やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 看護は,情報なしでは成り立たない.電子カルテなどを中心とする情報の電子化,ネットワーク化の急速な普及とともに,看護が取り扱う情報は膨大になってきているが,どんな情報をどうやって入手し,それを日々の看護にどのように活用していったらよいだろう.その問題に取り組むのが看護情報学であり,看護の質や効率の向上のために必要な情報を,タイムリーにわかりやすく提供するのが,看護情報学の実践の大きな柱である.
 看護情報学という看護の専門分野が看護の中に確立して,まだ日は浅い.わが国においては,教育体制もまだ十分に確立していない.そのような中で,看護基礎教育において体系的に看護情報学を教育するための標準テキストが求められていた.本書は,看護系の4年制大学において徐々に普及してきている1単位8コマの「看護情報学」の授業を想定し,その枠組みの中で展開できるように内容を編集した.
 第1章では,看護情報学という専門領域とその専門から求められる基本的な知識,技術について,第2章では,看護に情報を活用するために必要なコンピュータリテラシーと情報リテラシーの学び方について,第3章は,看護が取り扱う情報の特徴について,第4章は,情報を取り扱う際の倫理的問題と基本的な倫理的態度について,第5章は,医療情報システム,電子カルテの特徴とシステム導入の際のポイントについて,第6章は,地域・在宅看護における情報の活用とそれを支えるシステムについて,第7章は,看護が何をしているのかを具体的に示すために不可欠な看護用語の標準化について,そして第8章は,看護情報学のこれからの方向や課題などについてまとめた.それぞれの章の始めには,学習目標が示され,また,主要な項目ごとに学習上のポイントを示している.
 執筆陣は,さまざまな分野で活躍している次代を担う看護教育者,看護情報学の専門家,臨床看護実践者で構成している.章ごとに責任者を決め(執筆者一覧の○印参照),それぞれの専門から,最新の内容をわかりやすくまとめている.とくに小林先生には,担当の章以外に全体の構成や執筆陣について貴重な助言をいただいた.また,医歯薬出版の編集担当者各位には,本書の完成に向けて忍耐強く,原稿の収集,整理をして頂き,感謝している.
 情報をただ集めるだけなら,それほど難しくはない.しかし,やみくもに集めた情報から得られるものはわずかである.必要な情報を目的に応じて収集し,看護に活かしていくためには,看護情報学に基づく情報のとらえ方,取り扱いが不可欠である.そのためには,看護基礎教育課程において,きちんとした看護情報学の教育を行う必要がある.本書が,そのための教科書として,また,卒後の継続教育や自己学習の教材として活用され,豊富な看護の情報が,より質の高い看護の実現に活かされることを期待している.
 2006年4月 太田勝正
第1章:看護情報学をなぜ学ぶのか【太田勝正】
 1-1:看護情報学とは(太田勝正)
  1-1-1 看護情報学の定義
  1-1-2 看護情報学という専門性
   看護情報スペシャリストの役割と能力
   看護情報スペシャリストの活躍
 1-2:看護における情報の活用(秋山智弥)
  1-2-1 看護過程における情報の活用
  1-2-2 看護管理における情報の活用
  1-2-3 看護研究における情報の活用
 1-3:看護に情報を活かすために必要な知識・技術(太田勝正)
  1-3-1 看護情報学から求められる知識・技術
   初心者ナースに求められる知識,技術
   ベテランナースに求められるもの
   看護情報スペシャリストに求められるもの
  1-3-2 コンピュータリテラシーと情報リテラシーについて
 1-4:看護に情報を活用するための方法をどのように学ぶか(太田勝正)
  1-4-1 ライリーとサバの教育モデル
  1-4-2 米国の看護情報学教育の歴史と現状
  1-4-3 わが国の看護情報学教育の現状
第2章:コンピュータリテラシーと情報リテラシー【前田樹海】
 2-1:コンピュータとITについて知っておくべきこと(前田樹海)
  2-1-1 コンピュータの構造に関するポイント
