やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 女性の健康概念として社会的にリプロダクテイブ・ヘルス/ライツが浸透したことは事実である.この間の女性の健康や医療を振り返ってみると,確かに女性を中心にした医療改革が行われてきている.それまでは母性看護学ですら女性の健康を妊娠,出産,産褥,育児という狭い範囲でしかとらえていなかったのが,現在では「生涯を通じた健康」と考えるようになり,「ウーマンズヘルス」としてとらえるように変化している.そして,性差医療という言葉も定着している.健康に性差の問題が重要なのは,例えば,疾病の発生率は男女で異なることや同じ病気でも症状のあらわれ方が男女で違うこと,また,受診率や死亡率における男女差や,さらには女性ホルモンが疾患や健康状態に大きく影響していることを考えても明らかである.
 女性の平均寿命が伸び続け,最期までQOLの高い健康な生活の維持が重要課題となっている今,女性の健康は生涯を通して考えなければならない.またライフステージ各段階での健康は,それに続く段階の健康に影響を及ぼすことになる.このように,女性の生涯の健康を考えるうえでは,一連の発達過程の中でどのような変化が起こるのか,それらへどう対処するのか理解を深めることが必要である.今日,女性の生涯の健康について,ウーマンズ・ヘルスケアの領域はますます関心が高まり,一般の人々も健康に関する高度な知識をインターネットやテレビ,新聞などで得られるようになった.医療職はどの領域のどの職種でも,女性の健康についての知識を,ベースとして持つことが重要となっている.そのうえで今後は,ガイドラインでは包括しえないさまざまな要因を加味することによって,よりきめ細やかで,個々に応じた治療やケアプログラムで対応しなければならない.そして当然その人のライフスタイルも見通したものでなければならない.つまり,治療やケアを受ける患者と治療者が対等の関係で,その人個人の治療やケアを目指す時代にならなければならないと思われる.より個人の特性に応じたテーラーメイド医療により,ウーマンズ・ヘルスケアの方法には一層の工夫が求められている.
 この本は,ウーマンズヘルスに関して,ライフステージを通してすべての情報を活用しやすく,生理学から系統立てて書かれた本である.出生前の発生・生理の状態から始まり,出生後はライフステージ各段階ごとに女性の身体の変化・精神的変化と,その対応策・なりやすい病気の予防などについて,女性特有のホルモンの増減に着目しながら記述し,ライフステージ各段階のヘルスケアをデータに基づいてまとめた.女性のこころの問題,ウーマンズ・ヘルスケアに活かせる自然医療に関しては,とくに注目の高いテーマであり,紙幅を割いてできるだけの情報を盛り込んでいただいた.
 看護大学,看護大学院教育のみならず,女性医学の分野でも,多くの医療者の方々にも広く活用できると考えている.
 最後に,分担執筆を快くお引き受けいただきました諸先生方,医歯薬出版の編集担当者には大変お世話になり,ここに感謝申し上げます.
 2007年2月
 久米美代子
 飯島 治之
 ・女性のライフステージ上にあらわれる特徴,変化
第1章 女性の特性─性的二形における女性
 1 機能形態学的な視点からみた女性の特徴(飯島治之)
  1)形態的な性差
   (1)体形および体格
   (2)生殖器
    <内生殖器>
     性腺 卵胞の発育 卵管 子宮 腟
    <外生殖器>
     陰唇 陰核(クリトリス) 腟前庭 乳房
   (3)神経
   (4)性染色体の形態の違いによる性差
  2)機能的な性差
   (1)運動能力
   (2)性周期
    卵巣周期 月経周期
   (3)ホルモン
    性ホルモン オキシトシン プロラクチン 性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH) FSH(卵胞刺激ホルモン) LH(黄体形成ホルモン)
   (4)脳と行動
 2 健康科学的視点からみた女性の特徴(久米美代子)
  1)寿命にみる性差
   (1)人間の生に関する性差
   (2)なぜ女性は長生きか
    女性ホルモン 代謝 喫煙 飲酒 病気やけがの対応
  2)死亡率・死因にみる性差
   (1)死亡率
   (2)自殺
   (3)生活習慣病
    <男女の違い>
第2章 女性の誕生
 1 受胎から出生まで(飯島治之)
  1)配偶子の形成
  2)性周期と排卵・受胎
   (1)性周期と排卵
    卵胞の成熟 排卵 黄体形成
   (2)受胎(受精および着床)
    受精 着床
  3)器官形成
   (1)生殖器系
   (2)神経系
  4)女性と環境ホルモン
 2 出生から成人女性まで(久米美代子)
  1)ホルモンの働きと女性のからだ
   (1)卵胞数と卵巣重量の変化
   (2)子宮
