やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 近年,不妊症に対する社会的関心は,少子化の問題とあいまって非常に高くなっています.それとともに,生殖医療は,今日の産婦人科診療の中核となってきました.
 現在,わが国の不妊患者の総数は120万人といわれ,そのうちで現在加療中の患者数はわずか4分の1の28万人にすぎないと推定されており,この領域の医療は,今後,ますます拡大していくことが予想されます.
 今日の生殖医療の起点は,1978年のイギリスにおける体外受精の成功といわれ,わが国の体外受精児は,その4年後の東北大学での第1号ですが,その後現在までに出生した体外受精児は10万人を越すといわれ,2002年の総出生数115万人のうち,実に1万5,000人が生殖補助技術(ART)の応用によると報告されています.また,わが国のART実施機関は600を超える時代となりました.
 もちろん,新しいARTクリニックは,生殖医学の基礎によって支えられていなければなりませんが,医師,ナース,エンブリオロジスト,カウンセラー,コーディネーターなどの協力によるチーム医療によって,初めて対応できる領域となっています.その意味において,コメディカルのスタッフは「医師が現在何をしているのか」ということに常に関心を抱き,また,臨床に必要な生殖医学の基礎知識をマスターしていくことが要求されてきます.
 本書は,チーム医療のための「不妊ケアABC」として,先ず,生殖医学の必須知識を解説し,さらに,日常の外来で多い質問に平易に答えるという「Q&A」の項を付加して,より実践的なケアの指導テキストとして,お役に立つことを心掛けました.
 日常診療で多忙な執筆者の先生方には,素晴らしいご寄稿をいただきまして深謝申し上げます.
 本書が将来さらに改訂されて,文字通り不妊ケア指導書の旗手として,永く愛読されますことを願っています.
 なお,発刊に当たり,医歯薬出版第一出版部の五十嵐陽子氏の多大のご援助をいただいたことを深謝致します.
 編者,ならびに協力者一同
 平成17年 春
もくじ
  カラーイラスト 生殖医療(松波和寿) 口絵
 精巣/精子の発生/卵の成熟/ 不妊症の主な原因/ 人工授精/ 体外受精─胚移植の流れ/採卵/受精/胚移植/着床/顕微授精/ICSI/AHA/胚盤胞移植/卵巣過剰刺激症候群(その1)/卵巣過剰刺激症候群(その2)/
●おもな略語
Introduction はじめに
 チーム医療としての不妊ケア(久保春海)
Chapter1 生殖医療の基礎
 1.生殖器の解剖と機能(岡田詔子,永江 毅)
  1)男性生殖器
   (1)精巣 (2)精路と副生殖腺
  2)女性生殖器
   (1)卵巣 (2)卵管 (3)子宮(着床)
  3)生殖腺の発生
   (1)精巣の発生 (2)卵巣の発生 (3)生殖管の発生
 2.生殖の生理
  1)性周期とその調節(石塚文平)
   (1)卵胞発育 (2)排卵,黄体化 (3)排卵の内分泌調整 (4)月経周期中の血中ホルモン濃度の変化
  2)性ホルモンとその作用(石塚文平)
   (1)タンパクホルモン (2)性ステロイド
  3)生殖に関連する症状(池田万里郎)
   (1)不正性器出血 (2)下腹部痛 (3)月経異常
   (4)無月経 (5)帯下(おりもの)25 (6)外陰部のかゆみ (7)下腹部腫瘤感
 3.生殖に伴う検査法
  1)内分泌検査法(京野廣一)
   (1)基礎体温 (2)頸管粘液 *精子─頸管粘液適合試験(フーナーテスト) (3)子宮内膜組織診断 (4)染色体検査 (5)ホルモン測定
  2)内視鏡検査法
   (1)子宮鏡検査(ヒステロスコピー) 33(林 保良)
