やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき

 この本は,育児学の教科書というだけでなく,小児保健の教材となり,小児看護の参考書となることを考えて,まとめてみました.それは,この三つの分野は,乳幼児を対象とした理念と技法に共通のものがあると考えたからです.
 この本では,子どもそのものはあとに回して,まず育児の考え方を明らかにし,親子関係や家庭生活を基本のものとして取り上げました.育児には知識や技術は当然必要ですが,その前に育児に対する心構えが大切だと思います.どういう考えを基にして子どもを育てるかを,はっきりさせておかなければなりません.また,知識だけでは子どもは育てられません.なぜこうするのか,この子どもにはどのように応用するのかという考えも必要です.自分で考えることが生きた育児となるのです.
 こういう考えで,この本は次のようにまとめました.初めに育児の考え方や親子関係などを示し,次に生まれるまでの条件を考えました.乳幼児については,身体発育,精神発達,栄養など基本となるものを述べ,医学的なことよりも,生活や育児の要点に重点を置きました.病気については,くわしい解説は避け,育児上の要点を取り上げるだけにしました.
 育児というものには,決まった型はないと思います.育児の知恵は,子どもとの生活の中から生み出すものでしょう.この本が将来母親となる人,あるいは現在乳幼児の世話をしている人に,育児のよりどころを示すことができれば幸いです.
 1979年(昭和54年)2月
 今村榮一

第8版に寄せて

 本書を刊行して12年たった1991年(平成3年)に,全面的に手を加えて第7版としました.これでひとまず落ちつくと思ったのですが,新しい知見は絶えず流れとなって現れてきますので,加筆や訂正をして第8版としました.
 振り返ってみれば,第3版では日本食品標準成分表の改訂,新しい離乳の方法や育児用粉乳,母子関係の考え方に触れ,第5版では育児に対する母親の不安,紙おむつやだっこ用具などの出現,生活様式の変化,第6版では引き続き育児用粉乳の改変があり,うつぶせ寝,日光浴,ベビースイミングなど,その折々の話題を取り入れました.
 1990年(平成2年)には,乳幼児身体発育値の調査が行われました.そして出生数は年ごとに減少し,合計特殊出生率が1.53となって話題となりました.第7版では,実践の育児という点を一層強め,章の構成を改め,内容を新しくしました.第8版では,さらに細部にわたって検討し,つねに新しい知識を提供するという本書の趣旨に沿うことに努めました.
 働く母親が増え,育児をめぐる環境にも変化がおこり,また情報がますます過多となる反面,正しい育児情報を得るのに配慮が必要となってきています.本書が,育児に携わる方および指導にあたる方の手助けとなれば幸いです.
 なお,本書を教材に用いる場合には,授業時間数に合わせて,内容を取捨していただきたいと思います.
 1993年(平成5年)11月

第12版 序

 本書はつねに新しい知見を収録することに配慮し,ほとんど毎年版を改めてきました.ことに第8版と第11版では細部にわたって検討を加えました.しかし育児をとりまく環境と知識は絶えず変化しています.ことに少子社会が現実のものとなり,小児を健全に育てること,親ことに母親に育児の正しい知識を与え,育児に自信を持たせることが重要になってきました.
 そこで今回改めて全般にわたって細かく内容を検討しました.制度として,平成10年(1998年)4月から改正された「児童福祉法」が実施され,同じく9月には伝染病予防法が廃止されて新しく「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が公布されました.
 これらを含めて第12版としましたが,最新の育児の知識を習得するために,本書がお役に立てば幸いです.
 1998年(平成10年)12月

第13版 序

 世の中の変化はめまぐるしく,育児をめぐる環境や条件も変動しています.これらの動向に合わせて本書の内容をたびたび改訂してきました.最近でも日本人の栄養所要量が改訂され,幼児の身長体重曲線が母子健康手帳に収録され,また虐待や乳幼児突然死症候群が社会問題として浮上してきました.
 これら新しい知識を整理し,重ねて細部にわたって内容を検討して,第13版といたしました.
 2001年(平成13年)1月

