やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 21世紀のキーワードは,「優しさ・支え合い」であるといわれます.安心して子どもを産み育てられる社会,長寿を喜べる社会,誰もがともに生きられる豊かな社会,住民の一人ひとりがその人らしく,豊かに自立して生きられる社会の重要性に,高齢社会を迎えてようやく気づき始めました.
 介護の現場には老人の虐待,自殺,家庭崩壊,身近で親を介護できない苦悩など悲惨な現状が数多くあります.私たちはこのような状況におかれた高齢者や家族のQOL(Quality of Life:生命,生活,人生の質)の向上やLOL(Length of Life:長寿)を切望しています.
 介護保険制度創設の最大のねらいは,これらの介護を必要とする人々が,自分の能力を活用しながら自分らしく尊厳をもって生きられるように,社会的な支援の仕組みを確立することにあります.そのために老人福祉と老人医療の制度を再編成し,従来問題とされてきた費用負担や利用手続きの格差等の解決を図り,保健・医療・福祉サービスを総合的に利用できる仕組みをつくることにしました.
 介護保険制度は,社会保障制度を再構築し,国民負担の増大を抑制することをめざしています.医療と福祉に分かれている高齢者介護を一体化し,抜本的な医療制度改革の前提をつくるなど社会保障構造改革の第一歩としても極めて重要なものです.
 介護保険制度を担う介護支援専門員や介護に関わる人々は,「介護保険制度のねらい」や「保険給付の基本理念」,「介護支援サービスの基本的理念」等を十分に理解し,専門職としての責任ある行動によって,制度に新しいいのちを吹き込まなければなりません.
 そしてまた,地域住民が介護保険制度に信頼を寄せ,地域で暮らすことに期待と自信がもてるように,介護を見せ,満足感のある介護を体験していただく必要があります.さらに,住民一人ひとりが地域の福祉力,介護力を向上させ,介護に主体的に参加することができるように支援していかなければ,とても諸理念を具現化することはできません.
 優しさは人間やコミュニティの自立の核になるものです.市町村,専門職,関係する機関,そして住民等との連携を強め,多様なネットワークを広げながら,「介護で優しいまちづくり」に挑戦する,今まさにチャンスの時がきたといえます.
 この本『よくわかる介護保険制度イラストレイテッド』は,介護保険制度にいのちを吹き込み,安心して暮らし続ける私たちの家やまちづくりを願って誕生したものです.そしてまた,あなたがその原動力になることを期待し,あなたの役に立つ本になることを願って書き記したものです.
 あなたが,住民の方々とともに,介護を必要とする人々に自信をもって関わることができるように,介護保険制度創設の背景や制度の仕組み,介護支援サービスの展開方法等をわかりやすく解説しています.
 この本は,最初に重要なキーワードを知っていただくよう解説頁を設けました.次に各章冒頭に同一事側の経過を示し,その事例の利用者と求められる介護支援サービスの関わりをともに考えていきたいと思います.また介護保険制度を正しく理解できるよう,この本は各ポイントを解説頁とイラスト頁にして簡潔にまとめてみました.
 要介護者や家族の指導に,スタッフの指導や学生の教育に,そしてまた介護支援専門員のこころ強い味方として大いに活用していただきたいと思います.
 執筆者一同
はじめに
キーワードの解説

1章 介護保険制度導入の背景
 事例(Part-1):介護保険を利用してみたい
 介護保険制度導入の背景
 高齢者を取り巻く状況
  2010年には高齢化率22%,要介護高齢者390万人
  高齢期における不安と望む生活の場
 家族にとっての介護問題
  主な介護者
  介護者の苦悩
 要介護者が年々増加している
  要介護高齢者の発生率
  死亡前の寝たきり度の変化
 現行制度にはどのような問題があるのか
  措置制度をめぐる問題点
  医療費・生活環境をめぐる問題
 社会にとっての介護問題―介護は女性にどのような問題をもたらしたのか
  女性問題としての介護問題
  国民経済的にみた介護問題
 わが国の社会保障制度のありかた
  利用者の選択を尊重する社会保険方式
 介護保険制度創設のねらいは何か
 介護支援サービスの理念と介護支援専門員の活動
  介護支援サービス(ケアマネジメント)の理念
  介護支援専門員(ケアマネジャー)の活動
 介護保険制度によって何が変わるのか
 寝たきりの状態は同じなのに対応する制度が違う
 現行制度と介護保険制度の違いは何か
 介護のことで困ったときにどうすればいいのだろうか
 社会保険方式の意義
 介護保険制度創設の意義
 ■チェックポイント■介護保険のサービス利用方法

