やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はしがき

 「子どもが鼻血をよく出す」とか,「皮膚に青あざが出た」などということで家族が心配して子どもを病院につれてくることがよくあります.また入院患者がいろいろな病気の経過中に突然,頭蓋内出血を起こしたり,あるいは点滴治療を受けている患児が,注射部位から血がだらだらと止まらなくなり,看護婦が気がついて医師が報告を受けることも重症な患者を扱う病院ではしばしば起こります.
 いずれも子どもでみられる出血症状ですが,これらの中にはそのまま放置しても症状がおさまればあまり問題にはならないような場合から,逆に一刻の猶予もなく生命にとって危険な出血症状まであるわけです.
 さらに子どもでは生まれて間もなくから出血傾向が長期間続き,一生医師による止血管理を受けなければならない先天的な病気もあります.
 出血は「いつ止まるのか」とか,あるいは「なぜ出血するのか」,「重大な病気がかくれているのではないか」というような不安を患児の家族に与える深刻な症状です.
 さらに出血に対しては輸血や,成分輸血のほかに止血剤,抗線溶剤,抗凝固剤など種々の薬剤が処方されるので,とくに患者のご家族にとっては,それらの副作用も大変心配になります.
 最近は医療の進歩にも関連して出血だけではなく,血管の中で血が固まって血流を阻害していろいろな臓器に障害が出る「血栓症」という病態も子どもでも注目を浴びるようになってきました.そこで本書の後半ではこの病気についても触れたいと思います.
 本書はこれらの子どもにみられる種々の出血性疾患や血栓症について,医師,研修医,医学部学生,看護婦,学校の先生,保健婦や養護の先生,保育士の皆さん方に,最近の新しい考え方や,診断や治療法について専門的な内容も含めてできるだけわかりやすく具体的に治療と日常生活の管理を中心に解説いたしました.本書がまた,患者のご家族が医療を受ける場合のインフォームドコンセント(説明と同意)の際に病気や治療法の理解に少しでも役立ち,患者と医療担当者の相互理解に少しでも貢献できれば著者としてはまことに幸甚に存じます.今後も読者の皆様のご指導をいただき本書がよりよく活用されるように努力してゆきたいと念ずる次第です.
 本書を完成するにあたり著者に1961〜1963年,米国ウイスコンシン州立大学小児科学教室で小児血液学研究の機会を与え,特発性血小板減少性紫斑病,鉄欠乏性貧血,再生不良性貧血,白血病などの臨床について現在に至るまでご指導をいただいているNathan J Smith主任教授に心から感謝申し上げます.また米国より帰国後ただちに慈恵医大小児科にはじめて小児科血液外来の開設を許可され,その後の血液学の研究にご指導とご鞭撻をいただいた故国分義行名誉教授に衷心より感謝申し上げます.
 さらに本書の中で多数の臨床経験を記述しえたのは,長年共同研究者として血液疾患の研究と診療に協力してくださった慈恵医大小児科血液班員の塩塚瑛子,村岡伸一,青木文彦,石山徳子,渡辺 治,栗山 達,黒沢恭子,西山征毅,奥脇興一郎,広津卓夫,千葉博胤,星 順隆,吉川博幸,鹿志村紀美枝,富田英嗣,伊藤尹敦,神谷恵子,田丸 操,斉藤十紀,北島晴夫,金子 隆,藤沢康司,有泉隆裕,吉野則子,西野仁美,石戸谷尚子,内山浩志,池上真由美,小林尚明,七条裕美,加藤陽子,浦島充佳,伊従秀章,安西加奈子,出口靖の諸先生方のお陰であります.
 また本書の出版にあたり,制作を担当してくださった医歯薬出版の編集部の方々に心から御礼申し上げます.
 平成12年8月の盛夏 赤塚順一
 口絵,推薦のことば,はしがき

第1章 小児の出血
 1.小児の出血
 2.新生児にみる出血
  1)胃腸管出血(吐血,下血)
  2)喀血
  3)血尿
  4)頭蓋内出血
  5)頭血腫
  6)性器出血
 3.新生児期以降にみる小児の出血
  1)胃腸管出血
  2)鼻出血
  3)血尿
  4)中枢神経系の出血
  5)喀血
  6)性器出血
 4.まとめ

