やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 昨年の1月,あるセミナーで竹内孝仁先生(日本医科大学教授)のご講演をお聞きすることができました.
 このとき,「高齢者の寝たきりをなくすのは当たり前,これからは高齢者の食事は常食で……」とのお話に,私は身震いするような感動を覚え,セミナー終了後,真先に控室に伺い,「先生のお話をお聞きし,力が沸いてきました.高齢者の食事は常食で……ということについて,私たちも声を大にしてよいのですね」と,一気に興奮したままお礼を述べた記憶があります.
 それまで,高齢者の食事については,それを見守る家族,そして介助者の日々の生活のなかでの取り組みにあって,理想と現実のギャップを深く感じないわけではありませんでした.ADL,QOLの必要性や重要性を求めていたこのような時期にあって,竹内先生の心強い示唆に支えられ,食事介助のあり方や考え方を私なりに整理してみたい衝動にかられておりましたが,このたび,医歯薬出版のご厚意のもとに,本書としてまとめる機会に恵まれました.
 私は,人間の食や食事にかかわればかかわるほど深い魅力を感じながら,一般的にはいとも簡単に考えられている食事介助ということについて,私なりに考えをまとめてみました.
 本書では,見えない介助,感じる介助,求め求められる介助を基本にし,さらに目・手・口の協応の考え方をベースに,そのアプローチについて考察させていただきました.
 毎日の食事の介助は,本人はもちろん,家族やその周りの人たちにとってたいへんな労力を要します.高齢者の問題やその介助者側からみた食事の問題は堤起されておりますが,一般的には安易な考えとともにむずかしい状況におかれているのが現状です.
 そのようななかにあって,奥の深い私たちの人間の食の行為に「人間性あふれる原点」をみる気持ちを大切にして,本書が明日への歩みの糧になれるよう,少しでも身近なところでお役に立てることを願っております.
 2002年9月
 柴田浩美
 はじめに

CHAPTER 1 食べるメカニズムを考える
 1-1 口の発生,口の機能
 1-2 食べるメカニズム
 1-3 メカニズムの獲得
CHAPTER 2 食と食事を考える
 2-1 食と食事の考え方
 2-2 高齢者の身体の変化と食の関係(とくに食生活と関連のある部位の特徴)
 2-3 食事介助の問題と対応
CHAPTER 3 食事の基本を考える
 3-1 食事の基本
 3-2 目・手・口の協応
CHAPTER 4 食事介助の基本を考える
 4-1 食事介助とは
 4-2 介助者の心構え
CHAPTER 5 具体的な食事介助を考える
 5-1 捕食を考えた介助
 5-2 美味しさを味わえる介助
 5-3 身体(体調)を気づかう介助
 5-4 食べる意欲を引き出す介助
 5-5 食べるリズムを考えた介助
CHAPTER 6 求められる食事介助を考える
 6-1 美味しく食べられる介助
 6-2 リラックスして食べられる介助
 6-3 満足して食べられる介助
CHAPTER 7 症状に応じた食事介助を考える
 7-1 食事を拒否する人の介助
 7-2 自分から食べようとしない人の介助
 7-3 食事中に眠ってしまう人の介助
 7-4 食事に意欲をもてない人の介助
 7-5 食にこだわりをもつ人の介助
 7-6 食事がまずいと訴える人の介助

 おわりに