やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版改訂 監修者序
 2000年10月に初版第1刷が発行されたあと,好評のうちに増刷を重ねてまいりましたが,今回,全面的に改訂して出版される運びとなりました.
 今回の改訂の背景としては,まず重症心身障害児・者も在宅志向が進む中で,医療ニーズの高い超重症児,準超重症児も増加の一途をたどっています.このような人の地域生活支援のためにさまざまなデイサービス提供の必要性がますます高まっています.
 次に,平成15年度から支援費制度が始まりました.重症児通園事業と他の各種サービスとを併用する等状況が変化してきている中で,重症児通園事業も新たな制度に対応し,位置付けを明確にしていく必要があります.
 また,重症児通園事業実施カ所数は年々徐々にではあるが増加してきています.しかし,いまだに必要数を十分満たしているとはいえません.しかも,地域差,実施施設本体の違いによるサービス内容の格差は否定できません.特に知的障害施設が設置している重症児通園事業には医療体制の問題があると言わざるをえません.
 以上のような点をふまえ,重症児通園事業の質的向上だけでなく在宅生活支援の視点から大幅改訂を行いました.
 第1編では,新しく運営に加わる関係者向きに重症児通園事業の地域の中での役割,関連機関とのネットワーク作り等について新たな記述をしています.
 第2編では,重症児通園の場面にとどまらず,在宅での医療的ケアに視点をおき,それも医療職以外の人にわかりやすい内容に書き直しています.
 第3編の在宅支援では,支援費制度等,新たな制度に伴い,在宅重症児・者がどのように重症児施設や他の制度を利用したらよいか等についても記述しています.
 どんなに障害が重くても,一人ひとりの生命が尊重され,生きがいのある豊かな生活が送れるよう支援することが重症児通園事業の意義であると思います.
 本書が,在宅重症児とご家族のよりよい地域生活と関係者の質の高いサービスに寄与できれば,これにすぐる喜びはありません.
 2004年8月
 日本重症児福祉協会理事長 江草 安彦


監修者序
 重症心身障害児の医療福祉が制度化されて30年余りが経過しました.その間,入所施設中心のサービスに,時代の変遷とともに新しい形態のメニューとして,重症児通園事業,在宅重症児支援事業が加わり,重症児者や家族の選択肢が増えることになりました.サービスメニューが点から線,線から面になろうとしていると言えましょう.
 重症児通園事業は,重症児の全ライフサイクルを視野に入れた,サービスの多様性が求められている今日,これに応えようとするものであり,重症児者や家族にとって待望していた新しいサービス形態です.このサービスそのものを充実させるために,療育現場の体験を言語化・体系化した「マニュアル」が必要であるとの意見が多く聞かれるようになりました.そこで,こうした関係者の熱望に応えるために,本書の刊行を企画しました.
 今回,重症児療育の理論面・実践面の権威である,岡田喜篤氏,末光 茂氏,平元 東氏,諸岡美知子氏の編集により,日夜,療育現場で臨床に携わっている多くの執筆者のご協力をいただき,「重症心身障害通園マニュアル」をまとめることができました.
 本書は,重症児通園事業従事者はもとより,広く障害児者問題に関心のある医療・保健・福祉・教育の第一線で活躍されている専門職の方々,研究者,学生のみなさん,そして障害児をもつご家族のみなさんにお読みいただければ幸いです.
 本書によって重症児通園事業が充実し,重症児通園事業を利用されている一人ひとりの方々の満足につながれば幸いです.
 また,本書とともに,重症児施設法制化30周年を記念して発刊されている「重症心身障害療育マニュアル」を併読されれば,重症児療育現場について一層深く理解することができるでしょう.ご一読をお勧めします.
 読者のみなさんのご精進をお祈りし,ご挨拶といたします.
 2000年9月
 日本重症児福祉協会理事長 江草 安彦
重症心身障害通園マニュアル 第2版 在宅生活を支えるために もくじ

