やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 私が初めてフリースタイル分娩の本質に触れたのは,もう15年以上も前のことだ.当時,私は大学病院での約10年間の臨床経験をへて,助産技術の研究がしたくて大学院に進学していた.大学院の実習でお世話になった茨城の開業助産師,瀬井房子先生が介助される分娩に立ち会わせていただいたとき,私は,自分の身体に雷が落ちたような戦慄が走ったことを今でも鮮明に覚えている.
 そこには,陣痛と上手に付き合いながら陣痛間歇時には笑顔を見せ,自らアクティブにいろんな姿勢をとっている産婦がいた.また,産婦を気づかいながらも周囲の助産師と日常会話を楽しそうに交わす産婦の家族もいた.これまでの大学病院の臨床では全く考えられない光景だった.そして全く介入のない自然な出産.女性が身体機能を十分に発揮すると,こんなにも身体がしなやかに,柔軟に,美しくなるんだと知った.そして,熟れた果実の皮がぺろりとむけるように児頭が娩出し,何事もなかったかのように分娩が終了した.母となってからも,その女性たちの身のこなしは軽やかで,いつも楽しそうに育児に取り組んでいた.日常の当り前な生活の中で,妊娠や出産,子育てをさりげなく支えている助産師の働きかけは本当に素晴らしかった.現在の私の助産師アイデンティティはこのときに確立されたと言っても過言ではない.
 そのような体験を重ねて,自らのライフワークとして開業助産師の「わざ」に取り組もうと決心した.多くの人々に,開業助産師は熟練の「わざ」を持っていると認知されていても,それが具体的にどのようなことなのかはあまり知られていない.これらを追究することは,未来に向けて果てしなくはあるが,今でも胸がわくわくする.
 平成16年に神奈川に異動し,そこで親しくなった開業助産師もみな素敵な人ばかりだった.常に情報交換を行ってネットワークを形成し,互いに技を磨きながら,チームでリスクマネジメントを行っている.これからの開業助産師のあるべき姿だと思う.私が今回のフリースタイル分娩介助のDVDの話を持ちかけた時も,彼女たちは撮影協力を二つ返事で引き受けてくれた.その協力がなかったら,この企画は成立しなかったことは言うまでもない.これからもずっと大切にしていきたい仲間たちである.
 そしてもう一人,心から感謝の意を表さなくてはならない人がいる.夜間でも分娩の撮影に出かけ,筆の遅い私を根気強く支援し続けてくれた医歯薬出版の編集担当者である.いまや私のフリースタイル分娩へのこだわりを,もっとも理解してくれている人となった.
 このDVDは,開業助産師の分娩介助に接したことのない病院勤務助産師のみならず,日頃は身近な助産師の分娩介助しか見ていない開業助産師にとっても,自己の分娩介助技術を振り返るきっかけを与えてくれる格好の題材になると信じている.今後,さらに内容を洗練させていくためにも皆様からのご批判を仰ぎたいと思う.
 
 2009年5月 村上 明美

推薦の序
 フリースタイルの分娩介助はどうするの? このような質問があちこちで聞かれる.基本的には児頭が出てくる時にどのような支援をするのが良いのか多くの助産師は知りたいと思っている.そんな貴方にぴったりのDVDが発刊された.きっと,こんな教材がほしかったというに違いない.学生の教材として,臨床の助産師さんに大いに役立つDVDである.まずは,手にとって見ていただきたい.
 わが国の出産時の体位は長期にわたり仰臥位であった.遡ってみると江戸,明治,大正にかけて座位や立位等の記述もあるが,特に病院,診療所等の出産の増加により分娩介助がしやすいという医療者側の理由により仰臥位を主流としている.ここ数年,Active Birthの概念が発展し,出産においては,単に身体の位置(姿勢)だけが自由ではなく,精神的にも解放されて自由な心の状態に身を任せるという意味も包含し,自由な出産スタイル=「フリースタイル出産」としてわが国でも定着しつつある.
 フリースタイルにおける分娩介助は,産婦の希望をいれた出産時の安楽な体位での出産を支援するものである.
 助産師教育では,仰臥位分娩介助を学習し,フリースタイルの介助の技術は,個人的に開業助産師から学ぶ方法が主となっている.出産時の児頭の回旋や会陰部の筋肉・皮膚の状態等を熟知すれば,産婦さんがどのようなスタイルであろうと介助できるはずであろうと考えられるが,現状ではなかなか取り入れることは難しい.
 本DVDは,フリースタイルでの分娩の実際として,仰臥位分娩での分娩介助,側臥位での分娩介助,四つんばい位での分娩介助の技術が動的に体験できるよう工夫されている.助産を学ぶ学生にとっては,分娩介助の実習前には繰り返し繰り返しDVDを見ることにより,臨場感を得て実習に備えることができると思われる.また,フリースタイルの分娩介助を試みたいと考えている助産師にとっても有難い教材である.
 本DVDで見るフリースタイルの分娩介助技術の実際は,現在第一線で活躍中のベテラン助産師の業であり,待つお産そして自然な出産,分娩介助の凄さを教えてくれる.
 助産師の技の伝承は今まで難しいと思われてきたが,本DVDを見て今後はその技を残し後世に伝えていくことができる確信を得た.
 助産師の教育を受けた者でなければ,母子の安全と安心に繋げた分娩介助は到底できるものではない.したがって,助産師であるからこそ分娩介助がしっかりできるということは必須であり,そのために卒業後も分娩介助技術の学習は継続されなくてはならない.
 病院等施設では制約が多くできないと思い込んでいるのではないか.助産師として自立しさらに産婦さんに近づく技を持つことができるようにしてくれるDVDである.臨床で第一線で働く助産師のみなさん,そして助産を学んでいる学生の皆さんの参考書として解説書と共にDVDを見られたい.
 順天堂大学医療看護学部
 社団法人 日本助産師会会長 加藤尚美
CHAPTER 1 フリースタイル分娩概論
 1.フリースタイル出産
 2.さまざまな分娩体位
  分娩体位の分娩経過への影響(エビデンス)
  3つの会陰保護の機能
 3.フリースタイル分娩に向けた準備
  妊産婦の準備
  分娩介助者側の準備
 4.フリースタイル分娩を断念せざるを得ないとき
 5.分娩の3要素に対する姿勢の活用
  産道
  娩出力
  胎児およびその付属物

CHAPTER 2 フリースタイル分娩の実際
 1.仰臥位での分娩介助
 2.側臥位での分娩介助
 3.四つんばい位での分娩介助
 4.椅坐位での分娩介助
 5.蹲踞位(スクワット)での分娩介助
 6.立位での分娩介助

CHAPTER 3 フリースタイル分娩Q&A

付属DVD フリースタイル分娩介助