やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 ヒューマンサービスにおける「新しい理論と方法論」は,つねに実践の中,当事者とともにある.「当事者の生の声」を科学的な根拠に基づく情報として活かしながら,研究論文や実践,社会施策や啓発などに反映する技法へのニーズが高まっている.質的研究法は「当事者の思い」に寄り添い,「当事者自身の表現」を重視する技法のひとつである.なかでもグループインタビュー法は,グループダイナミクスを活用することで,より力動的で展開性の高い質的情報を捉える科学的な方法論としてすぐれている.複数の参加メンバーのダイナミックなかかわりにより生まれる情報を系統的に整理して「科学的な根拠」として用いる.その結果,「なまの声そのままの情報」を生かすことができ,量的な調査では得にくい「深みのある情報」と,単独インタビューでは得にくい「積み上げられた情報」「幅広い情報」「ダイナミックな情報」を得ることが可能となる.また何よりも,新しいアイディアの「創出」と「蓄積」に威力を発揮する.
 本書は,「ヒューマン・サービスにおけるグループインタビュー法」「ヒューマン・サービスにおけるグループインタビュー法II/活用事例編」(医歯薬出版)の続編である.前者はグループインタビューの「実施と分析の具体的な手順」を示し,後者は「多様な対象と方法論を用いた活用例」を解説したものである.本書は「論文・報告編」として,質的研究法の評価基準をもとに,施策提言や実践評価などの報告書に加え,学位論文・学会誌投稿などの審査に耐えうる執筆法を明示した.
 また,より多くの人が,科学的な根拠となる「質的な研究技術」としてグループインタビュー法を利用できるよう実際の適用例を示しながら,可能性と限界を含め活用のポイントを解説した.論文・報告事例の目的別に,どのような工夫が有効なのかに焦点をあてた.事例編では第一線でグループインタビューを活用している研究仲間が集い,さまざまな場面で適用しながら論文や報告を作成する典型的な実例を示した.グループインタビューを用いる研究範囲の広さと応用性,対象の特性に応じた報告や論文化のイメージを実感してもらうことを意図した.
 本書の構成は,大きく2部に分かれる.
 第1〜3章が「論文・報告作成の基礎」であり,第4章が具体的な「作成事例」である.
 「第1章 科学的根拠としてのグループインタビュー活用法」では,グループインタビュー法の特徴と科学的根拠としての情報活用の意味について論じた.
 「第2章 根拠を活かす研究プロセス」では,研究デザイン,実施,分析,報告,フィードバックの段階別に,どのように妥当性・信頼性を担保する配慮が必要なのかについて記載した.
 「第3章 論文・報告作成のコツ」では,質的研究の評価基準を参照しながら具体的な実例を紹介し,科学論文として満たす必要のある条件について分かりやすく解説した.
 「第4章 目的別グループインタビュー活用の実際」では,新しい理論を構築する際に有効な「理論構築型」,当事者の生の声をグループダイナミクスで抽出する「ニーズ抽出型」,経過を追跡して変化から将来の展開方策を描く「推移分析型」,自由自在のブレーンストーミング的な討論に基づく「アイディア創出型」,事業やプログラムの有効性に対する当事者評価を得るための「事業評価型」などのさまざまな形のグループインタビューを紹介した.各節においては,1)活用の特徴,2)分析のポイント,3)論文化のポイント,4)よりよく活用するために:可能性と注意点,という「共通の記述枠組み」を設定し,特徴を伝えるようにした.
 最後に,グループインタビュー法の今後の展開の方向性について期待を含め記述した.
 アンケート調査などの「量的な研究法」と,グループインタビューなどの「質的な研究法」の両者を一緒に行い,複数の側面から状況をとらえることで,より精度の高いニーズに合致した情報の把握が可能となる.本書が,グループインタビューの成果を科学的な根拠として,ヒューマンサービスに携わる専門職,研究職,行政職,学生が活用するきっかけとなれば幸いである.
 平成22年4月
 安梅勅江
 はじめに
 謝辞
Part-1 論文・報告作成の基礎(安梅)
 コラム グループインタビュー法の概要
Chapter-1 科学的根拠としてのグループインタビュー活用法
 1 グループインタビュー法の特徴
 2 科学的根拠と情報活用
Chapter-2 根拠を活かす研究プロセス
 1 研究デザインの段階
 2 実施の段階
 3 分析の段階
 4 論文・報告作成の段階
 5 フィードバックの段階
Chapter-3 論文・報告作成のコツ
 1 科学論文としての評価基準
 2 論文事例
 論文 住民参加型の保健福祉活動の推進に向けたコミュニティ・エンパワメントのニーズに関する研究
Part-2 グループインタビュー法活用パターン別事例
Chapter-4 目的別グループインタビュー法活用の実際
 理論構築型グループインタビュー法のポイント-専門性を発揮する実践モデルの提案-(岩崎)
  1 活用の特徴
  2 分析のポイント
  3 論文化のポイント
  4 よりよく活用するために:可能性と注意点
 ニーズ抽出型グループインタビュー法のポイント-コミュニティ・エンパワメントに向けたニーズ把握-(杉澤,篠原,伊藤)
  1 活用の特徴
  2 分析のポイント
  3 論文化のポイント
  4 よりよく活用するために:可能性と注意点
 推移分析型グループインタビューのポイント-制度導入後の住民意識の変化と関連要因-(平野,川島,杉澤,田中,恩田,澤田,石井,童)
  1 活用の特徴
  2 分析のポイント
  3 論文化のポイント
  4 よりよく活用するために:可能性と注意点
 アイディア創出型グループインタビュー法のポイント-インターネットの安全な活用に必要な要因-(渡辺)
  1 活用の特徴
  2 分析のポイント
  3 論文化のポイント
  4 よりよく活用するために:可能性と注意点
 事業評価型グループインタビュー法のポイント-虐待予防事業の評価とエンパワメント-(望月)
  1 活用の特徴
  2 分析のポイント
  3 論文化のポイント
  4 よりよく活用するために:可能性と注意点
 おわりに グループインタビュー法活用の今後の展開(安梅)

 参考文献
 索引