第2章 止血と凝固制御・線溶機構
 1.血液循環と止血
 2.止血機構
 3.止血機構における血管の役割
  1)血管の構造
  2)血管内皮の機能
 4.血小板と止血機構
  1)血小板の構造
  2)血小板機能
 5.凝固系
 6.凝固抑制系
 7.線溶系

第3章 出血素因の診断
 1.出血素因の疑われるとき
 2.出血素因の診断
  1)患児および家族の出血歴の問診
  2)診察所見での診断
 3.検査による出血素因のスクリーニング
  1)血小板数
  2)活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)
  3)プロトロンビン時間(PT)
  4)トロンビン時間(TT)
  5)出血時間

第4章 血管性紫斑病
 1.血管の異常に起因する出血素因
 2.後天性血管性紫斑病
  1)アナフィラクトイド紫斑病
  2)白血球崩壊性血管炎による他の疾患にみられる紫斑
  3)心因性紫斑
  4)被虐待児症候群
  5)人工紫斑
  6)コルチコステロイドに関連する紫斑
  7)壊血病
  8)その他原因不明の紫斑
 3.先天性血管障害による出血素因
  1)血管腫
  2)エーラース・ダンロス症候群
  3)遺伝性出血性毛細血管拡張症
  4)マルファン症候群

第5章 血小板減少による出血性疾患
 1.血小板とは
 2.免疫性血小板減少性紫斑病
  1)特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
  2)新生児にみる免疫性血小板減少症
  3)その他の免疫性機序による血小板減少症
 3.血小板消費亢進で起こる血小板減少症
 4.血小板産生障害による血小板減少症
  1)低形成性血小板減少症
  2)周期性血小板減少症
  3)発作性夜間血色素尿症(PNH)
 5.遺伝性血小板減少症
  1)血小板産生障害による血小板減少症
  2)異常血小板の破壊亢進による血小板減少症

第6章 血小板異常症
 1.血小板異常症とは
 2.血小板異常症の本態
 3.血小板異常症の分類
 4.血小板異常症の臨床症状
 5.血小板異常症の検査所見
 6.先天性血小板異常症の病態
  1)血小板無力症
  2)巨大血小板が出現する血小板異常症
  3)血小板分泌障害による異常症
 7.遺伝性血小板異常症の対策
 8.後天性血小板異常症

第7章 血友病
 1.血友病とは
 2.血友病の病因
  1)血友病Aの病因
  2)血友病Bの病因
 3.血友病の遺伝
  1)血友病Aの遺伝
  2)血友病Bの遺伝
 4.血友病の臨床症状
 5.血友病の診断
 6.血友病の治療
  1)関節内出血と関節症
  2)皮下血腫・筋肉内出血
  3)口腔内出血・鼻出血
  4)歯の管理
  5)血尿
  6)胃腸管出血
  7)神経系への出血
  8)生命にとり危険な出血
  9)偽腫瘍
  10)外科手術の際の止血管理
  11)補充療法の副作用
  12)遺伝子組み替え血友病A製剤
 7.インヒビターの対策
 8.予防的補充療法
 9.遺伝子治療
 10.包括医療(心理的ケアなど)

第8章 血友病類縁疾患
 1.血友病類縁疾患とは
 2.フィブリノゲンの先天性異常
  1)先天性無フィブリノゲン血症
  2)低フィブリノゲン血症
  3)異常フィブリノゲン血症
 3.先天性プロトロンビン欠乏症
 4.先天性第V因子欠乏症
 5.先天性第VII因子欠乏症
 6.先天性第X因子欠乏症
 7.先天性第XI因子欠乏症
 8.先天性接触因子欠乏症
  1)Hageman trait
  2)プレカリクレイン欠乏症
  3)高分子キニノゲン欠乏症
 9.第XIII因子ならびにα-アンチプラスミンおよびプラスミノゲンactivator inhibitor-1欠乏症
  1)先天性FXIII因子欠乏症
  2)α-AP
  3)PAI-1
 10.先天性複合凝固因子欠乏症

