やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 当事者主体のエンパワメントがヒューマンサービスの主流となるなか,「当事者自身の声を反映させる」質的な研究法へのニーズが高まっている.アンケート調査などの「量的な研究法」と,グループインタビューなどの「質的な研究法」の両者を一緒に行い,複数の側面から状況をとらえることで,より精度の高い,ニーズに合致した情報の把握が可能となる.
 本書は,『ヒューマンサービスにおけるグループインタビュー法』(医歯薬出版)の続編である.前著は,グループインタビューの「実施と分析の具体的な手順」を示したものであるが本書では「活用事例編」として,活用場面の特性別に,どのような工夫が有効なのかに焦点をあてた.より多くの人が,科学的な根拠となる「質的な研究技術」として,グループインタビュー法を利用できるよう,実際の適用例を示しながら,可能性と限界を含め活用のポイントを解説した.
 グループインタビュー法は,クルト・レヴィンのグループダイナミクス理論を背景に,世界各国さまざまな分野で活用されている.欧米では,グループインタビュー法の技術はヒューマンサービス領域のプロ技術の1つとして位置づけられ,その習得をカリキュラムに取り入れている大学も多い.
 一方日本では,ヒューマンサービスの領域で30年ほど前よりグループインタビュー法が用いられ,いまや多くの分野で活用が期待される状況にある.
 そこで本書は,第一線でグループインタビューを活用しつつ共に学んだ研究仲間が集い,さまざまな場面で適用する典型的な実例を示した.グループインタビューが活用できる範囲の広さと応用性,対象の特性に応じた適用法のイメージを実感してもらうことを意図した.したがって事例部分においては,(1) 実施の背景,(2) インタビューガイド,(3) 実施上の工夫,(4) 分析の実際,(5) 報告内容,(6) 方法論としての可能性と限界,という「共通の記述枠組み」は設定したものの,各事例の内容は必ずしも同じ次元に整理されているわけではない.あえて執筆担当者の「熱い思い」を尊重し,ドキュメンタリーのごとくその息づかいが伝わるようにした.
 本書の構成は,大きく2部に分かれる.
 「Part-1 グループインタビュー法活用の基礎」では,「第1章 グループインタビュー法とは」,「第2章 グループインタビューの分析法」,「第3章 グループインタビューの妥当性と信頼性」として,グループインタビューの意義と活用の方法を簡潔に論じた.
 「Part-2 グループインタビュー法活用パターン別事例」では,特徴的なパターン別に具体的な活用例を整理した.
 「第4章 グループインタビュー法により量的調査の項目をつくる―生活習慣病予防に関するサービスニーズの把握―」では,グループインタビューにより調査票の項目を抽出する方法を示した.
 「第5章 グループインタビュー法とプリシード・プロシードモデルとの併用により課題を明らかにする―中年婦人の老後に関するニーズ把握―」では,プリシード・プロシードモデルとグループインタビューを一緒に用いることにより,課題の理論的な裏づけとして説明する方法を紹介した.
 「第6章 グループインタビュー法により新たな事業企画・運営方法を明らかにする―A型機能訓練事業のニーズ把握と評価―」では,地域ぐるみの地域開発計画の策定に向けて,当事者主体を実現する活用の方法を明らかにした.
 「第7章 グループインタビュー法により事業を評価する―夜間保育ニーズの複合評価―」では,評価の基準づくりの際に,実際に日常業務のなかで実施している内容について携わっている当事者の特性別に整理し,実用性の高い評価項目の抽出法を示した.
 「第8章 グループインタビュー法により少数者の意見を施策に反映する―在日外国人ニーズ調査―」では,グループインタビューの特徴の1つ,少数者の意見を汲み上げるテクニックとしての配慮や工夫について論じた.
 「第9章 グループインタビュー法と量的調査を合わせて計画をつくる―健康日本21計画策定のための実態把握方法―」では,典型的な複合分析の方法として,アンケート調査とグループインタビュー調査とのニ側面からの結果の統合の仕方を例示した.