   (2)腹腔鏡検査(ラパロスコピー) 35(森田峰人)
  3)超音波検査法(本田育子)
   (1)超音波検査とは (2)不妊原因の超音波診断
Chapter2 妊娠の生理
 1.妊娠の成立
  1)精子の形成(福田 勝)
   (1)精巣 (2)精子の形成過程 (3)精子の形態
   (4)精子形成の調節機構 (5)精子の成熟
  2)卵子の形成(北井啓勝)
   (1)性細胞と体細胞 (2)卵子の発生 (3)卵胞内での卵子形成 (4)卵子の成熟と排卵
  3)受 精(鈴木秋悦)
   (1)卵管に入る卵子と精子 (2)受精までの精子 (3)受精の過程と成立
  4)受精卵の分割と卵管(鈴木秋悦)
  5)着 床(福田 勝)
   (1)胚からみた着床 (2)子宮からみた着床
  6)黄 体(東條龍太郎)
   (1)黄体の形成 (2)黄体の機能 (3)妊娠の成立および維持 (4)黄体の退行
 2.妊娠の維持と胎児(齋藤 滋)
  1)妊娠維持メカニズム
   (1)免疫学的妊娠維持機構 (2)Th/Th2バランスからみた妊娠維持機構 (3)indoleamine 2,3─dioxygenase(IDO)と妊娠維持 (4)制御性T細胞と妊娠維持
  2)妊娠に伴う母体の変化
  3)不妊症と免疫
Chapter3 生殖の病態(不妊症)(久保春海)
 1.不妊症概論
  1)不妊の定義
  2)不妊症の病態
  3)不妊症分類
   (1)器質性不妊症と機能性不妊症 (2)原発性不妊症と続発性不妊症 (3)難治性不妊症 (4)男性不妊と女性不妊
  4)不妊症の頻度
 2.不妊症の診断
  1)女性不妊症の診断
   (1)一般検査 (2)特殊検査
  2)男性不妊症の診断
 3.不妊症の治療
  1)女性不妊症の治療
   (1)排卵誘発法 (2)卵管因子不妊の治療 (3)子宮因子不妊の治療 (4)頸管因子不妊の治療 (5)原因不明不妊の治療
  2)男性不妊症の治療
   (1)薬物療法 (2)手術療法 (3)配偶者間人工授精(AIH) (4)非配偶者間人工授精(AID)
 4.不妊症の予防
  1)予防可能な不妊要因
   (1)精神的ストレス (2)喫煙習慣 (3)体重因子
   (4)性感染症(STD) (5)加齢(社会性不妊)
Chapter4 生殖補助医療(ART)の実際
 1.ARTに関する知識
  1)ARTの歴史(鈴木秋悦)
  2)ARTの基礎知識(福田愛作)
   (1)卵子について (2)精子について (3)ケアの要点
 2.ARTの実際
  1)ART実施前の検査(松田和洋)
   (1)妻側 (2)夫側
  2)卵巣予備能(Ovarian researe)と卵巣刺激法(京野廣一)
   (1)卵巣予備能を判断する項目 (2)卵巣刺激法の選択
   (3)ゴナドトロピン製剤の選択 (4)モニタリング
   (5)hGC注射のタイミング
  3)採 卵(福田愛作)
   (1)腟洗浄 (2)麻酔方法 (3)採卵操作 (4)注射後の注意点 (5)ケアの要点
  4)媒 精(西 弥生)
   (1)卵子の準備 (2)精子の準備 (3)培養液
   (4)媒精〜受精の確認
  5)顕微授精(西 弥生)
   (1)顕微授精の適応 (2)準備 (3)手技 (4)問題点
  6)胚の選別と胚移植(吉田 淳)
   (1)胚の選別 (2)胚移植(ET)
  7)黄体補充(小田原 靖)
   (1)ARTにおける黄体補充療法の必要性 (2)黄体補充に用いる薬剤 (3)黄体補充療法の実際 (4)考察
  8)胚盤胞移植(蔵本武志)
   (1)胚盤胞移植のメリット (2)胚盤胞移植のデメリット (3)考察
  9)胚凍結,凍結胚移植スケジュール(向田哲規)