   情報の最小単位―両手の指で1,000以上の数を数える方法
   bitとbyte
   コンピュータの基本構成
  2-1-2 データの入力と保存に関するポイント22
   データの入力
   データの保存
  2-1-3 インターネットの仕組みと接続,Webに関するポイント
   インターネットの仕組みとWebについて
   ウェブフォームのセキュリティについて
  2-1-4 電子メールの仕組み,セキュリティ,マナーに関するポイント
   電子メールの送受信の仕組み
   電子メールのセキュリティ
   電子メールのマナー
  2-1-5 セキュリティを保つ方法に関するポイント
   ハードディスクのメンテナンスとバックアップ
   データ盗難対策
   ウイルス等への対策
  2-1-6 役に立つアプリケーション―ワープロ,表計算などに関するポイント
 2-2:コンピュータリテラシーの自己診断と習得法(前田樹海)
  2-2-1 コンピュータリテラシーとは
  2-2-2 コンピュータリテラシー習得に必要な基本的姿勢
  2-2-3 コンピュータリテラシーの自己評価と習得法
 2-3:情報リテラシー(前田樹海)
  2-3-1 看護に役立つ情報の所在と入手法
  2-3-2 情報の価値,信頼性の評価法
  2-3-3 情報の価値を高める情報処理の方法
 2-4:情報セキュリティについて(前田樹海)
  2-4-1 情報セキュリティの概念
  2-4-2 情報セキュリティの要件
  2-4-3 情報セキュリティを維持向上させるための方法
 2-5:情報発信について(前田樹海)
第3章:看護における情報活用 【太田勝正】
 3-1:情報とは(太田勝正)49
  3-1-1 ウイナーによる情報の定義
  3-1-2 情報を構成要素のレベルでとらえる
  3-1-3 データ,情報,知識について
  3-1-4 マクドノウの情報の概念
  3-1-5 情報処理の流れ
  3-1-6 情報の特徴
 3-2:看護におけるデータ・情報の特徴(真弓尚也)
  3-2-1 看護師が接するデータ・情報
  3-2-2 情報の活用と記録
  3-2-3 情報の共有―チーム医療,申し送り,カンファレンス
第4章:情報倫理と法 【太田勝正】
 4-1:情報倫理について(板井孝壱郎)64
  4-1-1 情報倫理とは
   「情報倫理(information ethics)」とは?
   なぜ医療をめぐる情報において「情報倫理」が重要なのか
  4-1-2 個人情報とは
   「個人識別情報」とは
   センシティブ情報
  4-1-3 情報コントロールと共有
   「自己情報コントロール権」と患者の「アドボカシー」
   情報共有の必要性とルール
 4-2:プライバシーと守秘義務(井口弘子)
  4-2-1 プライバシーとは
   プライバシーの概念
   法益としてのプライバシー権
  4-2-2 守秘義務とは
   法で定められた守秘義務
   倫理規定で定められた守秘義務
  4-2-3 プライバシーと守秘義務の違いについて
 4-3:個人情報保護に関する法(望月聡一郎)
  4-3-1 「個人情報の保護に関する法律」について
   「個人情報の保護に関する法律」の概要について
   個人情報保護法制の体系について
   法律を具体化するためのガイドライン
  4-3-2 OECD8原則
   OECDとは
   「OECDプライバシーガイドライン」とは
   OECD8原則とは
  4-3-3 HIPAAについて
   アメリカ合衆国の統治システムと法体系について
   HIPAAの概要と医療に関する個人情報保護について
   HIPAAおよびHIPAAプライバシールールの課題
  4-3-4 個人情報の取り扱いに関するガイドライン
   医学研究に関する倫理指針
   医療機関における個人情報の取り扱いについて
 4-4:学生実習における患者情報の取り扱い(太田勝正)102
  4-4-1 実習中の「メモ」に関する問題
  4-4-2 実習後のメモの処分について
  4-4-3 実習中のメモに関する対策
第5章:医療情報システム 【美代賢吾】