■第1編
 基本的な理解のために 重症心身障害児の通園とは
第1章 在宅重症心身障害児・者の状況(口分田政夫)
 1.重症心身障害の福祉・医療施策の進展の中
  1)通園事業・短期入所事業・居宅支援事業
  2)障害児(者)地域療育等支援事業,障害者ケアマネジメント
  3)医療制度の中で
 2.在宅重症心身障害児・者の位置づけ
第2章 重症心身障害児(者)の通園事業の仕組み
 1.重症心身障害児(者)通園事業の経緯と今後の方向(長岡常雄)
  1)重症心身障害児(者)通園事業成立の経緯
  2)重症心身障害児(者)通園事業の役割・機能
  3)今後の重症心身障害児(者)通園事業のあり方
 2.対象者
  1)重症心身障害児(者)通園事業の対象者とは(諸岡美知子)
  2)東京都の場合(住友眞佐美)
 3.受け入れの決定と手続き(渡辺ひさ子)
  1)受け入れ決定に関わる機関
  2)手続きの概略
  3)関係機関への連絡・連携
 4.通園施設側の準備 (1)〜3)諸岡美知子,4)頼則みち子)
  1)医療の確保
   (1)重症児に必要な医療的機能
  2)重症心身障害児(者)通園の形態別医療体制
   (1)医療機能をもつ通園施設の場合
   (2)医療機能をもたない通園施設の場合
  3)設備・施設基準
   (1)設備面
   (2)備品面
  4)保護者・家族との協力体制
第3章 重症心身障害児の通園の展開
 1.A型施設(紙谷民治)
  1)A型施設の機能と役割
  2)事業運営の実際
 2.B型施設(廣瀬治代)
  1)B型施設の機能と役割
  2)全国のB型通園事業の実態
  3)愛光園の医療体制と利用者の概況
  4)今後の課題
 3.国立病院機構におけるB型通園事業(樋口和郎・佐々木征行)
  1)設立の経過と背景
  2)事業運営の実態
  3)在宅支援における通園事業の役割
  4)今後の課題・問題点
 4.重症児通園のさまざまな方式
  1)B型通園との診療所併設(朋診療所)(宍倉啓子)
  2) 重症児施設が行うブランチ方式による通園事業の展開-滋賀県の場合(遠藤六朗)
  3)西多摩療育支援センター重症心身障害児(者)通園事業“もえぎ”の役割(鈴木康之※1)
  4)B型通園の巡回型:南愛媛病院(村下志保子)
 5.その他の形態の通園・通所
  1)小規模作業所から身体障害者通所授産施設へ/府中共同作業所(安川雄二)
  2)デイサービス事業での実状/デイセンターまなびや(山本雅章 )
 6.通園事業を向上するために大切なこと(日浦美智江)
  1)家族との信頼
  2)健康管理
  3)苦情解決・他

■第2編 在宅を支える通園サービス 重症心身障害児の通園の実際
第1章 健康管理とケア
 1.どの程度の医療ニードが求められるのか(鈴木康之※1)
  1)重症心身障害児(者)通園事業における基本的課題
  2)通園事業における医療体制
  3)医療的ケア
 2.日常の健康管理(平元 東)
  1)健康状態の観察の留意点
  2)健康チェックマニュアル
  3)健康診断
 3.生命機能を守る医療ニード
  1)呼吸管理(花井丈夫)
  2)消化管機能の管理(西 寿治)
  3)栄養管理((1)(3)小倉英郎,(2)橋本龍幸)
   (1)エネルギー所要量
   (2)経腸栄養剤
   (3)栄養評価
 4.感染の予防とその対応(平元 東)
  1)基本的な感染対策と予防接種
  2)おもな感染症と対策
 5.よくみられる症状とその対応(平元 東)
  1)てんかん発作
  2)筋緊張亢進
  3)発熱(高体温)
  4)骨折
  5)呼吸障害の諸症状
  6)誤嚥
  7)嘔吐と胃食道逆流症
  8)腹部膨満とイレウス
  9)血尿と膿尿(白血球尿)
  10)貧血,白血球減少,出血傾向
  11)睡眠障害(睡眠・覚醒リズムの乱れ)
  12)褥瘡
 6.救急蘇生(平元 東)
  1)救急時の対応
  2)心肺蘇生のABC
第2章 リハビリテーション
 1.通園で行うリハビリテーション
  1)姿勢管理(今川忠男)
  2)呼吸の理学療法(花井丈夫)
  3)作業療法(小畑恵子)
  4)言語聴覚療法(高泉喜昭)
 2.家庭で行うリハビリテーション(伊藤泰広)
第3章 医療的ケア(山田美智子)
  1)医療的ケアとは
  2)経管栄養
   (1)経管栄養の種類
   (2)経管栄養の実際
   (3)栄養管理
  3)気管切開
   (1)気管切開の適応について
   (2)喉頭気管分離術
  4)経鼻咽頭エアウェイ
  5)吸引
   (1)吸引を行う適応について
   (2)吸引の実際
  6)人工肛門(ストーマ)
  7)デイサービスでの医療的ケア(山本雅章)
第4章 日常生活の支援(箱崎一隆)
 1.生活環境
  1)快適な環境の提供
  2)部屋の確保,設置
  3)家庭での介護・支援環境
 2.生活援助
  1)援助の心構え
  2)食事
   (1)食事介助の原則
   (2)特別な配慮・工夫が必要な場合
   (3)家庭との連絡
  3)排泄
   (1)排泄介助の原則
   (2)排泄自体が難しい人への配慮・工夫
   (3)家庭との連絡
  4)衣類の着脱
   (1)着脱介助の原則
   (2)衣類の工夫
  5)移動
   (1)移動介助の原則
   (2)身体・機能に合った車椅子の選択
   (3)移送,送迎
  6)入浴
   (1)入浴介助の原則
   (2)特別な配慮・工夫が必要な場合
第5章 社会参加(増渕晴美)
 1.日中活動
  1)「朋」における日中活動
  2)日中活動の具体例
 2.行事
  1)施設で企画する行事
  2)地域行事への参加