 「第10章 グループインタビュー法により新しい指標をつくる―専門職の専門性指標の開発―」では,新たな指標づくりの際に,実際に携わっている当事者(ここでは多職種の専門職)の意見を引き出し,実践に適合した基準項目の引き出し方を示した.
 「第11章 複数のグループインタビューの統合法―地域エンパワメントの条件―」では,複数のグループインタビューを実施し,その結果を各グループの共通性と相違性に判別しながら整理していく方法を示した.
 最後に,「グループインタビュー法活用の今後の展開」の方向性について,期待を含め記述した.
 本書が,ヒューマンサービスに携わる専門職,研究職,行政
 はじめに
 謝 辞

Part-1 グループインタビュー法活用の基礎(安梅)
 Chapter-1 グループインタビュー法とは
  1 グループインタビュー法の背景と考え方
  2 グループインタビュー実施の流れ
  3 グループインタビュー法の活用パターン
 Chapter-2 グループインタビューの分析法
  1 一次分析
  2 二次分析
  3 複合分析
 Chapter-3 グループインタビュー法の妥当性と信頼性
  1 グループインタビュー法の妥当性と信頼性とは
  2 グループインタビュー法の妥当性と信頼性を高めるために
Part-2 グループインタビュー法活用パターン別事例
 Chapter-4 グループインタビュー法により量的調査の項目をつくる-生活習慣病予防に関するサービスニーズの把握-(柴辻)
  1 実施の背景
  2 インタビューガイド
  3 実施上の工夫
  4 分析の実際
  5 調査項目の作成
  6 報告内容
  7 方法論としての可能性と限界
 Chapter-5 グループインタビュー法とプリシード・プロシードモデルとの併用により課題を明らかにする-中年婦人の老後に関するニーズ把握-(清水)
  1 実施の背景
  2 インタビューガイド
  3 実施上の工夫
  4 分析の実際
  5 報告内容
  6 方法論としての可能性と限界
 Chapter-6 グループインタビュー法により新しい事業企画・運営方法を明らかにする-A型機能訓練事業のニーズ把握と評価-(清水)
  1 実施の背景
  2 インタビューガイド
  3 実施上の工夫
  4 分析の実際
  5 報告内容
  6 方法論としての可能性と限界
 Chapter-7 グループインタビュー法により事業を評価する-夜間保育ニーズの複合評価-(丸山)
  1 実施の背景
  2 インタビューガイド
  3 実施上の工夫
  4 分析の実際
  5 報告内容
  6 方法論としての可能性と限界
 Chapter-8 グループインタビュー法により少数者の意見を施策に反映する-在日外国人ニーズ調査-(堀田)
  1 実施の背景
  2 インタビューガイド
  3 実施上の工夫
  4 分析の実際
  5 報告内容
  6 方法論としての可能性と限界
 Chapter-9 グループインタビュー法と量的調査を合わせて計画をつくる-健康日本21計画策定のための実態把握方法-(片倉,大中)95
  1 実施の背景
  2 インタビューガイド
  3 実施上の工夫
  4 分析の実際
  5 報告内容
  6 方法論としての可能性と限界
 Chapter-10 グループインタビュー法により新しい指標をつくる-専門職の専門性指標の開発-(佐藤・原田)
  1 実施の背景
  2 インタビューガイド
  3 実施上の工夫
  4 分析の実際
  5 報告内容
  6 方法論としての可能性と限界
 Chapter-11 複数のグループインタビューの統合法-地域エンパワメントの条件-(淵田)
  1 実施の背景
  2 インタビューガイド
  3 実施上の工夫
  4 分析の実際
  5 報告内容
  6 方法論としての可能性と限界

 おわりに グループインタビュー法活用の今後の展開(安梅)
 参考文献
 索 引