第14版 序

 少子化が進み,社会にも家庭にもいろいろ影響が出てきましたが,同時に育児の重要性が注目されてきました.子どもだけでなく家族,家庭が問題とされています.母子健康手帳も内容が全面的に改正されました.
 本版では新しい乳幼児発育値を検討し,揺さぶられっ子症候群その他新しい知識,知見を収録し,また全面的に用字用語を検討しました.
 2003年(平成15年)4月
第1章 育児のはじめに
 1.育児というもの
     1)育児は人生である
     2)育児は健康を基本とする
     3)育児は生活である
 2.育児に影響するもの
     1)社会情勢の変化
     2)人口の変化
     3)家庭の変化
     4)女性の就業
     5)環境の変化
     6)情報社会
 3.子ども
     1)用語
     2)子どもの範囲
     3)小児の特性
     4)小児期の区分
 4.育児学の学習
第2章 育児の理念
 1.育児の目標
     1)育児の目標の変化
     2)育児の目標の確立
     3)具体的目標
 2.親としての心構え
     1)育児観
     2)子どもを望む心
     3)子どもへの期待
     4)喜びとしての育児
     5)親となること
     6)育児への対応
     7)子どもへの配慮
 3.児童憲章
第3章 育児の知識
 1.育児の知識の獲得
     1)家庭内の伝承
     2)個人的経験
     3)マス・コミュニケーション
     4)インターネット
     5)育児書
     6)育児雑誌
     7)電話相談
     8)育児相談
 2.育児の考え方
     1)科学としての育児
     2)経験としての育児
     3)子どもの観察
     4)考える育児
第4章 家庭生活と集団生活
 1.家庭生活
     1)育児環境としての家庭
     2)家庭の変化
     3)共働き
 2.親と子の関係
     1)依存と接触
     2)アタッチメント
     3)母子相互作用
     4)同調現象(エントレインメント)
 3.家族
     1)母親
     2)父親
     3)祖父母
     4)きょうだい
     5)男の子と女の子
 4.集団生活
     1)子どもをあずける
     2)保育所と幼稚園
     3)施設保育の問題点
第5章 出生に至るまで
 1.結婚と妊娠
     1)健全な結婚
     2)遺伝
     3)家族計画
     4)妊娠と分娩
 2.妊婦の健康管理
     1)生活
     2)健康上の注意
     3)出産への準備
第6章 身体発育
 1.用語
 2.身体の発育
     1)体重
     2)身長
     3)座高
     4)頭部
     5)胸部
     6)脊柱
     7)歯
     8)内臓
     9)発育の経過
     10)身体発育に影響する因子
 3.身体の計測法
     1)体重
     2)身長
     3)座高
     4)頭囲
     5)胸囲
 4.発育の評価
     1)基準値との比較
     2)パーセンタイル値
     3)幼児の身長体重曲線
     4)指数によるもの
第7章 からだの機能
 1.生理機能
     1)体温
     2)呼吸
     3)脈拍
     4)消化
     5)排泄
     6)睡眠
 2.神経系の発育
     1)脳と脊髄
     2)大脳の構造
     3)神経細胞
     4)脳細胞の成熟と育児
 3.感覚
     1)視覚
     2)聴覚
     3)味覚
     4)嗅覚
     5)皮膚感覚
第8章 運動機能
 1.神経系の成熟と運動機能
 2.運動機能の発達
     1)新生児期の運動機能
     2)乳児期の運動機能
     3)幼児期の運動機能
     4)運動機能の個人差
第9章 精神発達
 1.知的発達
     1)知的発達の経過
     2)幼児の思考
     3)数
     4)ことば
 2.情緒の発達
     1)情緒の分化
     2)欲求と欲求不満
     3)情緒の種類
 3.社会性の発達
     1)社会性
     2)社会的行動
     3)友だち関係
     4)けんか
     5)道徳性
     6)集団行動
 4.性格の形成
     1)性格
     2)性格形成への影響
 5.精神発達の評価
     1)精神発達のスクリーニング検査
     2)知能検査・精神発達検査
 6.良い精神発達のために
    (付)運動機能と精神発達のまとめ
第10章 栄養
 1.子どもの栄養
     1)子どもの栄養の特徴
     2)発育時期と食事
 2.栄養素と栄養所要量
     1)栄養素
     2)栄養所要量
 3.母乳栄養
     1)母乳
     2)母乳栄養の減少