■第3編 豊かな在宅生活のために 重症心身障害児の在宅支援
第1章 支援費制度と重症心身障害児・者の在宅支援
 1.支援費制度の概念とサポートシステム(山田和孝)
  1)支援費制度の概念
  2)サポートシステム
 2.支援費制度の仕組み
  1)基本的な仕組み
  2)国,都道府県,市町村,事業者の役割
  3)対象となるサービス
  4)支援費の種類
  5)支給決定の基本的考え方と勘案事項
  6)障害程度区分の決定
 3.居宅生活支援のサービス内容
  1)短期入所事業(ショートステイ)
  2)居宅介護事業(ホームヘルプサービス)
  3)デイサービス
  4)その他
第2章 障害児(者)地域療育等支援事業(福岡 寿)
 1.事業の沿革
  1)事業の具体的内容
  2)平成15年度における一般財源化(地方交付税措置)
 2.コーディネーターの役割と今後の展望
第3章 医療サービス
 1.訪問看護(松尾里糸)
  1)訪問看護制度の現状
  2)訪問看護ステーションの運用
  3)訪問看護の役割
 2.訪問リハビリテーション(伊藤泰広)
 3.後方医療支援体制としての重症児施設の役割(末光 茂・諸岡美知子)
  1)外来
  2)入院
  3)短期入所
  4)地域でのネットワークづくりのコーディネーター役
第4章 福祉サービス(尾崎 裕)
 1.心身障害者(児)手帳・各種手当
  1)心身障害者(児)手帳
  2)各種手当,年金
 2.税金・公共料金
  1)税金の減免
  2)公共料金の免除・割引
 3.医療費の助成・給付
  1)医療費の助成・給付
  2)補装具の交付および日常生活用具の給付
 4.その他
  1)移動の確保につながるサービス
  2)心身障害児(者)巡回療育等相談事業
第5章 教育(飯野 順子)
 1.教育の機会の確保
  1)養護学校の設置形態等
  2)重度・重複障害児の教育の基本的な考え方
  3)教育課程に関すること
  4)授業づくりに当たって
 2.特別支援教育の中での変化の可能性
  1)特別支援教育とは
  2)「個別の教育支援計画」の作成
  3)支援をつなぐコーディネータの役割
  4)小・中学校におけるLD(学習障害),ADHD(注意欠陥/多動性障害),高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン
第6章 地域ネットワーク
 1.重症心身障害児(者)を守る運動(親の会)(秋山勝喜)
  1)「全国重症心身障害児(者)を守る会」の活動
  2)通園事業の設置の運動
  3)通園事業のあり方への要望
  4)重症心身障害児・者施策の今後へ向けて
 2.地域交流(松浦武二)
  1)ノーマライゼーションエリアの創出
  2)重症心身障害児(者)通園事業と地域交流
 3.ボランティアとの協力体制(日浦美智江)
  1)「わかくさの会」の人たちとの出会い
  2)ボランティアと職員の関係
  3)さまざまなボランティア活動
 4.ITシステム
  1)在宅支援(遠隔医療)ITシステム(三田勝己)
  2)在宅呼吸管理ITシステム(鈴木康之※2・宮坂勝之)


 [コラム] ドライ式吸引 (伊藤乃利子)
 資料1 重症心身障害児(者)通園事業実施要綱
 資料2 重症心身障害児(者)通園事業実施施設一覧
 資料3 関係団体・他

 索引