2章 介護保険制度論
 事例(Part-2):住んでいる町のサービス状況を知ろう
 介護保険制度論
 介護保険―新しい社会保障
 社会保障制度審議会勧告
  介護保険制度へのあゆみ
  社会保障の体系と介護保険
   社会保険/介護保険
  老人保健福祉制度と介護保険
   老人保健制度/老人福祉制度/ゴールドプランから新ゴールドプランへ
 介護保険制度の目的
  国民,国および都道府県,医療保険者
 保険者および被保険者
  保険者
  被保険者
 保険給付
  給付の対象
  給付の種類
  特定疾病
  市町村の認定
  保険給付の手続き
   要介護認定等の申請/審査および判定/市町村の処分/要支援認定/住所移転等
 保険給付の内容
  介護給付
   居宅介護サービス費/支給限度額
   居宅介護サービス計画費/施設介護サービス費/災害その他による特例および高額介護サービス費の支給
  予防給付
  市町村特別給付
  その他
   保険給付の制限等/利用者負担/介護報酬
 事業者および施設
  指定居宅サービス事業者
   指定/厚生省令で定める基準/変更の届出等と指定の取消し
  指定居宅介護支援事業者
   指定等/厚生省令で定める基準/介護支援専門員(ケアマネジャー)
  指定介護老人福祉施設
   指定/厚生省令で定める基準/変更の届出等と指定の取消し
  介護老人保健施設
   開設許可と管理/介護老人保健施設の基準と広告制限/変更の届出等と許可の取消し
  指定介護療養型医療施設
   指定/厚生省令で定める基準/変更の届出等と指定の取消し
 介護保険事業計画
  基本指針
  都道府県介護保険事業支援計画
  市町村介護保険事業計画
  都道府県知事の助言
  国の援助
 保険財政
  公費の負担
   国の負担/調整交付金/都道府県の負担/市町村の一般会計負担/事務費の交付/国および都道府県の補助
  保険料
   第1号被保険者の保険料
  支払基金の介護保険関係業務
   介護給付費交付金(第2号被保険者の保険料)
  財政の安定化
   財政安定化基金/市町村相互財政安定化事業
 国民健康保険団体連合会の介護保険事業関係業務
  介護給付費審査委員会
   給付費審査委員会の組織/給付費審査委員会の権限
  苦情処理
  第三者行為求償事務
 保健福祉事業
 審査請求
  介護保険審査会
   委員/専門調査員/合議体
  審査請求
  付則
  介護保険法施行法
   経過規定/関係法令の一部改正
 ■チェックポイント■要介護認定における一次判定と二次判定

3章 介護支援サービスと介護支援専門員
 事例(Part-3):要介護度が決まりサービスが開始される
 介護支援サービスと介護支援専門員
 介護保険における介護支援サービス
  介護支援サービス(ケアマネジメント)とは
  現行制度と介護保険制度
  介護支援サービス機能の位置づけ
  介護支援専門員(ケアマネジャー)とは
 介護保険でのサービス利用手続きと介護支援サービス
  要介護認定・要支援認定
  介護支援サービス
  セルフケアプラン・償還払い
 介護支援サービスの基本的理念と意義
  利用者の主体性尊重と自立支援
  家族介護者への支援の必要性
  保健・医療・福祉などの統合されたサービスと多職種によるチームアプローチ
  適切なサービス利用と社会資源の調整
 認定調査と介護支援サービスの実際
 誰が認定調査を行うのか
  認定調査を市町村等(保険者)の職員が行う場合
  認定調査を指定居宅介護支援事業者の介護支援専門員に委託して行う場合
 介護支援サービスを行うにあたって
 介護サービス計画(ケアプラン)とは
 居宅サービス計画は2段階
 居宅サービス計画のための課題分析
  何を分析するのか
  生活ニーズとは何か
  生活ニーズの特徴
 居宅サービス計画の課題分析の内容
  課題分析を通して生活ニーズを把握する
  生活ニーズの視点から把握する
 生活ニーズを導き出す過程
  生活ニーズの把握は総合的な判断が必要
  生活ニーズの判断
 課題分析票(アセスメント票)
  ツール(tool)としての課題分析表
  課題分析の過程と課題分析票の役割
  主要な課題分析手法
  厚生省が紹介する5つの手法の特徴
  課題分析を行う環境
 居宅サービス計画の指針
 介護サービス計画作成の手順
  基本的な手順
  顕在化しているニーズと潜在化しているニーズ
  認定調査と課題分析の連携
  ニーズ優先アプローチの考えかた
  サービスの実行確認と継続的な管理(モニタリング)
 介護支援専門員の倫理
  基本的な倫理
  人権の尊重と擁護
  守るべき公平性
  守るべき中立性
  情報管理の重要性
 介護支援専門員の基本視点
 介護支援専門員の役割・機能
  利用者の自立支援
  チームアプローチを基本とする
  情報の伝達と管理
  目的はニーズ充足
  サービスの種類と量を増やす
 介護支援サービスの記録
 介護支援サービスと介護支援専門員のまとめ
  利用者の利益を常に考える
 事例(Part-4):サービスを利用して1年後
 おわりに
 索引

