やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 1989年,わが国は将来の超高齢社会にむけ高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)を掲げ,続く1994年の新ゴールドプランでは,2000年までに必要とする在宅・施設等の整備目標値を示した.ケアハウスはゴールドプランに創設された新型軽費老人ホームA型であり,老人福祉施設体系のなかに位置づけられた.従来の軽費老人ホームと異なる点として,とくに疾病予防と自立支援に力を入れ,決められた日課等の制約が最小限に抑えられた在宅に近い特徴をもつ,施設というよりいわば住まいとしてとらえられている.
 1992年には「軽費老人ホーム設置要綱」および「軽費老人ホームの設備及び運営について」の改正があり,ケアハウスにおける施設機能の明確化と,在宅福祉サービス導入の整備および,特別養護老人ホーム(以下,特養と略),老人保健施設(以下,老健と略)等との連携の重視等があげられた.
 1990年の老人福祉法等関係8法の一部改正,1994年の新ゴールドプランにより,施設福祉に対して在宅福祉が重視される位置づけを得,特養における在宅福祉事業の拠点化が方向づけられた.このことは,特養併設型のケアハウスにとって,積極的な在宅福祉の導入へつながるものとなった.また,これは1992〜1994年に実施された「老人福祉施設機能強化モデル事業」の成果を踏まえ,改めて今後の特養像・ケアハウス像を探ることへとつながった.
 この成果を要約すると,特養の健康回復者をケアハウスへ入居させ,逆にケアハウス入居の重症者を特養に優先入所させるというものである.そして特養からケアハウスに入居した際,併設特養が実施するホームヘルプサービスを受けられることが,継続した自立生活に大きな役割を果たすものであった.また,ミドルステイの有効性と今後の期待も示された.
 こうした経緯のなかで,1990年,全国第1号として開設をみたケアハウス「サンライフらくじゅ」(静岡市)においては,開設後9年を経て,入居者の高齢化と重症化,それらに対応する新たな課題に直面している.
 一方,2000年4月実施の介護保険制度においては,ケアハウスはサービス対象外施設として位置づけられているが,ケアハウスの入居者は在宅者であることから,要介護認定により要支援・要介護時の必要なサービスを受ける立場となる.しかしながら,要支援・要介護状態の占める割合は楽観視できない予測数であり,指定居宅介護支援事業者および介護老人福祉施設等のサービス利用や入所に関わる調整業務が増大すると思われる.
 従来の制度においては,特養や老健のショートステイおよび老健入所は,特養の待機的機能としても利用が容易であったが,新制度においては,要介護認定により厳格にその棲み分けがされ,各種サービスの利用や施設入所がむずかしくなり,重症化が進むまでのある一定期間,ケアハウスそのもので介護を提供しなければならない状況下におかれるのではないかと心配されている.その場合,職員配置基準の見直しも含めて,ケアハウスの新たな機能強化が求められる.
 また一方では,特定施設入所者生活介護が新制度で位置づけられ(1999年1月現在),ケアハウス内部で介護が受けられるよう,新たな職員配置基準等が示されている.しかしこの制度においては,介護報酬の採算性を展望すると,常に一定の対象者がいなければ経営上着手がむずかしい等といった課題があり,この制度が前述した課題をすべて解決するものではないと思われる.
 こうした状況のなかで本書は,重症化したケアハウス入居者に,いかに迅速かつ適確に,また継続安定的に介護サービスを提供すべきか,新制度として登場した特定施設入所者生活介護について検証する.それとともに,今後介護保険制度におけるいわゆる新介護システムのなかで,他施設との有機的・一体的な連携によって,それぞれの施設が有効性を高め,より高い総合ケアの観点から個々の施設が閉塞することなく,十二分にその制度政策上の使命・役割を果たすことができるよう,ケアハウスの真に求められる機能と政策的役割について,研究するものである.
 なお,調査研究にあたっては,ケアハウスの制度化が決定されるまでの草創期から深く関わってきたケアハウス「サンライフらくじゅ」が,全国第1号として誕生してから今日まで実践期間の最長を歩んでいることから,とくに加齢に伴う重症化についての統計的資料が整うため,その研究対象施設としての位置づけ・役割は極めて重要で貴重であると判断するものである.ケアハウスの制度化から今日まで歴史がまだ浅く,国・行政関係においてもそれらをとりまとめた資料がないため,全国的なデータに基づく研究は一部あとに譲ることとして,2000年4月スタートの介護保険制度に緊急提言すべく,本書をとりまとめることとした.
 なお,本論文は筆者の学位論文(淑徳大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士前期課程)に加筆・修正したものである.
はじめに ケアハウスに期待される機能と政策的役割

