やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 わが国の出産率は,1974年の第2次ベビーブームを境として年々低下傾向を示しており,少子化がますます進行しつつある.しかし,多胎児の出産率は排卵誘発剤や体外受精の影響により逆に増加しており,医療機関,保健所,保健センターなどにおいて保健指導,育児相談,ならびに育児支援を求める多胎児家庭が急増している.
 多胎妊娠は単胎妊娠に比べ母体への影響も大きく,早産や妊娠中毒症など妊娠中に異常が発生する危険が高い.また,児においても低体重で出生する可能性が高いというように,多胎妊娠は母子ともにさまざまな危険にさらされている.さらに,同時に複数の乳幼児を育てていかなければならないために出産後も多くの問題をかかえており,授乳や入浴といった日常の育児,母親の心理面においても,多分に専門家の助言や支援を必要としている.
 一方,多胎児は単胎児とは異なる点が多いため,従来よりハイリスクグループとして位置づけられてきたものの,多胎に関する情報は非常に乏しい現状がある.例えば,双子や三つ子を妊娠したときに,母体体重をどのように管理すべきかといった情報である.単胎妊娠に対する母体体重の研究は,これまで数多く報告されてきたが,多胎妊娠に関しては国際的にみてもきわめて少なかった.そのため,専門家もこれらの対応に苦慮していた.しかし,著者らの研究により,多胎妊娠においても適切に母体体重を管理することで,妊娠中毒症や低出生体重児の発生を最小限にとどめうることが判明している.これらの研究成績は,本書の中に記載している.
 本書の特色は,多くの多胎研究者や臨床専門家などの協力を得て,先にも述べたような最新で信頼性の高い研究に基づいた情報を多数盛り込んでいることにある.本書が,多胎児家庭を支援する母子保健の専門職,福祉,心理,教育職,ひいては双子,三つ子,四つ子,五つ子をもつ親など多くの関係者に役立てていただけることを念願している.
 なお,著者が,本書を執筆・編集することができたのは,これまでたくさんの多胎児をもつお母様方の研究協力が得られたためであり,この場をかりて深く御礼申し上げます.
 最後に,本書の出版にあたり,医歯薬出版の関係者に多大なご支援,ご高配賜りましたことを深く感謝いたします.
 2000年9月 横山美江
 序 横山美江

第1章 多胎(児)に関する基礎知識
 1.多胎出産の動向と地域差 (今泉洋子)
   1.多胎の種類別出産率の動向
   2.卵性別双子出産率の動向
   3.双子出産の地域格差
 2.多胎出産の人種差と国際的な動向 (今泉洋子)
   1.双子出産の人種差
   2.双子出産率の国際的な動向
   3.三つ子出産の国際的な動向
 3.多胎出産に関連する要因 (今泉洋子)
   1.母年齢
   2.遺伝的要因
   3.受胎の季節
   4.不妊治療の影響
 4.不妊治療と多胎出産 (末原則幸)
   1.多胎妊娠を防ぐ排卵のメカニズム
   2.排卵誘発法と多胎妊娠の頻度
    ・クロミフェン療法
    ・hCG-hMG療法
    ・プロモクリプチン療法
   3.ARTでの多胎妊娠の頻度
   4.多胎を増やさない不妊治療
   5.治療前のカウンセリング(pre-coceptional counseling)
 5.多胎児の卵性と卵性診断 (大木秀一)
   1.卵性の種類
   2.卵性診断の目的
   3.卵性診断法の変遷
    ・メンデル形質による卵性診断
    ・DNA多型による卵性診断
    ・簡便な質問紙票による卵性診断
    ・人類学的な形質による類似診断法
    ・胎盤卵膜所見による卵性診断
   4.卵性診断に伴う諸問題
 6.双子の身体発育の特徴 (大木秀一)
   1.出生時体重・身長
   2.その後の成長
 7.三つ子以上の多胎児の身体発育の特徴 (横山美江)
   1.出生時体重・身長
   2.乳幼児期の身体発育(身長・体重のキャッチアップ)
   3.結語
 文献