イラスト目次

1章 介護保険制度導入の背景
 高齢者を取り巻く状況
 家族にとっての介護問題
 要介護者が年々増加している
 現行制度の問題点
 社会にとっての介護問題
 わが国の社会保障制度のありかた
 介護保険制度創設のねらいは何か
 介護支援サービスの基本理念・介護支援専門員の活動
 介護保険制度によって何が変わるのか
 寝たきりの状態は同じなのに対応する制度が違う
 現行制度と介護保険制度の違いは何か
 介護のことで困ったときにどうすればいいのだろうか
 介護保険制度創設の意義
 ・チェックポイント・介護保険の利用方法

2章 介護保険制度論
 老人保健福祉政策の経緯
 社会保険
 高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)/国
 保険者および被保険者
 給付の対象と種類
 特定疾病(15疾病名)
 市町村の認定
 保険給付の種類
 介護給付(在宅に関する給付)
 区分支給限度額の設定例
 支給限度額
 介護給付(施設に関する給付)
 介護サービスと保険請求
 サービスの利用
 指定居宅サービス・基準該当サービス・担当サービス
 事業者・施設の位置づけ
 介護支援専門員養成の基本的な考えかた
 介護支援専門員の養成に関する運用
 サービスの再編成
 利用者負担額の見込み
 指定介護療養型医療施設の指定(例)
 介護療養型医療施設の整備見通し
 介護に関するサービス基盤の基本的考えかた
 老人保健福祉計画と介護保険事業計画
 財源構成
 調整交付金の仕組み
 保険料と費用推計
 所得段階別保険料率
 第2号被保険者の保険料の算定
 各被保険者の保険料額
 市町村相互財政安定化事業
 介護給付費審査委員会
 苦情処理
 保健福祉事業
 介護保険審査会
 要介護認定に係る審査請求処理
 特定市町村の仕組み
 特別養護老人ホームの旧措置入所者に関する5年間の経過措置の仕組み
 ・チェックポイント・要介護認定における一次判定と二次判定

3章 介護支援サービスと介護支援専門員
 ケアマネジメントの対象
 現行制度
 介護保険制度
 介護支援サービスは保険給付の対象
 介護支援専門員(ケアマネジャー)
 申請からサービス給付までの流れ(在宅の場合)
 利用者の主体性尊重と自立支援
 家族介護者への支援の必要性
 多職種によるチームアプローチ
 適切なサービス利用と社会資源の調整
 誰が認定を行うのか
 認定調査を市町村等(保険者)の職員が行う(在宅の場合)
 認定調査を民間の介護支援専門員に委託して行う(在宅の場合)
 介護支援サービスを行うにあたって
 介護サービス計画(ケアプラン)とは
 居宅サービス計画は2段階
 居宅サービス計画のための課題分析
 生活ニーズに共通する7つの次元
 生活ニーズの視点から把握する
 生活ニーズは総合的に判断する
 生活ニーズの判断
 課題分析票の分類
 統合型施設などにおける居宅サービス計画用課題分析票の項目の使い分け
 利用者や家族等のニーズを明らかにする
 課題分析手法
 課題分析の手法と専門職の判断
 情報収集における問題―在宅と入所施設の違い
 居宅サービス計画作成の効果
 基本的な手順
 ニーズとして把握する要素
 認定調査と課題分析の連携
 認定調査項目を利用した課題分析票
 サービス優先アプローチ
 ニーズ優先アプローチ
 介護支援サービスのプロセス
 対人援助サービスを行う専門職の倫理
 利用者の人権を守る
 利用者に対する公平性
 サービス利用における公平性
 利用者本人と関係者同士での中立性
 サービス提供機関同士での中立性
 慎重に情報を管理する
 介護支援専門員の基本視点
 その人らしい生活
 チームアプローチのまとめ役
 情報の伝達と管理
 ニーズ充足の確認
 ニーズ変化の確認
 未充足ニーズと社会資源の開発
 介護支援サービスの評価
 介護保険制度の中核を担う介護支援専門員