   (3)初経の発来
   (4)骨盤の発育
   (5)身体的変化
   (6)性周期とホルモン
    エストロゲンの分泌異常 GnRHの分泌異常
第3章 女性のライフステージとその特徴
 1 思春期(小川久貴子)
  1)月経
   (1)月経とは
   (2)月経に関する健康問題
    月経の異常 月経周期に伴う症状,月経前症候群PMS:premenstrual syndrome(月経前緊張症) 月経困難症
   (3)月経に伴うヘルスケア
  2)性感染症
   (1)10代の性行動
   (2)性感染症に関する健康問題
    性器クラミジア HIV
   (3)思春期の性感染症のヘルスケア
  3)思春期の妊娠
   (1)10代母親からの出生数・出生率
   (2)10代出産に関する健康問題
    出生児の健康に関する問題 10代妊婦・母親に必要なヘルスケア
  4)思春期全般のヘルスケア
 2 成熟期(村山より子)
  1)家族計画・望まない妊娠の防止
   (1)わが国の望まない妊娠の現状
   (2)人工妊娠中絶
    人工妊娠中絶とは 人工妊娠中絶に関する統計 人工妊娠中絶の方法 中絶の危険性(中絶による合併症)
   (3)日本における望まない妊娠のヘルスケア
    避妊に対する意識 避妊法に要求される諸条件 避妊の実行率と避妊法の選択
  2)安全な分娩
   (1)出産の動向
    合計特殊出生率 出産場所 妊産婦死亡
   (2)快適で満足なお産について
   (3)快適で満足な出産のためのヘルスケア
    妊婦健康診査 妊娠中の食生活
  3)成熟期女性のヘルスケア
 3 更年期・老年期(久米美代子)
  1)閉経
   (1)閉経の機序
    閉経を早める要因
   (2)閉経時のヘルスケア
  2)更年期障害
   (1)更年期障害の原因
   (2)更年期障害の症状・対応
    更年期女性の不定愁訴 更年期症状 更年期障害の発生頻度とその対応 更年期の診断
   (3)更年期障害・老年期障害のヘルスケア
  3)心血管系疾患
   (1)女性の血清コレステロール値と動脈硬化性疾患
   (2)動脈硬化性疾患のヘルスケア
  4)骨粗鬆症
   (1)骨粗鬆症の原因
    骨粗鬆症の男女比較 骨密度の男女差 骨密度に影響を及ぼす因子 加齢に伴う骨代謝の変化
   (2)骨粗鬆症のヘルスケア
  5)乳がん
   (1)乳がんの動向
    日本と欧米の乳がんの比較 家族性乳がん
   (2)乳がんの知識
    乳がんの症状 乳がんの経過 乳がんの診断
   (3)乳がんのヘルスケア
    早期発見 乳がんの自己検診法
  6)更年期・老年期女性全般のヘルスケア
第4章 各ライフステージにおけるこころと問題
 1 わが国の女性のライフサイクルのとらえ方─生殖期を中心に(加茂登志子)
   はじめに
   (1)急激な変化の時代とライフサイクル自体の変容
   (2)表面化しやすくなったさまざまなギャップ
   (3)無視できない重要な他者
   (4)女性のライフサイクルの二重構造性
 2 女性の生き方とストレス(加茂登志子)
   主人公は誰か
  1)女性のライフコースの枝分かれ
  2)枝分かれ以前-青年期-のストレスと危機的状況
  3)枝分かれの契機
   (1)恋愛・結婚・離婚と女性
    結婚の現状 離婚の現状
   (2)妊娠・出産・子育てと女性
   (3)仕事と女性
  4)枝分かれ以降の危機
   (1)夫婦関係のきしみ
   (2)ドメスティック・バイオレンス(DV)
   (3)産後うつ
   (4)空の巣症候群
   (5)スーパーウーマン症候群
   (6)ガラスの天井
   (7)職場のセクシュアル・ハラスメント
  5)更年期以降の女性に共通するストレス
   (1)介護ストレスと更年期の体の変化
   (2)老年期の女性
 3 女性と精神障害(加茂登志子)
  1)疫学
  2)思春期・若い成年期に好発する精神障害
   (1)摂食障害
   (2)境界性人格障害
  3)成年期,成熟期に好発する精神障害
   (1)うつ病
    月経に関連するうつ病 妊娠とうつ病 産後うつ病 閉経周辺期および閉経期(更年期)におけるうつ病
   (2)女性特有のがん
   (3)身体表現性障害
  4)成熟期以降に問題となりやすい精神障害
   (1)認知症
    アルツハイマー型認知症 血管性認知症 その他の疾患
   (2)介護者の問題
  5)その他
   (1)ドメスティック・バイオレンスによる精神健康被害
    DVの実態 DVとはなにか DVと健康被害 DV被害者の面接時の特徴 DV被害者の診療における看護職の対応の基本
   (2)性被害
第5章 女性のライフステージと自然医療
 1 自然医療の基礎
  1)なぜ自然医療なのか?(川嶋 朗)
   (1)自然医療とは?
