形成しているか,行動分析をベースに学習システムの設計を行い,看護技術のみがき方の一方法を提示したものです.学習の進め方としては,自分で考え,自分で調べ,自分で組み立てることをもとに,グループで課題に取り組み,仲間と一緒に技術をみがくことを目指しています.お互いに協力して調べ,話し合いながら自分の疑問や考えを伝え,相手の意見を聞き,人に説明することによって理解が深まり,人の行動を見て気づいていく学習においてお互いに刺激し合い,ともに成長していくことが大切ではないかと考えます.
 本書の構成は,まず最初は看護技術学習の方法として,学習の進め方,構成,学習の組み立て,学習活動の内容とポイントを提示し,次に看護技術として,生活の援助(ユニット1〜6),検査・診療に伴う技術(ユニット7〜11)を学習していくという内容となっています.それぞれの技術は,全体行動の構造をとらえる,全体行動を構成している各要素行動について学習する,要素行動を組み立て全体行動として実施する,というステップによるラウンド方式で学習します.
 順序を覚えるのではなく,その技術の重要な部分である中核技術の学習から入り,合理的な行動の設計,総合練習という学習者が自ら考え行動していく過程において,技術の構造を見いだし習得し,さらに積み重ねによる発見の喜びが期待できると考えています.
 最初のいくつかのユニットは時間を要するかもしれませんが,学習方法に慣れると学習が楽しく進むと思います.本書が,看護を学ぶ学生にとって看護技術習得の書として,新しい技術習得時の応用に,また,各領域の看護実践の場の教材として活用されることを願っています.
 今後,読者の皆様からのご意見,ご批判をいただき,さらに研鑽を重ねより充実した書となるよう努力していきたいと考えています.
 2010年6月
 著者一同
自分で考え,自分で調べ,自分で組み立てる〜本書における看護技術学習の方法〜
 1.学習の進め方
 2.学習ユニットの構成
 3.各ユニットの学習の組み立てと学習のポイント
 4.学習活動の内容とポイント
ユニット1 生活環境と身体の動き
 1.ベッドメーキング
  1)全体行動を観察しよう
  2)行動の構造を整理しよう
  3)中核技術の学習
  4)合理的な行動の設計
  5)総合練習
 2.体位変換
  1)全体行動を観察しよう
  2)行動の構造を整理しよう
  3)中核技術の学習
  4)合理的な行動の設計
  5)総合練習
  6)その他の体位変換
   ・合理的な行動を組み立てるための2つの視点
   ・行動を成立させるための視点と根拠
   ・行動を成立させるための視点と根拠
ユニット2 移送
 1.車椅子
  1)車椅子の構造を調べ,組み立てよう
  2)安全で安楽な移送のしかたを工夫しよう
  3)ベッドから車椅子へ移乗させよう
  4)総合練習―コミュニケーションを含めて
 2.ストレッチャー
  1)ストレッチャーの構造・機能を調べよう
  2)移送のしかたを工夫しよう
  3)移乗のしかたをとらえよう
  4)総合練習―コミュニケーションを含めて
ユニット3 衣の清潔
 1.リネン交換
  1)全体行動を観察しよう
  2)行動の構造を整理しよう
  3)中核技術の学習
  4)合理的な行動の設計
  5)総合練習
 2.寝衣交換
  1)全体行動を観察しよう
  2)行動の構造を整理しよう
  3)中核技術の学習
  4)合理的な行動の設計と総合練習
   ・行動を成立させるための視点と根拠
 ・それぞれの要素行動は,時間順の行動の中にどう位置づいているか
ユニット4 身体の清潔
 1.全身清拭
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)合理的な行動の設計をしよう
  4)総合練習
 2.洗髪
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)合理的な行動の設計と総合練習
 3.口腔ケア
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)合理的な行動の設計と総合練習
   ・行動を成立させるための視点と根拠
ユニット5 食への援助
 1.食事援助
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)総合練習
 2.経管栄養法
  1)全体行動の構造をとらえよう―経鼻胃管栄養法
  2)中核技術の学習
  3)もう一度,全体行動の構造をとらえよう
   ・行動を成立させるための視点と根拠
ユニット6 排泄への援助
 1.便器・尿器を用いた援助
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)総合練習
 2.オムツ交換
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)総合練習
 3.浣腸
  1)全体行動の構造をとらえよう―グリセリン浣腸
  2)中核技術の学習
  3)総合練習(シミュレーターを活用して)
  4)高圧浣腸の練習(シミュレーターを活用して)
 4.導尿
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)総合練習(シミュレーターを活用して)
  column ナースコールが押されるとき
   ・行動を成立させるための視点と根拠
ユニット7〜11の学習のために〜検査・診療に伴う看護技術の実施の要件〜
ユニット7 バイタルサインの観察
  バイタルサインをどう観察するか
 1.呼吸測定
  1)呼吸測定の観察事項をとらえよう
  2)呼吸音を聴診器で聴いてみよう
  3)安静時の呼吸を1分間測定しよう
  4)呼吸の異常状態をとらえよう
 2.脈拍測定
  1)脈拍の測定部位をとらえよう
  2)3指で測定する意味をとらえよう
  3)安静時の脈拍を1分間測定しよう
 3.体温測定
  1)体温計の種類と測定部位を調べよう
  2)図を参考にして体温を測定しよう
 4.血圧測定
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  総合練習―バイタルサインの測定
ユニット8 感染予防
 1.手洗い
  1)日常的手洗い(手洗い)をとらえよう
  2)衛生学的手洗い(手指消毒)をとらえよう
 2.滅菌物の取り扱い
  滅菌材料を清潔に扱う行動をとらえよう
 3.防護用具の使用
  1)ガウン(防護服)の着用・脱ぎ方をとらえよう
  2)防護用具の着脱の全体行動をとらえよう
ユニット9 検査
 採血―真空採血管を用いた静脈血検体の採取
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)総合練習(シミュレーターを活用して)
   ・行動を成立させるための視点と根拠
ユニット10 与薬
 1.経口与薬
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)5Rを読み取ろう
  3)中核技術の学習
  4)総合練習
 2.皮下注射・筋肉内注射
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)総合練習
 3.点滴静脈内注射
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)総合練習(シミュレーターを活用して)
  4)点滴針の種類と使い方
   ・行動を成立させるための視点と根拠
   ・刺入部位周辺の観察の視点
ユニット11 呼吸・循環を整える技術
 1.気道内加湿法―ネブライザーによる吸入
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)総合練習―連続行動として行ってみよう
 2.酸素吸入
  1)全体行動の構造をとらえよう―中央配管方式による酸素吸入
  2)中核技術の学習
  3)総合練習
 3.一時的吸引
  1)全体行動の構造をとらえよう
  2)中核技術の学習
  3)吸引開始前・終了後の行動を考えよう
  4)総合練習
   ・気道の状態を観察する視点
   ・吸入・吸引を効果的に行うための処置(1)
   ・吸入・吸引を効果的に行うための処置(2)
 ・文献