第9章 フォンウイレブランド病
 1.フォンウイレブランド(vWD)病とは
 2.フォンウイレブランド因子の構造と機能
 3.フォンウイレブランド病の病型分類
 4.フォンウイレブランド病の診断
 5.フォンウイレブランド病の治療
  1)DDAVP
  2)補充療法
  3)その他
 6.血小板型フォンウイレブランド病
 7.フォンウイレブランド病の予後
 8.後天性フォンウイレブランド病

第10章 ビタミンK欠乏症
 1.ビタミンK欠乏症とは
 2.ビタミンKの生理と病理
 3.ビタミンK欠乏症の診断
 4.乳児期のビタミンK欠乏症
  1)新生児出血性疾患
  2)乳児ビタミンK欠乏症
 5.小児期のビタミンK欠乏症

第11章 播種性血管内凝固症候群
 1.播種性血管内凝固症候群とは
 2.播種性血管内凝固症候群の原因
 3.播種性血管内凝固症候群の病態
  1)汎発性DIC
  2)局所性DIC
  3)慢性DIC
 4.播種性血管内凝固症候群の臨床症状
 5.播種性血管内凝固症候群の臨床検査
  1)血小板数
  2)D-dimer・FDP量
  3)プロトロンビン時間(PT)・活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)
  4)フィブリノゲン量の減少
 6.播種性血管内凝固症候群の治療
  1)ヘパリン療法
  2)合成蛋白質分解酵素阻害剤
  3)その他
 7.溶血性尿毒症症候群
 8.血栓性血小板減少性紫斑病
 9.カサバッハ・メリット症候群

第12章 小児の血栓症
 1.血栓症とは
 2.血栓症の病態生理
 3.血栓症の症状
 4.血栓症の診断
 5.新生児血栓症
  1)病態生理
  2)新生児血栓症の治療
  3)カテーテル使用に関連する血栓症
 6.新生児以降の小児の血栓性疾患
 7.電撃性紫斑病
 8.遺伝性欠乏症の止血凝固検査
 9.小児の血栓症の予防と対策

第13章 深部静脈血栓症と肺塞栓症
 1.静脈血栓症
 2.静脈血栓症の発症機序
 3.臨床症状
  1)深部静脈血栓症(DVT)
  2)肺塞栓
 4.診断
 5.治療
  1)血栓溶解療法
  2)抗凝固療法
 6.その他の静脈血栓症
  1)ふくらはぎ(脹脛)の静脈のDVT
  2)上肢血栓症

第14章 先天性血栓性疾患
 1.トロンボフィリア(栓友病)
 2.トロンボフィリアの臨床的特徴
 3.アンチトロンビンIII欠損症
  1)アンチトロンビンの抗凝固作用
  2)アンチトロンビン欠乏症の病態
  3)アンチトロンビン欠乏症の分類
  4)アンチトロンビン欠乏症の診断
  5)アンチトロンビン欠乏症の症状
  6)アンチトロンビン欠乏症の治療
 4.ヘパリンコファクターII欠乏症
 5.プロテインC欠乏症
  1)プロテインCの生理
  2)プロテインCの遺伝
  3)新生児電撃性紫斑病
  4)プロテインC欠乏症の診断と治療
 6.プロテインS欠乏症
  1)プロテインS欠乏症の症状
  2)診断と治療
 7.遺伝的な線溶異常症
 8.異常フィブリノゲン血症
 9.ホモシスチン尿症

第15章 後天性血栓性疾患
 1.抗リン脂質抗体症候群(APA)
 2.発作性夜間血色素尿症(PNH)
 3.血管炎に合併する血栓症
  1)川崎病
  2)もやもや病
  3)その他の血管炎
 4.癌に合併する血栓症
 5.動脈硬化と血栓
 6.ヘパリン誘発性血小板減少症(HAT)

第16章 血液製剤ならびに薬剤
 1.出血・血栓症で行われる医療
 2.血液成分輸血
 3.血液製剤の種類
  1)血小板製剤
  2)新鮮凍結血漿
  3)クリオプレシピテート
  4)高度濃縮凝固因子製剤
  5)免疫グロブリン大量静注療法
 4.血漿浄化療法・血漿交換療法
  1)血漿浄化療法
  2)交換輸血
 5.デスモプレッシン
 6.抗線溶剤
 7.抗凝固薬
  1)ヘパリン
  2)経口抗凝固剤
 8.血栓溶解療法
 9.抗血小板薬

 文献