やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 二十一世紀はボランティアの世紀といわれている.市民社会ともいわれるように,町の主役は地域のボスでも行政でもない.だれかがなんとかしてくれるだろうと考えるような消極的な市民は,生き生きできないにちがいない.市民一人ひとりが,仲間を作り,主体的に行動することによって,まちづくりに参加し,その活動を通して自分の生きる喜びを見つけられる社会になる.そんな町,そんな市民が今,期待されている.
 不況で,不透明で,不確定で,そんな「不」の固まりのなかで二十一世紀は始まった.そんな時代だからこそ,だれかの価値観に寄りかかって生きるのではなく,自分で自分の生き方や自分たちの町の暮らしを決める,そんなことが大切にされなければならない.
 この本の話は実感のもてる事実だ.だれかに聞いた話ではなく,高知県土佐山田町で起こったことを,僕がこの目で確かめた話だ.それまで,何も明らかな行動をしなかった若者たちが動き出して,生き生きし出し,そのことによって町が動き出したのだ.青年団員がたった一人だった町で,青年たちが集まり出し,気づけば三十人を超す人の固まりになり,町を動かしていた.
 そのことを若者たち自身は自覚していない.町に暮らす人にも町が動いているという実感がない.
 しかし,こんな本を書きたいといい,たくさんの人にインタビューしてみると,みんながいうのだ.「その本の主人公は私だ」と.町に住み,活動に参加している若者のだれもが,自分が主人公だと思えるほどこの活動に浸っているのだ.
 たった二年間の,三泊四日が二回だけの,夏のキャンプの話だけれど,まさにみんなが主人公で輝いている.その活動が町を動かしていることに気づいてはいないけれど.
 しかし,ここに新世紀のコミュニティの原点があるような気がする.おおげさな話ではない.若者たちが主役の素朴な,小さな活動が,大きな町を動かしているという記録だ.高知県土佐山田町で起こったささやかなまちづくりの実験の記録だ.きっとどこにでもある,どの町でもできそうな普通のことだ.
 市民が主人公のこんな当たり前の活動が,新世紀には大切にされなければならないという思いを伝えたい.
 二〇〇二年四月
 石田易司
はじめに

一人からの出発
    町民大学 統合キャンプのアイデア 養護学校の義務化 青年団再生作戦開始
土佐山田って
    青年団はなくせない 町はのどかだが 若者離れ 嘆き節 若者不在は全国共通 若者は外へ出ていく 工科大の設立
養護学校と障害児教育
    県内六か所 地域に居場所がない 障害児の立場は? コンプレックス 障害者もいう 先生,考えて 一極集中 虐待とはいわないけれど
高齢者キャンプから始まった
    四万十川の川下り 痴呆性高齢者キャンプを
キャンプのシステムと交流キャンプの意義
    交流キャンプの意義 組織キャンプの偉大な力
交流キャンプの計画
    核の形成 若者,よそ者,ばか者 児童養護施設も忘れないで 震災ボランティアを引き継いで
グループ形成と子どもたちの成長
    障害児と健常児のふれ合い 健常児の成長 グループの発達 ボランティアの成長 町の人の意識の変化
若者たちのボランティアグループ誕生
    宴会効果 やいろって 組織づくり 自分たちの活動を この町に暮らそうキャンプは若者も癒す
福祉教育がメインストリームに
    過疎の小学校で 「さよならぞね」が最後のことば 高齢者の理解 福祉教育の必要 むかつくは×? 何でも屋さんはいけないの? 福祉教育はメインストリーム
私たちのホームキャンプ場・甫喜が峰
    どんなキャンプ場がいいの? ユニバーサルデザインの森 ユニバーサルデザインってだれでも使えるユニバーサルキャンプ場 森林公園運営のソフトコミュニティーガーデン
どうしてこんなことができたのか
    振り返りのひと言 思い 十一のヒント
若者たちに残された課題
第二回交流キャンプを終えて
    甫喜が峰でのキャンプ 大雨に負けた 挫折にも意味がある 大雨が彼女を強くした
おわりに