はじめに

　ようやく待ちに待った本ができあがりました．
　これほど多くの糖尿病の方たちが，ご自身の糖尿病人生を赤裸々に語り，それをまとめた本はわが国には他にありません．
　糖尿病という病気と何歳で出会い，どう思いどう感じたのか，また糖尿病を結局は受け入れることができたのか，まだできないで悪戦苦闘のさ中にあるのか，1型糖尿病であるのか，2型糖尿病であるのか，合併症はまだ心配ないのか，その予兆が出始めているのか，あるいはすでに足の壊疽や人工透析や中途失明などともに生活されているのかなどなど，糖尿病という病気には長い長いストーリーがあります．そのストーリーの中でそれぞれ皆さん一所懸命に生きていらっしゃいます．
　私も糖尿病患者歴二十数年になりますが，糖尿病とは「克服する」とか「闘う」とか「立ち向かう」などというニュアンスで向き合う病気ではなく，合併症を暴れさせないように，そっと仲良く連れ添って生きていく，そんな気持ちで毎日を過ごすことが大切な病気ではないかと，最近つくづく思うようになりました．
　本書を読み始めてふと気づくと，ある行間から，糖尿病によって打ちのめされ，悩み，苦しんでいらっしゃる方々の声が聞こえてきます．また別な行間からは糖尿病であっても大丈夫，糖尿病のおかげで本当の健康に出会え，本当の友にも巡り会え，さらに自分の人生の新しい価値観に気づくこともできた，という歓喜の声も聞こえてきます．
　本書は糖尿病の方はもちろん，糖尿病の患者さんの治療に日々専念されている医師，看護師，栄養士，薬剤師，臨床検査技師など医療に携わっていらっしゃる多くのスタッフの方々にも是非とも読んでいただきたいと存じます．私ども患者が日頃何を悩み，何を考えているか，大変参考になるはずであり，本書が明日の臨床に必ず役立つはずです．
　最後に，糖尿病とともに生きていらっしゃる皆様のご健勝を心よりお祈り申し上げるとともに，本書の発行にご賛同ご協力いただきました皆様方に衷心より御礼を申し上げます．
　平成14年4月吉日
　（社）日本糖尿病協会理事長　近藤　正

編集にあたって

　「糖尿病はすでに隠す病気ではなくなった」
　本書の編集に携わりながら，この言葉がなんども去来しました．
　確かにまだ，糖尿病を公にすることによって差別や偏見に直面しなければならない社会に，われわれは住んでいます．
　しかし，本書をまず開いて読んでみてください．
　本書にご登場いただいた方々は，月刊『糖尿病ライフさかえ』のおよそ10万人の読者を前に自らの糖尿病を公にされ，編集室からの取材に快く応じてくださった方々です．
　これらの方々の勇気と情熱と決断が，糖尿病に対する社会の意識を，「隠さなくてはならない病気」から「隠さなくてもいい病気」へと変えていく原動力そのものであると実感しました．
　月刊『糖尿病ライフさかえ』に登場していただいた糖尿病の方々すべてに厚く御礼を申し上げます．
　本書が広く読者の皆さまの手元に届き，これからもさまざまな方々の声と笑顔をシリーズとして一冊の本に編んでいけることを祈念しております．
　今後とも皆さまのご支援を心よりお願い申し上げます．
　平成14年4月
　月刊『糖尿病ライフさかえ』編集室

読者の皆さま方へ

　・本書は，月刊『糖尿病ライフさかえ』（社団法人　日本糖尿病協会　編集）に掲載された記事で，インタビューや座談会形式など，糖尿病の方に登場いただいた記事を主にまとめました．
　・掲載記事の選択は，本書の出版に対して短い時間の中でご賛同いただいた方を優先いたしました．
　・また，限られた頁数での掲載選択には大変な困難があり，ご賛同いただきながら編集部の都合で，次の出版の機会に掲載したいと判断したものがございます．今回未掲載となった方々には深くお詫び申し上げます．
　・本書では，記事の冒頭に掲載号を付し，月刊『糖尿病ライフさかえ』に掲載された早い順からまとめました．
　・本書では，登場いただいた方々の所属や肩書き，病名や内容などは，原則として掲載当時のままとしました．たとえば「1型糖尿病」は掲載当時のまま「インスリン依存型糖尿病」「IDDM」となっています．
　・月刊『糖尿病ライフさかえ』で取材させていただいてから今日まで，とても長い月日が経過し，その間ご逝去された方もいらっしゃいます．この場をお借りいたしまして，心よりご冥福をお祈り申し上げます．