     3)母乳栄養の特徴
     4)母乳の分泌
     5)授乳
     6)母乳栄養の問題点
 4.混合栄養
     1)混合栄養の必要性
     2)混合栄養の方法
 5.人工栄養
     1)人工栄養の歴史
     2)育児用粉乳
     3)調乳
     4)授乳
 6.離乳
     1)離乳の歴史
     2)離乳の必要性
     3)離乳の意味
     4)離乳の経過
     5)離乳の方法
     6)離乳期の食物
     7)フォローアップミルク
 7.幼児の栄養
     1)幼児期の栄養の特徴
     2)栄養摂取
     3)食事
     4)おやつ
 8.栄養上の問題
     1)ミルクぎらい
     2)幼児の偏食
     3)肥満
     4)食物アレルギー
第11章 乳児期と生活
 1.入浴
     1)場所
     2)入浴のさせ方
     3)からだの手入れ
 2.排泄
     1)おむつ
     2)おむつかぶれの予防
     3)排泄のしつけ
 3.睡眠
     1)眠り方
     2)寝かせ方
 4.抱く,おぶう
     1)抱くこと
     2)おぶうこと
     3)揺さぶられっ子症候群
 5.健康の増進
     1)外気浴
     2)日光浴
     3)赤ちゃん体操
     4)ベビースイミング
     5)皮膚の摩擦
 6.衣服,寝具
     1)衣服
     2)寝具
 7.おもちゃ,育児用品
     1)おもちゃ
     2)育児用品
第12章 幼児期と生活
 1.生活習慣
     1)排泄
     2)睡眠
     3)衣服
     4)衛生習慣
     5)社会道徳
 2.遊び
     1)幼児の遊びの特徴
     2)遊びの効果
     3)遊びの種類
     4)遊びの指導
     5)遊びの用具
     6)親と子の遊び
     7)テレビ
 3.表現活動
     1)絵本
     2)絵画
     3)工作
     4)音楽
 4.健康の増進
     1)皮膚の鍛練
     2)野外の遊び
     3)体育
第13章 環境と生活
 1.住居
     1)立地条件
     2)室内の衛生
     3)暖房
     4)冷房
     5)集合住宅
 2.地域
     1)都市化
     2)遊び場所
     3)公害
 3.季節
 4.旅行
     1)計画
     2)方法
     3)持ち物
     4)季節と旅行
     5)乗物酔い
 5.事故の防止
     1)事故の発生
     2)事故の種類
     3)安全教育
 6.虐 待
     1)虐待の定義
     2)虐待の発生
     3)虐待の対策
第14章 発育時期と育て方
 1.新生児期
     1)新生児期の特徴
     2)育て方
     3)気をつける点
     4)小さい異常と心配
     5)未熟児(低出生体重児)
 2.乳児期
     1)乳児期の特徴
     2)1,2か月ごろ
     3)3,4か月ごろ
     4)5,6か月ごろ
     5)7,8か月ごろ
     6)9,10,11か月ごろ
 3.幼児期
     1)幼児期の扱い方
     2)親子関係
     3)しつけ
     4)質問の扱い方
     5)心配になる行動
第15章 保健と福祉
 1.病気の予防
     1)先天性の病気の予防
     2)予防接種
     3)むし歯の予防
 2.健康を守る制度
     1)母子保健法
     2)乳幼児の健康診査と保健指導
 3.児童福祉
     1)児童福祉法
     2)児童福祉施設
 4.小児の衛生統計
     1)人口
     2)出生
     3)乳児死亡
     4)死因
第16章 家庭看護と応急処置
 1.家庭看護の技術
     1)体温などの測定
     2)処置
     3)薬の飲ませ方
     4)消毒
 2.症状と手当て
     1)発熱
     2)下痢
     3)便秘
     4)嘔吐
     5)腹痛
     6)せき
     7)呼吸困難
     8)赤い発疹
     9)水疱
     10)けいれん
 3.けがと事故の応急処置
     1)外傷
     2)事故
     3)異物
     4)誤飲
     5)鼻血
     6)歯痛
     7)人工呼吸
     8)心臓マッサージ
第17章 おもな病気
 1.感染症
 2.新生児の病気
 3.口,のどの病気
 4.消化器の病気
 5.呼吸器の病気
 6.心臓の病気
 7.泌尿器,性器の病気
 8.血液と出血性の病気
 9.アレルギーの病気
 10.皮膚の病気
 11.へその病気
 12.目の病気
 13.耳の病気
 14.関節,骨,筋肉の病気
 15.神経,精神の病気
 16.内分泌の病気
 17.その他の病気

 索引