やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 この「ヘンダーソンモデルにもとづく精神科看護過程」を執筆するに至った背景にはいくつかの経過がある.
 筆者は,精神看護学の臨地実習で実際に看護過程を立案させている.精神科における看護は,患者を時間の流れで観察し看護・治療効果を評価するので,看護過程に必要な情報も流れで把握することになる.学生にとっての実習1週目はアセスメントから計画立案までの初期計画の期間になり,2週目に看護計画の検討になる.実習では学生には,看護過程のアセスメントプロセスは,本書で紹介している様式で展開させている.実習時間と期間が限られているので,学生が受け持ち患者の生活状態を短時間で把握することの困難さ,また電子カルテの導入もあり,紙のカルテのように,学生が自由に情報収集のために独占することが難しくなったこと,さらに個人情報保護法の関係で詳細な情報が得にくくなったことも理由である.このような背景と,「ヘンダーソンの看護観に基づく看護過程」(日総研,2002年)を教材として使用して頂いている方々から「ヘンダーソンの精神科バージョンを書いて下さい」と何度となくいわれたこともあり,卒業した学生たちからの要望もあって,今回執筆に踏み切ったわけである.
 本書の内容は,ヘンダーソンに関する他の類書で済む一般的な内容は避け,臨床の看護師や,看護学生が臨地実習で活用できるような実務書にしている.看護過程の様式では筆者が実際に精神看護学の臨地実習で使用している看護計画立案モデルを紹介している.第5章には,統合失調症の患者の関連図を掲載しているので,関連図の作成にあたって参考になればと思う.周知のように,学生諸氏が臨地実習で苦慮しているものは,看護過程の展開における関連図の作成である.関連図は病理的状態が生活障害へどのように影響しているのかをマインドマップのようにリンクし,健康障害の成り立ちを予見したものであるが,学生にとっては難しいもので,多くの参考書を抱え作成しながら学ぶものである.果たして精神障害者の関連図として,病理的状態の発症・原因から現在の健康障害まで結び付けることができるのか.これは実際にはなかなか難しいと言える.その理由は,精神障害の発症は未だ確たるものでなく,その問題の起因や発症も他科のように当事者が健康障害を自覚でき,認識できているものと異なるということである.本書では統合失調症の関連図の例を示している.
 最後に,個人情報を考慮した事例を快く提供して下さった当事者に感謝致します.
 2007年9月 焼山和憲
第1章 ヘンダーソンの看護観に基づく看護過程
 1.ヘンダーソンの看護観
 2.ヘンダーソンの看護観を構成する2つの考え
  1.看護師の独自機能
   (1)看護師の第一義的な責任
   (2)基本的欲求の充足力と限界のアセスメント
   (3)基本的欲求の充足力と限界のある精神障がい者
  2.健康な対象に対する人間観,病人に対する人間観
 3.ヘンダーソンの看護観に基づく看護過程システムの構築
  1.ヘンダーソンの看護観による看護過程のシステム
  2.ヘンダーソンの看護観の活用と看護過程
 4.ヘンダーソンの看護観に基づくアセスメントの枠組み
  1.アセスメントの1段階 情報収集
  2.アセスメントの2段階 基本的欲求の未充足状態の発生要因を明らかにする
  3.基本的欲求の未充足の解釈・分析
  4.臨床判断から統合
  5.統合から基本的欲求の未充足状態の診断
  6.計画立案
   (1)基本的欲求の未充足状態の診断
   (2)基本的欲求の充足状態(長期目標)と範囲(短期目標)
   (3)基本的欲求の充足・強化・補填行動への援助活動
   (4)共同問題
   (5)共同目標
    演習1 演習2 演習3
第2章 精神看護における看護過程ガイド
 1.看護過程のサイクル
  1.情報収集(アセスメント)の様式
 2.看護に必要な情報収集
  1.患者個人情報(様式1号)
   (1)基本的欲求の充足に影響を及ぼす常在条件
   (2)基本的欲求の充足に変化を与える病理的状態
  2.アセスメント(様式2号)
   (1)看護観察の留意点
   (2)看護観察と基本的欲求に基づいた生活状態のアセスメントの視点
   (3)基本的欲求の充足力と限界の解釈・分析
   (4)臨床判断
   (5)統合
  3.基本的欲求の未充足状態の診断と計画立案(様式3号)
   (1)基本的欲求の未充足状態の診断
   (2)優先順位を決める
   (3)基本的欲求の充足状態・充足範囲
 3.看護実践(基本的欲求の充足・強化・補填行動への援助行為)
  1.援助活動の種類
  2.援助内容の記載にあたり留意すべき点
 4.評価
第3章 ヘンダーソンの看護の基本的構成要素に基づいた精神看護
 1.精神症状のアセスメントの視点
 2.基本的構成要素に基づいた精神看護の視点
  (1)呼吸
  (2)飲食
  (3)排泄
  (4)姿勢・活動
  (5)睡眠・休息
  (6)衣類
  (7)体温・循環
  (8)清潔
  (9)安全
  (10)コミュニケーション
  (11)宗教
  (12)職業
  (13)レクリエーション
  (14)健康学習
  (15)自我
  (16)精神的・身体的安楽
  (17)性
第4章 患者参画型の看護計画と看護記録
 1.患者参画型の看護計画
  1.看護計画の開示方法
   (1)受け持ち看護師が立案した看護計画表を基に患者用の計画表を作成する
   (2)患者用の計画表を患者個人に説明し,保管は患者にしてもらう
   (3)定期的に患者と目標となる「社会参加に向けて強めなければならないこと」,日々の生活で「自分の(で)できること」などを話し合い,評価して修正変更を行う
  2.患者への看護計画の開示
 2.看護計画と看護記録の整合性
  1.看護計画と看護記録の連動
  2.看護計画と連動した看護記録の実際
   Column フォーカスチャーティングR
第5章 学生のための看護計画立案モデル
 [例]統合失調症(妄想型)の看護計画
第6章 関連図の作成方法
 1.関連図に表される「基本的欲求を変容させる病理的状態」
 2.関連図の作成方法
  [例]統合失調症の関連図
資料
 1.ヘンダーソンの基本的看護の構成要素に基づいたアセスメントツール
 2.ヘンダーソンの基本的看護の構成要素に基づいた臨床判断用語