   (1)胚凍結のメリット (2)胚凍結の方法 (3)凍結胚移植のスケジュール (4)凍結胚移植の成績と今後の展望
  10)アシストハッチング(AHA)(鈴木寛規)
   (1)機械的方法 (2)化学的方法 (3)レーザー法
  11)TESE・MESA(岡田 弘)
   (1)TESE(精巣精子採取法)・MESA(精巣上体精子採取法)の適応 (2)MD─TESEの実際
  12)卵子提供,代理母(高橋克彦)
   (1)卵子提供 (2)代理母(代理懐胎)
Chapter5 不妊症と手術
  1)腹腔鏡下手術(伊熊健一郎)
   (1)腹腔鏡下手術の対象と適応 (2)腹腔鏡下手術のための器具類と製剤 (3)腹腔鏡下手術の準備 (4)卵巣手術の手術手順 (5)子宮筋腫手術の手術手順 (6)卵管に対する手順
  2)卵管形成術─病態と治療法の選択(末岡 浩)
   (1)病態と原因 (2)治療方法の選択 (3)腹腔鏡下卵管形成 (4)卵管カテーテルによる卵管形成 (5)卵管通過障害の治療成績
  3)男性不妊症の手術(日浦義仁,松田公志)
   (1)精索静脈瘤 (2)閉塞性無精子症
Chapter6 不妊治療の予後
  1)流 産(中岡義晴)
   (1)流産とは (2)流産の頻度 (3)流産の診断 (4)流産の原因および治療
  2)子宮外妊娠(杉原研吾)
   (1)発生頻度 (2)部位別頻度 (3)原因 (4)診断 (5)治療 (6)予防法
  3)多 胎(永田文江)
   (1)頻度 (2)ARTによる多胎妊娠 (3)多胎妊娠の問題点 (4)多胎妊娠の予防と対策 (5)妊娠管理
  4)先天異常(染色体異常)(中岡義晴)
   (1)染色体と染色体異常 (2)染色体異常児の発生要因 (3)顕微授精により妊娠した児の染色体異常 (4)遺伝子の異常
Chapter7 不育症
 (平野由紀,柴原浩章,森松友佳子,菊池久美子,鈴木達也,鈴木光明)
  1)不育症とは何か
  2)不育症の原因と検査・治療法
   (1)子宮形態 (2)内分泌因子 (3)感染症
   (4)夫婦の染色体異常 (5)血液凝固因子 (6)免疫学的異常 (7)その他
  3)流産時の絨毛染色体検査の意義
Chapter8 不妊症ケアの医療チーム
  1)エンブリオロジスト(田中美穂)
   (1)Embryo ICU システム (2)ミスのない安全なラボ作り (3)ラボ管理 (4)エンブリオロジストの教育
  2)IVFコーディネーター(菅野伸俊)
   (1)IVFコーディネーターの役割 (2)自己決定支援について (3)支援を行うポイントと実際 (4)安全への配慮
  3)ホルモンコーディネーター(柿沼美果)
   (1)ホルモンコーディネーターとは (2)ホルモンシートの実際 (3)ミスを防ぐための工夫や教育・訓練
  4)心理カウンセラー
   (1)生殖医療現場における不妊女性の理解 164(増田千景)
   (2)男性不妊が及ぼす心理的影響 166(中島美佐子)
  5)遺伝カウンセラー(竹下直樹)
   (1)遺伝カウンセリングとは (2)生殖・遺伝カウンセリング (3)遺伝カウンセラー
  6)フィナンシャル・ソーシャル・コーディネーター(森本義晴)
   (1)不妊治療におけるストレス (2)フィナンシャル・ソーシャル・コーディネーターとは (3)フィナンシャル・ソーシャル・コーディネーターの業務
  View in the future おわりに
 不妊ケアの将来展望(鈴木秋悦)
  Appendix 付
 ・不妊領域における薬剤の知識(柴原浩章)
   (1)無排卵周期症を伴う不妊症 (2)黄体機能不全を伴う不妊症 (3)GnRHアナログの投与 (4)体外受精とホルモン剤