第2章 多胎妊娠・出産・分娩管理
   1.多胎妊娠中の管理
 1.多胎妊娠の診断 (末原則幸)
    ・一卵性双胎と二卵性双胎
    ・二絨毛膜双胎と一絨毛膜双胎
    ・多胎の診断
    ・多胎の絨毛膜診断
    ・多胎妊娠での妊婦健診
 2.多胎妊娠中の身体的変化 (横山美江)
    ・母体体重の変化
    ・子宮底長・腹囲
 3.多胎妊娠中に生じやすい母体合併症と予防 (末原則幸)
    ・切迫早産
    ・妊娠中毒症
    ・貧血
    ・羊水過多
    ・妊娠糖尿病
    ・止血凝固能の異常
    ・腰痛など骨関節の異常
    ・尿路感染,水腎症
    ・腟炎,細菌性腟症
    ・妊娠悪阻
    ・静脈瘤,静脈血栓
    ・妊娠の母体合併症の予防に対する考え方
 4.多胎妊娠中に生じやすい胎児合併症 (吉田啓治)
    ・子宮内胎児発育遅延
    ・胎児不均衡発育
    ・双胎間輸血症候群
    ・奇形
    ・子宮内胎児死亡
 5.多胎妊娠中の妊婦の心理 (横山美江)
 2. 多胎分娩の管理
 1.分娩週数 (野中浩一)
    ・単胎との違いはあるか?
    ・実際にいつ分娩されているか?
    ・望ましい分娩週数は?
    ・出生児の平均体重はどうか?
    ・外国ではどうか?
    ・まとめ
 2.胎位 (吉田啓治)
 3.分娩方法 (吉田啓治)
 4.分娩管理の実際 (吉田啓治)
 5.多胎児の周産期・新生児死亡 (今泉洋子)
    ・多胎児の周産期死亡率の動向
    ・妊娠22週以降の死産率
    ・早期新生児死亡率
    ・多胎児の新生児死亡
 3.多胎新生児の管理 (末原則幸)
   1.低出生体重児
    ・呼吸窮迫症候群(RDS)
    ・新生児感染症
    ・頭蓋内出血
    ・脳室周囲白質軟化症(PVL)
    ・壊死性腸炎(NEC)
    ・黄疸
   2.子宮内発育遅延(IUGR)
   3.新生児仮死
   4.双胎1児死亡の生存児における脳障害・多臓器不全
   5.TTTSとして出生した児の管理
    ・TTTSの大きい児の管理
    ・TTTSの小さい児の管理
 文献

第3章 多胎妊娠・出産の保健指導
   1.多胎妊娠中の生活と注意点
 1.多胎妊娠中の食事の工夫 (吉田啓治)
 2.運動と休養 (吉田啓治)
 3.性生活 (吉田啓治)
 4.多胎妊娠中の不安を和らげる援助 (矢野恵子)
    ・多胎であることがわかった時
    ・胎児およびその発育に関するもの
    ・妊娠中の母体に関するもの
    ・多胎分娩に関すること
    ・多胎児の育児に関するもの
 2.多胎出産の心構えと準備 (吉田啓治)
 3.多胎出産に対する授乳の工夫 (矢野恵子)
   1.授乳法の現状
   2.双子に対する同時授乳と生活リズムの調整
   3.同時授乳の利点と注意点
   4.三つ子以上の多胎児の授乳の工夫
 4.産褥期の保健指導 (服部律子)
   1.産褥期に起こりやすい身体的な問題
   2.産褥早期の保健指導
    ・産褥体操
    ・産褥期の栄養
    ・母親の心理的援助
    ・育児指導
   3.新生児集中治療室(NICU)に入院した児を持つ母親への看護
   4.退院時の保健指導
    ・母親の健康問題
    ・産後の家族計画
 文献