第1章 ケアハウスの創設とその必要性
 ケアハウスを必要とする背景
  一人暮らし等,居宅老人の生活実態
  特別養護老人ホーム等の施設入所者の実態
 ケアハウスの目的・意義・位置づけ
  ケアハウスにおける制度政策上の目的
  ケアハウスの意義
  ケアハウスの位置づけ

第2章 ケアハウスの制度と概要
 制度改正の内容と主旨
  制度改正の目的
  新旧の制度比較
 新制度に基づくケアハウスの概要
  設置に関する概要
  構造・設備に関する概要
  他の社会福祉施設との連携
  職員配置に関する概要
  サービスの内容に関する概要

第3章 ケアハウスの運営実態と今日的課題
 入居者の健康状態
  入居者の高齢化と疾病状況
  入居者の受診状況
  外部サービス(在宅福祉サービス)の利用状況
  自立支援と実践(痴呆の重度化への対応)
  疾病予防対策
 ケアハウスにおける入居生活の限界と見極めの事例
  事例1
  事例2
  事例3
  事例4
  事例5

第4章 ケアハウスにおける併設特養の機能と連携
 併設特養の機能と政策的役割
  特養を母体とした在宅福祉事業の必要性
  特養を母体とした在宅介護支援システム(拠点方式の有効性)
 「老人福祉施設機能強化モデル事業」(厚生省)におけるケアハウスの政策的意義
  目的
  事業実施計画
  調整委員会の機能と権限
  調整事例
  調整実績
  「老人福祉施設機能強化モデル事業」におけるケアハウスの政策的位置づけ
  「老人福祉施設機能強化モデル事業」の評価とケアハウスの課題
  「高規格特別養護老人ホームの在宅・施設処遇支援システム」とケアハウスの位置づけ

第5章 介護保険制度におけるケアハウスの課題
 併設特養の制度政策的転換
  要介護認定と介護報酬(施設利用上の課題)
  自立支援と在宅復帰
  在宅復帰者の受け皿としての役割と利用料における問題点
  自立支援としての取り組み強化の必要性
 老人保健施設との連携
  ケアハウスにおける老健の政策的位置づけ
  要介護認定と介護報酬(施設利用上の課題)
  自立支援と在宅復帰
  老健退所後の受け皿としての役割
  ケアハウスにおける自立支援強化の必要性
 静岡市特別養護老人ホーム入退所計画実践試行的事業の評価
  目的
  事業内容
  事業結果
  評価
 在宅福祉サービス等利用上の課題
  指定短期入所生活介護(特養ショートステイ)
  指定短期入所療養介護(老健ショートステイ)
  訪問介護(ホームヘルプサービス)
  痴呆対応型共同生活介護(グループホーム)
 特定施設入所者生活介護の指定について
  特定施設入所者生活介護の概要
   (1)人員に関する基準
   (2) 設備に関する基準
  特定施設入所者生活介護の諸課題
   (1)採算性について
   (2)ケアハウス入居者の経済的課題
   (3)「特定」指定に伴うケアハウスの「特養化」について
   (4)ケアハウスにおける事務費と介護報酬の二重構造支出について

第6章 介護保険制度におけるケアハウスの機能と政策的位置づけ
 おわりに

参考・引用文献
資料
表紙・カバーデザイン:M's