   (2)相補(補完)・代替医療とは?
   (3)なぜ自然医療/相補(補完)・代替医療なのか?
   (4)統合医療の定義
  2)自然医療/相補(補完)・代替医療の現状(川嶋 朗)
   (1)CAMと近代西洋医学との関係・比較
    CAMの歴史と近代西洋医学との関係 代替療法の理論と近代西洋医学との比較
   (2)各国における自然医療/相補(補完)・代替医療の現状
    先進諸外国におけるCAMとその取り組み 日本での自然医療/相補(補完)・代替医療の現状
   (3)自然医療/相補(補完)・代替医療とEvidence-Based Medicine:EBM
    EBMとは CAMとEBM
  3)自然医療/相補(補完)・代替医療と看護(川嶋 朗(1),村川久恵(2)〜(4))
   (1)看護と自然医療/相補(補完)・代替医療
    看護とCAM 看護領域の臨床現場で対応可能なCAM
   (2)ボディワーク
    シン・インテグレーション クレニオセイクラルワーク
   (3)アロマセラピー
   (4)看護師が施術をするということ
  4)自然医療/相補(補完)・代替医療の種類(川嶋 朗)
   (1)日本・中国伝統医学
    漢方薬(湯液)・鍼灸・気功・柔道整復・整体・操体
   (2)インド伝統医学
    アーユルヴェーダ・ヨーガ
   (3)チベット伝統医学(秘密仏教医学)
   (4)アラブ伝統医学(ユナニ医学)
   (5)その他の諸療法
    ホメオパシー・オステオパシー・カイロプラクティック・温泉療法・温熱療法・フラワーエッセンス・サプリメント・食事療法・音楽療法・ダンスセラピー・イメージ療法・瞑想・アロマセラピー・ボディワーク・O-リングテスト・その他
 2 女性のライフステージと自然医療的アプローチ(川嶋 朗)
  1)漢方医学的アプローチ
   (1)漢方医学的ライフステージ
   (2)漢方医学の基礎概念
   (3)女性のトラブルと漢方医学的アプローチ
    鍼灸(ツボ療法) 女性の悩み(冷え症・生理痛・生理不順など)の漢方療法 食養生
  2)ライフステージ別自然医療的アプローチ
   (1)小児期
    バーストラウマの予防 保育指導 幼児教育
   (2)思春期
   (3)妊娠準備期
    不妊 月経前症候群(PMS) 月経困難症 片頭痛(月経関連)
   (4)子育て期
    乳がん
   (5)更年期
    更年期障害
   (6)高齢期
    骨粗鬆症 うつ 尿失禁 尿路感染症
 3 冷え症とその対策(班目健夫)
  1)冷え症とは
   冷え症はなぜ起こる? 冷えの頻度と部位 冷えとのぼせ
  2)冷えの改善方法
   (1)日常生活の改善
    食物 加温・保温 入浴時の注意点 就寝時の注意点 外出時の注意点
  2)凝りと冷え
  3)冷えの改善で解決した症状