第4章 多胎児の育児
 1.双子,三つ子,四つ子,五つ子の育児のポイント (佐藤昌子)
   1.分け隔てのない愛情を
    ・多胎児を育てる難しさ
    ・同じ,順番,そして時には1人ずつ
    ・長い目でゆっくりと
   2.1人1人に語りかけよう
    ・心を育むために
    ・ことばを育むために
   3.子どもの生活リズムを合わせよう
    ・生活リズムの合わせ方
    ・気をつけること
   4.育児書に振り回されないように
    ・育児書は大切な情報源
    ・育児書ではわからないこと
    ・心配だな・・・と思ったら
   5.事故を防ごう
    ・多胎児の事故
    ・事故予防のために
    ・周囲の人に手伝ってもらおう
 2.乳児期の育て方 (久保田奈々子)
   1.入浴
    ・1人で子どもたちの入浴をさせなければならない場合
   2.食事の時の工夫
   3.睡眠
    ・夜中の授乳がある時
    ・昼寝の工夫
   4.衣類
    ・新生児期の衣類
    ・お揃いの服
   5.外出
    ・集団の予防接種や健診
    ・公園通いや散歩
   6.遊びとおもちゃ
    ・同じおもちゃをそれぞれに与える必要があるか
 3.幼児期・学童期の育て方 (岡真美恵)
   1.けんか
   2.いたずらの対応
   3.上の子どもとの関係
   4.集団生活の大切さ
   5.入園・入学前に
   6.クラス分けの考え方
   7.入学後のこと
 4.ことば・行動・精神発達 (大木秀一)
   1.運動の発達
   2.ことばの発達
   3.精神の発達や育児に関する項目
   4.習癖
   5.利き手・利き足
 5.性格・個性 (天羽幸子)
   1.双子育ては2人の違いから始まる
   2.力関係にも差が出てくる
   3.2人の情緒的結びつきもさまざま
    ・2人の仲は性格形成にも影響する
   4.双子でも「兄弟(きょうだい)」として扱う社会の影響
    ・家庭での扱い方と兄弟(きょうだい)的性格
    ・日本人の双子観
   5.2人が一緒に育つ環境
    ・2人の相補性
    ・わかれて育った一卵性三つ子の話
   6.長い目でみると双子の性格はやはり似ている
 6.学業成績 (安藤寿康)
   1.学業成績の遺伝と環境
   2.重要な環境の影響
   3.双子間の学業成績の差
 文献

第5章 多胎児家庭への保健指導と育児支援
 1.多胎児家庭の育児環境と母子保健対策 (横山美江)
   1.多胎児家庭の育児環境
    ・母親の睡眠不足と疲労
    ・育児協力者
    ・母親が育児上問題を感じる内容
   2.多胎児家庭への母子保健対策強化の必要性
   3.多胎児家庭への母子保健対策
    ・未熟児訪問,新生児訪問
    ・健診や予防接種時のヘルパー・ボランティアの派遣
    ・同時授乳の指導
    ・多胎児の親同士の交流
    ・多胎児に関する情報提供
    ・障害児をもつ多胎児家庭への支援強化
 2.障害児を抱える多胎児家庭への保健指導と支援
   1.多胎児における障害児の発生状況 (横山美江)
    ・多胎児における障害児の発生率
    ・障害児を抱える多胎児家庭の割合
    ・障害児の集積性
    ・多胎児における障害の発生に関連する要因
    ・その他障害児の発生にかかわる要因
   2.障害児を抱える母親の健康状態と支援 (横山美江)
    ・健康状態の悪化
    ・重度の疲労感の継続
    ・睡眠不足の持続
    ・障害児を抱える母親への支援の必要性
    ・障害児を抱える母親への効果的な支援
   3.障害のある多胎児への療育と保健指導の実際 (口分田政夫)
 3.多胎児を持つ母親のメンタルヘルス (横山美江)
   1.多胎児に対する母親の愛情の偏りの発生
   2.気分転換,ストレス解消のすすめ
   3.障害を持つ多胎児の母親のメンタルヘルス
 4.多胎児家庭と虐待 (谷村雅子)
   1.多胎児家庭における虐待の発生状況
    ・児童虐待とは
    ・わが国の児童虐待の実態
    ・多胎児への虐待
   2.多胎児虐待の予防
    ・虐待ハイリスク家庭の把握と早期援助
    ・虐待が疑われる時には
    ・再発防止
 文献

第6章 役立つ情報ページ
 1.多胎家庭が利用可能な社会保障制度 (早川和生)
   1.多胎妊娠における産前産後の休業
   2.医療保険からの出産育児一時金・配偶者出産育児一時金
   3.出産手当金
   4.未熟児養育事業
   5.育児手当金,配偶者育児手当金
 2.便利な多胎児育児用品紹介 (福田みづほ)
 ツインズサークル一覧表 (久保田奈々子)

 索引