 5-1:病院情報システム(篠原信夫・美代賢吾)104
  5-1-1 診療や看護で扱う情報の種類とその流れ
  5-1-2 病院情報システムとそれを構成するシステム
   オーダエントリシステム
   看護情報システム
   部門システム
   PACS
   医事会計システム
  5-1-3 病院情報システム中の情報伝達の実際
  5-1-4 病院情報システムの利点
  5-1-5 病院情報システムに求められる役割と将来の展望
 5-2:電子カルテ(美代賢吾・星本弘之)
  5-2-1 電子カルテの定義と概要
  5-2-2 電子カルテの看護への活用
  5-2-3 診療録の位置づけと電子保存に求められる条件
  5-2-4 電子カルテの運用と利用者の責務
  5-2-5 今後の展望
 5-3:医療情報システムの構築と導入(美代賢吾)
  5-3-1 医療情報システム導入の特徴
  5-3-2 医療情報システム導入の形態
  5-3-3 医療情報システムの構築手法
  5-3-4 医療情報システム導入と医療スタッフの関わり
第6章:地域看護と情報システム 【小林奈美】
 6-1:地域看護活動における情報の特徴と基本的な流れ(小林奈美)136
   地域看護情報システムの「単位」と「水準」
   地域看護におけるIT(Information Technology)導入と活用可能性
 6-2:地域看護活動における諸制度と情報活用
  6-2-1 健康な日常生活のための支援
   次代を育むための支援(坂田由美子)
   成人保健活動(坂田由美子)
   感染症,食の安全対策(徳永淳也・波多野浩道)
   災害対策(小林奈美)
  6-2-2 在宅療養と老後を支えるための支援
   介護保険制度(小林奈美)
   在宅ケアサービス(福井小紀子)
 6-3:地域特性に対応する活動の実際
  6-3-1 遠隔保健(兒玉慎平・波多野浩道)159
   わが国における遠隔保健の歴史
   わが国における遠隔保健の現状
   遠隔保健に期待される効果
   遠隔保健の今後の課題
 コラム:遠隔看護を実現する在宅健康管理システム(玉木健太郎)
第7章:看護用語の標準化 【柏木公一】
 7-1:なぜ,看護用語の標準化が必要か(柏木公一)
  7-1-1 専門用語はどのように作られるか
 7-2:用語集の種類(柏木公一)
 7-3:看護用語の標準化の取り組み
  7-3-1 ICNPの概要(柏木公一)
  7-3-2 NANDAの概要(柏木公一)
  7-3-3 SNOMEDの概要(柏木公一)
  7-3-4 ICDの概要(柏木公一)
  7-3-5 看護行為用語分類について(太田勝正)
第8章:看護情報学の発展のために
 8-1:看護情報学の発展のために(太田勝正)
   看護情報学教育の充実と人材の育成
   病院等における看護情報システム担当者の人員確保と配置
   看護標準用語の開発と普及
   看護情報学コンソーシアムの設立
 8-2:情報を駆使できる看護職となるために(前田樹海)
 8-3:患者情報の保護と活用の両立を図るために(望月聡一郎)
  8-3-1 看護職における法律とは
  8-3-2 看護実践における個人情報の取り扱い
 8-4:看護用語の標準化のために(柏木公一)
  8-4-1 看護用語集の種類と選択
  8-4-2 看護用語集の目的
 8-5:看護ミニマムデータセットの普及のために(太田勝正)
  8-5-1 看護ミニマムデータセットとは
  8-5-2 看護ミニマムデータセットの動向
  8-5-3 わが国における普及を目指して
 8-6:使いやすい病院情報システム実現のために(美代賢吾)
  8-6-1 使いやすい病院情報システム実現のために必要な戦略
   病院情報システムの導入目的の明確化
   システム導入における業務運用の整理
   病院に適した病院情報システムの選定
  8-6-2 病院情報システムの今後と人材の育成と確保
 8-7:ヘルスプロモーションの理念の実現のために(小林奈美)
 8-8:EBNを目指すために(前田樹海)
 8-9:看護の人的資源活用のために(前田樹海・玉木健太郎)

 参考資料
 索引