やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦の言葉

 淑徳大学学長 長谷川匡俊

 人間のあらゆる行為は,「身」と「語」と「意」の3つの働き,すなわち身体的行為・言語表現・心意作用として現われるものである.なかでも言語は,人と人との関係におけるコミュニケーション手段として最も大切な領域である.
 一つの言葉が,人の心を和ませ,励まし,勇気づけ,閉ざされていた心の扉を開き,互いの心が通い合う世界を現出するのである.しかしまた,不用意な一言が,相手の尊厳を傷つけてしまうことも稀ではない.
 こうしてみると,社会福祉の世界ほど言葉に敏感であらねばならぬと思うものだが,現場では意外と無頓着に用いられている場合が少なくない.その場にふさわしい「言葉を選ぶ」ということは,まさに専門職としての自覚と能力にかかわる問題であり,具備すべき技能だといっても過言ではないだろう.
 折しも,高齢者福祉施設における日常の実践を通して,「言葉づかい」を福祉専門職の対人援助技術のなかに位置づけ,とくに利用者のメンタルケアと人権擁護の視点から,その有効性を明らかにするような本書が上梓されたことの意義は大きい.
 著者の有馬良建氏は,総合的な高齢者福祉事業に実践的に関わりをもつ傍ら,淑徳大学大学院で高齢者福祉研究に取り組むこの分野の専門家である.
 これまで,介護や看護に関する援助技術の一般的な手引書は枚挙にいとまがないほどだが,類書の少ない「言葉づかい」や「声かけ」の領域にまで踏み込んで,あえて「言葉づかいの適正に関する評価基準」を提示された著者の英断に拍手をおくりたい.
 福祉サービスの利用者と提供者との関係は,前者は後者のパートナーではなかろうか.パートナーである利用者の人格を尊重し,つねに相手の立場に立とうとする姿勢こそ福祉専門職に求められる基本的な行動原理である.そして,本書を貫いている著者のスタンスもまたそこにある.
 高齢者福祉の現場で,対人援助サービスに携わる専門職の方々に,広く活用していただきたい書物の一冊として,ここに本書をお薦めしたい.
第1部/言葉づかいの適正に関する評価基準
 社会福祉法人楽寿会における「言葉づかいの適正に関する評価基準」の考えかた
  「言葉づかいの適正に関する評価基準表」について
  「注意を要する言葉づかい」(黄)のとらえかた
  方言の位置づけについて
  「評価基準」の3領域区分における弊害的特徴(デメリット)
  「評価基準」の3領域区分における有効性(メリット)
  「評価基準」と人権擁護および虐待防止の有効性について
 「言葉づかいの適正に関する評価基準表」
  日常生活全般
  食事介助時
  入浴介助時
  排泄介助時
  医療・看護時
第2部/言葉づかいの適正に関する評価基準 実践例
 処遇技術大会開催の主旨
  介護保険制度のもとで
  処遇技術大会の実施要領について
  採点基準のとらえかた
 寝たきりの部
  I子様 個別ケアプラン表/事例演習1(解説)
  E子様 個別ケアプラン表/事例演習2(現状把握)
  C子様 個別ケアプラン表/事例演習3(現状把握)
  F子様 個別ケアプラン表/事例演習4(現状把握)
  G子様 個別ケアプラン表/事例演習5(現状把握)
  演習トレーニング1
  演習トレーニング2
 痴呆の部
  B子様 個別ケアプラン表/事例演習6(現状把握)
  A子様 個別ケアプラン表/事例演習7(現状把握)
  D子様 個別ケアプラン表/事例演習8(現状把握)
  C男様 個別ケアプラン表/事例演習9(現状把握)
  演習トレーニング3
  演習トレーニング4
 採点表
  第□回処遇技術大会 寝たきりの部採点表
  第□回処遇技術大会 痴呆の部採点表