 ・不妊の統計(川内博人)
   (1)ヒトの女性の妊孕性 (2)加齢と妊孕性 (3)生殖のロス (4)不妊治療の効率
 ・必要な倫理的知識(北井啓勝)
   (1)生殖補助医療の規制の方法 (2)生殖補助医療の倫理を考える際の原則 (3)わが国における生殖補助医療に関する見解 (4)厚生労働省の見解 (5)IFFSの国際的調査
  ●索 引
 不妊ケアに関するQ&A 50
 1.不妊症は増えていますか
 2.どのような既往症があると不妊になりやすいのでしょうか-男性
 3.どのような既往症があると不妊になりやすいのでしょうか-女性
 4.不妊症の患者さんが初診で来院する場合,まず何を注意しなくてはなりませんか
 5.不妊症の患者さんが初診で来院した場合,まず何を注意しなくてはなりませんか-医師
 6.不妊症のルチンテストとは何ですか
 7.不妊症の場合,基礎体温を測ることはなぜ重要なのですか
 8.基礎体温を指導する場合に注意しなくてはいけないことは何でしょうか
 9.AIHのタイミングはどのようにして決めているのでしょうか
 10.黄体期のサポートとは何でしょうか
 11.黄体機能不全の意味と治療法について簡単に教えてください
 12.精液所見の基準は
 13.精液検査を患者に説明する場合の注意点は
 14.なぜ精液を洗浄するのでしょうか
 15.精液洗浄法を簡単に教えてください
 16.精子の機能検査にはどのようなものがありますか
 17.機能性不妊を具体的に説明してください
 18.不妊の場合,腹腔鏡検査はなぜ必要なのでしょうか
 19.腹腔鏡下手術を受けた場合,術後の6カ月が経過観察としていますがなぜなのでしょうか
 20.子宮鏡検査の簡単な手技と目的は
 21.卵管鏡で何を検査しているのでしょうか
 22.子宮卵管造影法(HSG)で何がわかるのですか
 23.子宮卵管造影法はなぜ翌日も(2枚目を)撮影するのでしょうか
 24.子宮卵管造影法の検査は非常に痛いという人がいますが,なぜでしょうか
 25.クラミジア感染はなぜ不妊の原因となるのですか
 26.STDと不妊の関係をわかりやすく説明してください
 27.PCOを簡単に説明してください
 28.PCOは治療しても治らないものでしょうか
 29.40歳過ぎの不妊婦人はなぜ妊娠しにくくなるのでしょうか
 30.月経3日目のFSH測定は何を示標としているのですか
 31.3日目FSH測定と同時にE2も測ることがありますがなぜですか
 32.GnRHのアゴニストとアンタゴニストをわかりやすく説明してください
 33.IVMって何ですか
 34.子宮内膜症があるとなぜ不妊になるのですか
 35.クロミフェンはどこに効くのでしょうか
 36.男性不妊に漢方薬はなぜ効くのでしょうか
 37.AIDについて説明してください
 38.精子や卵子を凍結保存して害はないのでしょうか
 39.最近よく,ビテリフィケーション法を耳にしますが説明してください
 40.ICSIに用いる精子はどのようにして選ばれているのでしょうか
 41.胚盤胞移植はなぜ重要なのでしょうか
 42.低反応卵巣にレーザー療法が効くと耳にしますがレーザーをどこにかけるのか簡単に説明してください
 43.不妊の統計でとくに重要な点は何でしょうか
 44.不妊患者はなぜカウンセリングが必要なのでしょうか
 45.生殖医療心理カウンセリング研究会について紹介してください
 46.肥満はなぜ不妊の原因として重要なのでしょうか
 47.不妊は予防できるでしょうか
 48.不妊患者から,よく,マカのような自然産物の効果があるかという質問がありますが,効果はあるのでしょうか
 49.不育症って何ですか
 50.不妊の原因となる可能性のある性感染症(STD)について教えてください